自称『整備士』の異世界生活
40
俺の目の前には偉そうに踏ん反り返るクソガキがいる。俺が客間に案内された数分後に勝手に部屋に入ってきたクソガキだ。
「おい、お前が僕のアリアンナが話してたエルって奴か?」
そんな事はさておき、執事の淹れてくれた紅茶美味いな。
是非とも茶葉を持ち帰ってやりたい。ハクァーラと母ちゃんが喜びそうだ。
あの二人は最近紅茶にハマってるそうだからな。
後で執事に聞いてみよう。
「おい!この僕が聞いてやってるんだ!早く答えろ!」
おっ。このお菓子も美味いな。食感からして湿気ったクッキーに近い。控えめな甘さが俺好みだ。
「おいっ!聞いてるのかっ!?お前はアリアンナの何だと聞いてるんだっ!!」
騒がしい奴だ。チラリと視線を向けてみると、ソファに座りながら俺の顔を覗き込むように睨み付けていた。
どこのヤンキーだよ。ってツッコミを入れそうになったが、心の中で留めておく。
「はぁ…」
「おい!なんだ!その態度はっ!平民の分際でーーっ!?」
キャンキャンと煩いから口にクッキーを何個か突っ込んで黙らせてやる。
「人に名を尋ねる時は先に自分から名乗れ」
「むぐっ!むぐぐっ!!」
何か言ってるけど、口の中にクッキーが邪魔して喋れてない。その姿が滑稽で心の中で笑ってしまう。
頑張って口の中のクッキーを食べきったガキんちょは、バッと勢いよく立ち上がると、睨みつけながら俺を指差してきた。
「お、お前!今、この僕を笑ったなっ!?僕はアウグート伯爵の次男だぞっ!」
それがどうした?
「騒ぐな。また口に焼き菓子を突っ込まれたいか?」
「う…っ!」
そう言うと、途端に大人しくなった。
そんなに嫌だったのか?
このクッキー擬き、結構美味い味だと思うんだけどな。
モソモソとした食感。薄い甘味。まるでクッキーの失敗作を食べてるみたいな感じで、懐かしの前世を思い出……せないな。
学んだ事や経験してきた事は覚えてるのに、それを教えてくれた人や家族、友人の顔が全く出てこない。
俺って自分で思ってるよりも薄情な奴だったんだな…。
「僕はウィルク・アウグート。アウグート伯爵の次男だ。これでいいだろっ。早く答えろっ。お前はアリアンナの何なんだ!」
友達?いや、違うな。
以前に俺は仕事を頼まれたらしいし、おそらくは仕事上の間柄になるはずだ。
「さぁな」
その関係を言葉で伝える方法が分からない。
客と店員?他人?ただの仕事での関係者?どう言えば正解なんだろうな?
「お、お前っ!僕をバカにするのも大概にしろっ!僕はアウグート伯爵の息子だぞ!?その気になれば、お前の家族を全員奴隷に堕とす事だってーー」
「あ?」
喧嘩売ってんのか?
「あ…う…っ」
家族を奴隷に堕とす?戯言でも言っていい事と言ってはいけない事ぐらいはある。
もしお前が身内に手を出そうとするなら、俺は全力で抵抗するぞ?
勿論、武力でだ。前世の世界とは違って、この世界はそれが許される。いいや、それが当たり前であって、そうしないと俺が殺される。だからこそ、危険を真っ先に排除しなければならない。
で、やるか?やるのか?
「………」
返答はない。ガキンチョは黙り込んだまま俯いた。
っと言う事は、本気で遣り合うつもりはなくて、ただの戯言だったと言う訳か。
それなら安心だ。
もし本人にその気があったのなら、俺は容赦せずに全力を尽くして危険を排除するつもりだったからな。
その際に赤の他人に迷惑が掛かろうと関係ない。俺は自分さえ良ければそれでいい。
自己中だと罵ってくれても構わない。それが俺の本性だ。否定はしないさ。
話を戻そう……で、なんの話をしていたっけ?
まぁいいか。
「お前も食え。美味いぞ」
美味いけど、紅茶が無くなってしまうと食べ辛い。でも、クッキーはまだ残ってるから、残りを全部食べきってくれると助かる。
「いらない。帰る」
そうか。それは残念だ。
少しは食ってくれたら助かったんだけどな。執事が戻ってきたら、紅茶のお代わりでも頼むか。
●●●
時間は少し遡り、エルが客間に通された頃。同屋敷の応接間には先客と館主が厳しい顔付きで話し合いをしていた。
「なぜだ?この話はお前にとっても悪くない話の筈だ。お前はそれが分からぬ馬鹿ではあるまい?」
「十分に承知しておりますとも。しかしですね、アウグート伯爵。私は一人の娘を想う父親として、アリアンナには幸せになって欲しいのです。それが亡き妻の約束でもあるのですよ」
コトンっと優しく机の上にコップを置く。その仕草の一つ一つは落ち着きを保っている。
しかし、彼の心情はそうではなかった。
心の中では何度目の前のデブを殺しているか…。もう数えきれないほど撲殺しているのは確かだ。
そんな表面下での応酬を繰り広げていると、コンコンッと扉をノックする音が聞こえてきた。
「入れ」
館主が一言声を発すると、ゆっくりとドアノブが回された。そして、つい今しがたまで話題に上がっていたアリアンナが帰ってきた…来てしまった。
「只今帰りました。お父様」
「アリアンナか。よく無事でーー」
礼儀正しく一礼をしてから帰還の挨拶をするアリアンナ。そして、それを労わろうとするアリアンナの父、レイエル。が、そこで割って入ったのが、レイエルが殺してやりたいと思うほど嫌悪しているヒィルスク。
ヒィルスク・アウグート。
「久し振りだな、アリアンナ」
クカックカックカッと変わった笑いを溢して、下卑た眼差しでアリアンナの爪先から頭の先まで品定めでもするかのように見つめ始めた。
「お、お久し振りでございます…ヒィルスク様…」
その眼差しを向けられたアリアンナは、嫌な顔は浮かべなかったものの、一歩後退ってしまう。
実の娘にそんな眼差しを向けられたレイエルは込み上げる怒りをグッと堪えて、先程同様に冷静を装いながら話題を変える為に口を開いた。
「それで、アリアンナ。先日話していた彼を連れてきたのかい?」
「はい、お父様。今は客間の方で待ってもらってます」
「ああ…客間か…」
この屋敷には客間は一つしかない。故に、客人を待たすのはそこに通すしかないのだが、しかし、今、客間は不味かった。
今回、ヒィルスクが息子を連れて来て来客していたのだ。その息子は先程ヒィルスクに言われて客間へと向かっていた。
ここに居座られても邪魔なだけだったので、その時のレイエルも心の中ではその指示に賛成していた。
が、そこにアリアンナが予想よりも早く到着してしまった事などの偶然が重なってしまい、頭を抱えたくなった。
ヒィルスクの息子が居る部屋に、例の彼が案内されたなんて…考えたくなかった。
貴族が居る部屋に平民を案内するなど、どうなるかなんて安易に予測出来てしまうのだから。
クソッと心の中で悪態を吐く。
だが、その前に眼前のデブを片付けなければならない。と、目の前の問題に向き合って、レイエルはさっさとヒィルスクを追い出す算段を付ける。
「申し訳ない。どうやら私の大事な客人がいらしたようなので、この話の続きはまたの機会にでも」
「ふんっ。わざわざこの私自らが足を運んでやったと言うのに…。まあいい。そちらにも考える時間が必要だろう。次は良い返事が聴けることを期待しているぞ?アーマネスト子爵」
その言葉にニッコリと上っ面だけの笑みを浮かべるレイエル。
それを了承の意と受け取ったヒィルスクは満足気な笑みを浮かべ、見るからに重たそうな腰をようやく持ち上げた。
と、思いきや。
ガチャリと扉が。この応接間のノックもなしに扉が開かれた。そんな礼儀知らずな事をするのは、レイエルの知る中ではたった二人しかいない。
爵位の低い者達を侮蔑している目の前のデブと、それを小さくした小デブーーヒィルスクの息子であるウィルク・アウグート。
その考えは見事に的中し、ノックもなしに応接間に入って来たのはウィルクだった。が、何か様子がおかしい。
まるで親に怒られた後のように、足取りはトボトボと。下を向き、歯を悔しそうに噛み締めていた。
「どうした?ウィルク」
その様子に遅れて気が付いたヒィルスクがウィルクに声を投げかけたが、答えない。
嫌な記憶を思い出して、より強く拳を握りしめている。そして、遂に意を決し、ようやく歯噛みしていた口を開いた。
「パパっ!僕、強くなりたいっ!あんな奴に負けないぐらい、強く!」
思わずヒィルスクが驚いて後退りしてしまうほどの、確かな決意の表れ。普段のウィルクだと絶対に言わないような言葉だった。
この場に居合わせたレイエルもアリアンナですら驚く台詞だ。
この、たった数十分の間に一体何があったのか。
彼の性根を無自覚で叩き直した者がいたなど、誰も知る由がなかった。
●●●
この客間で待たされて十分ほどが経過した。
例のガキんちょが出て行き、おおよそ3分ほど。お菓子は食べきった。お代わりは要るかと聞かれたが、断った。
その代わりと言ってはなんだけど、紅茶を追加で淹れてもらった。
飽きない美味さだ。
さて、この空き時間だが、俺はただ無駄に菓子を食って紅茶を飲みまくってた訳ではない。
やるべき事をキチンと熟しているのだ。
簡易スクロールの製作をメインに、片手間に馬車の模型を作成中だ。
簡易スクロールの方は売り物として正式に認められた日から千切った紙ではなく、縦54cm。横86cmの切り揃えた紙に描いている。
前世の銀行カードと同じぐらいの大きさだ。不恰好にはなってないから、後の細かい事は気にしてない。
まぁ、簡易スクロールを作るのは簡単だ。むしろ、こちらを片手間で行なっているみたいな感じだ。
なにせ、同じ文字と同じ回路を描いてやればいいだけなんだからな。
苦戦してるのは、馬車の模型の方だ。
この街に来るまでアリアンナが乗っていた馬車を基礎として、そこからどう改良すれば俺の満足する物になるかを試行錯誤して部品を魔法で生み出して組み立てている。
必要かどうかと問われれば、全く必要のない無駄作業だ。でも、正直、簡易スクロールの製作は暇なんだ。
暇すぎて、こうでもしてないと落ち着かない。
だから、模型を作った。そして、数分足らずで完成させてしまった。
何かをやり遂げる時の達成感は気持ちがいいけども、同時に虚しさも込み上げてくるものだ。
これ以上、改良の余地がない。いや、言い方が違うな。これ以上、俺の頭じゃ改良点を見つけられない。そんな所まで作り上げてしまった。
まぁ、全てが全てを鉄で創り出してしまった物だから、これを巨大化させると馬が牽けなくなる重さになるだろう。
それこそ、t(トン)単位だ。
実際に動くかどうかは、ちょっと後ろから小突くだけでコロコロと転がるから、それで判別できる。
ただ、こんな小さな模型を引くのに適した馬なんていない。本当にただの模型だ。大型化したって、これを牽ける馬なんていやしないだろう。
でも上手くはいった。
今回採用したのは、衝撃吸収装置(ショックアブソーバー)と、衝撃吸収装置(コイルスプリング)。手こずったのは、どっちかって言うと、コイルの方。受け側との当たり面を作るのに苦戦した。
左右の車輪の衝撃吸収装置が独立して動く独立懸架を採用し、極力振動を車内に与えないよう他にも色々と工夫を凝らしてみた。
例えば、床を二重構造にして横揺れを軽減させてみたり。動力源である馬との接続部の棒にスプリングを挟んで、前後に急激な衝撃が加わらないようしてみたり。
まぁ、この模型はあくまで暇潰しと遊び心で作った玩具であって、俺は本当に無意味な事をしていたわけだ。無意味な事なのに熱意を注いで作ってしまっていたわけだ。
それで、作ったはいいけども…うん、要らないな。
別にマナを流せば何かが起きるような物でもなければ、子供の遊び道具の玩具にもなりきれない。ただの飾りであって、模型だ。
俺には必要ないし、マリンやアックにも必要ないだろう。
となると、また異空間倉庫にお蔵入りする事になるんだろうけど、俺の趣向を凝らした力作になるわけで、折角だから、大切に扱ってくれる人に貰って欲しいわけ。
……この部屋の棚の上にでも勝手に置かせておいてもらおう。
丁度、馬の模型もある事だし…あ、ちょっと馬の方がサイズ大きい。
まぁいいや。付けちまおう。
うん、馬と馬車が不釣り合いで不恰好になったけど、見た目は悪くはないな。
満足だ。
さて……何してたんだっけ?
あっ、そうだった。簡易スクロールの製作中だったな。……飽きたから、もういいや。
パパッと片付けてっと。
さて、次は何をしようか。
まだ誰かがこの部屋に来る気配はない。執事は部屋の前で待機中だし。
丁度今、マナの気配が二つ屋敷の外に出て行くのが感じられる。それを見送っているのが一つ。残り二つが別の部屋にいる。
こんなに広い屋敷なのに、住んでる人はかなり少ないな。と、今頃になって思った。
まぁ何か考えがあっての事だろう。人様の家の都合に口を挟むつもりは全くないから、気にしない事にする。
「………暇だ」
ソファに座って、紅茶を啜る。
ぬるいけど美味い。けど、欲を言うならキンキンに冷えたのが飲みたい。
そう言えば、この世界に産まれてから冷蔵庫なんて代物を見た事ないな…。
暇だし、いっちょ作ってみるか。
○○○
冷蔵庫と言えば、俺がまず思い浮かべるのは"熱い"だ。内部の冷たさに相対するように、外部に熱を放出する。それは電気とモーターを使用している機械の構造上仕方のないことであり、どうしようもないことだ。
しかし、今回はそれを用いない。
冷蔵庫の仕組みなんて詳しく知ってるわけじゃないから、どうすれば正解なのか分からないけど、取り敢えず中身を冷やせればそれでいいのだから。
うろ覚えの知識の中に、冷気は密度の関係上、下に落ちる性質があるのを覚えている。
それを応用し、等身大ほどの密閉型の長方形の箱を用意して、その上部に"氷"の筆記魔法を描いて、そこにエーテルを封入した缶…略してエーテル缶を設置する。
これで起動したはずだ。
箱を開けてみればちゃんと作動しているのが分かる。上が一番冷たく、下に行くほど温くなる。
半分成功で半分失敗だな。
冷気は空気の密度が高く、通常の空気よりも重たくなるから下へ下へと向かうもの。だから、下も十分に冷え切るのかと思えば、そうではなかった。
まぁ、それもそうか。
すぐに開けたらそうなるよな。
閉じたままで数分か数時間ほど置くと、おそらく内部は下まで十分に冷え切るだろう。
じゃあ、あとは冷気を満遍なく全体に流す配管と、簡単な棚や区分けする部屋なんかを作ってやるだけだな。
扉の方はどうするか…。適当にヒンジでも作って片側扉にでもしておくか。
などと考えながら冷蔵庫作りに熱中していると、作業を始めて少しも経たずにコンコンッと扉がノックされたような音が聞こえてきた。
たぶん気の所為だ。
だって、マナの気配が……あ。いつの間にか増えてる。一つは部屋の前にずっと立ってた執事だとして…残り三つ。アリアンナとメイドと…誰だ?
なんて疑問を抱いていると、その人物が「失礼する」と言って入室してきた。
横目で確認すると、気立ての良い服を着たちょび髭のオッサンだった。その後にアリアンナ、執事、メイドの順で入ってくる。
そして、入ってくるや否や、先着順で俺の顔を見て不思議そうに首を傾げた。
最後尾のメイドだけは冷めた目で俺を一瞥すると、開け放たれた扉を閉めている。
「あー…初めまして。私はレイエル。レイエル・アーマネストだ」
「ああ。エル、だ」
「………」
「………」
なんだこの間は?
「…それだけ?」
「ああ」
何を求めてるんだ?
「アリアンナ。少し話をしよう」
「はい…」
オッサンがアリアンナを連れて廊下に出て行ってしまった。
一体、今のは何だったんだ?
まぁいいや。
「お代わり」
「はい。只今お持ち致します」
執事が俺の注文に応えてメイドを一瞥すると、メイドは一礼して部屋を出て行く為に扉を開ける。
「アリアンナ。悪い事は言わない。アレはやめておくんだ」
「で、でも!お父様!」
「でもじゃないっ!あの死んだ目っ!あの礼儀のなさっ!それだけじゃない!あんな箱ーー」
パタンッと扉が閉まって、廊下での雑談が聞こえなくなった。
一体なんの話をしてるんだろうな?
「失礼ですが、エル様。この箱は一体?」
「冷蔵庫だ」
「冷ゾー庫でございますか?」
「ああ」
執事に開けてみるよう薦める。
まだ完成したとは言えないけど、人に見せても良い具合にまでは出来た。
部屋は全部で三つ。
まず、上段。扉は片側扉で、冷気は上からじゃなく最上部の奥と左右の側面から出るようにしてみた。
ここの箇所にまだ棚を設置してないから、未完成だ。
「これは戸棚か何かでしょうか?ですが、なんだか冷んやりとした心地良い風が来ますね…」
次に中段だが、これは上と同じだ。違う点を挙げるとするなら、引き出しになっている事ぐらいだな。
「ここは…随分と深い作りになっていますね…。一体、何を入れる場所なんでしょうか…」
などと呟きながら中段を閉めて、次の段の手を掛ける執事。
「〜〜っ!?」
が驚いて飛び退いた。
それもそうだ。これこそ冷蔵庫が未完成の理由。
なんと、取手に手を掛ける事が出来ないぐらい冷たくなってしまった。
それもそうだよな。だって、全部鉄だし。
下段は冷凍庫だ。これを使うには追加のエーテル缶が必要になるけど、それがなくとも冷蔵庫としては機能するようにはしている。
まぁ、これは試作品だから実際に使うわけでもないし、ここまで機能を追加しても意味ないんだけどな。
執事がハンカチを手に、直接素手で触れないように恐る恐る下段を開けた。
「おぉ…っ。これは、まるで氷のような冷たさ…。エル様。この老いぼれめにお教え下さっても宜しいでしょうか?この冷ゾー庫なる物は一体なんなのでしょう?」
なんなのか、か。
冷蔵庫って言ったら……紅茶を冷やす為のものだなっ!
いや、違うか。
「食材を保管できる」
「食材の保管でございますか!?それは、どのような食材の保管が出来るのでしょうかっ!?」
おお…グイグイ来る…。
その勢いに気圧されて、思わず一歩退いてしまう。
「肉…とかか?」
実家の冷蔵庫には肉と野菜しか入ってなかった覚えしかない。
なので、思い付いた事を適当に言ってみたら、執事が目の色を変えてガシッと逃げられないよう両肩を掴んできた。
「なんとっ素晴らしいっ!!」
完全に目の色が変わっている。
正直、怖い。
「この爺、エル様の発想に感服致します!確かに、港街では獲れた魚を冷凍して保存するという方法がありますっ!エル様はそれに目を付けたのですねっ!?誠に素晴らしい!確かに魚の入手が困難な地で肉は生きる上で必須の食材ですっ!しかし、獲れたその日に調理してしまわないといけませんでしたっ!エル様!保管期間はどのぐらい可能でしょう!?これはすぐに使用できるでしょうか!?可能であれば、本日獲れたばかりのオークの肉で試させてもらっても構わないでしょうかっ!?」
執事にガックンガックンと揺らされて、俺、もうグロッキー…。
「はっ…。も、申し訳ございません、エル様。少々我を忘れていました。本当に申し訳ございません…」
一歩下がって、歳を感じさせない動きで背を折り曲げて首を垂れる執事。
ようやっと元に戻ってくれたようだ。
冷蔵庫如きで興奮しすぎだぞ。まったく…。
「まだ未完成だ」
そう未完成だ。成功には程遠い。
執事にガクガク揺らされている時に気が付いたんだけど、冷蔵庫を全部鉄で作ったら錆びてしまうだろう。
詳しい説明は省くが、冷蔵庫の中には冷えた空気が充満している。そうすると、空気中の水分が水滴となって壁に付着するのは当然。
そして、鉄は水に浸けておくと錆びる。
棚を作らなきゃならないとか、そんなバカな事を考えてる暇があるなら、まずはそこから直していかなきゃならない。
だから、まだまだ未完成というわけだ。
「未完成…。では、これは一体…?」
「試作品」
「では、いつかは完成させるつもりなのですね?」
「ああ」
冷えた紅茶が飲みたいからな。
……あ、それぐらいなら使えない事もないか。じゃあ目的は達成したな。
「楽しみにしております。完成した暁には、いの一番に買いに向かわせて貰いますのでっ」
「あ、ああ」
こんなキラキラした期待の篭った眼差しを向けられたら作ってやりたくなるじゃないか。
仕方ない。最後まで作るか…。
「期待してろ」
「ありがとうございます」
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コメント
トラ
更新お疲れ様です!
詳しくないんですけど銀行カードって大きいんですねー
紙の切れはしと言ってたので10cmないと思ってたんですが結構大きくてビックリしました
次も楽しみにしてます!