自称『整備士』の異世界生活

九九 零

37

仕事に復帰できるようになったので、来週からは同じペースでの投稿となります!
今後とも、よろしくお願いします。

35話が抜けてるとご指摘を頂き、急いで投稿させていただきました。
申し訳ありません。






「ご主人様…」

ご主人様は何を考えているのか分からない。

彼女の頭の中に『好きに、生きろ』とエルに言われた言葉がグルグルと巡る。その意図を考えようとしても、どうしたって辿り着く答えは一つ。

ーー捨てられた。

おかしな話だ。
わざわざ高額な代金を支払ってまで奴隷を買ったのに、行った事と言えば魔力の扱い方を教えらるだけ。たったそれだけで、『もう自由に生きても良い』と言うかのように肩を叩いた。そして、隷属の腕輪を壊して出て行った。

ハクァーラの隷属の腕輪が壊れたのはエルが意図したものではない。しかし、ハクァーラからすれば、まるでエルが意図的に壊してみせたように見えた。

なぜ?どうして?

ハクァーラの頭の中には疑問しか浮かばない。

なぜ私を買ったのか。どうして奴隷から解放したのか。そして、ご主人様は一体何がしたかったのか…。

なにも分からない。何一つわかりはしない。

でも、一つだけ確かに言えるのは、ご主人様は心優しき天才だと言うこと。
凡才である私の考えなんかじゃ到底及ばない。ご主人様の考えてる事なんて分かりはしない。

それでも、手元には先日貰った大金の入った皮袋がある。魔力の使い方を教え、新魔法まで教えてくれた。

金と知識。

エルが最後に言った通り、これから人生をやり直せるだけの物がハクァーラの手元には揃っていた。そして、最大の足枷となる奴隷からも解放された。

どうしてそこまでしてくれたのかハクァーラには全く理解が出来ない。

そんな時。ふと、とある御伽噺の内容を思い出した。

不幸に嘆く者を救って回る聖女様と賢者様の話だ。
聖女様はとても心優しき方で身分や権力など関係なく怪我や古傷で嘆く者達に手を差し伸べた。賢者様はとても自分勝手な方だったけれど、貧しい者達には金を得る知識を与え、病に苦しむ者達には病を治す術を教えた。

ハクァーラには、まるでエルが賢者の生まれ変わりのように思えた。

だけど、どうして私?

確かにハクァーラの家は貧乏だった。種族が兎人族と言う事もあって就ける仕事なんて碌になく、その日を食べ凌ぐのも厳しい毎日だった。
それでもなんとか生きてこれたのは両親の愛情があったからだろう。

しかし、ハクァーラは家族の中でも一番色濃く兎人族の血を引き継いで生まれてきた身だった。

危険察知は人一倍敏感だが、それ以外は何の能力もない。魔法も使えなければ、力持ちでもない。臆病で非力な獣人だ。一つ良い点を挙げるとするならば、敵から逃げ出す時の逃げ足の速さだけだろう。

だから、と、人生を諦めるのは簡単だ。だが、ハクァーラはそれを生かして冒険者になろうと思った。

冒険者なら種族問わずに雇い入れてくれる。力がなくとも、魔法が使えなくとも、薬草採取やドブ浚いで日々の日銭を稼ぐ事は出来たし、実家に僅かばかりの仕送りも出来た。

護身用に弓の扱いを学び、ゴブリン程度なら倒せるようにもなった。動物を狩るのも、鳥を撃ち落とすのも出来る。
臆病者だからこそ魔物の接近には誰よりも早く気付けるし、逃げ足が速いから見つかっても逃げ切れた。

話を戻すが、だからこそ、彼女はそこまで不幸とまでは言えない。

ただ行方不明になった弟の捜索依頼を出すのに多額の借金をして、奴隷に堕ちてしまっただけの、ありふれた存在。

彼女自身も自分を不幸だなんて思ってもいない。自分の選んだ道を励ましながら歩ませてくれた親に感謝はすれど、恨みなんて持った事もない。だから、この程度で不幸とは言えない。これが彼女の選んだ道だったから。

だからこそ、分からなかった。エルがその大勢の中からハクァーラを選んで救った理由が全く理解できなかった。

天才の考える事なんて分かるはずがない。だけど、何か意味があるはず。何か…。

「ご主人様…っ」

エルが出て行ってから数分が経過して、ようやくハクァーラの中で考えが一つに纏まり我に返る。

慌てて部屋を飛び出す彼女の出した結論は…『何も分からない』だった。


○○○


エルを探しに宿屋を飛び出したハクァーラは案外すんなりとエルを見つける事が出来た。

「く、くそっ!なんだよっ!なんなんだよっ!このクソガキはっ!!」

冒険者風の男が三人。その内、二人は股間を抑えて悶絶しており、最後の一人が子供相手に大斧バトルアックスを乱雑に振るって猛攻を仕掛けていた。

その子供がハクァーラの探し人。エルだった。

その身のこなしは、ゆっくりで、子供とは思えないほど落ち着いている。なのに、なぜか振られたバトルアックスはエルに掠りもしない。

まるでフラフラと覚束ない足取りで歩むが如く、バトルアックスが振られる毎に一歩、また一歩と前進する。

そしてーー。

「クヌアアァァァァッ!」

股間を殴られた男の絶叫が響き渡る。

野次馬の男連中がそれを見て顔を青くして股間を抑える。ハクァーラにはなぜ男が一撃で悶絶するほど痛がるのか解らなかった。

だけど、見つけた。私のご主人様っ。

「ご主人様っ!」

野次馬の壁を掻き分けてエルの前に飛び出す。が、飛び出したのは良いけど何を言えば良いのか分からなかった。言葉が出てこなかった。

私はもう奴隷じゃない。ご主人様が私を買った意味も理由も何一つ分かってはいない。

だけど、これだけはハッキリとしている。

何か意味があるはずだと。エルが行った行動の全てに何か意味があるはずだと。

意味がなければ、ここまで他人に手間を掛けたりしない。ましてやたかが奴隷に大金を無駄に浪費したりなんて絶対にしない。

だから、なぜ?どうして?と疑問を投げかけたくて。でも、その一言が出てこない。

そんなハクァーラを見飽きたのか、エルは彼女から視線を逸らして歩き始めてしまった。と、思いきや、エルは彼女に背を向けながら小さく下手くそな言葉を投げかけた。

「………好きに、しろ」

それは、どういう意味なのか。
全く解らない。解らなさすぎる。だけど、なんとなく理解は出来た。

「は、はいっ!」

エルは選択肢を与え続けていたのだと。

当の本人は、まさかハクァーラが付いてくるとは思わずに呆れを含んだ溜息を深々と吐いているが、彼女には知る由もない。

結局、ハクァーラが選んだのはエルに付いて行く事だった。今度は奴隷として強制されるのではなく、自分から進んでエルに仕える事を決めた。

兎耳を元気よく動かし、ハクァーラは先を行くエルの後を嬉しそうな足取りで追った。


●●●


ハクァーラが付いてきた。

まぁそれはいい。いや、良くはないけど。本人が付いて来るのを選んだのなら、もうそれでいい。

何が正解で何が間違えてるのか判らないバカな俺が出来るのは、その人の考えを尊重する事ぐらいだ。

だから、頭から否定はしない。そうしたいのならすれば良い。

ちなみに言うと、悪い事でも良い事でも俺は何も言わない。さすがに見ていられなくなったら手を出すけれど、基本的に俺は自分の考えを他人に押し付けたりはしない。

そうさせようと誘導する事はあっても、口では言わない。説明が面倒く…ゲフンッゲフンッ。自分で考えて行動する事に意味があるからなっ。

前世の職場でそれを話すと『お前、すげぇ厳しいな』と言われた覚えがある。

どうでもいいか。
そんな与太話はさておき。

さて、どうしたものか。

俺は一人で歩いて家に帰るつもりだった。

決して馬車が出てない訳じゃない。
実家の村まで行く馬車はないけど、村を立ち寄ってから更に奥の隣街まで向かう馬車は幾らでも出てるからな。

だけど、俺は歩いて村に向かう事を決めていた。その理由は簡単だ。これまで作り溜めしてきた物の試用をする事と、自分の今の力量を把握する事にある。

この旅で得た経験で、俺は無力だとハッキリと理解した。

前世の子供と比べれば遥かに強いだろうが、それじゃあ意味がない。
この世界の人間は異様に強い。死が身近にある為からか、岩をも粉砕する拳で敵を殴ったとしても、この世界ではただのパンチと大差ない。

出来て当たり前と言う事だ。

だから、男には一撃必殺になり得る股間を執拗に狙って潰し回ったが、その戦法が通じるのも限界があるだろう。

魔法を使っても構わないのなら…。と、考えたが、それを含めても俺は弱いだろう。
俺は元はこの世界の人間じゃない。前世の基準で考えてはいけない。ここは魔法のある世界なんだから、一代で独学で学び続けた俺なんかじゃ到底追い付けない歴々の知識の差があるはずなんだ。

どうあがいても、俺は子供だ。少しズル賢いだけでこれからもやっていけるはずがない。

決して自惚れず、これまではただ運が良かっただけだと思わなきゃならない。

だから、それらを踏まえて俺が持ち得るこの世界で生き抜く為の力をシッカリと把握し、己が物とし、更に鍛練を積む必要がある。

きっと俺以外の子供は誰かに師事を受けていて、俺なんかよりも遥かに強いはずだ。じゃなきゃ、こんな危険な世界でのうのうと生きるなんて到底できるはずがない。

俺は怖くて堪らないからな。

もしもの時も想定し、幾つも奥の手を隠し持っておく必要もある。
兎に角、力だ。生き抜く為の力がいる。

「あの、ご主人様。どこに向かってるんですか?」

「村、だ」

「村…?もしかして、このまま街の外に出るわけじゃ…」

「その、つもり、だ」

何を当たり前の事を聞いてくるんだ。なんて横暴な事は言わない。
話してなかったもんな。

「家、帰る。ハク…ラは、馬車乗る、しろ」

歩いて家に帰る。
お前は先に馬車に乗って向かっていろ。

「ご主人様は…?」

「歩く」

「ご、ご主人様っ!?歩いて向かうのは危険ですっ!せめて、ご主人様も馬車に…っ!」

随分と熱心に説得しようとしてくるな。

チラリと横目でハクァーラを見やると、途端に黙り込んで兎耳を萎れさせた。

「すみません。ご主人様には何か考えがあるんですよね?」

その通りだ。分かってるじゃないか。

「でも、街の外に出るのなら、冒険者を雇ったりした方が良いと思うんですけど」

それも一つの案だ。
だが、それだと俺がしたい事が何一つ出来なくなる。

俺は自分の限界を知る必要があり、今ある力を把握しなければならない。
それに、少し危険が伴うような実験が幾つか残っている。それも試しておきたい。

この世界で俺の力はどこまで通用するか。シッカリと確認しておかなきゃいけない。

だからハクァーラの提案は却下だ。

「そうですか…。じゃあ、微力ながら私がご主人様の力になりますっ!」

ふんすっと意気込みを込めて鼻息を吐き出すハクァーラ。正直、要らない。
一人の方がやりやすい。

「ちょっと待ってて下さいっ!すぐに武器を調達してきますっ!」

だが、必要ないと言う間もなく、ハクァーラは颯爽と走り去って行った。

………先行くか。


○○○


街を囲う壁を越えるには、四方にある門を潜らなきゃならない。
正確に言うと、門は馬車用で、その隣の通用路を通り抜けなきゃならない。

そして、門付近には見張り役みたいな衛兵が常にいる。

「お、おい坊主!ちょっと待て!」

こうなるのも必然だったと言うわけだ。
少し考えれば予想できた筈なのに…ミスったな。

「ここから先は坊主一人じゃ危ねぇぞ!どんな理由があるにしろ、子供一人で外に出るのは見過ごせねぇ!」

っと、まぁ。こう言う人が居る事ぐらい簡単に予想は出来ただろうに。

ホント、俺はバカだな。

「…………」

さて。どう言えば通してもらえるか。

「ほら、帰った帰った。ここから先は坊主がもう少し大きくなったら通してやるよ」

うぅむ…。

この衛兵、本気で俺を街の中に返そうとしてきやがる。衛兵が俺の肩を掴む手は振り切れないほどの力じゃない。けど、ここから振り切って逃げようとしたって、所詮は子供の俺が大人から逃げ切れるはずがないのは目に見えている。

一体、どうすれば…。なんて思っていると、思わぬ所から助け舟が出された。

「ご主人様ー!」

ハクァーラだ。放って行ったのに懲りずに付いてきたみたいだ。

「んあ?おおっ!兎の嬢ちゃんじゃねぇかっ!」

どんなアダ名だよ。

「あっ!久し振りです!カルカーさんっ!」

「おう!久し振りだなっ!ここ最近見なかったが、狩場を変えたのか?」

「いえ。ちょっと色々ありまして…」

そう言ってハクァーラがチラリと俺を見た。

「そうか。その様子だと随分と大変だったんだな」

え?今、ハクァーラが俺見ただけでそこまで分かるのか?すげぇな。

って言うか、ハクァーラは苦労してたのか?何に対して?まさか…俺か?
いやいや。そんな辛い想いをさせるような事なんて…したような…してないような…。

「でも、今はご主人様が居るので大丈夫ですっ!」

「ご主人様ってこたぁ、アレか?」

「えーっと、それも色々あって…。昨日まではそうだったんですけど、今は…」

またもやチラリと俺を見て、何かを考えるような素振りをしたと思えば、

「…雇ってもらってますっ!」

と、衝撃発言が放たれた。

俺もビックリだ。

雇った覚えなんてないし…いや、でも本人が言うから、どこかで俺はハクァーラを雇ったんだろう。

どこで?どこでだ?

………あ。そう言えば『好きにしろ』って言ったな。きっとその時に何かの食い違いがあって、そうなったんだろう。

まぁ、そうなってしまったのなら仕方ない。これには俺にも責任がある。分かった。雇っていると言う事にしよう。

なんて考えていると、いつのまにか衛兵とハクァーラの雑談は終わっていた。

「気を付けてなっ!」

「はいっ!カルカーさんもお元気でっ!」

二人が別れの挨拶を交わしているのを横目に、思った事が一つある。

ハクァーラは有能だ。

俺なんかよりも人付き合いが得意なようだし、俺が渡したアクセサリーなんて普段の数倍の額にして売ってくる能力まである。

この感じだと、ハクァーラを雇ってもお釣りが来るな。偶然とは言え、良い人材を手に入れた。

「ご主人様。あの…さっきはすみませんっ!」

「ああ」

なんのことだ?

「それと、この武器を買うのにご主人様から渡されたお金を使いました。このお金はシッカリと働いて返します」

「……ああ」

それは挙げた物だ。俺は挙げた物を返せだなんて野暮な事は言わない。好きに使えばいい。

「それで…ご主人様の村って、どこにあるんですか?」

「アッカルド」

だいたいの位置は把握している。確か、あっちだ。
方角までは判らないけど、俺が指差す方向を直線すると村の近くまではいけるはずだ。

「アッカルド村なら…このまま歩いて向かうと明日の昼ぐらいまで掛かりますよ?」

知ってる。
それぐらい把握済みだ。

大体の計算だと、人の歩行速度は4.5km/hだ。
100kmの距離を打破するには、22.22…時間ほど掛かる。
馬車での日中の行動時間は朝8時から17時までの、およそ9時間。二日の昼に到着予定だ。

ハクァーラの言ってる予測時間を考慮するに、寝ずに休憩を挟みつつ向かえば明日の昼には付けるだろう。

でも、そんなに急ぐ必要はない。俺の予定では、三日掛けてゆっくりと向かうつもりだ。
急ごうと思えば、走れば1時間足らずだ。それに、なんなら転移魔法でパパッと移動したって構わない。

そうする必要がないからしないだけだ。

ってなわけで、のんびりと青い空でも眺めながら歩く。

「えっ。まさか本当に歩くんですかっ!?」

「ああ」

そのつもりだって初めに言ったろうに。

俺は同じ事を何度も言うのは嫌いなんだ。付いてくるのなら黙って付いて来い。


○○○


昼頃に街を出発し、暗くなり始めてから就寝。

野営の際に夜は見張りを立てるのが当たり前だそうで、ハクァーラは真っ先にそれを買ってでたけど必要ないと言って寝させた。

俺も木の根を枕にして寝入る。

魔物が跋扈する街の外で見張りも立てずに野宿なんて側から見たら無防備なバカだろう。
だけど、そうじゃない。俺はそこまでバカじゃないからな。

ちゃんと用心はしている。

魔物や人のマナを検知するとアラームが鳴る魔石を四方に設置している。音は笛の音だ。その方が制作が楽だったからな。

まぁ、逆に言えば、俺とハクァーラのどちらかでもそれに近寄ると同じようにアラームが鳴ってしまう。認識機能も追加しておかなきゃな。

ちなみに、睡眠中に他のマナが近付いてくると気付けるように努力した。
まだ自信がないから道具に頼ってるけど、ゆくゆくは道具なしで出来るようになりたい。

そして、朝。

朝日の明るさに無理矢理目を覚まさせられて、不快な気分で適当に鳥と猪を狩って…血抜きの仕方が分からなくてハクァーラが起きるのを待っていた。

起き抜けに謝罪をするハクァーラを無視して、さっさと血抜きをしてもらって、適当に焼いた鶏肉と猪肉を食べて出発。

不味かったとだけ言っておこう。

「ご主人様にも出来ない事があるんですね。てっきり、何でも出来ると思ってました」

「ああ」

その考えは間違えだ。俺には出来る事よりも出来ない事の方が圧倒的に多い。

「やっぱり、ご主人様みたいな天才でも出来ない事があるって思うと、なんだか安心します」

何に安心してるかは判らないけど…俺は天才なんかじゃない。

「それは、違う。天才、覚える、早い。俺は、バカだ」

そう。俺はバカだ。物覚えが悪くて、夢中になった事しか出来ない。典型的なバカだ。

それと違って天才は一つ教えただけで二つ三つと熟すんだ。俺みたいなバカとは全く違う。

「俺はバカ、だから。考える、する。常に、考える、してる」

そうしなければ凡人にすら追い付けなかったからな。

「すみません…」

なぜかハクァーラが謝ってきた。
そう言えば、会った当初からハクァーラは謝ってばかりだな。

「謝る、必要ない。失敗した、思うなら、糧にし、次に備える、しろ」

謝るぐらいなら、それを糧に次は失敗しないよう心掛ければいい。
失敗の積み重ねこそが成功の元だ。

俺はそう信じている。

「ーーっ!ご主人様っ!魔物ですっ!」

ん?まだ俺のマナ感知の範囲内には入ってないぞ?
でも、ハクァーラの様子を見る限り嘘なんて言ってなさそうだし…。

少しマナ感知の範囲を広げてみれば…ああ。確かに居るな。
ここから100mほどの距離か。すごいな。この距離の魔物をマナ感知もなく気付けるなんて。

さすがはこの世界の住人。俺の持たない術を持ってるようだ。

「ご主人様っ!私が前に出ます!その内に!」

背負っていた弓を構えて前に出るハクァーラ。何をそこまで警戒する必要があるんだ?

相手はただのゴブリンだ。
それこそ、単騎だと子供でも追い払えるほど弱い魔物だ。そこまでの警戒の必要はない。

でも、まぁ。ハクァーラがそこまで警戒するんだから何か意味があるんだろう。向こうもこちらに向かって歩いてるみたいだし、ちゃちゃっと始末してしまうか。

いや、ここは試作品を試す良い機会だ。アレを試そう。

異空間倉庫(ポケット)から取り出したのは、一本の槍。
使ったら壊れるのなら、と半ば自棄になって壊れる事を前提に作り出した武器だ。名前はまだない。

「ご、ご主人様、一体、何を…」

ハクァーラが何か言ってるけど、気にせずに投擲!

100m先のゴブリンの姿すら見えてないけど、当たる事は確実だ。なにせ、アレは前回試した時に標的がいなくて俺の脳天を貫こうと戻ってきた曲者だからな。

「……えっ。気配が…」

どうやら俺の方に戻ってくる事なく上手いこと命中したようだ。

アレの機能としては、投擲方向にあるマナ保有者に向かい直進する。所謂、ミサイルとかで良くあるホーミング弾だ。

前世のミサイルとの違いは熱源体を追うのではなく、マナを感知して追いかける代物だ。

そんでもって、壊れたら自爆する。

ーーズドォォォンッ!

と、こんな風に。ここまで爆風が届くほど…ちょっと威力が強すぎたみたいだ。

仕組みとしては、槍の先端に付けた鉛板が衝撃で壊れて中に封入していたエーテルが漏れ出し、周囲一帯を吹き飛ばす。まさに槍型のミサイルだ。

試作品としては満足の出来だな。少し封入するエーテル量を減らすか。

「えーっと…倒したんですか?」

「ああ」

「ご主人様って…いえ。こんな事で驚いてたらダメですよね…シッカリしろ、私っ。ご主人様っ!私、もう驚きません!」

「あ、ああ?」

何を言ってるんだ、コイツ?

まぁいいや。
次だ次。

あ、その前に一つハクァーラに言っておくことがあったな。

「ハク…ラ」

「はい!なんですか?」

「俺する、こと。秘密する。良いな?」

「そうですよね。こんな力があるって知られたら悪い輩に何をされるか分かったものじゃないですもんね。分かりましたっ!ご主人様のこの力は決して誰にも口外しませんっ!アクテナ様に誓いますっ!!」

この力って…。いや、そうじゃないんだけど。

まぁ良いや。説明するのも面倒だ。後々見てたら分かるだろう。


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コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です!
    35抜けてる気がするんですが…
    体調には気をつけて
    次も楽しみにしてます!

    1
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