自称『整備士』の異世界生活

九九 零

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まず初めに。

ハクァーラに自分を買い取る用の金を渡したら断られた。どうして?

次に、ハクァーラをボコって金を奪った奴等はタマを念入りに潰した。因果応報って奴だな。

最後に、ハクァーラは優秀だった。

俺の作ったアクセサリーは纏めて売ったとしてもいつも金貨1枚程度だったのに、今回ハクァーラに売りに行かせたら金貨80枚にもなった。

凄くね?

あと、白っぽい金貨のような物も混ざってたけど、これは何だろ?金貨が一万円として、半金貨が五千円だろ?だったら、二千円的な奴かな?

取り敢えずはそういう事にしておこう。

さて。そんな訳で、再び自室だ。とは言っても、宿屋の部屋だけどな。

今回はハクァーラのお陰で一気に稼げたし、金には困っていない。
ハクァーラは怪我までして金を稼いでくれたし少しは労ってやるべきなんだろうけど…あいにくと労いの言葉が分からない。

金で解決が一番手っ取り早かったんだけど、それも断られたし…。はてさて、どうしたものか。

「………」

チラリと部屋に入ってから終始扉付近を陣取って立っているハクァーラを見やる。
どう見たって兎だ。人と違うから感情が読み辛い。ピクピクと動く兎耳が目に入る。

あ、そうだ。俺の自信作の一つをあげよう。

「ハク…ラ」

やっぱり名前が呼びにくい。
慣れるまで名前を呼ばないようにしよう。

「は、はいっ」

取り敢えず、部屋に入ってから終始扉付近に張り付いているハクァーラを呼び寄せた。

ピクピクと動く兎耳が気になる。

「やる」

そう言って自慢の品をハクァーラに手渡す。

これは形良し。効果良し。強度良し。の3Kが揃った自信作だ。

チェーンタイプの腕輪で、チェーンの一つ一つにエーテルを封入している。効果は自動回復オートヒールと、その為諸々の攻撃魔法。これもチェーン一つ一つにシッカリと刻み込んでいる。
強度の方は、鋼をエーテル結晶で包む事で無理矢理上げてる感じだ。一応は石に叩き付けても壊れない。

「そ、そんな!わ、私如きがこんな物を貰うなんて…っ」

なんて言って慌てふためくハクァーラだけど、正直な事を言ってしまうと、それ、誰も使う人いないから。

このアクセサリーは試作品の一つだったから、誰にあげる予定もなかった。
途中から熱が入っちゃって細部にまで拘ってしまった物で、売るのが勿体なくて残していただけなんだ。

まぁ、在庫処分には丁度いい機会だったと言う訳だ。

返して来ようとするハクァーラをガン無視して、次は何を作ろうかと思案する。
アクセサリーは作り飽きた。かと言って、バイク作りに戻ろうにも手詰まり状態だ。他に何か作りたい物なんてのは特にない。

うーん……何もしないってのも暇だしなぁ…。

あっ!そうだ!ちょっと趣向を変えた武器でも作ってみるか。
確かその設計図は以前書いたはず…。

そう思って異空間倉庫(ポケット)をガサゴソと弄っていると、どこからかキューッとお腹の鳴る音が聞こえた。

俺じゃない。腹は空いてないからな。

だったら…と思ってハクァーラを見やると、兎耳をションボリさせていた。

「す、すみません…」

謝るほどの事じゃないと思うけどな。っと言うか、腹が減ってるなら言ってくれれば良かった。

俺は物作りとかに没頭してると腹は空かないんだ。まぁ、そんな事はどうでもいいか。

「飯、行く」

少し早いが飯の時間だ。

この宿屋にも食事処があって、どの時間帯も混まない事を事前に把握している。
飯は他の店より美味いのに混まないとか、隠れた名店みたいな場所だ。

ハクァーラを引き連れて階下の食事処に向かう。相変わらず、客は少ない。それでもここに来ると必ず人が居るのは、やっぱり飯が美味いからか?

空いている机席に座ると、ハクァーラは俺の横に立った。
お前も座れよ…。と指摘したい所だけど、種族の違いもあるし、そう言う習慣でもあるんだろう。

野暮な事は言わない。

店員が俺に気が付いて歩み寄ってきた。ここにメニューはないから、食事かどうかを聞きに来たんだろう。

「いらっしゃいませ。お食事ですか?それとも、ご休憩ですか?」

「食事、だ」

休憩ってなんだ?それは初めて聞いたな。休憩を選ぶと何があるんだ?

「食事ですね。すぐに用意します」

淡々と仕事をこなす店員さん。厨房に戻って行くのを横目に、ハクァーラを見る。
厳密にはハクァーラの兎耳だ。フッサフッサと揺れ動いているのが気になって仕方がない。

「お待たせしました」

そうしていると、一人分の料理が運ばれてきた。
……一人分?なぜ?

「待て」

立ち去ろうとする店員を呼び止める。

「もう一つ、だ」

店員がチラリとハクァーラを見る。それから俺を見て、なにやら納得したような顔をして「わかりました」と言って厨房に戻って行った。

ハクァーラから唾を呑み込む音が聞こえてくる。

そうだな。自慢じゃないけど、俺は食べるのが早い方だ。先にハクァーラにやっても良いだろう。

「これ、食え」

俺の前に置かれた料理を前へと移動させる。言外に、座って食えと言う意味だ。

ハクァーラを見るとなぜか困惑して料理と俺とを交互に視線を向けている。

なぜ?

「お待たせしました」

再び料理が運ばれてきて俺の前に置かれる。

これで二人分の料理が来たわけだが…ハクァーラは席に座る事も、料理に手を付ける事もなく、まだ困惑している。

もしかして椅子に座れない理由でもあるのか?

もうなんでもいいから食えよ。ハクァーラを買ってしまった手前、食事を与えるのは俺の義務だ。食べてくれないと俺が困る。

「…食え」

対面の席に移動させた料理を指差して指示を出す。これで食べなければ、もう知ったこっちゃない。

ってなわけで、俺は先に食事を始める。

「いただきます」

ここの料理は他の店より美味いけれど、やっぱり満足できるような味じゃない。

あの時食べたデカイ狼の肉が恋しくなる。

そんな事を考えながら食事をしていると、遂にハクァーラが動き出した。

「あ、ありがとうございます」

ずっと迷っていたのに踏ん切りが付いたのか、料理をトレーごと手に取ると、床に座り込んで素手でモソモソと食べ始めた。

座れるなら椅子に座って食えよ…。

本人がそれでいいなら俺は別に気にしないけどさ。


○○○


食事を終えて部屋に戻った俺は少しハクァーラと話し合いをした方が良いと思った。

理由は簡単だ。

ハクァーラが終始戸惑っているように見えるからだ。食事を終えても、どうすればいいか分からないっと言った風にチラチラと俺を見るぐらいで何も言ってくれない。

その時の俺は少し考え事をしていた所為で彼女の意図に気付くのが遅れた。

そう。圧倒的な報告(ほう)・連絡…(れん)・相談(そう)不足!

それだと俺が困るんだよ…。

ってなわけで俺はベッドに腰を掛け、対面の床に座らせたハクァーラに向き合う。

「言え」

「……え、えっと…何を、言えば…?」

むむ…。

「言う、こと……違う。言いたい、こと、ある、なら、言え」

「そ、そんなっ!あんなに美味しい食事まで頂いて、私みたいな奴隷がこれ以上要求するなんて…っ!」

違う。根本的な所から何もかもが違う…。クソォ…俺の言いたい事が全く伝わってないぞ…。

両目を覆って自分の語彙力のなさを口惜しく思う。

でも、ここには俺の意図を理解して伝えてくれる人がいないし、一つ一つシッカリと伝えるしかないんだ。

初めから言い直そう。

「報告、連絡、相談、大事。遠慮、必要ない」

そう。初めからこう言えば良かったんだ。

ハクァーラの表情を見ても分かりにくいけど、たぶん俺の言いたい事を理解していると思う。

「あと、好きに、しろ」

奴隷を続けるにしろ、俺の元から去るにしろ、また冒険者としてやり直すにしろ、好きにすればいい。

でも、ハクァーラを買ってしまった手前、無責任に放り出す事はしない。その元となる金ぐらい払ってやる。

そうだな…。ハクァーラを買い取った金額が金貨7枚だし、30枚もあれば余裕だろう。
ハクァーラも意思ある人間なんだ。それぐらいは自分で考えて行動してもらわないとな。

そう思いながら金を入れた皮袋を渡す。

「ご主人様…あの…これは…」

「好きに、しろ」

あとはハクァーラが自分で決める事だから、口出しはしない。
俺は言いたい事を言えたから満足は出来たし、寝る前に軽く物作りでもして寝よう。

明日は父ちゃんにいつ帰るのか聞きに行かなきゃなんないしな。


●●●


話は終わったとばかりに、物作りに没頭し始めるご主人様。

私はご主人様の考えが全く理解できない…です。
もうホントに訳が分かりません。

渡された皮袋の中には金貨が沢山入っていました。ここで数えるのもご主人様に失礼だと思って数えてませんけど、それでも、自分を買い取ってもお釣りが来るほどの金額は余裕でありました。

何を考えたらこんな大金を何でもないかのように『好きにしろ』って言って渡すに至るのか。私には到底理解できない考え方です。

これが金持ちの思考なんでしょうか?

いえ。そんなはずはない…です。だって、『好きにしろ』って言って軽々と大金を渡すんですよ?
まるで、それで自分を買い戻して来いって言ってるみたいなものです。

いえ、ご主人様はきっとそれすらも見越してこの大金を渡した…?本当に信頼に値するかを知る為に…?

それは余りにも考えすぎかも知れません…けど、噂に聞くご主人様はかなり聡明な方です。
きっと私なんかじゃ到底理解の及ばない事を考えてるに違いないです。

この大金があれば私は自由になれる。ご主人様はきっと私が自由になる事を選んでも決して咎めはしないでしょう。でも…もし自由になったとして、私に行く所なんてあるのかな…。

また冒険者をしたとしても碌に稼げず。いつも通り薬草採取などの依頼を受けるだけで、その日を食い繋ぐだけで精一杯だった日々…。
他で働き先を探そうにも、どこも兎人族の血を色濃く引き継ぐ私なんて雇いたくないと言われ…。
実家に帰ったとしても、私を養うだけのお金なんて貧乏なウチにはない…。

きっと、ご主人様は私に選択肢を与えてくれたんです。元の生活に戻るか、ご主人様の元で奴隷として過ごすか…。

ーーー決めました!

私はご主人様の元で奴隷として過ごします!ご主人様は変わってますが悪い人じゃないですし、美味しいご飯だって食べさせてくれるんですもんっ!

ご主人様はだいぶ変わってるけど、暴力は振わないし、食事も私の処遇も最低限と言わずに満足できるだけ与えてくれるんです!

ご主人様が何を求めて私を買ったのか未だに分かりませんけど、前のような生活に戻ってしまわないよう…捨てられないように頑張らないとっ!

だから、このお金は…いつか必要になった時の為に大事取っておきます。

私はご主人様に精一杯支えさせてもらいますっ!


●●●


部屋が暗くなってきたと思っていたら、部屋に備え付けのランプに火が灯った。

さっき部屋を出て行ったハクァーラが、火の灯った蝋燭を持って戻ってきて、ランプに火を付けてくれたみたいだ。

ようやっと自分の身分を買い取りに行ったのかと思ってたら、そうじゃなかったみたいだ。

物作りをキリの良い所で止めて片付けようとすると、ハクァーラが「手伝いますっ」と率先して手伝ってくれた。

どう言う心境の変化だ?

全て片付け終えてベッドに寝転がろうかと思えば、一足先にハクァーラがシーツを整えて「どうぞ」と。

いやいや。本当にどう言う心境の変化だ?

さっきまでとは全くの別人じゃん。
金を与えたのが良かったのか?アレか?チップ的な扱いなのか?

いや、それなら、さっさと自分の身分を買い取れよ。

わざわざセットしてくれたシーツには悪いけど、寝転ぶのを止めて腰を掛けてハクァーラに向き直る。

「どうしたのです?」

「金、渡した。買い取る、しない、のか?」

金は渡したけど自分を買い取らないのか?と聞いた。もしかすると、それだけじゃ足りないかもしれないからな。

だけど、返ってきた返事は予想外なものだった。

「はい!」

表情は判りにくいけど、すっごく嬉しそうな返事が返ってきたんだ。
こればかりは予想外だった。

俺の予想だと、嬉々として自分の身分を買い取りに行くのかと思っていたからな。

「なぜ?」

「このまま元の生活に戻っても、また冒険者としてやっていける自信がないから…ですかね?」

まるで自分自信を蔑むような笑いを溢すハクァーラ。

ふむ。そこから察するに、力が必要なんだな?
力さえあれば奴隷と言う身分から抜け出して、また冒険者を続けると。そう言う事だな。

それなら大いに協力しよう。

「力、欲しい、か?」

「そうですね。無理だと分かってても、欲しいですね」

無理?誰がそう決めた?

「手を、出せ」

差し出されたフサフサの手に俺の手を被せる仕草をしながら、隷属の腕輪に触れる。

見た目以上に触り心地良いな…じゃなくて。見た所ハクァーラはマナを使いこなせていない。もしかすると俺の勝手な思い込みかもしれないけれど、ハクァーラが体内マナを動かす素振りを見せた事は一度もなかった。

「マナを、操る、する」

なら、外から体内マナを動かせれるように刺激してやれば良い訳だ。丁度、隷属の腕輪なんて物を着けているんだ。やり易い。

「マナ…ですか?」

「……マロョク…だ」

魔力…魔力…言い辛い…。

「魔力…あの、ご主人様。私達獣人は魔法を…」

何か言いかけていたが、気にせずに隷属の腕輪を介してマナを流し込んでやる。

「うあっ…」

驚いて全身の毛を逆立てて兎耳をピーンッと立てるハクァーラ。当然の反応だ。俺だって初めてやられた時は酷く驚いたし、違和感を気持ち悪いとも思った。

だけど、驚いたのは一瞬で、その後は俺の予想に反する反応を見せた。

「な、なんだか…ポカポカします」

逆立っていた毛並みは次第に落ち着きを取り戻し、兎耳もふにゃんと垂れ下がった。瞳も心なしかトロンと蕩けているようにも見える。

落ち着くのは良い事だ。たまには心を静めて、これまでの疲れを癒すのも必要だ。

だけどな、これは俺が求めていた反応とは違う。

「マナ、流れ、知れ」

「あっ…!何これっ!何ですかこれっ!?」

ハクァーラの体内に流し込むマナを一旦止めて、さっき流し込んだマナをより過激に。より激しく。マナを操作して渦巻く濁流のように全身を掻き回す。

そうする事で、ようやくハクァーラが驚いて俺から手を離そうと必死になり始めた。

手を離してもマナは操れるけど、もし離してしまうと操作し難くなるから離さない。今のこの状態を維持するのは地味に大変なんだ。万が一にもハクァーラのマナを暴走させてしまうといけないから、余り勢いが大きくならないよう微調整する。

「感覚、掴む、しろ」

嫌がるハクァーラには悪いとは思うけど、力を得るならまずはこれから始めなきゃならない。

マナの扱い方さえ理解すればそれなりの力が手に入るのは自身で確認済みだ。それさえ理解すれば、ようやくスタート地点に立てたと考えても良い。

「も、もう無理っ!」

マナの操作が出来ない奴はスタート地点にすら立ててないのと同じだ。だから、嫌でも覚えてもらわなきゃ力なんて与えれない。

「ご主人様…っ!もう無理ですっ!許してくださいっ!ご主人様っ!!」

はぁ…根をあげるのが早すぎる…。

仕方ない。そこまで言うのなら止める。

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

ハクァーラの体内に俺のマナを残したまま動きだけを止めてやると、両膝をついて肩で息をし始めた。

大袈裟な。

「感覚、掴め。話は、そこから」

せめて、スタート地点には立って貰いたい。そうすれば、この世界の人が考え付きもしないだろう魔法を教えてやれる。

俺の持ち得る中の攻撃に特化した比較的簡単な魔法の一つだ。これを覚えてこそ力を得たと言えるだろう。

早く覚えさせて俺の元から去ってもらおう。


○○○


その後。ハクァーラは疲れてグッタリとしていたので、さっさと寝かせた。

そして、朝。

ハクァーラは俺が起きるよりも早く起きてたみたいで、水やら布やらを用意してくれていた。

気の利く奴だ。
礼と言ってはなんだけど、寝起き早々でしんどいけどハクァーラの特訓に付き合っていた。

「ご主人様。これはいつまで続ければ…?」

「集中する、しろ」

ハクァーラにさせているのは、俺が日課にしている瞑想だ。

でも、俺が毎日している事をさせるにはまだ早い。早すぎる。
俺の場合は体内のマナを操作して循環率を限界までチャレンジするものだから、マナを操る事すら出来ないハクァーラに出来るはずがない。

だから、ハクァーラにはマナを捜す所から始めさせている。昨晩、嫌と言うほど感じさせた俺のマナを探すだけだ。そう難しくはない。

ちなみに、そこにハクァーラの体内マナがある。やはりと言うべきか、魔法詠唱をさせないと微動だにしない。

でも、今はそれでいい。

兎に角、今はマナを見つける所からだ。

「あっ!ありました!ありましたよっ!ご主人様!」

「ああ」

意外と時間が掛かったな。
俺が身体を拭き終わるまでに見つけるかと思っていたんだけど、拭き終えて手持ち無沙汰になるまで掛かるとは…。

まぁ、いい。
地道にコツコツと覚えていくのが一番だ。

さて、それじゃあ…。

「動かす。耐えろ」

「えっ…」

マナの機能を一部ぶっ壊しますか。

「あっ…!あっ…!ちょっ!ご主人様っ!?ご主人様ああああああっ!!」


○○○


結論から言うと、マナの機能は見事にぶっ壊せた。

魔法詠唱しなければ微動だにしなかったハクァーラのマナだけど、今では補助なしで勝手にフヨフヨと移動してしまうほどだ。

でも、少しやりすぎたかもしれない。
ハクァーラが白目を剥いて気絶してしまった。舌を出して涎が垂れ流しだ。汚い。

…うん、やりすぎたな。ちょっと反省。

取り敢えず、ハクァーラをベッドに運んで寝かせておいて、俺はさっさと朝食を取って日課のトレーニングに励む。

最近サボってたけど、それはそれ、これはこれ。

トレーニングを終えたら、もう一人分の朝食を用意してもらい、部屋に戻る。ハクァーラはまだ寝ている。

もう一人分の朝食はハクァーラの分だ。奴隷の面倒を見るのも主人の務めだからな。

なんだかペットの面倒を見てるような気がしなくもないけど。…うん。やっぱり兎のペットは要らないな。タイプじゃない。

朝食を机の上に置いて…ハクァーラが起きるまで待とうかと少し迷ったけど、先に用事を済ませる事にした。

その用事と言うのがーー。

「……は?」

冒険者ギルドで父ちゃんに会う事だ。

向こうの宿屋で俺は出禁になっているから、わざわざ冒険者ギルドにまで足を運んだと言うのに…まったく…ウチの父ちゃんは…。

「ドンテ様から伝言を預かってます。聞きますか?」

「あ、ああ」

「『ちょっとばかし依頼で出掛けて来るから先に帰っててくれ』だそうです」

ウチの父ちゃんは…。本当に予想の斜め上を行く人だ。

「あと『奴隷の事は分かった』とも言ってましたね」

ナタリーはちゃんと話してくれたのか。

じゃなくて…っ。
どうしていっつもいっつも一言も告げずに勝手に行動すんだよっ!って言うか、10歳の子供を置いて行くなよっ!家まで後少しなんだから、せめてそこまでは面倒見ろよっ!!

「はぁ……」

って言っても、まぁ…いつもの事だよな。何事もなく家に帰れると思ってたら大間違いだよな。うん。

俺も人に言えるような立場じゃないし。仕方ない。父ちゃんの残した伝言通り、先に帰るか。

……いや、待てよ。

父ちゃんが居ないって事は…寄り道し放題じゃね?そう考えると…ふへへ…。楽しみになってきた。

ちょっと危なくて試せなかった事とか、やりたくても人目があって出来なかった事とか。色々試せるじゃん。

そう考えるとラッキーだな。

さっさとハクァーラには身分を買い取ってもらって、一人で家に帰らせてもらおう。


○○○


宿屋の部屋に戻ると、一人で慌てふためくハクァーラと目が合った。

「ご、ご主人様っ!」

感極まったように目尻に涙を浮かべるハクァーラ。机の上には朝食がまだ残っている。

「食え」

もう冷めてしまっているだろうけど、机の上の料理を指差して言う。

話は飯を食わせてからでも遅くはないだろう。

まだ何か言おうとしているハクァーラだったが、口を閉じて俺の指示に従い始める。

従順だと扱いやすくて助かる。
俺は何度も同じ事を言うのが好きじゃないし。何か言うごとに口答えされていたら、たまったもんじゃないからな。

ハクァーラが食事を終えた後、食後の休憩がてら軽い質問を投げ掛ける。

「マナ、動く、するか?」

「マナ…?あ、魔力ですか。動くって言うのは…もしかして、魔力操作のスキルの事ですか?」

スキル?何の話だ?
特殊技能(スキル)って言うと、アレだろ?姿を消したりする変わった技の事だろ?

そんな話はしていない。

「動く、するか?」

「あの、ご主人様。私達獣人は魔法が苦手で、もし使えても魔力操作なんて高等なス……えっ…」

ハクァーラの反応を見る限り、どうやら問題なく動いたようだな。ハクァーラのマナの流れを見れば、かなりギコチナイながらも動いている。

初めての試みだったが、これで俺の推測は正しかったと証明された。

家に帰ったらマリンとアックにも教えてやろう。

「あ、あのっ!ご主人様っ!動いてますっ!私、魔力を操れてますっ!」

言わなくても見れば分かる。

「もしかして、これは、ご主人様が…?」

「キッカケ、与え…た?教える。マナ、使う方。覚える。…力に、なる」

キッカケは与えた。これから少し特殊なマナの使い方を教える。覚えれば、決して自分を裏切らない力になる。

と言いたかった。
上手く言えなかったけど。

さて。言い直すのも面倒だし、さっさと覚えてもらおう。


○○○


教えるのにそこまで時間は必要としなかった。それもそうだ。口頭で説明しながら実物を一度見せただけだからな。

俺が教えたのは銃の使い方だ。

いや、少し語弊があるな。
マナを銃弾として放つ方法だ。

こればかりはこの世界の住人ではさすがに思い付くまい。

魔法が発動して着弾するまでの時間を嘲笑うかのような速度。それこそ音速の域に達した速度で飛来するんだ。

純粋なマナのみでも可能だが、それには高度なマナ操作が必要不可欠となる。俺でも3発撃って、1発成功するかしないかだ。しかも、それだと威力がない。突風でよろめくのと同程度の威力だ。

だけど、圧縮させたマナを勢いよく解放してやれば、それは一種の爆発になる。その爆発力を利用すればマナを勢いよく弾き出す事ができる。

例えるなら、デコピンみたいなものだ。

指先にグググッと力を込めて、解放してやれば指で小突く力の倍の力がそこに加わる。ゲームで言う所の"溜め斬り"だな。

でも、ただそれで普通のマナを弾き出していたら何の意味もない。威力のない威嚇射撃だ。ちょっと強い空気砲だ。

だから、弾き出すのも圧縮させたマナでなければならない。そうすれば、それ相応の威力のあるマナ弾を放つ事ができる。

あとは、弾速と、そのマナを何に変換するかで決まる。

「大事、は、イメージ」

…ん?違うか。イメージが大事って言った方が良かったか。でもハクァーラは理解してそうに頷いてるし別にいいか。

ポケットの中で即興で創り出した弾丸のレプリカをハクァーラに渡してやる。

レプリカだから内側に薬莢は入ってないし、鉛でもない。鋼で出来た偽物だ。

「あ、ありがとうございますっ!」

だと言うのに、まるで壊れ物でも扱うような手付きでレプリカの弾丸を受け取るハクァーラ。

落としても歪んだりしないよう外殻を分厚くしてるから、そんなに慎重にならなくてもいいのにな。でも、指摘をするのも面倒くさいし別にいいか。いつか気付くだろう。

さて。マナの圧縮方法も弾丸も教えた。これで十分だろう。

あとはーー。

「好きに、生きろ」

そう言ってハクァーラの肩を叩きつつ体内に残ってた俺のマナを回収した。途端、隷属の腕輪がバキッと音を立てて床に落ちた。

ハクァーラの兎耳がシュンッと落ち込んでしまった。

あぁ…たぶん俺のせいだ。

これでもだいぶ力を抑えてたつもりだったんだけど、また壊れた。
今回はいけたと思ってたんだけどな…。

そもそもの話いつもいつもなぜ俺が使うと壊れるんだ?マナを流す量を調節しても、どうしたって壊れるんだ。

なぜ…?

まぁ、今回はアレだ。わざわざハクァーラが身分を買い取りに行く手間が省けたって考えたら良いか。これで奴隷から解放されたも同然だからな。隷属の腕輪がなければ奴隷かどうかの判別すら付かないだろうし。

いや、もしもって事もあるし、その考えは早急か?でも、金は渡している。それで足りるかどうかは判らないけど、ハクァーラが今まで使えなかった力を与えたんだ。その力を使って冒険者として自分で稼ぐだろう。

たぶん大丈夫だ。

壊れて床に落ちた隷属の腕輪から目を逸らし、そんな事を考えながら部屋を出ようとした時。

「ご主人様…」

部屋を出る間際にハクァーラが小さく俺を呼んだような気がした。

きっと気の所為だな。



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