自称『整備士』の異世界生活

九九 零

27


簡易スクロールの種類は全てで五十種類ほどあった。

火種、飲料水から始まり、火球や水球、雷の矢や氷の矢など。また、俺自身に作った覚えがない異空間倉庫ガレージの縮小版のような物までもあった。

いつ作ったかなんてどうでもいいけど。内容は理解したし、細かい事を気にしたって仕方がない。

取り敢えず、それらを一通り説明し終えると、父ちゃんは簡易スクロールを持ってそそくさと冒険者ギルドに向かってしまった。

もうすぐ晩飯だってのに…。

なので、俺は一人寂しく宿屋の一階で晩飯を取ることに。

今の時間は人が混み始める少し前の時間だから席がガラ空きだ。
混んでる中で食事するより、俺はコッチの方が好みだ。落ち着いて食べれる。

「あっ、晩御飯ねっ!ちょっと待ってて!」

食堂の席で座って待っていると、俺に気が付いたお姉さんが急いで厨房に向かって行った。

肉少なめでって言いたかったんだけどな…。

少し待つと、期待を裏切らないほどの山盛り肉料理が出てきた。

「お父さんがお礼にって大盛りにしてくれたよ。私からも今日はありがとうねっ」

なんて言いつつニッコリと笑うお姉さんが、俺の前にテンコ盛りの肉料理を置いた。

お姉さんに悪意がないのは分かってても、これはなぁ…。
見てるだけで胃もたれしそう。うげぇ…。

そんな事を思ってると、お姉さんが俺の対面に座ってきた。

失礼な事考えてすみません。

「君って、実は凄く強いんだねっ!あんな冒険者を一発で倒しちゃうなんてっ!もう少し大きくなったら私をお嫁さんに貰ってくれたりするのかな?」

しないな。

いや、もう少しって事は、俺が15歳になれば、お姉さんは20歳ぐらいって事だよな?

……うん。ありだ。
でも、胸がなぁ。ちょっと大きいしなぁ。
もう少し慎ましやかな方が好みだなぁ。

「アハハッ。君って反応が薄い割りにムッツリだねっ。今だって私の胸ばっかり見てるし。このムッツリさんめっ」

「…すま、ない」

いやぁ、無駄にデカイ胸だなぁって思ってさ。

嫌だったんなら謝る。すまなかった。

「いいよ。別に見られて減るもんじゃないしね」

ニコニコと笑いながら見つめてくるお姉さん。

うぅむ…見られていると食べ辛いな…。
っと言うか、この肉肉しい肉の山…全部食べなきゃならないのか…。
ご飯…白いホカホカの米が欲しい…。

そんな時、誰かが入店した事を報せる鈴がチリリーンッと鳴った。

「あっ!行かなきゃっ!じゃ、またねっ!」

お姉さん退出。
急いでお客さんを迎えに行った。

ようやく邪魔者がいなくなった。
これで、ゆっくりと食事にありつける。

肉ばっかりって言うのが不満だけど。

まぁ、文句を言うのもアレだ。料理人に悪い。文句ばかり言わずに冷える前に食べきってしまおう。

「いた、だきます…」

気は進まないけれど、出された物は全て食べるのが俺のルールだ。

今更だけど、どうしてこんなルールを定めたのか…あぁ、そういや、前世でも母ちゃんの料理は不味かったんだった。

で、親父が厳格で、料理を残すと殴られていた。だから、こんなルールを作ったんだった。

懐かしいなぁ。

そんな事を思い出しつつ、パクリ、パクリと一品ずつ料理を口に入れてゆく。
食べても食べても減らないってのが憎い…。

「ああっ!あの子ですっ!あの子がコレを!」

なんだか騒がしい客が来たな。
さっさと食べきって部屋に戻ろう。

「おい、お前に少し話があるのだが?」

部屋に戻ったら何するか…。小型バイクの作製の続きでもするか?それとも、設計図の作成?アクセサリー作りも悪くない。

「聴いているのか?この私が直々に出向いてやったのだぞ?」

何しよっかなぁ〜。

「おい!」

バンっと机を叩かれて、料理達が僅かに宙を踊った。

机の上にある手を辿ってみると、まず真っ先に目に入ったのは良く肥えた腹。次に、三段顎。プクリと膨れた頬。見知らぬ顔。

うわぁーお。すげぇーデブい。

なにこれ。太りすぎだろ。何食ったらそこまで太くなるんだよ。

「おい、貴様。この私を無視するとはいい度胸だな」

誰だ?

「この魔道具を作ったのはお前だと聞いた。それは本当か?」

そう言って見せられたのは失敗作のアクセサリー。

「ああ」

それは、魔法の腕輪のように魔法を使える腕輪を作ろうと。ついでに、ちょっと趣向を凝らして綺麗に見せようと頑張った結果の末に出来上がった一品だな。
周囲を覆っていた型枠を取っ払うと、半透明の水晶のようになってしまっていた。

魔石の内部にあるエーテルが結晶化すると綺麗になると思ったんだ。それがまさか、実際に使ってみれば、壊れはしなかったけど、消費マナが倍以上になるなんて思ってもみなかったんだ。

そんな失敗作を持って一体どうしたって言うんだ?苦情なら他所にしてくれ。
俺は受け付けていない。

「製法をこの私に教える事を許してやろう。さぁ、言ってみろ。聞いてやろう」

なんだか凄く上から目線だな。

失敗作の製法ぐらい教えても別にいいけど、頼み方が気に食わないから嫌だ。

「嫌、だ」

「なっ!こ、この私を誰だか分かっているのかっ!」

いや、知らんし。

「おい!小僧!この方は、エクモール領の領主の息子!誰もが知る天才発明家のブルターク男爵様だぞ!」

隣に控えていたデブ男の腰巾着みたいな男が出しゃばって前に出て、ババンッと効果音が鳴りそうな感じでデブ男を紹介してきた。
デブ男は満更でもなさそうだ。

俺からしてみればどうでもいい事だ。凄くどうでもいい。

興味ないんだけど。

「なんだ!その反応はっ!?平民風情が!頭を下げろ!!」

腰巾着男が俺の顔に手を近付けて来ようとしたから、手を払い除けておく。

「平民風情がっ!」

腰に挿した剣に手を伸ばす腰巾着男。

もし抜いたら、その手、手首から切り落とすぞ?

「ヒッ…」

なぜか腰巾着男が怯えたように一歩後退った。

ちょっとイラッとしたけど、結果オーライ?

さて、食事だ。冷めてしまう前に食べきってしまわないと。冷めると肉は途端に硬くなって食べづらくなるからな。

「お、おい!貴様!このブルターク様を無視して食事をしようだなんて、ぶ、無礼だぞ!」

まだ何かキャンキャンと吠えてる。
知らんがな。なんだよブタターン様って。あれ?違う?

まっ、どっちでもいいや。
ウザい、キモい、ウザいの三拍子が揃った奴の相手なんてしてられない。

「ブルターク様、この無礼者どうしてやりましょうか?」

この肉さ、美味いけど…美味いけど、やっぱり肉の量が多いなぁ。
全部食べたら胃もたれしそう。

「ふんっ。…奴隷に落として私の家で飼うのも悪くない…。ベへーダ、外で待機させている私兵を呼べ」

この肉、硬くなってる…。
あ、コッチも…。

全部食べきれる自信がなくなってきた…。

「はいっ!」

っにしても、随分と周りが慌ただしい。
そろそろ混み合う時間だしな。さっさと食って部屋に戻るか。

食えるかな…。

「ぐふふっ。おい、お前。もう一度だけ聞いてやる。この製造方法を私に教えるんだ。もし答えないと、分かるな?」

カチャカチャと金属同士が擦りあう音が随分と多い。煩いほどだ。
随分とこの宿屋は繁盛してるんだな。冒険者御用達ってやつか?

「おいっ!聞いているのかっ!!」

聞こえてませーん。
面倒くさそうな奴の話なんて聞きませーん。

ってか、コイツ等はいつまでここに居るつもりなんだ?
さっさと諦めて帰れよ。

「ちっ。…やれ」

嫌な予感がしたから席を立ってみる。と、目の前を抜き身の剣が素通りし、料理の載った机を粉砕した。

肉盛り料理が飛び散り、宙を舞う。
ようやく半分を切った所だったのに…。

「殺さないように注意しろ。殺してしまっては私の多くの作品が失われてしまうからな。ぐふふふっ」

…カチンときた。

折角の料理をっ。半分も食べたのにっ。全部無駄にされた!

周囲に視線を巡らしてみれば、いつのまにか全身甲冑達に囲まれていた。
全員が抜き身の剣を手にしている。

その奥に護られるような形で、デブ男と腰巾着男が嘲笑うような下卑た笑みを浮かべて俺を見ていた。

あぁ、イラつく顔だ。
俺はその顔が嫌いだ。

「はぁ…」

仕方ない。

荒ぶる心を鎮め、落ち着きを取り戻す。
こんな所で怒ったって仕方がないからな。

それに、相手は大人だ。それも大勢いる。子供が力だけで勝とうだなんて無理だ。不可能だ。

しかも、俺は魔法の使用を禁止されてる。勝てるわけがない。

だから、手始めに話し合いを。それから、帰ってもらおうと、事を穏便に済ませる為に行動を移そうとしたーー刹那。

嫌な予感がして半身を逸らすと、スレスレを剣が通り過ぎた。

どうやら、さっき避けれたのもマグレじゃなさそうだ。

そう思った途端、続けて嫌な予感が連続して襲ってきた。
嫌な予感を頼りに体を動かしてみる。と、驚くほど簡単に四方八方から振られる剣を避けれた。

これは…うん。凄いな。
前世の時には備わってなかった謎パワーだ。

これなら全員を倒してしまう事も可能なんじゃないか?っと言うか、全く負ける気がしないんだけど。

でも、過信は禁物。
あれだけ攻撃されたんだから少しは反撃するつもりでいるけれど、決して油断はしない。
体内に流すマナ量を増やし、俊敏さの増強を図る。

二倍?いや、五倍ぐらいがいいか。

ある程度適当に剣を振らせていれば相手の力量はなんとなく掴めてきた。これなら、俺個人でもマナで体を強化すれば楽勝だろう。

状況把握の為に視線を巡らせば、甲冑達の誰が次に動こうとしてるのか、どんな攻撃が来るかが大まかな予測がつく。

このまま甲冑達の持つ以上の圧倒的力量で捩じ伏せるのもアリだけど、きっとそれは難しいだろう。俺みたいにマナで体を強化できる奴が必ずいるはずだ。

今の所、魔法を使おうとする奴やマナを動かす素振りを見せてる奴はいないけど、マナの動きを隠す魔法があるかもしれない。なので、念には念を入れて狙うはーー金的!

まず一人目!

今まさに振り下された剣を掻い潜り、必殺の右脚を振り抜く!

ズバンッと音が鳴って甲冑が跳び上がった。いや、飛び上がった。

ちょっと蹴りの威力が高すぎたようで、天井を突き破って二階に送ってしまった。

……まっ、いっか。

「ヒッ…」

次の獲物を探すために再度周囲に視線を向けると、全員が股間を守るように両手で股を抑えていた。

そりゃ、そうなるよな。
俺がそちら側なら同じような反応をしていたと思う。

だけど俺は襲われた側だ。そんでもって非力な子供だ。容赦しない。そんな事をしてやられたら目も当てられないからな。
それに、復讐とかされるのは嫌だし、奇襲をかけられて殺されるなんて考えたくもない。

だから、この場で全員粛清する。
数日は動けなくなるぐらいまで蹴り上げてやる。

さて、

「ゼツボウ、して、悔い、改る、しろ」

狩りの時間だ。
全員去勢してやる。


○○○


「ふぃぃ…」

一仕事した後は、やっぱり清々気分になる。

ミシミシッと音が鳴って、視界の端で天井がボロボロと崩れ落ちるのが見えた。

俺は何も見てない。知らない。

「く、来るなっ!こ、この私が誰か分かっているのかっ!」

産まれたての子鹿のように足をガクブルとさせて尻餅を着いたまま怯えるデブ男。

「ヒィィッ。わ、私は!私は関係ないっ!関係ないんだぁぁ!」

腰巾着男が逃げようとしたから、取り敢えず背後を取って股座を蹴り上げる。

「〜〜ッ!!」

俺だってこれだけ蹴れば学ぶ。
天井を突き破らない程度で、いい具合に去勢できそうな力加減ぐらい出来るようになる。

少し浮き上がるぐらいが絶妙に良い具合だ。

「もう、一発」

「や、やめーーっ!?」

効果音でコカーンッて鳴らしてやりたいぐらい気持ち良い蹴りが入った。

もう何発か蹴ってやろうかと思ってたけど、腰巾着男が気を失ってしまって、その機会は無くなってしまった。

いや、ケツを俺の方に『蹴って下さい』と言わんばかりに向けてるし、まだ蹴れるか?

「くぅアァァァァっ!!」

蹴ってやった。
完璧な去勢治療だ。

うん、満足。

さて、残すはデブ男だけだけど…。
口をパクパクとさせて、まるでどこぞの金魚みたくなっている。

さっきまでの威勢はどこに行ったのやら。マナ感知を使っても何かをしようと言う素振りはない。
他の甲冑達も、全員が完全に伸びきっている。

うーん…はてさて。どうしたものか。
コイツにはこの宿屋の修繕費を払ってもらわなきゃならない。あと、甲冑達の処分と、ブチまけられた料理の処理もある。

「……置く、しろ」

「な、何をだ!」

うーん…理解してなさそうだな。

「金、だ」

「お、お前に渡す金などないっ!そんな事より、お前は誰を敵に回したのか理解するんだなっ!この私はーー」

「興味ない」

それ何度も聞いた。
口癖が何かは知らないけど、もう聞きたくない。

「お前、選ぶ。去勢、する?」

サァーーッとデブ男の顔が見るからに青ざめて、サッと股間を両手で隠した。
これまでのを見ていたら手で覆い隠したって意味ないって分かるはずなのにバカな奴だ。

「金、払う?」

「〜〜〜ッ」

歯を強く噛み締めて親の仇を見るかのように俺を睨みつけてくるデブ男。

無言は去勢すると断定するけど、それでいいんだな?

一歩前に踏み出すと、デブ男は慌てたように片手を前に突き出して俺を立ち止まらそうと早口で喋り始めた。

「わ、分かった!金なら払う!幾らだ!?幾ら欲しいっ!?」

そうだな…。

「ここ、宿、新しい、する。追加、金貨、沢山。分かった、か?」

コクコクと首を上下に激しく振るうデブ男。
本当に理解したのか怪しいな…。

兎にも角にも、一度解放してやらなきゃ話が進まないか。
今回は金の為に見逃してやるか。

「……いけ」

出口を顎で指し示してやると、見た事もないほど素早い四つん這いで逃げるように立ち去って行った。

……あ。甲冑達の処分とか言うの忘れてた。

あーあ。俺がやるのか…めんどくさ…。


●●●


「クソっ!クソっ!クソっ!!」

宿屋から周りに目もくれずに逃げ出したデブ男こと、ブルタークは自身の借りてる宿屋に戻るや否や、悪態の限りを突いて部屋に飾られた物に当たる。

「あんなガキにっ!あんなガキにぃぃっ!!この私が!この私がバカにされるなんてぇぇぇっ!!」

窓際に飾られている花瓶を投げ、戸棚の上に置かれた高価そうな飾り物を全て地面に叩き落とし、それでは飽き足らず、壁に飾られた装飾過多な剣を手にして、ソファを斬り付ける。

何度も何度も。次第に剣が刃こぼれして、ポキンと折れれば、折れた剣を天蓋付きベッドに投げ付ける。

それでも彼の怒りは収まらず、被害は待女にまで及ぶ。
大声で怒鳴るように呼び付け、殴る。蹴るの暴行を働く。

待女がどれだけ『やめて下さい』と泣き叫ぼうと、御構い無しに容赦なく暴行を振るう。
そして、遂に待女が反応を返さなくなってしまえば、その怒りの矛先はまた別の方面へ向かう。

「おい!誰か居ないかっ!おいっ!!」

「失礼します」

今度は歳若い執事が入室した。
執事は部屋の中での出来事を把握済みだった。
ブルタークが跨り、先程まで殴られ続けた待女を見て憐れむような眼差しを向ける。

そして今度は自分の番だと覚悟を決めて、真っ直ぐにブルタークを見る。

だけど、ブルタークがまた暴力を振るうのかと思いきや、そうではなかった。

「闇ギルドの連中を雇え!暗殺者だ!あのクソガキを殺せ!この私を侮辱したこと、身を以て知らしめてやるんだっ!!分かったかっ!!」

「はい。畏まりました」

たった一人の子供相手に高い金を使って暗殺者を雇い入れろと。
執事は従うしかない。それが主人の命ならば。

例の子供には哀れみの念が湧くが、これで主人の気が治るなら、と。同僚達がこれ以上酷い目に遭わないなら、と。他人である子供の事よりも同僚を気遣い、元より逆らう事の出来ない命令に素直に従った。

一礼し、退出。主人の望みを叶える為に執事は一人で護衛も付けずに、人々の闇が凝縮された闇ギルドへと足を運ぶ。

今日が私の命日かもしれない。と、死を覚悟してーー。


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