自称『整備士』の異世界生活

九九 零

26


良い朝だ。

空を見上げれば本当に朝なのか微妙な所だけど、随分とよく寝た。
今まで以上に気分は爽快で、これほどまで気持ちよく寝れたのは久方ぶりだ。

「………」

窓から見える景色を見る限りだと、無事にラフテーナに帰って来れたようだ。

寝る前の記憶が曖昧で、ほとんど覚えてない。
魔法の腕輪を作った所までは覚えてるんだけど…まぁいいか。

腕を見てみれば、キチンと腕輪が嵌っていた。それだけで満足だ。

さて、今日はなにするか。

「………」

そう言えば、エンジンの作成が途中だったな。

神の祝福を受ける前に始めて、そこから止めたままだ。
作業再開するか…。


○○○


カチャカチャと夢中になってエンジンを組み立てる。
部品は全てあるから、それを組み立てるだけの簡単だけど繊細な作業だ。

一つ一つ執拗に確認しながら、0.01ミリ単位で細かく隙間(クリアランス)調整し、着実に組み立てる。

そうすること、1時間弱。

ーー完成した。

水冷2ストロークピストンリードバルブ単気筒エンジン。排気量は249cc。
俺の愛車のエンジンと同じものだ。

水冷とは冷却機を指す。
2ストロークとは吸入、圧縮、燃焼、排気の四工程を、ピストンの上下回数をたった2往復のみでこなすエンジンの事だ。
一般的な4ストロークエンジンは4往復するのに対して、たった2往復で済ませてしまう。

これを考えた奴は頭がおかしい。
良い意味でな。

と、そんな事はともかくとして、完成した喜びで思わず小躍りしてしまう。

でも、まだ終わりじゃない。エンジン単体だけだと意味がない。あとは、キック方式の5速ミッション。フレーム。エアークリーナー。ラジエータなどの冷却装置。それに、ブレーキも必要だ。
ヘッドライトは要らないか。外装は…エンジン熱の遮断に必要だから要るな。

さて、やるぞー!

ーーコンコン。

「失礼しまーーっ!?」

ノックをして返事を返す間も無く入ってきたメイドさん。俺と目があった瞬間に、なぜか目を見開いて驚いた顔で固まってしまった。

……あっ。工具出しっぱだった。

「お、奥様…奥様!エル様がっ!エル様が目を覚ましましたっ!!」

部品やらを片付けようとすると、メイドさんが慌ただしく部屋から出て行ってしまった。

一体、なんだったんだ…?

まぁいいか。扉を閉め直して、再び工具達に向き合う。
まずはミッションからだ!

手始めに部品を創り出そうと思った矢先、物凄い速さでこちらに向かってくる反応が確認できた。

このマナの感じから察するに、マリアナとドンテだろう。

ドンテの背後にマリアナが追随している。おそらく、またもや姿を消して尾行してるんだろうな。

……工具、片付けるか。

カチャカチャと異空間倉庫ガレージに工具を放り込みつつ、今更思った。
工具箱作ろうと。

そんなこんなで、全て片付け終えたタイミングで、扉が勢い良く開かれた。

「エルッ!!」

相変わらず元気のいい父ちゃんのお出ましだ。

マリアナの姿は見えないが、おそらく父ちゃんの背後にでも居るんだろう。

「お前ってやつは…」

ドシドシと力強く俺の近くまで来ると、なぜか拳を振り下ろしてきた。

当たると痛そうだったから避けて、ついでに反撃。父ちゃんの顎めがけて掌底を放つ。

「あぐっ!?」

クリーンヒットだ。
思った以上に上手く行きすぎて、華麗に湾曲を描きながら部屋から追い出す形になってしまった。

そんなつもりはなかったんだけどな…。

父ちゃんが廊下で伸びてしまっている。
その側の空間が揺らぐと、マリアナが姿を現した。

「相変わらず過激な親子愛ねっ」

バチコンッとウインクを飛ばしてから、チラリと父ちゃんを見やり…すぐに目を逸らした。

「それで、調子はどう?」

「ああ。良い」

すこぶる最高だ。

「そう。良かったわ。でも、ムリは禁物よ。丸一日も寝てたんだからね?」

そんなに寝てたのか。
どおりで腹が空いてるわけだ。

「あ、そうそう!エル君って学院に興味ない?」

弾丸トークが止まらないな。
それにしても…ガクイン…?なんだそれ?

「学院に通うと将来は安泰よ!力が認められれば騎士になれるし、計算が出来れば王宮勤めも夢じゃないわね!それにそれにーー」

ペラペラとガクインに通った場合のメリットを話すマリアナ。
聞けば聞くほど興味が失せてくる。

なんだ、そのガクインってのは。
俺にとってはデメリットばかりじゃないか。

話を聞く限りだと、そこに通えば良い職業に就けるってのは分かるんだけど…その職業は就きたくないのばかり。

騎士になんてなる気がなければ、国に仕える気なんて更々ない。面倒くさい役職なんて抱えるのは御免だ。

「あらら。興味失くなっちゃった?」

そりゃな。

「一応、そこに通えば魔法や戦闘技術も学べるから冒険者をDランクから始めることも出来るんだけどなぁ〜」

チラッチラッと俺の様子を伺うような視線を向けてくるマリアナ。

だから、興味ないって…ん?

「魔法、学べる?」

「え?魔法?あ、うん!そうそう!適性がなくても色んな魔法も学べるねっ!その他にも、魔術とか魔獣の使役とかも教えてもらえるよ!」

……マジュジュ…魔物の使役…ふふふっ…面白そうな名前ばかりじゃないか。
マジュジュってのが何か分からないけど、きっと、魔法関係の事なんだろう。

マジュジュ…マジュジュ…マジュジュ?

「それに、エル君は少し常識を学んだ方が良いかもしれないしね」

「………」

まるで俺が常識を知ないみたいな言い方だな。

そこんところは問題ないはずだぞ?なんせ、前世の職場では散々常識を言われてきたからな。

『これぐらい常識だぞ!』なんて耳にタコが出来るほど言われた。

嫌な思い出だ…。

「エル君って物作りが好きなんだよね?」

「ああ」

昔を思い出して気が滅入ってきていると、マリアナが俺の様子を察してか話題を変えてきた。

「それなら魔導学がオススメよ。作った物に魔法を付与するエンチャントとか、魔法陣を書き込んだりする魔術とか、魔道具の作り方なんかを詳しく教えてくれるらしいから」

「………?」

マドガク?エンチ?まほ…?

すまない。半分ほど言葉の意味が理解できなかった。

マリアナ自身は普通に喋ってるつもりなんだろうけど…もっとゆっくりと話して欲しい。

「少し難しかったかな?でも、学院はそこら辺も詳しく教えてくれるし、行って損はないと思うよ?一応、入学は13歳から5年間。最短2年で卒業できるし、そのまま学院に留まり続けるのも出来るらしいよ。どう?通ってみない?」

少し迷うな。
5年間か…最短でも2年…そんなにも俺の自由な人生が拘束されるなんて…でも、魔法を学べる機会なんてそうそうないしなぁ…。

「………ああ」

通ってみるか。

どのみち三年後だ。
……三年後?どこかで同じような言葉を聞いたような……まぁいいか。

「決まりねっ!そうと決まれば早速準備しなくちゃ!」

そう言って颯爽と窓から退場して行くマリアナ。

なぜ窓から?
開け放たれたままの扉は何のためにあるのか。そんな疑問を持ちつつ、まだ気を失って倒れている父ちゃんに目を向ける。

……よし、やる事もないし、作業の続きでもするか。

俺はソッと扉を閉めて、試作バイクに手を掛け始める。


○○○


翌日。

俺達はラフテーナを発った。

出発を言い渡された時は唐突で、相変わらずな父ちゃんが朝食の時に突然言い出した事だったけれど、どうせ俺に手荷物なんて物はなく、父ちゃんの準備が出来次第出発することになった。

助けた子供達はマリアナが責任を持って送り届けてくれるらしい。

そんな彼等と、ナルガン率いるベルモンド一家の面々に見送られながらラフテーナを出立した。

……あっ。そう言えば、全く訓練に参加してないな。ちょっと経験してみたかったなぁ…。

そんな名残惜しさを感じつつ、馬車はガタゴトと音を立てて走る。
この馬車はベルモンド家所有のものを貸してくれた。家紋付きの旗がある箱型の馬車だ。これにはリーフサスペンション擬きが備え付けられてて、乗り心地は少し良い。だけど、まだまだ揺れる。ケツに与えられるダメージはそう変わらない。

あと、護衛には数人の騎士が付いている。訓練と言う名目で護衛をしてくれているらしい。

隣街までだけど、悪くない待遇だ。

そしてーー。

「なぁ、エル?いつも思ってたんだけどよ、それとか、それ、いつも一体どこから出してんだ?」

俺はガッタンゴットンと揺れる馬車の中で物作りに励んでいた。

俺が魔法を使えると知っている父ちゃんの前だからこそ、隠す事なく堂々と作業している。

今回作成しているのは"ボウガン改"だ。
以前使っていたボウガンはフィーネにあげてしまったから、どうせなら改良してしまおうと言う勢いで新しいのを作っている真っ最中だ。

前回のボウガンは単発式で、弦を引きつつ矢をセットして引き金を引くと放てるようになっていた。

今回はそれを少し改良して、ボウガンの腹下に矢をストックできる弾倉を。弦を手前に引くだけで次弾をセットできるようにしてみるつもりだ。

既に部品は作り終わっているから、残りは組み立てるだけだ。
あと、作ってる最中に足りないパーツを都度作っていくつもりだ。

「なぁ、エル?父ちゃんの話聞いてるか?」

材質は、ステンレス。錆びにくく強度は鋼並み。まぁ、その分のマナ消費は鉄よりも遥かに多いけど、便利だ。

「なぁってば」

「……なんだ」

さっきからなんだよ、まったく。
鬱陶しい。

コッチはボウガン改の作成に集中してるってのに。

「なぁ、エル。さっきから次々とポケットから物を出してるけど、そのポケットどうなってんだ?それに、そんな物どこで手に入れたんだ?」

ラフテーナには鍛冶屋なんてなかっただろ?

なんて聴いてきた。
父ちゃんも魔法使いの端くれなら少し考えれば分かるだろうに…。

この程度、誰でも使えるはずだ。

「魔法。作る、した」

「ん?もうちょっと父ちゃんに分かるように説明してくれないか?」

難しい要望だな…。
やるのは簡単だけど、説明するとなれば難しい。俺は喋るのが苦手だからなぁ。

「……魔法、生み出す」

こう。と言って、実際に見せてやる。

手の平に集めたマナを鉄に変換。加工。なんとなくパチンコ玉を思い出しつつ、創り出してみる。

本当は鋳鉄を作るつもりだったけど、ちょっと失敗してしまって鋼になった。
炭素濃度の操作を少し誤ったな。失敗、失敗。

「………」

まるで父ちゃんだけ時間が停止してしまったかのように固まってしまった。

………あ、再始動した。

「じゃ、じゃあ、そのポケットはどうなってるんだ?それも作ったのか?」

「魔法」

説明する言葉が見つからないから、実際に見せてやる。

異空間倉庫(ガレージ)を開けば、宙空に穴が空いて、そこから物が出し入れできる。
どう言う原理なのかサッパリで、マナ消費も尋常じゃなかったけれど、使い続けているとマナ消費が減ってきた。

おそらく、慣れたんだろう。体が。

「………」

再び父ちゃん一時停止。
きっと、魔法を覚えたばかりの俺が魔法を使い熟しているからビックリしてるんだろう。

だからって幼少の頃から使えたなんて言う訳にはいかないし、そんな父ちゃんは無視してボウガン改の製作に戻る。

面倒になりそうな事は話さないのが一番だ。そこまで重要なことじゃないだろうしな。


○○○


ラフテーナを発ってから十数日が経ち、カルッカンにまで戻ってきた。

家(ウチ)のある村に最も近い街であり、最後の経由地だ。

カルッカンに到着したのは昼前で、このまま村まで直行しても良かったけれど、父ちゃんの希望でここで一泊する事になった。

父ちゃんは真っ先に俺を置いて冒険者ギルドに。俺は事前に決めていた宿屋に向かう。
ラフテーナに向かっている時に使う予定だった宿だ。前回はギルドでのお泊りとなったけれど、一応父ちゃんから場所だけは聞いている。

なので、今はそこへ向かってる最中。

道端でやってる屋台から美味しそうな匂いが漂ってきて、昼近くと言う事もあってお腹が空いてくる。

少し早いけど食事にしようかと見かける屋台を横目で見ながら歩いていると、ふとある重大な問題を思い出した。

「あ、飯……」

おそらく。いや、絶対。家に帰るとゲテモノ料理が食卓に並ぶ日々に戻るだろう。

でも、この旅で俺は普通の料理の味を知ってしまった。知ってしまったんだ。

父ちゃんのように母ちゃんの飯を美味い美味いと食べれるほど俺の舌はぶっ壊れていない。

せめて、普通の食事がしたい。

変なオーラが滲み出す色々な肉が混ぜ合わされた異形物や、熱くもないのに煮立ったような泡が沸き立つドロドロとした謎のスープとか、食べるとコリコリとした食感のする不気味な顔が浮かぶパンとか…食べれる気がしない。

っていうか、今までよくあんな物を食べてたな。と、自分を賞賛したくなる。

自分で料理をするのも良いけれど、母ちゃんほど早起きして飯を毎日作れる自信が俺にはない。
それに、面倒くさい。

その面倒くささを考えると、俺が我慢すれば済む話なんじゃないか?って思ってしまうんだ。

でも、出来れば母ちゃんの手料理は避けたい。

………まぁ、なるようになるか。
どう足掻いたって、俺が料理をしなきゃ母ちゃんの料理を食う事になるんだ。

気が向けば俺が料理をすれば良いか。

その時はその時。今は今だ。
未来の俺に全てを託した。

そんなわけで、屋台で適当に串焼きを二本買って歩きながら食べる。

空腹感が埋まる気持ちの良い気分だ。

ちょっと天気は悪いけど、落ち込み気味だった気分は回復した。
『宿屋に着いたら何しよっかなぁ』なんて考える余裕すらあるぐらいだ。

もう母ちゃんの手料理の事は考えてない。考えてないったら考えてない。

そんなこんなで、宿屋に着いた。

宿屋の名前は確か…鷹の山…だったか?
看板に店名らしき何かが書かれているけれど、文字が読めないから分からん。

看板の下にある、もう一つの看板に描かれた宿屋のマークで、ここが宿屋なんだと分かる。

父ちゃんに教えてもらった場所はここのはずだ。ってなわけで、取り敢えず入店してみる。

「いらっしゃ…あれ?子供?」

元気よく出迎えてくれたのは、看板娘的なお姉さんだ。
年齢的には15か16歳ぐらいか?

この娘もまだまだ子供だけど、今の俺の年齢からすればお姉さんで間違ってないはずだ。

「どうしたの?迷子かな?」

このやり取り。さて、何度目だ?

前の街も、その前も、俺一人で宿屋に行くとこんな感じな対応をされる。

相手に悪意が無いと分かっていても、なんだか嫌だな…。

「違う。宿、一日、泊まる、する。父ちゃん、後、来る」

「あ、そうなのねっ。君だけで宿を取りに来るなんて偉いね〜」

頭を撫でられた。

悪い気はしないけど、恥ずかしいからやめてくれ。

「泊まるのは二人でいいのかな?」

「ああ」

「お父さんから宿代は貰ってる?」

「ああ」

俺の所持金だけどな。

銀貨6枚を手渡す。

俺の所持金から考えると、だいぶ安い。
まだ金貨が5〜6枚ほどと銀貨が沢山あるからな。
それに今日も少し稼いだ。

最近アクセサリー作りにハマっていて、失敗作とか邪魔な物とかを売っぱらって稼いだ。
良い物はマリンとアックにあげるつもりだ。喜んでくれるかな?

「はい。それじゃあ、名前を聞いても良いかな?」

「エル。父ちゃん、ドンテ」

「エル君とドンテさんね。部屋は土の絵が描かれた所だけど、分かるかな?」

「ああ」

鍵を受け取り、部屋へ行こうかと思って、やっぱり思い留まる。

「先、飯」

どうせ置く荷物もないんだ。
それなら先に飯を食った方が良いだろう。

「あっ、お昼ご飯ね。でも、お父さんを待たなくてもいいの?」

「ああ」

どうせ依頼を受けに行くだろうから夜まで帰ってこない。

「それなら、食堂で好きな席に座って待っててくれるかな?」

「ああ」

一つ頷き、受付から左手にある食堂に向かう。

そう言えば、どこの宿屋も同じような造りをしてるな。これが一般的なのか?

それと、まだ昼前だから客は少ないな。
混み始めるのはもうちょっとしてからだな。今から昼飯を選んで正解だった。

などと思いながら、空いた席に座って料理が来るのを待つ。

どこの宿屋にもメニューなんて物は置いていない。あるのは日替わり定食と、お代わりと、飲み物ぐらいだ。

でも、肉だけが良いとか、野菜だけが良いって言う注文は受け付けてくれる。
レパートリーはないけれど、その都度に柔軟な対応をしてくれるのは良い。

ちなみに、飯代は宿代に入っている。
一泊で二食分だ。

呆然と天井を眺めていると、飯が運ばれてきた。

肉の良い匂いがする。

「お待たせ。ついさっきオークの肉が大量に入ったみたいで、今晩も同じメニューになるかもしれないけど沢山食べてね」

「あ、ああ…」

ああ…肉尽くしだ。
肉の丸焼き。スープにも肉がゴロゴロ。黒パンの側にも気持ち程度の野菜と肉。

バカだろ…。

俺はそこまで肉が好きじゃない。と言うか、脂身が好きじゃないんだ。
どちらかというと、アッサリ系が好きなタイプだ。

それなのに、この量…見てるだけで吐き気が…。

「おいおい。ネェーちゃんよー。そんなガキに大層なもんを出してんじゃねぇかよ。俺はこんなチンケなもんだってのによぉ」

冒険者かな?どこかで見たような見てないような…見覚えのありそうでない顔付きのオッサンが苦情を入れている。

オッサンが料理に手を付けてなかったら交換したかったけど…既にフォークがパンに突き刺されている。

アレは…うん、ヤダな。

「お肉はついさっき入ったばかりだから、お代わりしてくれれば出しますよ?」

若干面倒くさげな雰囲気を感じるけど、それでも笑顔で接待するお姉さん。

クレーマーの対応に慣れていそうだ。

「あー?そんなケチ臭いこと言わねーで、さっさと持ってこいよ。それとも、なんだ?俺には出せねぇってか?」

「お代わりしてくれれば出しますよ。あと、晩御飯にも出ます!」

ドヤ顔をするお姉さん。

マジか…。
晩飯も肉盛りか…他で食べようかな…?

「そんじゃ、この飯はもう要らねぇ」

そう言って、机の上の料理を食器ごと地面に滑り落とす冒険者の男。

食器は木製だから割れる事がないけれど、落ちた料理達が可哀想。
それに、それを料理した人達にも失礼な行為だ。

お姉さんもショックを受けている。
部外者の俺でも、少しイラッとする行為だ。咎めてやりたい所だけど…この場合はどう言えば良いんだ?

「ほら、さっさと持ってこいよ」

机に組んだ足を乗せて、偉そうにする冒険者の男。

ホントにアイツ何様だ?そんなんだから冒険者の印象が悪くなるんだろうに。
一言言ってやりたい。言ってやりたいが…なんて言えば良いんだ?

「おい!お前!ここは食事をする処だろ!彼女に謝れ!」

あ、そう言えば良いのか。勉強になる。

正義感の強い少年が現れた。
ついでに、仲間だと思わしき少年少女達も一緒だ。

「あ゛ぁ?テメェ、この俺を誰だか知らねぇのか?」

そう言いつつ、ドックタグのような物を胸元から取り出して見せびらかす冒険者の男。

……銀色?

少年少女達が一歩後ずさった。だけど、先頭に立つ勇敢な少年は彼等の反応に反してズイッと一歩前へ。

「彼女に謝るんだ!」

「あ゛ぁ?」

ノッソリと気怠げに立ち上がる冒険者の男。

そして、突然拳を振るった。
勇敢な少年はそれに反応しきれずに直撃を貰い、仲間を巻き添えにして背後に飛ばされた。

「ぎゃははははっ。ガキはガキらしく、そうやって寝てりゃ良いんだよ!」

………あれ?
この声、このセリフ…聞き覚えが…。

……あっ。思い出した。あの時の…初めてこの街に立ち寄った時、冒険者ギルドで絡んできた酒臭い奴だ。間違いない。

そんでもって俺を殴ってきた…うん。なんだか思い出したら無性に腹が立ってきた。

立ち上がると、カタンッと椅子が音を鳴らした。

「あ?なんだ?まだ仲間がいたのか?まぁ、テメェ等みたいな雑魚が何人で掛かって来ようがこの俺に敵うはずがねぇけどな。ぎゃはははっ!」

この笑い声。あぁ、聴いてるだけで沸々と怒りが湧き上がってくる。

スタスタと冒険者の男の元まで歩み寄る。
冒険者の男は余裕の笑みで俺を見下ろしてきてやがる。

待ってろ。今、その表情を絶望一色に染め上げてやる。

「おいおい。まさか一人で俺とやるってのーー」

必殺!股間パンチ!

「〜〜ッ!?」

子供だからって甘く見るな。

子鹿のように震わせる脚を内股にして激痛に悶える冒険者の男。

「テ、テメェ…ッ!」

だけど、戦意は消えてない様子。なのでーー。

両手を頭上で強く握り締め、マナで軽く身体を強化させて冒険者の男の頭を狙って振り下ろす!

少し力みすぎてたみたいでズドンッと冒険者の男の顔が床に減り込んだ。

ふぅ、スッキリした。
心の靄が晴れたような爽快な気分だ。

「「「………」」」

振り返ると、愕然と間抜け面を晒す少年少女達とお姉さんの姿がある。

見なかった事にして、視線を冒険者の男に戻す。

…あ、そうだ。良い事思い付いた。
悪人には相応の罰が必要だよな。

ふふっ…。


○○○


その日。白昼堂々に全裸の男が道のど真ん中で寝ていた、と街中で話題になった。

「頭のおかしい奴もいるもんだな」

「ああ」

その話は父ちゃんも耳にしていたようで、笑い話として持ち帰ってきた。

ちなみに今は部屋の中だ。
父ちゃんが珍しく早く帰ってきたから、晩飯までまだ時間があって、その空き時間を利用して雑談している。

「あっ、それとな、サルークで赤眼の悪魔とか言う化け物が出たらしいぞ。曰く、オーガみたいな体躯で人なんか簡単に握り潰し、風魔法を手足のように扱って見える物全て切り裂き、その辺りで一番大きな盗賊団を一つ壊滅させたんだってよ」

「そうか」

それは怖いな。

人を簡単に握り潰し、風魔法を手足のように扱う、か。
聞いた話から察するに巨人か?

ファンタジーな世界だし居てもおかしくなさそうだ。ああ、怖い怖い。

旅の最中で出会わなくて良かった。
今の俺だと勝ち目なんてないだろうからな。

「なんだよ、反応薄いなぁ。じゃあ、こんなんはどうだ?最近ちまたで流行ってる特殊なアクセサリーの製作者がこの街に来てるんだってよ」

「ふむ」

アクセサリーなら俺も作ってるぞ。最近ハマってるんだ。
俺にセンスなんてクソ程もないけど、俺なりに趣向を凝らして頑張ってる。

まっ、失敗作は纏めて露店とかで売っぱらってるけど。

「んでな、その製作者ってのがまだ子供らしいんだよ。詳しい事は聴いてないが、立ち寄った街で作ったアクセサリーを売り捌いてるらしいぞ」

「そうか」

子供が商売をしてるのか。

すごいな。どんな奴か気になる。

「おいおい、エル。そんなんじゃ将来冒険者をする時とかに困るぞ。俺が冒険者だった頃なんて周りの噂話に耳を傾けて情報を集めてたんだぞ?」

それぐらいやろうと思えば出来る。
人と話をするよりも簡単だ。

っと言うか、俺は冒険者なんて危険が伴う職業に就くつもりなんて更々ないんだけど?

「あっ、そう言やよ、今日冒険者ギルドに行った時に言われたんだけどよ、お前の作ったアレ…なんだっか…簡単…スクロール…あ、そうそう、簡易スクロールだったな。その予約が殺到してるらしいぞ」

「………」

予約?そんなの知らないぞ?

「ギルドのお偉いさんが直々に俺を呼び出して頼んでくるぐらいだったんだよ。幾つか作ってくれねぇーか?」

「……」

まさか、それがあったから今日は帰るのが早かったのか?

うーん…まぁ、作り置きしてるのもあるし…。

「分かった」

「おっ!マジかっ!なら、早速頼んでもいいか?」

「ああ」

取り敢えず作り置きしておいた物を渡しておくか。

そう思って、異空間倉庫(ガレージ)から大量の簡易スクロールを取り出す。
今となってはどれだけ作ったのか自分でも把握してない。毎日、適当に気が向くままに暇な時間や気分転換とかで作ってたからな。

「もう作ってたのかよ…。ってか、凄い量だな…」

「ああ」

俺もちょっと驚いてる。
まさか、ベッドが埋まってしまうほど作ってたなんて、どれだけ俺は暇だったんだよって話だ。

しかも、この中に作った覚えのない物まで混じってるし…。

どれどれ…。

ちょっと変わった魔法だな。一時的に物を保管しておける魔法…か。ありそうでなかったやつだ。

こんなのいつ作ったんだ?有用性が高そうなのに全く記憶にない。

まぁいいや。内容は覚えた。これからはいつでも作れる。

「なぁ、エル。これ、一つづつ説明してもらってもいいか?俺には全部同じに見えるんだ」

「ああ」

だろうな。
なんせ、この世界に馴染みのない前世の文字で描いてるんだ。
俺がこの世界の文字や言葉が上手く出来ないように、この世界の人間は向こうの世界の文字や言葉が分かるはずもない。

俺がこれだけ苦労してるのに、そう簡単に理解されてたまるかってんだ。




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コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です
    相変わらず父ちゃんの扱いは雑ですね
    毎度楽しみにしてます

    1
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