自称『整備士』の異世界生活

九九 零

23

認めたくないのですが、どうやら私は風邪を引いてしまったようです。

ですが、風邪なんかに負けません!きっと花粉症なんだと思い込み、さぁ!みなさん!今日も一日頑張りましょう!





「兄貴!次焼けました!」

「ああ」

その後、焼肉の謎パワーによって少年…キースを手懐けた俺は、後から起きた子供達に焼肉を振る舞っていた。

って言っても、キースが焼いたのを回していただけなんだけど。

「おいしいー!」

「すごっ!?なにこれ!すごっ!?」

なんて子供達の間から肉を賞賛する声が上がってくる。

現地調達してきた俺としては、なんだか嬉しい。

「兄貴、それで、どうするんです?」

「帰る」

「でも、どうやったら帰れるんっすかね?」

「……知らん」

知るかよ、そんなこと。

そう答えると、キースが分かりやすいほど驚いた顔をしてあたふたとし始めた。

こうして見ると面白い奴だな。

「馬車、操縦する、できる、か?」

「いえ、俺はできねぇっす!でも、確か…おい!バルバード!お前、行商の息子だったよな?」

唐突に話を振られた少年ーーバルバードは、一度食事の手を止めて小さく首を傾げた。

「ん?うん。そうだけど?」

「馬車の操縦はできるか?」

「一応、少しだけならパパに教えてもらった事が…」

「よし、ならお前が操縦しろ!」

「えっ!?で、でも、少しだけだよ!?」

なんて叫びはキースに届かず、キースはやり切った感を醸し出しつつ俺に向き直った。

「兄貴、これでなんとかなりましたぜ!」

なんとかなってないだろうに…。
不安だらけじゃねぇかよ。

先が思いやられるなぁ…。


○○○


ガタゴトと馬車が進む。

草を掻き分けた跡。地面に僅かに残った車輪の跡。よく地面を観察すれば分かる痕跡を辿って、轍を引き返すように進む。

「少し、左。通る、跡」

「了解しやした!兄貴!おい!バルバード!ちょっい左だ!」

「は、はいぃ!」

バルバードが焦りつつ馬を操縦している。まだ拙いのか、何度か馬の足を止めてしまったりしてるけど、なんとか進めている。

御者席には俺、キース、バルバードが座り、バルバードが操縦。俺が道案内。そして、キースがなぜか俺の通訳みたいな立ち位置だ。

そんなに俺の言葉は分かり辛いのか?
これでも頑張って言葉を選びつつ話してるつもりなんだけどな…。

「なぁ、兄貴!兄貴はどんな魔法であの人攫い共をぶっ飛ばしたんっすか?」

唐突の質問。
キラキラした眼差しを向けてくるキース。

慕われるのは悪くないけれど、ここまでになると重荷に感じてくる。

「俺、魔法、使う、できない」

「「ええっ!?」」

ん?今、キース以外の誰かの声が混ざっていた気が…。

「じゃ、じゃあ、剣技っすね!きっと兄貴ならスゲェ技を覚えてるんっすよねっ!?」

「ケンギ…?俺、剣、使えない」

使った事ないからな。

「じゃ、じゃあっ!」

…っと、あの辺で轍が右に逸れてるな。

「あそこ、右、逸れる」

「へいっ!おい!バルバード!その先の大木を右に逸れろ!」

「は、はいぃ…」

「じゃあ、兄貴はどうやって人攫いを倒したんっすか!?」

「………」

誤魔化せなかったか…。

どうやってって言われてもなぁ。

別段、特別な事をやったわけでもないし。
かと言って、説明しようにも、言葉が思いつかないし…。はてさて、どうしたものか…。

「わ、私、見ました」

「ん?」

「お、おい!それマジかっ!えーっと、エーリだったな!話してくれ!!」

「途中からだったけど…私達を攫った人が…」

人が…?

そこまで話して、ブルリと身を震わせるエーリ。
なにやら顔も青ざめてきている。嫌な事でも思い出したかのように、両肩を抱えてーー。

「その…突然、破裂して…血が…肉が…ううっ」

何を思い出したのか、口元を抑えると、顔を外に出してーー。

「おええぇっ」

吐いた。
おそらく、例の実験が失敗した時の事を思い出したんだろう。

そんなに酷かったか?
確かにグロかったけど、気持ち悪くなるほどじゃないだろ。
ウジが湧いてたわけでもないんだし。

キースはエーリが語った曖昧な説明を理解しようと首を傾げて「んー?」と考え込んでいる。

エーリは胃の中の物を全て出し切ったのか、さっきよりも顔色が若干マシになった顔を引っ込めて戻ってくる。

「エルさん。あなたは…一体何者なんですか…?」

転生者かな?

「…セービシ、だ」

「エルさん、整備師だったんっすか!俺、てっきり伝説の勇者様かと思ってたっすよ!」

カハハハハッと笑うキース。
笑えない冗談だ。

黒髪黒目だから勇者だとか…マジで笑えない。

「はぁ…俺、勇者、ない、違う」

ちなみに、勇者ってのはよく御伽噺に出てくる登場人物の事だ。黒髪黒目で、凄く強くてカッコいいらしい。
出発する前にレーネが教えてくれた。

似てるとかなんだとかで。

マジでやめてくれ。
黒髪黒目だけ似てるからって、そういう風に捉えられたくない。
まるで、俺が勇者のコスプレしてるみたいな扱いを受けてるみたいで嫌になる。

「化け物の間違いじゃ…」

そんな小さな呟きが俺の心にグッサリと突き刺さった。


○○○


それから、一晩野営をして、馬車を走らせる事、数時間。

お尻の痛みも麻痺してきた頃合いに、遂に森を抜けた。

「エルさん、マジパネェっす!俺、一生付いて行きますっ!!」

森を抜けるまで何度か魔物との遭遇戦を繰り返し、何度か大きい魔物を殴り倒していると、気が付けばキースの好感度が急上昇していた。

男に好かれても嬉しくないんだけどなぁ…。

それは兎も角、

「……困った」

森を抜けたまではいい。でも、そこからは街道だった。
どっちに行けばどこに着くのか。サッパリ分からない。

馬車の轍も他の轍と入り混じって、どれがどれだか…。

「あっ!ここ知ってる!ミル、知ってるよ!」

ミルってのは、本当に10歳なのか怪しく思えるほど小柄なドワーフの女の子だ。

「右に行ったらサウスクラーの街で、左はアルミカルの街だよ!!」

アルミカルはラフテーナに行く途中で通ったな…。
……で、どこだ?ここ?

「……ラフテーナは?」

「んー、それなら、真っ直ぐ!」

「分かった。真っ直ぐ、だ」

「分かりました!兄貴!バルバード!直進だぁ!!」

「うん、分かったよ…」

キースとバルバードのテンションの違いが随分と大きいな。

キースは元気一杯に片腕を掲げて『それ行け』な感じなのに対して、バルバードは『はいはい、分かりましたよ』みたいな感じになってる。

随分と仲が良さそうだ。

バルバードはこの1日で馬の操縦がかなり上達した。
出発当初は何度も手綱の操作をミスって馬を見当違いな方向へ走らせたり、急停止させてしまったりとかあったけれど、今では普通に進ませたり、方向転換はお手の物だ。

俺はそれを見てただけだけど、前世で鍛え抜かれた観察力とかで何となく覚えた。
たぶん、俺も操縦できる気がする。

しないけど。

「ミル、代わる、しろ。ラフテーナまで、案内だ」

「分かった!」

ミルは、チビっこくて天真爛漫な感じだ。初めこそは死を目前にしたハムスターみたいな感じだったけど、飯を与えてやったら生き返った。

とにかく小動物感がすごい。

「そ、そんなぁ!?あ、兄貴ぃ!!」

交代の際、キースの変な嘆き声が聞こえてきたが、無視する。
お前の定位置はそこだ。

…キースは犬だな。

ちなみに、馬車の荷台に乗せられていた檻は捨てた。今はただの平台車型の馬車だ。
荷台には、森の中で採ったらしい木ノ実やら食べれる草やらが乗せられている。

肉は保存が効かないから、ほとんど捨ててきた。

でも、全部捨てるのは勿体なかったから異空間倉庫ガレージに一部保管済み。
時間経過でどうなるかは知らないけど。丁度いい実験にもなる。

荷台に移動すると、俺は明らかに避けられているのが分かる。

特にエーリだ。
警戒心剥き出しで、一番俺から距離を取っている。

余り考えないようにはしていたけど…ここまで来るとちょっと傷付く。
今御者席に座っているミルとキース以外のみんなが俺を避けてるんだ。

居た堪れなくなった俺は、荷台の壁に背を預けて空を見上げる。

今日一杯と明日までは晴れそうだな…。

いい感じの気持ちいい天気だ。
風も心地よく、このまま目を瞑れば気持ち良く寝れそうな………。

…。

……。

………。

「ーーっ」

っと、いかんいかん。
マジで寝そうになっていた。

俺が寝てしまうと、この馬車は完全に無防備になってしまう。
ここには俺以外に戦える奴がいないんだ。

キースは少しだけなら戦力に数えてもいいけど、それでもゴブリン一匹に苦戦するぐらい弱かった。

他の狼系や熊系など。はたまた、デカイ鬼みたいな魔物とかは怯えて動こうとしなかったから、余り期待はできない。

だからこそ、俺は一昨日の晩から一睡も出来ていない。
ここにいる子供達を守れるのは俺しかいない。もし俺が寝ている時に魔物に出くわせば、ここまで眠気を堪えた意味がなくなってしまう。

そんな責任を負っているからこそ、すごく眠たいけど寝れない。

……少し顔を洗うか。

「…水、出す、できる、か?」

俺は魔法が使えないって事になってる。

それは、神の祝福を受けた時に『魔法使いの素質がない』と言われたから。んでもって、父ちゃんに絶対に人前で使うなって言われたから。

魔法を使っただけで死刑にされるなんてゴメンだ。

だから、人前では使わない。

尋ねて暫く待ったが、誰も答えてくれない。どうも、かなり嫌われてる様子…。

傷付くな…。

し、仕方ない。
気を取り直して、眼が覚めるような事でもして目を覚まそう。

そうだな…。武器…でも作るか?
俺は魔法が使えないって事になってるから、魔法を使ってもバレないような武器を作ってみよう。

丁度、面白い材料があるんだ。

武器になるかどうか分からないけど、俺にとって有用性のある物になるはずだ。
作れたら、の話だけど。

材料は例の首輪だ。

聞けば、あの首輪は隷属の首輪って言われてて、首輪の装着者は主人と定めた人物の命令に逆らえなくなる物らしい。

原理は簡単で、首輪にマナを送り込むと、その人が主人となる。マナを送り込む以外だと、首輪に触れながら決められた呪文を言えば自動的に首輪とのパスが繋がりマナが供給される。
それによって主人のマナが首輪装着者の体内に流れ、主人が出した命令によって体内に混じったマナが勝手に首輪装着者の体を動かす仕組みになっていた。

そして、次が面白い。材質が送り込まれるマナに耐えれる強度を持った特殊な金属だったんだ。
軽くて頑丈。そんでもって、マナの伝導率や吸収率もよく、放出率も高い。まるで、魔石の外殻に近い。

そんな面白おかしい材料を手に入れて、いつ触れ合えるかとワクワクしていたぐらいだ。
まぁ、そのワクワクのおかげで一晩寝ずに頑張れたんだけどな。

じゃあ、早速始めますか。

ポケットから細切れにした首輪の残骸ーーもとい、材料を取り出す。
と、それを見ていた子供達がギョッとした。

放っておこう。

次に、加工用の革手袋をポケットから取り出して身に付ける。

革手袋には特にこれと言って細工とかしてないけど『これがあったら魔法が使える』的な感じを醸し出す為だ。

父ちゃんには『人前で魔法を使うな』って言われてるけれど要はバレなきゃいいだけの話だからな。

材料に手を当てて、どんな形にしたいか。どんな構造にするか鮮明に想像する。

想像には慣れてる。いつも愛車達の部品を一品一品脳内で創り上げ、組み立てていたぐらいだ。これぐらい造作もない。

造り上げるのは、腕輪。
見た目はなんの変哲もない腕輪だ。
隷属の首輪の応用で、構造を多重化。何層かに別けて文字を書ける層を増やす。
コツは、一枚一枚を極限まで薄く、そして全てを密着させて強度を高める事だ。

例えるなら、矢が一本なら腕の力で簡単にヘシ折れるけれど、二本三本と積み重ねると折れにくくなる仕組みを利用している。

これを…なんて言うのか忘れた。
まぁいい。

呪文によって働くように、発動キーとなる言葉を設定し、一つ一つに簡単な筆記魔法を刻み込む。

一番表面には壊れて使えなくなってもいいような適当な魔法を。その次は壊れても問題はないけど、使える魔法を。その次も、同じような感じ。そう言った感じで、一枚一枚丁寧に筆記魔法を刻み、最深部に一番重要な魔法を刻んでおく。

「…完成」

全枚数30枚。厚さ3cm。幅5cm。ちょっとゴツゴツした鋼鉄製の腕輪の完成だ。

子供達が『なにそれ?』とでも言いたげな顔をして俺の手元を凝視している。

そんなにコイツの性能が見たいのか?
俺もだ。

丁度、この先で魔物とすれ違うから、そのタイミングを見計らってーー。

「『雷の矢』」

手の平をすれ違う瞬間の魔物に向けて呪文を唱えると、手を向けた先に腕輪内に刻んだ筆記魔法が浮き出し、

ーーズダアァァンッ!!

一瞬の閃光と共に雷鳴のような轟音を轟かせて魔物を消し炭にした。

ちょっと、予想外…。
こんなに音が出るなんて思ってなかった。

音に驚いた馬がビシッと固まってしまって馬車は急停止。
試作品を興味深そうに見ていた子供達は驚いて、獣人の子達は目を回して気を失い、エルフの子は目をパチクリ。エーリはお漏らし。レーネは頭を両手で覆って震えあがり、バルバードは驚きすぎて口から魂が抜けたようになっているし、キースは馬車から落っこちた。

やってしまったな…。

ミルだけが『ん?何かあった?』みたいな顔をして振り返って不思議そうにしている。

俺ですら驚いたのに、随分と肝が座ってるな…。

「……すまない…」

耳鳴りで聞こえてないと思うけど、本当に悪かったと思ってる。


○○○


耳鳴りが収まったあと、暫くその場で休憩となった。

その時、俺は口煩くエーリに叱られた。

やれ『そんな事をするなら初めに言って下さいよっ!』やら『そんな危ない物なんか捨てて下さい!』やら『そもそも、貴方はなんなんですかっ!』やら『もう嫌っ!』などと言って、涙目になりながら本気で怒られた。

本当に悪いと思っているんだ…。

そして、長いお説教はエーリが泣き始めてお開きとなり、エーリが泣き止んでから休憩ついでに少し早いお昼ご飯になった。

「………」

ちなみに、俺は昼飯抜きだ。

『あんな事をしたバツです!』

ってエーリに言われたからな。
まるで新しい母ちゃんが出来たみたいで、なんとも言えない微妙な気分になる。

そんな気分を払拭する為に、現在俺はさっきの試し撃ちで壊れてしまった腕輪を修理している真っ最中だ。

さっき確認がてら点検してみると、ぶっ壊れてしまってたんだ。

「………」

観客が一人居なくもないが、無視して作業を進める。

腕輪の強度は申し分なかったはずだ。
おそらく、落としても壊れないぐらいには丈夫だった。だけど、いざ解体してみれば、中身がグチャグチャに壊れてしまっていた。

おそらくは俺のマナ量に耐えきれなかったんだろうけど…筆記魔法を刻んだ箇所の損傷が大きい事からして、その部分が比較的に強度不足なんだろう。

これを復元するのは簡単だ。
一度作った物は構造も作りも全て覚えてるから、前回よりも早く作れる自信がある。

だけど、それじゃあダメだ。
使う度に壊れていたら話にならない。

対策を考える前に、なぜそうなったかを今一度考え直してみる。

一つはマナを流す量が多すぎた事だな。これまで何度か同じような物を鉄などを利用して作った事はあるけれど、毎度の事ながら繰り返し使える物を使い捨てにしてしまっている。

でも、難しいんだ。

流す量と言ったって、これでも最小限に抑えてるつもりなのにこうなるんだ。
それ以上になると、爪楊枝で塩を一粒摘んで運ぶような繊細な集中力がいる。

……いや、言い訳はやめておこう。
こればかりは俺次第だな…。

肝心なのはもう一つ。腕輪の強度が足りなかった事だ。
今更だけど、内側を蟻の巣みたく穴だらけにしたら、そりゃ強度は落ちるはずだ。

それに、一枚一枚を薄い板で密着させると言ったって、機械作業じゃないんだし、ましてや一つ一つ精密に測定してる訳でもない。
勘と直感と感覚で作ってるからな。多少の誤差は出るのは当たり前だ。

だから次は強度を上げる所から始めてみようと思う。

取り敢えず腕輪は全て元通りに修理して、組み立て、再利用。更に腕輪を覆うように新たにケースのような物を追加しておく。
そこに、粘性質な水を魔法で生み出し、筆記魔法で刻んだ隙間などを全て埋める感じで封入する。

これで前回よりも圧力に耐えれる強度は得たはずだ。

試しに地面に投げつけてみる。

ーーズンッ!

と、音が鳴って地面に埋まってしまった。
少し強く投げすぎた…。

深く埋まりすぎてて掘り出すのに時間が掛かったけれど、再び試行に戻る。

……の前に、だ。


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コメント

  • トラ

    怒られたあとの腕輪の修理しようとするところの
    だから。って訳じゃ
    。必要ないと思います

    1
  • トラ

    腕輪の修理のところの
    落としても壊れぐらい

    落としても壊れないぐらい

    1
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