自称『整備士』の異世界生活

九九 零

20

5話の計算が桁一つ間違ってて、少し書き直しました。

すみません…。








今日は雨だ。だから、朝食を食べ終えて食後の運動を軽く済ませた後、空き部屋の一室を勝手に使ってせっせと物作りに励んでいた。

父ちゃんがまだ寝てるから神の祝福を受けるのは昼からになったんだ。

その空き時間に、ずっと作りたかった物を作っている。その名も、小型バイク!オモチャだ!

魔石を組み込んだバイクの設計図が完成したから、一応はその試作品一号機になる。

材料は、魔石と鉄のみ。

ちなみに、俺が普段から言っている鉄は二種類ある。鋼と鋳鉄だ。
普通の鉄だと圧倒的に強度が足りなかったから、少し手を加えた。基本的に鋳鉄を鉄と呼称している。

で、その中にアルミやらステンレスなども加えて…それでも重量はかなりのものになるな…予想では動く…はず…。

細かい計算とかしてなくて確たる自信はないけど、まっ、試してみたら分かる話だ。

まず手始めに作成するのは、バイクの心臓部とでも言えよう原動機(エンジン)。一番面倒な箇所だからこそ、構造をなるべく簡単に。かつ、トルク重視の為に単気筒エンジンを作成する。

エンジン本体を丸々一変に作ってしまうのも出来るけれど、それはせずに1点づつ慎重に丁寧に作り上げて行く。

ピストン。ピストンリング。ピンにクリップ。バルブ。シリンダー。シリンダーヘッド。シリンダーヘッドカバー…などなど。

mm単位での作業だ。作り上げた部品を測定し、組み合わせてみて、一つ一つ執拗に確認しながら組み付ける。

ああ…やっぱり、楽しい。

筋トレや妄想。設計図を書くのも楽しいけれど、やっぱりバイクとかを触っている時間が俺にとって一番至福の時だ。

そして、そんな幸せな時間は一瞬で過ぎて行く。

「エルー!どこだーっ!!出てこーい!」

凄く良いところで邪魔が入った。

父ちゃんだ…。

「はぁ…」

まだエンジンの完成には至っていない。でも、後少しっと言ったところで呼ばれた。

行かなきゃな…。

取り付けようとしていた部品を仮止めで付ける事で一つに纏めてから異空間倉庫ガレージに収納して、屋敷の方へと足を向ける。

帰ってから続きだ。


○○○


「そう言えばよ、祝福を受ける教会は決めたか?」

相変わらず行儀の悪い仕草で昼飯を食べながら父ちゃんが尋ねてきた。

ちなみに、今はこの街の数少ない飲食店に来ている。

「まだ」

ここに着いて昨日の今日になる。教会の良し悪しすら教えてもらってもないのに決めてる筈がない。

「じゃあ、ファフテナ様の教会にしないか?」

確か父ちゃんの崇めてる神様だったか?

「嫌」

素直な答えで即答すると、父ちゃんがショックを受けた。『ガーンッ』と効果音が鳴りそうな面白い顔をしている。

……素直に言いすぎたみたいだ。
父ちゃんが本気で落ち込んでしまった。

「冗談」

「だ、だよなっ!?」

父ちゃんの縋るような視線をコップで遮り、ついでに甘ったるいジュースを飲み干す。

一息つき、

「神、教える、しろ」

「え?あー、教えてなかったか?」

「ああ」

「悪い悪い。ウッカリしてた」

「………」

いつものことだけど、物を忘れた時ぐらい少しは悪怯れる素振りを見せて欲しい。

ヘラヘラとしやがって…。いや、前世の俺もこんなんだったな。ジト目を向けてやると、すぐさま父ちゃんは姿勢を正して真面目な顔になった。

「そうだな。話してなかったな。じゃあ、まずは俺が信仰してるファフテナ様から話すぞ」

ーー神ファフテナ。知恵と知識と魔法の神様。もう一つの顔が探究心と慈愛。
知識欲の強い人や魔法使いの多くが信仰する神様だそうだ。

ーー神エンリス。夢と希望と力の神様。もう一つの顔が探求心と健康。
冒険者の大半がこの神様を信行しているらしく、街の多くはこの教会が建てられている。
そして、母ちゃんが信仰する神様でもある。

ーー神ラクト。遊戯と奇跡と悪戯の神様。もう一つの顔が平常心と平穏。
信仰者は奇人変人ばかりだそうだ。父ちゃんですら詳しい事は良く分からないらしい。

ーー神アクテナ。感情と尊敬と努力の神様。もう一つの顔が好奇心と変化。
獣人と呼ばれる種族の多くが信仰する神様だそうだ。

ーー神カナテナ。技術と発展と目標の神様。もう一つの顔が恋心と愉楽。
ドワーフと呼ばれる種族や技術職に着く人達の多くが信仰する神様らしい。

ーー神リィラルン。善意と悪意と快楽の神様。
もう一つの顔が追求心と深淵。
この神様はついでとして話された。教会はないらしい。

神リィラルンを除いた計五柱がこの街にある教会で、この世界の神様は計六柱だそうだ。
余談として、大昔にもう二柱の神様が居たらしいけど、喧嘩して滅びたとかなんとか。

神様でも喧嘩するんだな。ってのが素直な感想。

「なるほど」

「で、エルはどの神様にするんだ?」

「……」

正直な話どこでも良いと思った。
よくよく考えてみれば特定の神様を選んだ所で特典なんかが付くわけじゃないんだし、どれを選んでも同じのように感じる。いや、同じなんだろう。

取り敢えず、今は俺に合った神様を適当に選んでおけば良いだろう。

「…カナテナ」

「様を付けろ様を」

「カナテナ」

「………」

父ちゃんに睨みつけられるけど、俺も負けじと睨み付ける。

父ちゃんは余程その神様って存在を崇拝しているんだろうけどな、俺は違うんだ。崇拝なんてしてなければ、慕ってもいない。

俺は神を信じてないからな。
前世じゃ一応は信じていたけれど、運の悪さは一級品だった。クジ引きを引けばハズレだけを全て引き当てるぐらいだ。

だから、もう信じない。そんなものに頼るぐらいなら、俺は自分自身を信じる。

それなのに『様』付けを強要されて、はいそうですか。と受け入れられない。

これは俺の単なるワガママになるんだろうけど、嫌なものは嫌だ。断固たる意志がある。

「はぁ…それ、絶対に他人の前で言うなよ。特に、教会の方達の前ではな」

「ああ」

俺の意志は固いと知って諦めてくれた。
さすが父ちゃんだ。

「よし、んじゃ行くか」

「待て。残る、してる」

ジュースがまだ残っている。味は美味くはないけど、俺は出された料理を決して残さない主義なんだ。

「………」

父ちゃんが呆れたような眼差しで見てくるが、これは前世で俺が自分に課していたルールだからな。


○○○


この街の教会は、どれも同じ大きさで同じような内装をしている。パッと見だと、どれも同じように見えるだろうけど、違う点だってある。

庭に建てられた神を模して造っただろう銅像と入り口に掛けられた看板だ。

っと言っても、神の銅像なんて興味ないし、この世界の文字が読めないからで、俺からしたら全部同じだ。

ちなみに、俺の行く教会に建てられてる銅像は身の丈以上の巨大な槌を担ぐ幼い少年の姿だ。聞けば、ドワーフの先祖だとか。

どうでもいいな。

そんな事はさておき、雨の中、神カナテナの教会に来た。遂に神の祝福とやらを受けに来たんだ。

父ちゃんが教会の修道女らしき人と話しているのを横目に、濡れたカッパを脱ぎつつ神の祝福がどんなものかと想像を働かせてみる。

そう、例えば…。

この世界に本当に神がいるとしたら、カナテナ本人が俺の目の前に現れるとか?
いや、それはないか。夢見すぎたな。

どうせ、普通に祈ったらそれで終わりだろう。

「おーい、エルー!いけるんだってよー!」

ここは教会内で静寂に包まれた場所だ。そんな所で大声を張り上げるなんて、父ちゃんは何を考えているんだろうな。

「ああ」

まぁ、今の時間帯は人が少ないみたいだし、誰も迷惑そうな顔をしてないから別にいいけど…恥ずかしいからやめて欲しいって言うのが正直な想いだ。

取り敢えず、父ちゃんの元まで向かう。

「んじゃ、コイツのこと頼みます」

ポンと背中を押されて一歩前に。

「はい」

修道女は父ちゃんに返事を返した後、膝を折って俺と視線を合わせてくる。
子供との話し方を良く知ってるな。

「君がエル君ですね。カナテナ様の祝福を受けに来てくれてありがとう」

そう言って頭を撫でられた。
悪い気はしないけど、気恥ずかしい。

それから、隣で何か勘違いしてニヤニヤしてる父ちゃんは後で殴る。

「それじゃあ、行きましょうか」

手を繋ぐためか、修道女が手を差し出してきた。

なんつー辱め…。

俺はそれに応じずに先に歩く。
絶対にそんな辱めなんて受けてやらない。

「エル!どんな結果になっても気にすんなよ!」

背後から父ちゃんがいい笑顔で見送りの言葉を送ってくれた。

結果って言うのが何を指しているのかよく分からないけれど、これが終われば俺も普通に魔法を使える生活になる。

あぁ、楽しみだっ。


○○○


豪雨の中にピシャーンッと雷が落ちて、相手の声がよく聞き取れなかった。

「………?もう一度言う、しろ」

「残念ですが、君は…魔法を使えません…」

………は?

す、少し頭を整理しよう。どうやら、俺は混乱しているみたいだ。
変な聞き間違いまで起こすぐらい、酷く混乱してしまっている。

ここは教会の奥にある少し広めの個室。部屋の中央には水晶の置かれた机があって、出入り口の扉から向かって左手に教会の庭に建てられていた少年の銅像と同じようなものが見届け人的な感じで置いてある。そして、奥と手前側に簡素な椅子がある。

奥には司祭のオッサンが座ってて、手前には俺が座っている。俺の目の前には中身が空のグラスが置かれている。
さっき俺が飲み干した…厳密には、飲んだように見せかけて異空間倉庫ガレージに放り込んだものだ。

ただの水じゃなさそうだったから好奇心に負けて保管した。

その後、黙祷的な祈りをして、水晶に手を翳して……言われた。俺は魔法が使えない、と。断言された。

訳が分からない。

「辛いかもしれませんがーー」

「なぜ?」

司祭の言葉を遮る形になってしまったけれど、とにかく理由を知りたい。

「なぜと言われても…良いですか?この水晶は魔力に反応して光るんです。ほら、このように」

そう言って司祭は水晶に手を翳すと、水晶の奥が淡い緑色の光を発した。僅かにマナの反応も感じられる。

俺ももう一度やってみるけど、やっぱり反応しない。

どうして?
壊れてるんじゃないのか?

「納得できない気持ちは痛いほど伝わってきます。でも、時には諦める事も必要なんですよ。君は賢いから分かりますよね?」

………。

分からない。

「…ああ」

「分かってくれましたかっ」

さぞ嬉しそうに笑う司祭。

意味がわからないまま、頷くしか出来ない俺。

「これからの君の未来にカナテナ様の祝福があらんことを…」

そう言って祈り始める司祭を置いて、俺はさっさと部屋を出て父ちゃんの元に戻る。

扉を閉める間際に「あっ!ちょっと!」なんて司祭の声が聞こえてきたけれど、気に留めずに考えに没頭する。

「おう!エル!どうだったよ?…って、その感じだと…余り良くなかったのか?」
 
「……」

魔法が使えない。
どうして?

「どんな魔法の適性があるって言われたんだ?」

「………」

俺は魔法が使える。
なのに、使えない?
どうして?

「……なぁ、教えてくれたって良いだろ?なぁ、なぁ」

「………」

俺のは魔法じゃないのか?
でも、他の奴が使ってる魔法と同じエネルギーを消費して発動できてるし…。

「なぁ、なぁ、なぁ、なぁ、なぁ」

「………」

さて、この煩い父ちゃんにはどう説明したものか…。


●●●


教会の奥の部屋で司祭は困った顔をして半開きになった扉を見つめていた。

「はぁ…可哀想に…」

司祭が考えているのは、ついさっきまでこの部屋に同席していた少年ーーエルのこと。

魔力がないと判断されるのは極稀にある。

そう言う者が後になって魔法を使えたと言う話は極稀にしかなく、魔法については諦めて貰うしかないのだ。

しかし、どういうわけかエルは魔法が使える。
この世界で一般的とされる火、水、風、土、闇、光の全ての属性が使えるのだ。

なら、どうして水晶が反応しなかったか。
その答えは、水晶は魔力が送られて初めて反応を示すからだ。

エルは日常的に魔力を体内で制御している。それが裏目に出てしまった。
もしグラスに入っていた水…魔力水を怪しまずに飲んでいれば…建物が木っ端微塵に吹き飛んでいた。
もしエルが魔力を水晶に送っていれば…水晶が爆散していた。
もし少しでも魔力操作が拙ければ…その魔力を吸収した水晶がエルにしか分からない反応を示していただろう。

エルは最初から最後までそれらに気付く事がなく、司祭の言葉を聞き入れるしか出来なかった。

そして、エルは魔法を使えない子供と認定されてしまった。

エルが水晶の秘密に気付くのはずっと先の話。

「はぁ…。私はどうしてあんな事を言ってしまったかなぁ…。もう少し良い励まし方もあったのに…」

際奥の部屋で司祭は一人反省会をしていた。

カナテナ神の銅像は、そんな彼等を無邪気な笑みを浮かべて見守っていたーー。


●●●


ラフテーナの街にある数少ない飲食店。昼飯時にも寄った所に、またもや立ち寄っていた。

「なぁ、そろそろ教えてくれても良いだろ?」

「………」

さて、どう説明すれば良いのか。

魔力(マナ)がない?魔法が使えない?
実際に使えているのに、そう言うのか?

だけど、そう言われたし…。

「エルが言いたくないんなら別に良いけどよ、結果は後でウチに届くんだぞ?」

「………」

……届くのか…結果…。
仕方ない。正直に話すか。

「マロクない、言う、された」

「マロク?」

噛んだだけだ。繰り返すな。

「マリョク、だ」

「ああっ!なるほどなっ!魔力か!エルには魔力がなかったんだなっ!…って、えぇぇぇっ!?」

そんなに驚かなくたっていいだろ。
周りの人達…主に兵士達しか居ないんだけど、彼等の注目をいっぺんに集めてしまった。

ちょっと恥ずかしい。軽く会釈をすると、兵士達は笑顔で会釈を返して、自分達の会話に戻って行く。

それを横目にしつつ、父ちゃんに続きを話す。

「だが、使える。問題ない」

「使えるって…。魔力がねぇのに、魔法をか?」

「ああ」

試しに、指先に火を灯してみせる。
ライターの火を彷彿させる小さな炎。タバコが恋しくなる。

「………」

そんな事を考えつつ指先に灯った火から父ちゃんに視線を移すと…父ちゃんが固まってしまっていた。

口をあんぐりと開け、目をパッチリと見開かせて、まるで目の前で起きた光景が信じられないとばかりに顔全体で驚きを表現していた。

ただの火魔法がそんなに珍しいのか?
なんて疑問を抱きつつ、意識だけが遠くに行っちゃった父ちゃんを我に返す為に目の前で手を振ってみる。

「ハッ!?」

おっ、戻ってきたな。

「お、おま…っ!えっ!?なんでだ!?って言うか…えっ!?」

見るからに混乱してるのが分かる挙動をし始める父ちゃん。

少し落ち着けと、そんな意を込めて水の入ったコップを差し出す。

それを受け取った父ちゃんは、俺の意図を汲んでーー頭から被った。

「ふぅ…」

…ちょっと予想外だ。

「お客様!?どうなさったんですか!?す、すぐに拭くものを持ってきます!」

店員がびしょ濡れになった父ちゃんを見て慌てて厨房へと駆けて行った。
どうやら自分で水を被った所は見てなかったみたいだ。

「落ち着く、か?」

店員から受け取った布で顔を拭いている父ちゃんに尋ねる。

「ちょっとまだ混乱してるが…大丈夫だ。詳しく話してくれ、エル」

キリッと顔付きを真面目な表情に変えると、聞く態勢に入った。

「ああ」

それから、拙い言葉で俺が魔法を使える事をなんとか説明した。

幼い頃から使える事は言ってないけれど、代わりと言っちゃなんだけど『使おうと思えば使える』みたいな事を話しておいた。

ついでに魔力(マナ)を感じ取れるとか見えるなんて事も説明しようとしたけど、俺の言葉が下手すぎて理解してもらえなかったから諦めた。

余計に話をややこしくしただけだったからな…。

「なるほど…よく分かった。お前は魔法が使えるんだな」

説明に少し時間が掛かったけれど、理解してもらえたようだ。

司祭には魔力がなくて魔法の才能はないって言われたけど、実は魔法が使えるんだって事を。

「んじゃ、これからは人前で魔法を使うのは禁止だ」

「…?」

どうして?

「教会で魔法が使えないって言われたのに魔法が使えたらおかしいだろ?」

「水晶、壊れる、してる」

「アーティファクトがそんなに壊れたりしねーよ。兎も角、だ。お前が魔法が使える事を誰にも知られんじゃねぇーぞ?」

いつにもなく真剣な表情で忠告をしてくる。

どうしてそこまでして止めるのか。
その理由が知りたい。

「知られる、なら?」

「あー…そうだな。もし知られたりしたら、悪魔憑きだとか何だとかで確実に処刑されるな」

マジかよ…。

そうなる前に父ちゃんに話しておいて良かった。
これからは十分に気を付けよう…。


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コメント

  • トラ

    神様の説明であった「信行」についてですが正しくは「信仰」で誤字になっていますよ

    1
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