自称『整備士』の異世界生活

九九 零

16

4話抜けてましたので、ちょこちょこやり直しました。

気が付けば令和ですね。私は仕事ばかりで、年号が変わっても普段通りの毎日です。( ︎ ՞ਊ ՞) ︎







サルーク。それが俺達がついさっきまで居た街の名前だそうだ。
本当なら今日着く予定だった筈なのに、なぜか起きたらサルークの宿屋に泊まっていた。

訳がわからない。

その後、起きた後に色々とあったけど、記憶に強く残っているのは筋肉と筋トレぐらいだ。
あ、あと、フィーネと仲良くなった。いや、仲直りか?

どっちでもいいや。

そんな事があったけど、俺達は何事もなく街サルークを後にする事になった。

「帰ったら続きを教えなさいよねっ」

と、フィーネが別れ際に偉そうに言っていたのは、ついさっきの事だ。

ちなみに、片目はまだ見えない。

そんな俺だが今は馬車の荷台でのんびりしている真っ最中だ。片目が見えないのが慣れて始めていて、なんだか気にならないようになってきた。

たまに物を掴もうとして空を掴んだり、階段から足を踏み外しそうになったりするけどな。

父ちゃんは相変わらず出発早々グースカと寝ていやがる。気持ちよさそうな寝顔を見ていると理由もなく腹が立ってくる。

が、それはひとまず置くとしよう。

現在、馬車に乗っている乗客は俺と父ちゃんだけで護衛の冒険者すらいない。
聞けば、次の街まで魔物が余り出ないらしくて比較的に安全なんだそうだ。

御者は半分上の空のような状態で操縦をしているため、誰も俺を見ていない今この現状は俺にとって絶好の機会となっている。

人目のある所では出来ない事や、ちょっとした調べ物など。周りに知られたくない事などが出来る最高の時間だ。

まずやる事は…決まっている。

魔石を調べる。隅々まで事細かに。ずっと楽しみにしていたんだ。

俺の隣に置いてある木箱の蓋を開けて、中から魔石を一つ取り出す。

見た感じで判断すると宝石のように見えなくもない。
だけど、内側からマナが感じ取れる。量としては、父ちゃんの保有マナ量の極一部。簡単な魔法一発で全て使い切ってしまいそうなほど少ない。

異空間倉庫ガレージからルーペを取り出して、ジックリと観察する。

魔石は自然に出来た石のような形をしていて、形は不揃いだ。
試しに割ってみようと力強くで握り潰そうとしてみたが、そこらの石なんかよりも頑丈のようで割れなかった。

ハンマーで叩いても、矢を穿っても、同じ魔石同士で叩き合ったりしても、ヒビの一つも入らない。

ならば、と。灼熱に燃える空間を手元に作り出して、鍛治をするようにハンマーで叩いてみたが…それでもビクともしない。
ヤスリで削っても傷の一つも付かず、どれだけハンマーで殴ろうとも割れる兆しすらない。

「ダメ、か…」

余りの頑丈さに割るのを諦めてしまうほどだ。

おっと、最後の手段を試してなかったな。

物質にマナを過剰量送り込むと爆発すると言う原理を利用した方法だ。
これまで何度かマナを物質に保存しようとして失敗を繰り返し、苦渋を舐めさせられた嫌な思い出があって出来れば避けたかった。でも、こうなっては仕方がない。

周囲へと被害が出ないよう細心の注意を払う為に、魔石を異空間倉庫(ガレージ)へ移動させる。
ここなら爆発しても問題はない筈だ。

次に、魔石にマナを送る…送る…送る……ん?帰ってきた?

こんな事は初めてだ。違和感しかない。
自分の流したマナが逆流してきたみたいな感じで、なんだか体がムズムズする。

その後、どれだけ魔石にマナを流し込んでも全て俺の元に帰ってきた。
異空間倉庫(ガレージ)内の魔石は爆発していないし、取り出して確認しても、入れた当初との変化はない。

なぜ?

…………あっ、なるほど、そう言う事か。
魔石は頑丈だった。それこそ、ハンマーで殴り続けてもヒビの一つも入らないし、高熱に晒されても割れないほどに。

要は、それほどまでに頑丈だからこそ、内側を爆発寸前まで圧迫するマナの圧力に耐えきれたんだろう。
例えるなら、風船の中に水を入れ続けると水圧に耐えきれなくなった風船は破裂する。だけど、鉄の箱に水を入れると箱は水圧に耐えて入り口から逆流してくる、みたいなものだな。

そんな考えで合っているのか分からないけど、そう考えると納得が行く。

なるほど、なるほど。これはこれで面白いな。
他にも色々と調べ甲斐がありそうだ。


○○○


サルークを出発してから一日と半分ほど。距離にしてみれば、おおよそ170km。
休憩などを無視しての計算だ。

とまぁ、それはさておき。

次の街に辿り着いた。
この街の名前はアミルカル。サルークを見てからだと見劣りするような街だ。

サルークの半分ほどの大きさ。街を囲う壁も石垣を積み上げたようなもので、そんなに高くもない。
大人が頑張れば乗り越えれるような壁で、本当に街なのかと疑いたくなるような地だ。

「ここは迷宮都市って言われていて、街の中央にアルミカルって言う大迷宮があるんだ。そこに冒険者が集まってこの街が出来たんだよ」

御者の人がそう教えてくれた。

そうか、なるほど。

「メーキュー?」

とは、なんなんだろう?
食い物か?あの冒険者が集まって街が出来るぐらいだし、メーキューって名前の名物みたいなものが街の中心にあるのかな?

っと、冗談はそこまでにして。

メーキューってのはなんだ?
そんな言葉は初めて聞いたぞ。

俺はまだこの世界の言葉は半分も知らない。
だから、御者の言っている言葉の意味が分からないんだ。

「迷宮だね。聴いたことないの?」

「ない」

「そうなんだ。簡単に説明するとだね…魔物が沢山出る所かな?」

それは…。

「危ない」

「そうだね。でも、魔物が出るのは迷宮の中だけで、その迷宮があるお陰でこの辺りの魔物は少ないんだよ」

「なぜ?」

訳が分からない。
メーキューの中だけ魔物が出てきて、メーキューがあるお陰で魔物が少ない?
新手のナゾナゾか?

「ごめんね坊や。僕は専門家じゃないから詳しい事は分からないんだ。知りたければ冒険者ギルドに行けばいいと思うよ。あそこなら教えてくれる筈だからさ」

うーん…知りたいのは山々だけど…冒険者ギルドはなぁ…。

「ハハッ。まぁ、冒険者の人達は怖いよね。でも、ちょっと顔が怖いだけで中には気の良い人もいるんだよ?」

顔に出てたか。

御者の言いたい事は分かるさ。良く知っている。
俺が冒険者ギルドに行きたくないのは他の理由があってのことだ。

「っと、到着だね。停留所に着いたから、お父さんを起こしてあげて」

「ああ」

言われなくても。

「Zzz…Zzz…Zzカハッ!?」

必殺、エルボードロップ。

飛び上がり、落下する勢いを利用して肘で父ちゃんの鳩尾に強烈な一撃を与える技だ。

まぁ、所詮は子供の力で、それほど威力はないから、幼い子供が戯れで飛び込んでくるみたいなもんだろうけどな。

「〜〜〜っ!!」

なのに、父ちゃんは相変わらず大袈裟だ。
まるで本当に痛がっているかのように、腹を抑えて悶絶している。さすが大根役者だな。

「…………」

御者はそれを見て乾いた笑みを浮かべている。おそらく、父ちゃんの痛がり方がワザとらしく見えるんだろう。

俺もそうだ。

「起きた、な」

「起きたな。じゃねぇよ!痛ぇよ!!もっと優しく起こしてくれって何度も言ってるじゃねぇかよっ!!」

「起きない、悪い」

今回は声を掛けてないけどな。

「うぅっ…」

論破されて悔しそうに歯を噛みしめる父ちゃん。
少し涙目だ。

それはさておき。

「行く。早く宿、急ぐ取る」

……なんか違う?

宿を早くとった方が良いって言いたかったんだけど…。

「そうだけど!そうだけどよっ!」

まぁ、父ちゃんが理解してそうだからいいか。

「行く、ぞ」

「はぁ…な、なぁ…エル?もう少し父ちゃんに優しくしてくれても良いんだぞ?」

色々と諦めたような顔をして溜息をついた後、頑張って作ったような笑みを浮かべて言われたが…。

「優しい」

「どこがだよっ!」

全力で否定された。
これでも優しくしてるつもりなんだけどな。

ちなみに、今回の運賃は先払いだ。


○○○


この街は冒険者達から迷宮都市アミルカルと呼ばれるらしい。

そう父ちゃんから聞かされたのがついさっきの事。御者から聞かされてた内容と同じで聞き流していた。

宿を取ってからは別行動だ。父ちゃんは冒険者ギルドに向かったので、俺は宿屋でボンヤリ天井のシミの数を数えている。

たまには休暇も必要だと思って、こうして休んでいる。

なにもせずにボンヤリとすると言う時間の浪費。しかし、たまには良い。
これまではずっと愛車達の事や研究や調べ物ばかりに気を取られていて頭を休める暇なんてなかった。

でも、頭を休める日だって必要だ。

なぜか今日は無性に眠たかったし、酷く疲れていた。だから、このまま寝てしまうのも……。

「スー…スー…」


○○○


気が付けば朝になっていた。
どうやら、昨日はそのまま寝落ちしてしまっていたみたいだ。

隣のベッドでは父ちゃんがイビキをかいて寝ている。

そんな父ちゃんを横目に宿の部屋を出て、日課になりつつある筋トレをしに井戸のある裏庭へと足を向ける。

目指すはゴリマッチョ。
褐色肌のムキムキマッチョマンを目指して、今日も今日とて朝、昼、晩欠かさずに筋トレに励む。

昨日の晩はサボってしまったけど、それはそれ、これはこれ。

そんなこんなでアルミカルを出立。一週間と少しの昼前に、ようやくラフテーナに着いた。

ラフテーナは城塞都市と呼ばれる街で隣国に一番近い街だ。見るからに隣国からの進軍に備えられている。
これまで見てきた街のどれよりも街の壁は強固に作られていて、対魔物ではなく、対人間用の武装が壁のあちこちに設置されている。

壁の上部にはカエシのついた針があり、あちこちに弓兵用の小さな穴。大砲の筒が大量に突き出している。

物騒だな。

街を囲う壁を潜ってすぐの馬車の停留所に着くと、兵士達に囲まれて積荷や身体検査をされる。

前の街で予め聞かされていて良かった。

武器の類を持ち込むと、冒険者でない限り取り上げられるらしいんだ。
なので、大抵の人は前の街で宿屋などに預けてからこの街に来るらしい。

それはさておき。

俺はそんな不安要素を作らない。初めて会った人に大切な物を預けるなんて、信用しきれない。
だから全て持参したままだ。

新型ボウガンの他に大量の魔石と作り置きしている簡易スクロールの山。
ちょっとした武器庫だ。

ちなみに、魔石も武器になる。
調べた結果、魔石の中には液体が入っている事が判明した。マナを吸収、又は放出する液体だ。

その液体を外界…空気に触れさせると大爆発を起こす。
それもそのはず。以前実験した事があるんだけど、周囲のマナ濃度よりも濃いマナを一箇所に放出するとマナ爆発が起きる。
液体はマナを大なり小なり含んでいて、どれも周囲のマナ濃度よりも濃いマナを保有しているから起きる現象だ。

どちらにしろ、爆発するのは当然の結果だな。

そんな事も考えずに試してしまって痛い目を見たのは最近の話だ。

なので、全ての魔石は異空間倉庫(ガレージ)に移動済み。ボウガンも簡易スクロールも全て異空間倉庫(ガレージ)に移動させている。

父ちゃんには前の街で預けたって言って誤魔化した。

「よし。行っていいぞ」

そして、武器の類は一切持ってない俺と一応冒険者の父ちゃんに街での行動許可が降りた。

兵士の許しが出たので、父ちゃんと共に宿屋へと移動を開始する。

停留所を離れて暫くして、ふと道中で素朴な疑問が浮かび上がってきた。

「父ちゃん。なぜ、ラフテーナ、だ?」

わざわざラフテーナなんかに来る必要なんてなくないか?
そんな素朴な疑問を今更思った。

「ん?話してなかったか?理由は二つあるんだが、一つは、ここに昔のパーティーメンバーの一人が…つっても分からねぇよな。昔、冒険者をしていた頃の仲間だった奴が居るんだ」

なるほど。

「会いに来る、した?」

「一応、顔を合わせておこうかと思ってな。お前の紹介もしなきゃなんねぇーし」

どうして俺の紹介をしなければならないんだ?

「それにしても、アイツと会うのも久し振りだなぁ。あれ以降一度も会う機会なんて無かってのに、アイツから手紙が届いた時はそりゃ驚いたぜ」

聞いてもいないのに父ちゃんは遠い目をして過去を省みながら語り始めた。

少し冒頭だけ聞いたけど、正直、凄くどうでもいい話だったから聞き流しておく。

父ちゃんの話を聞き流しながら街中を観察していると、すれ違う人がほとんど兵士だと言う事に気が付いた。

さすが要塞都市と言うべきか。まるでこの街全土が軍事基地のような感じだ。
見える建物も、ほとんどが工場みたいなのや研究所みたいな建物ばかりで、武器屋や道具屋の類が全くと言っていいほどない。

宿屋らしき建物すらないほどだ。

見える限りでは民家の類もなさそうだ。本当に軍事基地にしか見えない。
っと思っていると、教会のような大きな建物が目に入った。なぜか、向かい合わせで隣接して建っている。

なぜ五つも?

なんて思っていると、その問いに父ちゃんが答えてくれた。

「ん?どうし…あぁ、アレか?この街に始めて来た奴はみんなアレを見て同じ反応をするよな。確かに、教会が五つも並んでるとおかしいよな」

でもな、と言葉を続け。

「ここに住んでる全員が同じ神様を信仰してる訳じゃないからな」

「………」

え?終わり?

「どうした?」

いや、どうしたって…五つも教会を同じ場所に建てている理由が知りたいんだけど…?

これまで立ち寄った街にも教会があったのはあったけど、どこも教会は一つだけだったはずだ。ましてや密集なんてしてなかったから、余計に違和感しか湧かない。

「あっ!そうか!さては、どの教会で神の祝福を受けるのか知りたいんだな?」

違う。

父ちゃんは俺の考えを当てたと勘違いして、したり顔を浮かべている。腹立つ顔だ。
殴りたくなる。

「ふっふっふっ」

マジで殴るぞ?

「おいおい。少しお前の考えを言い当てただけでそんなに怒るなよ」

なんて陽気に笑って俺の背中をバシバシと叩いてくる。

「取り敢えず、その拳を下ろせって。な?エル?…ホントに下ろしてくれない?なぁ、頼むから下ろしてくれって…なぁ、エル…?父ちゃんが悪かったからさ…」

徐々に父ちゃんの顔から笑みが消えて、及び腰になり始める。

「父ちゃん、悪い」

「そうだ、父ちゃんが悪かった。だから、許してくれるよな?」

「ああ」

俺が頷くと、父ちゃんはニッコリと笑って態勢を整えると、俺の頭に手を置いた。
まるで、許されたとばかり思ってそうな笑みだな。

「グフっ!?」

そんな訳ないのにな。

俺の拳が父ちゃんの鳩尾に突き刺さり、父ちゃんの身体がくの字に折れ曲がった。
…ちょっと浮いたか?

気の所為か。

「ヒデェよ…エルゥ…」

腹を痛そうに抑えて前屈みになる父ちゃん。
でも、所詮は子供のパンチ。そんなに痛くないだろう。

「どの教会する、だ?」

「合ってんじゃねぇかよ…」

違う。
さっきまで考えていた事を忘れただけだ。

「はぁ…」

溜息を一つ吐く父ちゃん。腹をさすりながら態勢を元に戻した。

「この街に来た理由のもう一つがそれだ」

「どれだ?」

それだ、と言われても分からないぞ。

「この街なら好きな神様を選べるんだ。俺はファフテナ教徒だが、母ちゃんはエンリス教徒だからな。お前はどれが良い?好きに選んでいいぞ」

好きにと言われても…そもそも俺はこの世界の神を知らないんだ。
せめて、どう言った神様なのかの説明が欲しい。




コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品