自称『整備士』の異世界生活

九九 零

13

続きが気になる、などのコメントありがとうございます!
半分自己満足で書いているものですが、そう言って頂けると凄く嬉しいです。

嬉しさで執筆が凄く進みます!

ありがとうございます!






足場が悪く、全く整備されていない森の中を一台の馬車がガタゴトと音を立てて進んでいる。

馬車は急いでいる訳でもないのに、小石や木の根を踏む度にガタンッと車体を大きく揺らし、荷台からは啜り泣く声が密かに聞こえてくる。

そんな時、唐突に揺れが止まった。

馬車が停止したのだ。

御者の男がカンテラを手に取って蓋を開け締めする。と、前方の闇に小さく松明の火が灯り、点滅を数回繰り返した。

「へへへっ」

ニタリと笑って御者は馬に鞭を打って歩みを再開させる。

前方の灯りはもうない。しかし、進む道に迷いはなく御者は馬を進める。
そうして暫く進んでいると拓けた場所に出た。

つい先程までは一寸先ですら暗闇だったにも関わらず、そこには古ぼけた遺跡を照らす沢山の松明が立て掛けられている。

古ぼけた遺跡は数千年前の人工物だ。まるで砦を連想させる形をしており、壁や柱と言った遺跡を形作る物は全て謎の鉱石を削り出して作られている。

そんな見る人が見れば計り知れない価値のある遺跡を彼等ーー盗賊達がアジトにしていた。

この遺跡はかなり広大で、地上に出ている砦部分は所詮一部に過ぎない。百を超える盗賊達が根城にするならば、おあつらえ向きな地だろう。

だが、彼等がここを根城にした理由は大きい以外にもう一つある。それは、この遺跡全体に掛けられた今は失われた古代魔法。

ーー空間魔法。

外側からは遺跡はおろか、松明の灯りさえ見えはしない。この地は空間魔法によって外と隔離され、特殊なアーティファクトと呼ばれる古代技術の遺産がなければ出入りが不可能な世界。

まるで、陸繋ぎの孤島。
ここを根城とする盗賊達しか知らない秘境の地だ。

遺跡周辺には朽ちた壁があり、そこに二つ灯りがある。
盗賊の下っ端見張りが持つ松明の灯りだ。

見張りの一人が松明を大きく振るうと、御者は松明を振るい返して馬車をゆっくりと停車させた。

見張りの二人が馬車に駆け寄り、回り込んで荷台の垂れ幕を捲って積荷を確認する。

「おっ、今日は上玉ばかりだな」

「手を出すと親分が怒るぞ?」

「出すわけねぇだろ!まだガキじゃねぇか!俺のタイプは熟女だっつーの!」

「知ってる」

「だったら言うなよ!」

そんなやり取りの後、見張りの二人は垂れ幕から手を離して御者の元に向かう。

「もういいぞー」

「へへッ」

見張りが声を掛けると、御者は気味の悪い笑みを浮かべて馬を進ませ始めた。

馬車が古ぼけた遺跡へと進むのを横目に、見張りも持ち場に戻りつつ明日の食事に想いを馳せる。

「明日はご馳走だな」

「だろうな」

「なんだよ。楽しみじゃねぇのかよ」

「俺は報酬の方が楽しみだ」

「あー。お前はそう言う奴だったな」

やれやれと言った風に見張りの一人が肩を竦めた。刹那ーー。

ガシャーーンッと音が鳴り、つい先程朽ちた壁を通り抜けたばかりの馬車が転倒した。

「おいおい。大事な品物が入ってるのに何してんだよ。親分に殺されるぞ」

そう言って駆け出そうとする見張りの一人。
しかし、もう一人が訝しげに転けた馬車を見て、駆け出そうとする相方の肩を掴んで制止させる。

「……いや、待て。よく見ろ」

「よく見ろって一体何を…ん?ありゃあガキか?いつ逃げたんだ?」

馬車に取り付けられていたカンテラが外れ、転けた馬車の少し前を照らし出している。
そこには、立ちはだかるように仁王立ちしている小さな子供のシルエットが見えた。

「違う。アレは乗っていなかった」

見張りの片方は夜目が利く。
だから、その者が馬車に乗っていた者かどうかの判別は容易に出来た。

まるで闇の化身を錯覚させるような黒髪。瞳は黒と赤のオッドアイ。中性的な顔には何の表情もなく、赤目の右眼からは血の涙を垂れ流している。

どう見たって普通じゃないのは明らかだ。

しかし、もう一人にはそれが見えていない。
薄暗闇に子供のシルエットが映っているだけだ。

それでも、理解はできた。

「それじゃあ…」

それが何者か思い至った。

「ハッ。英雄気取りのガキかよっ。どうやってここに入れたか分からねーが、ここがどこだか教えてやらねーとな」

普通ならばこんな所を探し当てる事なんてできるはずもなく、専用のアーティファクトがなければ入る事さえ不可能だ。
なのに、少年はこの空間に入り込み、どうやってか馬車を転かせてみせた。

なのに、見張りはそこまで思考が至らなかった。
街から攫ってきた商品・・を奪い返しに来た英雄願望のあるガキだと、そう思ったのだ。

相方が一歩退がったのに気が付かず、少年を見て嘲笑う。

「おいガキっ!テメェ、ここがどこだか分かってんのか!?今なら見逃してやってもいい!死にたくなかったら、大人しく家に帰ってママのお乳でも飲んでろっ」

子供を脅すのは剣を見せるだけで十分だ。いざ戦いとなっても、子供相手に負けるはずがない。

そんな驕りを持って、腰に吊り下げる鉄剣を引き抜いた。

刹那ーー一陣の風が吹き抜け、剣の刃がポロリと音を立てて地面に落ちた。

「は?」

一瞬、なにが起きたか理解できず呆ける見張りの男は、手に持つ剣の持ち手と、地面に突き刺さる刃を交互に見てーー。

「は?」

現実に起きた事が理解できずに再び疑問を口にした。

その後方で相方は呟く。

「ヤバい…アイツはヤバい…」

数歩後退したと思えば、反転し、森の中へと脱兎の如く逃げ出して行った。

残された見張りの男は、相方が逃げた理由が分からずに呆然と立ち尽くし…あんな奴は放っておけばいいか。と切り捨てて自分の役割を思い出して急いで子供へと視線を戻す。


●●●


天を駆けていると、突如としてフィーネの気配が掻き消えた。

魔力感知でも感知しきれない謎の場所に入ってしまったみたいだ。

空から見ても、そこには何もない。
魔力もなければ、森も、地面も、何もなかった。

まるでそこだけ空間をくり抜いたような。そんな感じを受ける場所。

でも、俺にはわかる。
サルークで見た街を覆うほどの防御魔法のように、その辺り一体をマナが包み込んでいるのが。

ハッキリした詳細までは判らないが、考察は後だ。取り敢えず、マナの膜を突き破って中に突入する。

すると、外からは見えなかった景色が現れ、すぐにフィーネの気配を捉える事が出来た。

どうも、布の掛けられた箱馬車の荷台に居るようだ。

自由落下しつつ、馬車の目的地はその先の遺跡だろうと予測を付けて足止め程度に風魔法を軽く放つ。

と、少し強すぎたのか、馬車の車輪を破壊してしまって転かせてしまった。

誰も怪我してないよな?

取り敢えず馬車の前に降り立つと、なにやら奥にいる人が剣を抜いて叫んでいるのが聴こえてきた。
何を言ってるのか理解しようとして…めんどくさくなって、危険そうな剣を風魔法でぶった斬るだけにして放っておく。

どうでもいい事に時間を割くよりも、まずは負傷者の確認をと思って転けた馬車の中を覗き込む。

すると、そこには泣きじゃる子供達がいた。
まるで牢のような籠に俺と同じぐらいの子供達が閉じ込められ、もみくちゃになっていた。

まぁ、もみくちゃになったのは俺のせいだと思うけどな。

……なんとなく状況は理解した。
兎に角、出してやろう。


●●●


そこには既に解放された馬車の積荷。彼等が攫ってきた少女達の姿があった。

馬車の荷台にあった筈の牢は細切れに切り刻まれ、無事な姿で脱出を喜び、その後の事を考えて不安がる少女達の姿がある。

「一体、なにが…」

見張りの男の呟きが聞こえたのか。いや、絶対に聴こえていないはずだ。なのに、赤眼の子供と目があった気がした。

訳も分からず。だが、本能が見張りの男の身体を動かし、一歩、二歩、三歩と無意識に後退りさせた。

それが何なのかは分からない。
ただの子供にしか見えない。

だけど、なぜかその赤眼は無性に男の恐怖心を煽る。決して関わってはいけない人間だと本能が警報を鳴らす。

たった一瞬見られただけ。なのに、その赤眼が彼を捉えた瞬間、心に芽生えた恐怖が急激に膨れ上がる。

四歩、五歩、と後退りし、男は子供達の背後へと視線を向け、安堵の息を吐いた。

遺跡には彼の仲間の盗賊達が大勢居る。その半数ほどが騒ぎを聞きつけたのか遺跡からゾロゾロと出てきた。
…いや、違う。その大勢の一番前に居るのは、馬車を操縦していた御者だ。

きっと御者が呼んできたのだろう。

弱気になっていた心に仲間が来た事で火が灯り、新たに短剣を手に取る。

そしてーー彼の持った短剣の刃がポロリと落ちて、地面に突き刺さった。

「……は?」

疑問の声を上げたのは彼だけじゃなかった。

「あ?どうなってんだ?」
「あぁっ!新調したばっかりだってのにっ!」
「壊れちまったのか?」
「けっ!アイツ、古を渡しやがったな」

他の者達の剣や短剣。先端が尖った刃の類は例外なく根元からポロリと落ちていた。

周囲から憤怒や困惑などの声が漏れる中、少年は片手で易々と転けた馬車を起き上がらせていた。

「おいっ!そいつらを逃がすなっ!!」

ある者が声を上げて新たな剣を腰から引き抜くと、刃が即座にポロリと落ちる。

ある者が慌てて弓に矢を番えると、弓の弦がプツンっと千切れる。

ある者が魔法を放とうと杖を構えると、その杖は木っ端微塵に砕け散る。

皆が皆、困惑を示す。

子供達に向けた剣が。槍が。斧が。弓が。杖が。尽く壊れる。
まるで、運命が彼等に武器を向けてはならないと示しているようで…。

「ちっ!なら、これならどうだ!?」

ある者が壊れた武器を捨て、武器がないなら素手で捕らえてやる。と言わんばかりに子供達に襲い掛かった。

だが、それは一番やってはいけない事だと、見張りの男は本能で分かった。

そして、本能の言う事は正しかったのだとすぐに証明された。

素手で襲い掛かった男は、もう少しで少女達に触れれそうになった瞬間ーー手が。腕が。肩が。まるでミキサーに掻き混ぜられたかのようにズタズタに引き裂かれ、最後に仲間の元まで吹き飛ばされた。

始めの者に続いて素手で捕らえに向かった者達も同様の状態となって送り返される。

それはまるで、風の精霊シルフの加護を受けているかのようで…誰も近付けず、激痛にもがき苦しむ末路を辿る。
それでも向かって行く者達は、先程よりも酷い有様となって送り返され、身動き一つ取れなくなる。

誰もが臆病風に吹かれて足を地面に縫い付け、動けなくなる。
見張りの男もその一人だ。

少年が負傷して動けないでいる馬に触れると、馬の傷はあっという間に癒やされ、怪我していたのが嘘のように立ち上がった。

まるで幻覚でも見せられているような光景に、呆然とそれを眺めていた見張りの男は目を疑った。

その少年は年端もいかない子供だ。にも関わらず、魔法を手足のように使いこなしている。それだけじゃない。呪文を呟いた素振りもなければ、魔法を発動させる媒体となる杖すら使っていない。

他の者が隠れて魔法を使っているのかと疑いを持ちはするが、なぜだか少年自身が魔法を行使しているようにしか思えないのだ。

しかし、それは絶対に有り得ない光景で…。

「不味いぞ!逃がすなっ!!」

誰かが叫んだ。その言葉に子供達を絶対に逃がさないと盗賊達は躍起になり、使い物にならない武器を捨て、全員で飛び掛かる。

これなら何人かは辿り着ける筈だと。逃げようとするガキ共を捕らえれる筈だと。そう信じて疑わずーー全員が大怪我を負って送り返された。

それも、今度は全員が重症だ。腕や足が千切れている者もいるほど、凶悪極まりない反撃によって動けなくなった。

ただ一人。見張りの男だけはそれに参加していなかった為、無事でいられた。
それ以外は全滅だ。

その間に子供達は馬車の荷台に乗り込んでおり、少年が馬を操縦しようとしている。しかし、馬の操縦が上手くいかないようで戸惑っているようだ。

そんな時、少年の赤眼が再び見張りの男を捉えた。
見張りの男はビクリと恐怖に身体を反応させ、しかし動けずにいる見張りの男の元に、ゆるりとした動きで少年が近付いてきた。

逃げようと足を動かし、足をもつれさせて転ぶ。立ち上がろうとしても腰が抜けてしまい立ち上がれない。
本能が逃げろと叫ぶが、地面を這って後退するのが精一杯。

そうこうしている内に、少年が男の足元に立ってしまった。
恐る恐る視線を上げれば、何の感情も篭っていない不気味な赤眼が男を見下ろしている。

少年の周囲は常に一定の風が渦巻き、足が触れた先から雑草を刈り取り、宙へと巻き上げている。

これが子供?馬鹿を言うな。化物の間違いだろ。

一瞥もせずに武器をヘシ折り、近付く者は全て倒してしまう圧倒的な力を持つ不気味な子供を前にして、チョロチョロと失禁しながら男はそう思った。

逃げる事は叶わず。されど、見逃してくれる筈もなく。
ただ目の前の存在に怯えて両目を固く瞑る事しか出来ず。

「ソ、ジュー、し、ロ」

「…へ?」

この子供は何を言ってるのか。
少し考えた。考えた先に出た答えは『操縦しろ』と言われているということ。

まさかの発言に間抜けな声が口から漏れ出た。

見張りの男は彼にとっての敵であり、殺すべき対象の筈である。
にも関わらず、まさかの発言。

それは余りにも予想外で、どう返答すれば正解なのかと戸惑い、迷う。

少年の瞳が僅かに細められ、質問となって問われる。

「でキ、ナい、カ?」

「………できる」

あれほどの人数を相手にしても戦意すら見せずに倒してしまう化物の質問に嘘を吐く度胸なんて彼にはなかった。

あの者達と同じ末路を辿らない為には、正直に答えるしか方法が思い付かなかった。

「まチ、ダ」

その言葉に否とは言えなかった。


●●●


私の夢は冒険者になること。
冒険者になってアイツを見返すこと。

それが私の夢。

なのに、どうして。どうしてよっ。

私は頑張ってるのに、どうしてもアイツには届かない。
さっきもそう。

私はアイツに…エルに助けられた。

悪い人達に攫われて泣いていた私を平然とした顔で「カリーナ、シンパイする、してタ。カエる、ゾ」なんて言って助けに来た。

これで二度目になる。

くやしい。

助けてなんて言ってないのに、アイツは必ず私がピンチの時に現れる。
そして、私が敵わない敵を何でもないかのように倒してしまう。

どうして私はアイツに勝てないのよ。

魔法を使えるようになって、ようやくアイツより強くなれたと思ったのに、また私は助けられてしまった。

いつも頑張って強くなろうとしてるのに、どうしてアイツはいつも私の前を行くのよっ。

どうして…。

啜り泣く私の頭にポンっと温かい手が置かれて顔を上げてみれば、いつもと変わらない顔をしたエルが私を見ていた。

その顔を見ていると、私なんて眼中にないって言ってるみたいに見えてくる。

私はその顔が嫌い。

何も言わず、黙って隣にいてくれる。

そう言う所も嫌い。

私はずっとエルに勝ちたいと思っていた。
あの日からずっと見返してやりたいと思っていた。

私よりも弱くなったエルを見て笑ってやろうと思っていた。私がエルのピンチに駆け付けて威張ってやろうと思っていた。力を見せつけてやろうと思っていた。

…なのに。なのに、どうして私より強いのに威張らないのよ。

どうして私にこんなにも優しくするのよ。

私はそんなエルが嫌い。

その無表情な顔も、優しい所も、威張らない所も、何もかもが嫌い。

なのに…どうしてこんなにもエルのそばに居たら落ち着くのよっ!
どうして撫でられて心地よくなってるのよっ。

嫌いよ。エルなんて大嫌い!

大嫌いなんだからっ…。





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