自称『整備士』の異世界生活

九九 零

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「マシェキが…マシェキがこんなにも…あぁ、最高…最高、だっ!」

「嬉しそうで何よりです」

ニッコリと微笑んで自分の事のように喜んでくれるアリアンナ。

「ありが、とうっ!感謝っ!」

嬉しさのあまり、小躍りしたくなる気持ちをぐっと堪え、代わりにアリアンナの手を掴んで全力で感謝の念を伝える。

なにせ、マセキが木箱二つ分も買えたんだ。
中身は大小様々だけど、なんと、こんなにも買って金額はたったの金貨10枚!

お得だ!凄くお得だ!正規の値段とか、金の価値とか全く知らないけど、たぶん凄くお得だ!

これなら実験で幾つか使い潰しても大丈夫だし、これだけあれば作れる物の幅が格段と広がり、夢も広がる!

気分が舞い上がってしまうのも無理はない!

しかも、だ。俺が大喜びしてるのはそれだけじゃないんだ!

から魔石なんて何に使うんだい?まぁ、どのみち廃棄予定だし、貰ってくれた方がこちらも助かるんだがね」

中身が空…厳密には、内部の魔力を使い切ってしまい使えなくなったもの。
何度も充填して使用したが、遂に限界が来て魔力を込められなくなって捨てる予定だった物を無料(タダ)で譲ってくれる事になった。

充電式の電池を使いまくって充電が出来なくなった。みたいな感じの認識だ。

そんな物でも、くれるなら幾らでも欲しい!潰し、壊し、分解し、中身を調べたいんだ!

聞いた話じゃ、魔石は魔力を込めるのに専用のスクロールが要るらしいので、それも幾つか買った。
あと、色々と気になる物を購入し、合計で金貨40枚と少し。

だいぶ所持金は減ったけど、それでもまだある方だ。金は天下の回り物と言うし、必要最低限だけ残していれば大丈夫だろう。

「ミリアも!ミリアも褒めて!」

「ああ。感謝、だ。ミリア」

確かに、ミリアが『魔石はこれだけ?』って言ってくれたのが空魔石を手に入れるキッカケだったからな。
アリアンナ同様に感謝しているに決まっているだろうに。

ワシワシと礼を言いつつミリアの頭を撫でてやると、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに飛び跳ねて小躍りし始めた。

俺も飛び跳ねたり、小躍りしたいほど嬉しい。

恥ずかしいからやらないけど。

「気になったんですけど、こんなにも魔石を買って何をするんですか?」

魔石の入った木箱を今夜泊まる予定の宿に届けてもらうように店主のオバさんと契約を交わし、その契約書を貰うまでの時間。

ふと、アリアンナが疑問を投げかけて来た。

「アイ…」

「アイ?」

愛車を作るため。と言おうとしたけど、そんな事をいっても理解されないのは分かっている。

だから、それは一先ず忘れてくれ。

「物作る、する。俺、研究、する、してる。たくさん、マシェキ、必要」

「研究者さんなのですか?」

首を振って否定する。

「セービシ」

もうこれで通しておこう。

前世は前世。今世は今世だと割り切っていたけれど、俺は研究者みたく頭が良くないし、かと言って俺は何かを修理するぐらいの能力しかないからな。

だから整備士だ。
整備して、修理する。安全、安心を与える存在。俺らしくていいじゃないか。

「整備師さんなのですね。それでは、私の家の馬車も頼めば見てくれるのでしょうか…?」

「ああ」

馬車も"車"と付いてる時点で俺の管轄内だ。
見て欲しいと言うなら幾らでも見るし、構造は大まかに把握しているから修理だって出来る自信はある。

「そ、それでは、どこに頼めばエルさんの整備場に出せますでしょう?やっぱり、ミリッテでしょうか?それとも、アラスティーヌでしょうか?お父様が馬車を一台修理に出したいと仰っておりまして、それをエルさんの所に出したいと思っているのですけれど構いませんか?」

随分と饒舌になったな。
初めて会った時よりも積極的だし…少しは打ち解けたか?

そんな事より、ミリッテ?アラスティーヌ?それが現存の整備場なのか?

知らない名前ばっかりだ。

「俺、整備ジョ、ない。だが、問題ない」

「…?」

俺は道具さえあればどこでも整備できる自信がある。って言いたいんだけど…どう言えば伝わるかな…。

「どこでも、問題ない。できる」

特に、馬車なんてのは構造が簡単だから特殊工具も必要ない。ハンマーとノコギリと釘だけで事足りるだろう。
もし他に必要だったとしても、魔法で作ってしまえば良いだけの話だしな。

「本当ですかっ!?」

うおっ!?
初めてアリアンナが大きな声を出して、俺が逆に驚いてしまった。

そう言えば、妙にミリアが静かだと思ったら、アリアンナの背後でニタニタ笑いながら俺達の会話を静かに見ていた。

本当に憎めないやつだ。

ちなみに、女騎士の二人は陳列品と睨めっこしているように見えるが…実際の所、俺達の会話に興味津々な様子。
聞き耳を立て、たまに振り返っては俺と目が合ってすぐに陳列棚に視線を戻す、を繰り返している。

「コホンッ。すみません。取り乱してしまいました…」

恥ずかしそうに真っ赤になった顔を俯かせるアリアンナ。

またもや女騎士と目が合った。
なぜか親指を立ててサムズアップしてきて、ミリアが振り返る素振りを見せた瞬間、素早い動きで視線を陳列棚に戻した。

何がしたいんだか…。

落ち着きを取り戻したアリアンナが顔を上げて、口を閉じたり開いたりを繰り返す。
そして、それを何度か繰り返した後ーー。

「待たせたね。でき……邪魔したね」

店主のオバさんが戻ってきた。
が、ミリアと女騎士の『邪魔するなっ!』と言いたげな苛烈な睨みと、アリアンナの『終わった…』と絶望したような表情を見て、いかにも状況を察したかのような顔で奥に引っ込んでしまった。

俺には彼女達の意図が全く掴めないでいるんだけど…一体、彼女達は何がしたいんだ?

オバさん、扉を僅かに開けてこちらを覗いてるし。

まるでアリアンナが俺の事を好きで、告白しようと一生懸命なってるような場面を見守ってるような…。いや、自惚れすぎか。

こんな可愛い子が俺みたいな平々凡々なクソガキを好きになるとか、そんなわけないってのにな。
つか、俺の中身は良い歳こいたオッサンだ。釣り合うはずがない。

「そ、その…良ければ…違う…その…今度、ウチの馬車を見に来て…くれませんでしょうか…?」

俯き、上目遣いで訪ねてくるアリアンナ。
顔は真っ赤で、今にも頭から湯気が出そうなほど。

あ、分かったぞ。

もしかして、彼女の言っている馬車が口に出すのも恥ずかしいほど酷い惨状になってしまってるんだな。

それなら納得できる。

誰もが言いたくなくて、ミリアですら思い出してニヤニヤと笑ってしまうほど。そんでもって、口で言うのすら恥ずかしいほど…。

もし、走行不可状態で車体が朽ちている…なんて事になっていたら、一から作った方が手っ取り早そうだな。

まぁ、整備出来ると言った手前、断るわけにはいかないし、当たり障りない程度に答えておこう。

「ああ。その時、呼べ。一月、あと。アッカルド村、だ」

そう言うと、アリアンナはパァッと笑顔の花を咲かせた。今日一番の笑顔だ。
ちょっと見惚れてしまった…。ただの子供に…俺は…俺はロリコンじゃねぇぞ…。

き、気持ちを切り替え、直せるかどうかは実際に見てみないと分からないけど、やるだけはやってみるさ。うん、やってみる。

無理なら…そうだな…。金額次第で新しい馬車でも作って渡すか。馬車程度ならそんなに時間を使わずに作れるはずだし、材料も適当に見繕える。
なんせ、動力は馬なんだからな。エンジンを組み込む訳じゃない。軽く、頑丈で、スムーズに動く物を作れば良いだろう。簡単だ。

「終わったかい?」

「はい!ありがとうございます!」

扉の隙間から様子を伺っていた店主のオバさんが戻ってきた。

「これが契約書だよ。失くしたら受け取れなくなるから気を付けるんだよ?」

「ああ」

「それと、こんな良い娘を泣かせるんじゃないよ?」

「……?」

泣かせる?
そんな場面あったか?

「はぁ…アンタも苦労するね…」

「いえ。私はこれで…」

オバさんは呆れたように溜息を吐き、アリアンナは照れて赤い顔を両手で挟んでチラリと俺を見てきた。

「……?」

一体、何の話をしてるんだ?

馬車の話…だよな?
違ったか?

でも、そうじゃないとしても、思い当たる節が全くないんだけど…?

うーん…難しい。

「「「はぁ…」」」

今度は、女騎士とミリア達が『やれやれ』と言った風に同時に溜息を吐いた。

……なぜ?

話についていけない。
女の話はコロコロ変わると言うけど、ここまでコロコロと変わるとさすがに付いていけないぞ。

あ、余談だが、別れ際にお礼代わりとして露店で買ったお洒落なブレスレットをプレゼントしてやるとアリアンナは凄く喜んでくれた。

やっぱりプレゼントは値段じゃなくて、感謝の気持ちの大きさが大事って事だな。

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