自称『整備士』の異世界生活

九九 零

1


目を覚ますと、歪んだ視界の中で知らない天井が見えた。

ここは…病院?
俺は…生きている?

視界が歪んでるのはトラックに潰されたからか?まるで、子供が描いた下手くそな絵みたいな光景。

なんとなくムズムズとする手を天井に伸ばして……ん?誰の手?

小さい。凄く小さい。まるで、産まれたばかりの幼子のような手に見えなくもない。
俺の手はもっとゴツゴツしてて傷だらけだったはずなのに…。

もしかして……いや、有り得ないとは思うけれど…俺の手…?

握ったり開いたりしてみると、それに応えるように小さな手が動いている。
感覚のズレがあるし、思い通りに動いてすらくれないけど…あぁ、間違いなく俺の手だ。

って事は…俺…子供になってる?

いや、この贅肉だらけでブヨブヨの手からして…産まれたての幼児…?

……ええぇぇぇぇぇっ!?

「おぎゃー!おぎゃー!」

うるせーっ!泣くなー!泣くなぁあぁぁぁっ!!

『おや?起きたみたいだね』

「おんぎゃー!おんぎゃー!」

うぉぉ!うるせぇよぉ!
誰か!誰でもいい!コイツを…いや、俺を泣き止ませてくれぇっ!

『どうしたんだい?お腹空いたのかい?』

「ーーっ!?」

突然、ズイッと視界一杯に大きな顔で埋め尽くされて驚いた。泣いていた声を詰まらせてしまったほど。
でも、泣き止む事が出来て、内心ホッとする。

視界は歪んでてハッキリと周りを見る事すら出来ないけれど、人の顔だと言う事は分かる。

……ファンキーな髪色だなぁ…。

『おや?泣き止んだね。ちょっと待ってな。今、ファミナさんを呼んでくるからね』

「………」

それにしても、何を言ってるんだ?
この人の言ってる言葉が全く理解できない。
間違いなく日本語じゃないだろうってのは分かる。外国語か?いや、違う。聞いた事のない言葉だ。

そんな事を考えていると、視界から大きな顔が消えた。

程なくして、バタバタと慌ただしい音が聞こえてきて、またもや大きな顔が現れた。

さっきの人とは違う人だな。顔の輪郭が違う。それと…髪の色も違うのか?
ゴチャゴチャしてて分かり辛い。

『おおっ!コイツが!コイツが俺の子かっ!』

『ドンテ!嫁さんを置いてさっさと行っちまうんじゃないよっ!』

『ああ悪い!カルばーさん!でも、もう我慢ならなくてなっ!』

『ホント、貴方ったら仕方ないんだから…』

声の主は三人か?
一人はさっきの人で、俺の視界に入ってるのが、男?
で、さっきの人の近くから女の人の声がする。

何を言ってるのかサッパリだけど…あぁ、成る程。

俺、どうやら死んで生まれ変わったようだ。

第二の人生ってやつ?はたまた、転生とでも言うべきか?どうも、前世の記憶を持ったまま新たに生を受けてしまったようだ。

社畜人生もこれで終わりだと思うと、なんだか名残惜しいものを感じる。

俺が死んで家族は悲しんでくれたかな?
車のローンが残ったままだけど大丈夫かな?
俺の愛車(バイク)達はどうなったんだろう?
次期のアニメ…楽しみにしてたんだけどなぁ。
あっ!パソコンの中身…は諦めよう。見られたら幻滅されそうだけど、パスロックは厳重にしてるし、見られずに捨てられてる事を祈ろう。

ああ…やり残した事が沢山ある…。
だけど、もう出来ないのか…残念だな。

ってなわけで、落ち込んでいても仕方ないし、思考を切り替えて今世を適度に適当で、そんでもって全力で生きる事を考えよう。

前世のように何かに我慢したり諦めたりバカにされてばかりの日々はゴメンだから、その辺は全力で頑張る。今度は怠けたりせずもっとちゃんとやる。

全ては自分のために。自分だけのために。楽しく愉快で悠々自適な未来を掴むために全力で勉学に励み、力を付け、金を稼ぐ。

前世の記憶を持ってる俺なら可能なはずだ。それに、効率的な行動。技術。知識も持っている。それだけじゃ足りないかもしれないけれど、その度に臨機応変に対応すればいいだけの話だ。

今度こそ頑張る。目指すは働かなくても良い生活!自由で、好きな事を好きなだけ出来るような、そんな楽しそうで愉快な人生!

ーーなんて考えていると、なんだか眠たくなってきた。

決意を胸に抱きながら、今は睡魔に身を任せて深い眠りに落ちて行く。


○○○


あれから三年が経ち、俺は三歳になった。

「…やうこと、ない」

好きな事をやるにしても、やろうと思う事がなければ何も出来ないって今更気が付いた。

俺の居る場所はハッキリと言ってしまえばド田舎だったんだ。

ここは畑と牧場に囲まれている小さな村で、部屋の窓から見える景色は緑一色。たまに遠くの方に牛が見えるぐらいで、本当に何もない。

勿論、娯楽もない。

三歳だからなのか、家の外に出る事は禁止されてるし、散歩も出来ない。そうすると必然的に部屋でゴロゴロする事しかないわけだが、それも飽きるほど味わった。

暇潰しに本とかあれば良いんだけど、この家には本の一冊もない。あるのは、本物の西洋剣と魔法使いが使ってそうな仰々しい杖だけだ。

リビングに二本揃って立て掛けられているんだけど、飾りにしてはどうかと思う。ちょっと触ってみたいって好奇心はあるけど、この前触ろうとして怒られたばかりだ。

「ひま…」

大きな欠伸をして、ボンヤリと外の景色を眺める。

大きな鳥がピュルピュルと鳴きながら飛んでる。まるで鷲みたいな鳴き声だ。

そう言えば、俺の今居る村はアッカルドって名前だそうだ。王国アルフェントのクダム領の端にあるって教えられたんだけど…作り話かな?

まぁ、俺はまだ子供だし?父ちゃんは酒を飲んで酔ってたし?きっと嘘を教えられたんだろう。
今度、母ちゃんに聞き直すとしよう。

で、だ。この暇な時間をどうすべきか…。
あまりにも暇すぎて死んでしまいそうだ。

「……っ」

あっ!良い事を思い付いた!

「かあちゃっ」

ベッドから飛び降りて、俺は母ちゃんを呼びながらリビングに走る。
トテトテッと効果音が鳴りそうな可愛らしい走り方だけど、これでも全速力で走ってるのだ。

バカにしないでもらいたい。

「あらあら。エル、そんなに急いでどうしたの?」

リビングに着くと、母ちゃんは洗濯物を畳んでいた。その中には俺の服もある。
ポリエチレンじゃなく、動物の皮から出来たような硬い服で、とにかく頑丈だ。

転けても破れたりしないし、破こうとしても破けない。包丁を突き刺しても、子供の手じゃ突き刺さりすらしない頑丈さだ。
まるで、消防士の着てる防護服みたいだな。
実際の消防士の防護服がどんなのかは知らないけど、頑丈なイメージはある。

それを膝の上に置くと、母ちゃんは俺の方を向いて尋ねてきた。

俺の母ちゃんは贔屓目なく見ても凄く美人だ。それに、若い。どう考えたって前世の俺よりも歳下の20代前半にしか見えない。

ちなみに、前世。俺が死んだ時の年齢は25歳だから、精神年齢は俺の方が歳をとってるかもしれないけれど…それ以上は考えないでおこう。

精神的に辛くなる。

母ちゃんはなんだか落ち着いた雰囲気があって、出てる所は出て引っ込む所は引っ込む。まさに男の欲望そのものを具現化したような人だ。

まぁ、俺の好み的に胸は小さい方が好きなんだけど…それは言うまい。
兎に角、母ちゃんは美人だし優しいし好きだと言う事にしておこう。

「カミ、ペン!」

「日記でも書くの?」

「んっ!」

違うけど、それでいいや。

「分かったわ。それなら、今から買ってくるから、エルは家で大人しくお留守番できるかな?」

「んっ!」

ちょっとした手違いで外に出てしまうかもしれないから、確たる約束は出来ないけどな。

「良い子ね」

そう言って母ちゃんに優しく頭を撫でられた。
悪い気はしないけど、なんだか恥ずかしく感じる。

……言われた通り、大人しくお留守番してよう。

母ちゃんが出て行った後、母ちゃんの代わりに洗濯物を畳みつつ時間を潰す。
そして、手持ち無沙汰になってから三十分くらいゴロゴロとしていたら、ようやく母ちゃんが帰ってきた。

「ただいま。エル。買ってきたよ」

帰ってくるなり俺の頭を撫でる母ちゃん。何度やられても慣れないものだ。
でも、撫でられるのは嫌じゃなくて、むしろ気持ちいいと言うか、何と言うか…。

いや、今はそうじゃなくて!

「カミ!ペン!」

「あらあら。せっかちさんね、エルは」

そう言って、皮袋からどう見たって硬そうな紙?瓶に入った黒い液体。万年筆みたいなペンを渡された。

………紙とペン?

「どうしたの?エル?」

え?待って。もしかして、これって…絶滅危惧種の羊皮紙?それに、黒い液体は…インク?ホンモノの?

マジかよ。
どこぞの中世だよ。

「じょーだん?」

「…?」

え?何この反応?

何言ってるんだろう?みたいな顔されたんだけど…え?冗談…だよね?

「カミ、ペン…?」

「そうだけど…お母さん、なにか間違えたのかな…?」

母ちゃんが見るからにションボリと落ち込んでしまった。

「あって、る!かんしゃ。つかう」

「はい。どういたしまして」

ふぅ…。
ちょっと焦っちゃったじゃないか。

でもまぁ、最後には笑ってくれたから良しとしよう。
やっぱり、母ちゃんは笑ってる顔が一番綺麗だ。見ていて癒される。

さて。それじゃあ、ちょっと予定は狂ったけれど、始めますか。
最強の暇潰し…妄想の時間だ。


●●●


夜。静かな寝息を立てて眠るエルの部屋に入り、机に置いてある物を手に取って部屋を後にする人影…。

人影はエルの部屋からそのままリビングへ。
そして、夫の前に座り、エルの部屋から持ち去った紙を見て不思議そうに首を傾げた。

「ねぇ、あなた。ちょっと見てくれないかしら?」

「ん?どうした?」

生返事を返してコップに追加の酒を注ぐエルの父親、ドンテ。

「これ、今日エルに買ってあげた紙なのだけど…」

「なんだ?盗み見か?お前らしくねぇーな」

ファミナらしからぬ行動にドンテはクカカッと笑い、コップに口を付けようとする。

「良いから、見てちょうだい」

しかし、ドンテにも見えるように置かれた紙の内容を見て、その口はコップからゆっくりと離れてゆく。

「……それ、エルが書いた…のか?」

「ええ。私が買って来た時は白紙だったから…これは何かしら?」

描かれているのは、明らかに日記じゃない。
まるで子供の落書きだ。

だが、子供の落書きにしては妙に凝っている。
まるでーー。

「設計図…か?」

ドンテは飲みかけていた酒を置いて、食い入るように紙に描かれた内容を見つめる。

「でも、なんの設計図だ?」

横長の長方形の中の下部に一本の棒を添え、そこに長さが不揃いの4本の棒が等間隔で突き立てられている。
4本の棒は全て縦長の長方形で囲い、独立させ、先端には囲いと同じ大きさの頭を取り付けーー。

「ヨンキトーエンジィン…?知ってるか?」

絵の下に書かれていた文字に疑問を浮かべ、興味本位で尋ねた。

ドンテの疑問にファミナは首を左右に振って答える。

「今日エルに聞かれて教えた文字って事だけ。でも、裏面を見たら何か分かるかもしれないわ」

「裏面?」

ペラリと紙を裏返すと、ビッシリと文字が書き連ねられていた。

「…燃料?…点火?爆発?…上下…して……?一体、どこの文字だ?」

「それが分からないの」

読める箇所は所々ある。
そこはエルが日記擬きを書く際にファミナに聴きに来た箇所だけ。

だが、それ以外の文字はサッパリ読めない。

子供が書いた落書きに近い。文字が分からないから適当に書いたと言えばそれで終わるような乱雑な文字列。
だけど、二人はその文字に意味がないとは思えない。教えた文字を含めている辺り、何か意味があるはずだと考える。

「……なぁ、ファミナ。こっちの文字はお前が教えたやつだよな?」

「ええ」

神妙な顔付きで頷くファミナ。
その返事を聞いて、ドンテはニヤリと笑って言った。

「ならよーー」


●●●


翌日の昼。
お昼ご飯を食べ終えて、いっぱいになったお腹を抑えて床をゴロゴロとして暇潰ししていると、

「おう!エル!帰ったぞ!」

父ちゃんが帰ってきた。
こんな事は初めてだ。

いつもなら夕方まで仕事で、昼に帰ってくる事なんてなかったのに、どんな心境の変化なんだろう?

父ちゃんは筋肉隆々な体格で、まるで熊みたいだと思う事が多々ある。頬にある傷跡が良く似合っている。

仕事は大工をしているらしい。
ちなみに、前世での俺の親父も大工だったので、それなりに知識はあるつもりだ。機会があれば仕事してる姿を是非見てみたいものだ。

「エル!今日はお前に手土産だ!ほれっ!」

ポイッと投げられて宙を舞う薄っぺらい皮袋。だけど、中に何か入ってるんだろう。シッカリとした軌道を描いて俺の方に飛んでくる。

俺はそれを受け取ろうと両手を広げ、

「んぐっ!」

キャッチに失敗して、布の中身が俺の頭に当たった。かなり痛い。

「おっと、すまんすまん。まぁ、それをやるから気を直してくれや」

手をヒラヒラと振って、台所で片付けをしている母ちゃんに「飯ー」と叫ぶ父ちゃん。

全く…ガサツな父だ。

そう思いながらも、手土産と言われた皮袋の中身に興味津々な俺。

口紐を手早く解いて、いざご開帳〜。

「……ほん?かみ?」

俺、まだ字を教えてもらってないのに本を買ってこられた。読めない…。
それとは別に、紙は素直に嬉しい。

昨日母ちゃんに買ってもらった紙は全部埋めてしまったから丁度良かった。
まだまだ書き足りなかった所だ。

暇潰しに前世の記憶を掘り返しながらエンジンの設計図を書いたものの、あれだけじゃ満足できる筈がない。
愛車(バイク)達を紙の中だけででも良いから、愛でたい。整備したい。乗り回したいーーは無理か。

まぁ、紙の中…妄想の中なら何をしようが俺の自由だし、思う存分楽しめるってわけだ。

今はまだこんな事しか出来ないけど、もう少し大きくなったらバイクでも買ってもらって乗り回したいな。

そんな訳で、さっそく続きを書こう。

「おーい、エル。今から仕事場に向かうんだが、一緒に来るか?」

と、思ったけど、父ちゃんの言葉に足を止める。

大工。興味があるかと問われれば、興味がある。行くかと問われればーー。

「んっ」

本は文字が読めるようになるまで放っておくとして、妄想も夕方までに帰って来れば幾らでも出来る。
ならば、答えは一つだ。

行くっきゃない!


○○○


現在、俺は父ちゃんの仕事場を見学している。

父ちゃんの仕事仲間達も、父ちゃんと同じように筋骨逞しく、若手達は何度も怒鳴られながらも負けじと働いている。

その光景に、俺は呆気に取られていた。

何が。とは聞かないでくれ。
今はそれどころじゃないんだ。頭がどうかしそうだ。いや、どうかしてるかもしれない。

一度頭の中をリセットして仕事場を見てみよう。
建築技術自体は…うん。まぁ、それなりだな。
建築予定場所には一面シッカリとカットされた岩で下地を作られていて、地下室があるのか一箇所だけ穴が空いている。
建物の中心には耐久が期待できなさそうな一本の支柱が立っていて、今は壁を作ってる最中…なのか?

う〜ん。

やっぱり、おかしい。
おかしすぎて、俺の頭がおかしくなったんじゃないかと思えてくる。

壁。壁と言えば、土壁。岩壁。木壁。色々ある。で、今は木壁の制作途中みたいだけど…。

間取りが滅茶苦茶だ。それに、防腐処理すらしていない。
いや、それ以前に、木壁に土を貼り付ける謎の行為。それが防腐処理にでもなるってのか?
そもそも、その土はどこから出した?

どうして地面の土が勝手に盛り上がってんだ?

壁の前に立ってる奴が何か唱えると地面が盛り上がって木壁を覆うにとか…おかしいだろ。

なんか思ったのと違う。建築と言っても色々と端折り過ぎてて、何が何だか。

「どうだ?」

したり顔で父ちゃんが尋ねてきた。
でも、『どうだ?』って言われても…。

ハッキリ言ってーー。

「ダメ」

「え?」

これじゃあ地震が来たら一巻の終わりだ。
なによりも脆すぎる。

「どだい」

「土台ならあるだろ?」

土台とは言い難い土を固めて集めただけの土台はな。
俺が言いたいのは、シッカリとした土台を作る為に鉄筋を添えてコンクリートを流し込むべきと言う事だ。

はぁ…。まぁいい。日本と違って地震が滅多に来ないなら、関係ない話だからな。
だったら次だ。

「はしら」

「柱って、あれはジダーの幹を使った柱だから、そうそう折れたりはしないぞ?」

折れる折れないじゃないんだよ…。
建物を支えるんだから、経年劣化とが防腐処理とか色々と視野に入れなきゃダメだろうが。

建物の大きさに合わせた柱を立てろよ。

「かべ」

「大丈夫だ。ウチにも土属性の魔法を使える奴が居るからな。強度も問題ない」

……は?魔法?
ウチの親父も遂にイカれたか?

「因みに、俺は風属性の魔法を使えるぞ?言ってなかったか?」

初耳だよ!
ってか、魔法ってなんだよ!良い歳こいて厨二病拗らせてんなよ!

そんな事よりもちゃんとした建物を作ってやれよ!!

「そうだ。丁度良い機会だし、お前に俺の魔法を見せてやるよ」

父ちゃんはニヤリと笑うと仕事を支持している人ーー監督っぽい人の所へ向かい、等身大の木材を担いで帰ってきた。

あの建物の未来は暗いな…。

そんな事を考えていると、いつのまにか父ちゃんは木材を少し離れた所…だいたい10メートル離れた箇所に突き刺して、戻って来ていた。

「よしっ。よく見てろよ。『我願うは風の力。敵を切り裂く刃となれ。エア・カッター』」

父ちゃんが懐から短い杖を取り出して木材に向けて突き出すと、杖の先端にまるでアニメとかでよく見かけた魔法陣のような物が現れて、そこから何かが勢いよく放出された。
そしてーー10メートル先にあった父ちゃんの等身大の木材が斜めに真っ二つになり、崩れ落ちた。

これは…そう。
認めたくない。認めなくないが…魔法だとしか言いようがない…。

「どうだ?カッコいいだろ?これでも父ちゃんな、昔は風属性の魔法使いとして冒険者をしてたんだぞ?」

知りたくなかった、そんな情報。

なんだよ。さっきの呪文。完全に厨二病じゃん。恥ずいよ。俺の父ちゃんが厨二病セリフを吐いてドヤ顔してる所を見てしまうと、余計に恥ずかしいよ。

「お前も10歳になったら魔法を使えるようになるから、今の内に練習しておくのも手だぞ?」

冗談っぽく言ったあと、ワシワシと乱暴に俺の頭を撫でる父ちゃん。

全然嬉しくない。
それどころか、俺が厨二病を拗らせたセリフを吐いてる所を想像すると気が滅入ってくる。

でも、魔法を使えるかもしれないと言う点については内心楽しみだったりする。魔法-魔法かぁ…。

魔法があると言う事は、ここは元々俺が居た世界とは違う世界的なアレだろう。夜にたまに見かける月の色とか大きさも違うし、空に浮かぶ月の個数もおかしい。

思い返すと、現世じゃ考えられないような事ばかりで、まさしく異世界って感じだ。
それなら色々と納得も出来るし。この建築技術も訳があってこうなってるんだろうし、家で出される料理がゲテモノ料理ばかりだったのにも納得が行く。

取り敢えず、もし俺が10歳になって魔法を使えるようになったのなら、恥ずかしいセリフを吐かなくても使えるようになれるよう努力しなければいけないな。

「エル。急に落ち込んだり、意気込んだりして、どうしたんだ?」

「なんでも、ない」

まだ上手く感情を隠す事が出来なくて、感情が勝手に表に出てしまうだけだ。

気にするな。

「そんなこと、より。ようじん、だいじ」

製作中の家を指差しつつチラリと横目で父ちゃんを見てみると、驚いたように目を見開かせて俺を見ていた。

「エル…お前…どこでそんな言葉を覚えたんだ…?」

おい。
そっちかよ。

俺が言いたいのは、高所作業をする時ぐらい安全帯を付けて気を付けろって事なのに、全く伝わってないじゃん…。

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