自称『整備士』の異世界生活

九九 零

プロローグ?


整備士。それは、決して妥協は許されない仕事だ。車両を整備すると言う事は、人の命を背負う大きな責任を伴う。
一瞬の油断や慢心は大怪我や命取りになり、常に思考を張り巡らせて考え得る限りの危険予知をしなければならない。

そんな職業だ。そんな職業で俺は働いている。

整備士と言っても色々あるだろうけれど、その中でも俺の職業はトラック整備だ。
毎日毎日休む事なく働くトラック達を陰ながら支え、安全な運搬を提供し続けている。

聴こえは良いだろう。

だけど、トラックの整備士は普通車ディーラーと給料はそう変わらず、安月給だ。
違いがあるとすれば、残業が遥かに多く、そのくせ給料は少ない。

役職は5年も働いたのに変わらないまま。給料も上がらない。休日も少なく、疲れ切って帰宅する毎日。

身体を壊す事は当たり前。特に多いのが腰痛だ。怪我をするのも日常茶飯事。小さな怪我なんて気にしなくなってくる。
少しのミスで指の切断や、死に繋がる事だってあるんだ。

そう。例えば、今のようにーー。

大型トラックの車検をする為に2柱リフトで車体を持ち上げ、俺はその下に潜って作業をしていた。
作業内容はクラッチブースターの交換。オイルが漏れていたので交換となったのだ。

その交換作業をするのに車体の下に潜っていたんだけも…なんの前触れもなく突然の大きな地震が起きた。
頭上のトラックがガタガタと大きく揺らされ、ゆっくりと傾くのが目に見えて分かった。

だけど、俺には一つの予測的な確信があった。『ここに居れば大丈夫。挟まれない』と。

トラックの持ち主である運送屋には悪いと思うけれど、人間の力で何トンもある物を支えられる訳もない。だから、一瞬で諦めを覚えて、静観する事にした。

ーーつもりだった。

まさか、倒れて行くトラックを人力で支えようとするバカが現れるなんて予想外すぎたんだ。

そりゃ、数十人ぐらいの力が合わされば支えられるかもしれない。可能性はある。だけど、向かったのは一人。

今年入ってきたばかりの新入社員…。

「あんっの、バカっ!!」

静観を決め込もうと決めた矢先の出来事。考えるよりも先に咄嗟に身体が動いてしまった。
飛び出すように駆け、新人を安全地帯まで本気で突き飛ばす。

そして、俺も早く逃げようとしてーー滑って転んだ。

「いっつぅっ!」

どうやら、グリスの塊を踏んでしまったみたいだ。
尻から骨を伝って頭にまで響く痛みに悶えていると、ふと頭上に影が射した。

……あ、そうだった。
一瞬だけ。そう一瞬だけ忘れていた。

トラックが落ちてきているんだった。

早く逃げなーー。

グシャリッ。

何かが潰れた音と共に俺の意識は遠退き、最後に悟った。

『あぁ、死んだな』と。



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