凡人勇者の異世界英雄譚Ⅱ 〜転移したら無敵になってました〜

雨猫

Ep1/act.14 ブロードの速度

ブロードが応戦態勢に入ると、リオンは短刀を手にして襲い掛かった。
その瞬間、前見た時と同じ。目にも留まらぬ速さでブロードはその場から消えた。

「早いな…」

リオンにも追いつけないスピードらしい。

「ふふ、いくら強くても、攻撃を当てられなければ意味がないだろ」

ブロードはいつの間にかリオンの背後に回り込んでいた。

「それなら…」

リオンは少し距離を取ると、掌を宙に上げて魔法を唱えた。

『霧魔法 妖艶の煙』

ブロードの周りに薄紫の煙が覆った。

「その煙を吸い込んだらお前の身体機能は著しく麻痺する。そしてこの煙の量、どこへも逃げ切れないだろう」

「S級魔法騎士をナメるな。これで終わりだ」

リオンはそう言うと、短刀を手にして煙に覆われるブロードの元へ飛び込んだ。

「はははは」

俺の真横には、密かに笑うブロードがいた。

「シルド・ギルくん。驚いたかい?」

「驚いたな。ブロードが二人いるのは」

そう、リオンが切りかかった煙の中のブロードと俺の横に笑っているブロード、今も尚ハッキリと二人見える。

「あそこに見えるのは残像だよ。変わり身の魔法でもなんでもないよ」

「そんな魔法みたいなことが出来るくらい、あんたの足は早いんだな」

「その通り」

「そんな凄いこと出来るのに、いいことして見返そうとは思えなかったんだな」

「・・・」

ブロードは黙った。

「リオン、交代だ」

「その気になってくれたかな」

「ああ。このままリオンが戦っても正直無駄だと思うしな。俺もどこまでやれるか分からないけど、そろそろエナが援軍を連れて来てくれるだろ」

俺はあらかじめ、エナに城へ戻って援軍を連れてくるように伝えてあった。
それまでの時間稼ぎくらいの感覚だった。

「すいません、役に立てず…」

しょんぼりとリオンは戻って来た。

「いや、見てた感じ強さで言ったらもちろんリオンだろうな。ただ捉えられない。どうしても速すぎるんだ。でも、リオンの強さならブロードの攻撃を食らってもなんともないだろうな。だから、両者とも無意味。ただ疲れて終わりだ」

「なるほど、今の戦いでそこまで見切れたんですね。流石です」

そうだ、俺はなんでここまで見切れたんだ?
自分の力についてまだまだ理解できてないことを実感した。

まあでも、この戦いでもう少し理解が深まるだろう。

そんなことを思いながら、俺は学校の制服を脱ぎ捨てた。

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