凡人勇者の異世界英雄譚Ⅱ 〜転移したら無敵になってました〜

雨猫

Ep1/act.1 平凡な転移者

「よし、これで上手くいくはずじゃ」

新たに大賢者として認められたシルド・バンは新たな魔法創造に努めていた。

その魔法こそ、今まで誰一人成し遂げられなかった異世界から人間の移動が可能な転移陣による転移者召喚。

遂に、その魔法が生み出されようとしていた。

「転移陣より、転移者を召喚する!」

シルドの掛け声により床に描かれた巨大な転移陣が光り始める。

「よし…!成功じゃ…!!」

光の先には人間の姿があった。

「お、お主!自分が誰か分かるか!?」

「ん?あー、えっと」

一目見れば分かる。転移陣に召喚された男。
彼は……。

「あー、なんか面倒臭そう」

彼は、何も成し遂げられなそうだった。



眩しい光に照らされて目を覚ますと、目の前には偉そうな白髪の爺さんがいた。

この部屋の雰囲気、目の前にいる爺さん、自分に突如降りかかる不可思議な現象。

間違いなかった。絶対面倒くさい。

「これは失敗じゃ…」

爺さんが俺を見て幻滅していた。

「だって覇気が全くないもん…」

この現場や爺さんの服を見ればなんとなく異世界に召喚されたことはわかる。
でも勝手に召喚されといてその言い草には腹が立った。

「おいジジイ!勝手に呼び出してなんだその態度は!!」

「お前こそなんじゃ!ワシはこの世界で一番の大賢者だぞ!!」

この世界のシステムが分からない俺には驚くことが出来なかった。

「フン。舐めとったら痛い目に遭うぞ」

爺さんはおもむろに杖を握った。
すると、杖の先端が光り始めた。

次の瞬間、爺さんは俺に杖を向けてきた。

「食らえ!ブルー・フレイム!」

杖から青く燃え上がる炎が出された。
これが魔法か…なんて考える余地もない、俺は確かに「死んだ」と、そう思った。

はずだった。

バチっと軽い音と同時に、瞬発的に顔の前に出した手の甲に青い炎は当たった。
当たった瞬間、青い炎は消え去った。

「あれ?何今の?CG?」

全く痛くも痒くもなかった。
異世界転移なんて非現実的なことが起こったわけではなく、何かしらでテレビ出演して壮大なドッキリを掛けられているとさえ思う。

爺さんは何も言わずポカンとしていた。

「おーい、爺さん。なんだ今の」

すると白髪の爺さんは血相を変えた。

「お主!名はなんと言うんじゃ!」

「え、桜木瑠夏だけど…」

「ジョブは!」

(職業のことか?)
「23歳フリーターだよ悪いか」

「そうかそうか!これから色々教えて行くからな!心配することないぞ!」

「お、おう」

かくして、俺の異世界冒険譚は始まった。

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