主役の勇者が最終的に死ぬ運命なんて嫌だ

花波真珠

#13 暁の城と裏切り③


俺は歯を食いしばった。
フェラルフもナシュリーも決死の覚悟で敵を睨みつけた。

先手を打ってきたのはフェラルフのボクサー手袋を装備した兵士だ。フェラルフの得意技の体当たりをそっくりそのまま攻撃に使ってきた。
狙いはやはり、俺だ。

素早い動きとボクサー手袋のパンチの威力に、俺は避けられずに命中した。

自分がどうなっているのか分からないくらいに体が吹っ飛んで、痛みはないが体が熱くなり動けなくなった。
そりゃあこの装備じゃもろに攻撃を受けちまう。

次に、俺の短剣を持った兵士がフェラルフに短剣を向けて走ってきた。
フェラルフは避けなかった。

「フェラルフ危ない…!!」 


流石ボクサーという役職であるフェラルフは、短剣を持った兵士の腕を抑えた。
武器を装備している敵を抑えるのもやっとのことだろう。

その隙にボクサー手袋を外した兵士が銃を取り出し、ナシュリーに打ち始めた。
専用の武器を装備していないナシュリーは、素早さが普通の人間より少し高いくらいしかない。

なんとか避けたと思ったら、見事に銃はナシュリーの足首に命中し、ナシュリーはその場に倒れこんだ。


子供もやるゲームだから流石に血の表現はないが、ナシュリーの苦しそうな顔に胸が痛んだ。

「うわっ!?」


フェラルフの声だった。
力に負けて短剣で攻撃されてしまったようだった。

俺は体の痺れが治らず、めまいはどんどん強くなる。


敵が俺の目の前に立って、嘲笑ってきた。

「勇者って名前の割に、こんなに雑魚だとわなぁ?弱っちいくせによ」


俺たちを震えながら見るヤナが視界に入った。俺は口パクでヤナにこう伝えた。

"魔法を使え"

ヤナは首を振った。
だけど、こいつらをどうにかするにはヤナの魔法に頼るしかなかったのだ。

"俺を信じて"

俺の口パクは伝わったようだが、魔法の杖を持つ手は怯えていた。

前ヤナが言ってたように、また人を傷つけたり苦しめてしまう魔法を使ってしまうんじゃないか、怖いんだろう。

だけど今は………
今はヤナしかこいつらを倒せないんだ。


「ヤナぁ!!!」

力を振り絞って、精一杯の声を出した。

「お前ならできるから!!絶対、うまくできる!!!」

「あ?なに叫んでるんだよ」


俺は男に顎を蹴られた。
もう死ぬのかもしれないと感じるほど、自分の体があるのかも分からなかった。

ヤナは杖を敵に向けた。


「フラッシュデイン・ソルトっっ!!!」


杖から雷の線が、矢のように素早く敵に命中した。すぐ前に立っていたからか、俺にわずかに電流が流れてきた。

「ゔっ……!」

ヤナは不安そうな顔をした。
だけど俺は平気だという顔を見せた。


「1人を倒すとは…なかなかやるな小娘」


もう1人の敵が、ヤナに銃を向けた。

「や…めろ………っ」


声はもう出したくても出なかった。

「勇者様ぁっっ!!」


桃色っぽい優しい風が吹いてきた。
風に当たるとどんどんHP表示が回復していた。回復魔法を使ったようだ。

ナシュリーもフェラルフも、回復したようだ。敵はそれを見て、「ひぃっ」と声をあげた。

「裏切り者、とっとと街から離れろよ…?」

兵士の服を脱ぎ捨てて、急ぐように走って城から出て行った。

俺は大きく息を吸って、ヤナを抱きしめた。

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