WORLD END-終焉の鐘の音-

成瀬瑛理

第5章―死と恐怖―34

――これを書いたら私はどうなる? 

 オーチスの脳裏に不穏な予感が過ぎった。

 この世界に神がいるなら私を助けてくれ! 死にたくない! 死にたくない!

 オーチスは自分に襲い掛かる死の恐怖に全身の震えが止まらなかった。震えがピークに達したとき、左手に持っている紙が地面に落ちた。それをケイバーが拾うと彼の右手に持たせた。クロビスは冷酷な顔つきで話した。

「この紙に書いてある内容をそのまま同じように書け! 下手な小細工はしないようにな! 私は茶番が嫌いなんだ、わかったな!?」

 クロビスは紙に書いてある内容をオーチスに伝えると、それを彼に書かせた。周りの視線が彼に向けられた。迫りくる死の恐怖は確実に背後まで迫っていた。彼は恐怖に支配されながらも言われたとおりにそれを書くと、右手に持っているペンを書き終えたと同時に地面に落としたのだった。緊張の糸が切れたかのようにオーチスは椅子の上で疲れ果てた。ケイバーは背後でお疲れさんと一言言うと両肩を叩いて紙を回収したのだった。彼は精魂尽き果てた顔で、椅子の上で遠い故郷にいる家族のことを思った。

 あぁ、愛しき妻と子供たちよ。
 私は帰れそうにない。
 お前達を残して、私は先に死ぬかもしれない。
 不甲斐ない父親ですまなかった。
 もっと父親らしいことをお前達にしてやればよかった。
 そもそも家族を残して、こんな所に働きに来なければよかった。

 ここは悪魔の巣窟だ。
 人の仮面をかぶった悪魔が此処にはいる。
 それは冷酷で非道な悪魔達だ。
 この大地には法もなければ秩序もない。
 あるのは不条理な…――。

 私は無実だ。私はけして囚人を逃がしたりはしてない。
 この命にかけても……!

 オーチスは心の中で瞑想するとそのことを不意に思ったのだった。それは彼にとっての遺書であり、遺言のようなそんな想いだった。クロビスはケイバーから紙を手渡されると、それを見ながらもう一つの方も確認した。そして両方の確認を終えると、彼は口を開いてオーチスに告げた。

「フン、小賢しい真似を色々としてくれたな……! 手間を省かせて、この私をみくびった挙げ句がこれか!? 私をなめるなよ、何が無実だ! 何が私はしていないだ! 笑わすな! 私を散々こけにしやがって……!」

 その言葉にオーチスは、全身から血の気が退いて青ざめた。

「これを見ろ、この字は紛れもなく貴様の字ではないか!」

 クロビスはそういうと怒りを露にしながら、紙を地面に投げ捨てたのだった。

「信じて下さいクロビス様、わたしは本当に……!」

「ええい、うるさいうるさい! 私は信じると言う言葉が大嫌いなんだ! 何が信じるだ! 虫酸が走るとはまさにこの言葉だ! 信じた挙げ句がこのザマか、この愚か者め!」

 彼は怒りを露にしながら怒鳴り散らすと、鞭を大きく振り上げて力任せにオーチスを叩いた。再び彼の悲鳴が部屋の外にまで響いた。しかしここは閉ざされた恐怖の箱庭。恐怖と絶望だけが支配して、救いの者は誰も現れない。それが神にかわって現れる救いの天使さえも、この狂気が渦巻く牢獄には決して現れないだろう。それが絶望と呼ばれる極寒の大地。グラス・ガヴナンの死と恐怖の牢獄であった。暗黒のようなこの閉ざされた大地に神はいない。あるのは正気を失った人間の恐怖の支配だった――。

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