惨殺機人の殲流血
第15話 おかしな二人
「『ギルド ウォデューシュ支部物資輸送』のクエストを受理しました。それでは皆さん、お気をつけて」
「はい、行ってきます」
スカーレットさんと交流してから四日程経った。
今日もまた、新しい1日が始まろうとしている。
いつも通りギルドにてクエストを選び、受付で受理して貰った。
今回受けたクエストは、俺たちがいる源の街から少し離れた距離にあるウォデューシュに資材を運ぶというもの。
ウォデューシュ…通称水の都と呼ばれ、とにかく水が綺麗な所らしい。更に、その都市には温泉があるらしく、ここ周辺の人達にとっては観光地としてかなり有名だとか。
そして、その場所に届けにいく物資というのは食料と飲料である。
なんでも、ウォデューシュに配達予定だった荷物が何故かこっちに流れて来たとのこと。
あまり量は多くはないが、至急輸送して欲しいと国から伝達があったらしく、緊急クエストのボードにこのクエスト用紙が貼ってあった。
「さて、じゃあ早速行くか。移動費は国が免除してくれるらしいから、馬車捕まえに行こうぜ」
「分かったにゃ。取り敢えず軽食とか準備するから待ってろにゃ」
朝からずっと元気のないカウラが、そう言ってくる。
いや、まあ…元気がない理由は分かるよ?
俺のせいだよな?
「カウラ」
「ん?なんにゃ?」
「…ごめんな」
そう謝ると、カウラは目を見開いた後、自分の腕で自分を抱きしめながら、段々後ずさって行った。
「き、急ににゃんにゃ…シンシン気持ち悪い」
「…」
カウラの怪訝そうにしている視線が俺の心に突き刺さる。
ああ、これあれだ。好感度がマイナスになってるパターンのやつだ。
本当、昨日なんであんな事言ったんだろう。
「と、取り敢えず軽食の準備してくるにゃ」
そう言った後、カウラは宿の階段を登って行った。
俺、完全に嫌われたな。終わった。
「はあ、本当どうしよう…」
しばらくは陽名菊にカウラの事を任せてしまおうか。そうすればいつか有耶無耶に…うん、無いな。
それと、カウラに続き陽名菊も朝から様子が可笑しい。
カウラの様に不機嫌にしているという訳ではないのだが、なんかこう…そわそわしている。朝からずっと俺の方を見ながら、何かそわそわしているのだ。おかげでこちらから話し掛けずらくなっている。
「…なあ、陽名菊」
「ひゃ、ひゃい!」
本当、どうしてしまったのだろうこの子は…。
俺に呼ばれた瞬間、胸の前していた指いじりをやめ、緊張したように固まりながら返事をして来た。しかも噛んでいた。
「えっと、どうした?今朝から様子が可笑しいけど…」
「いえ、なんでもありません!気にしないでください!」
両足揃えて敬礼した状態で、そう言ってくる。
ほんの少し話をしただけなのに、今の所問題しか出てこなかった。
昨日までのフランクさが抜け落ち、軍隊のように敬礼をしたままピクリとも動かない陽名菊。
この状態なんと例えれば良いのか、うまく言葉が見つからない。
「そんな堅くならなくて良いぞ?もしかして俺、陽名菊にも何かしたのか?」
「いえ、真也さんが気に病む必要はありません。ただ、私の気持ちの問題なので」
「そ、そうなのか」
軍の上層部と新米兵士のような会話が続く。
真顔…というわけではないがまったく笑わない。
そんな様子を見ながら、俺は心の中で昨日の夜までは普通だったのに…と、愚痴った。
いや、もしかしたらこっちが素で、いままでが演技だったのか?
分からない、陽名菊が分からなくなってきた。
何か、一瞬でも良いから陽名菊を素に戻す方法はないだろうか…。
「なあ、陽名菊」
「なんでしょうか真也さん」
「俺の腕食べる?」
「………要りません」
陽名菊が…あの陽名菊が、俺の肉を拒んだ…だと?
一体どうしたのだろう、いつもなら即効で食いつてくるのに。
もしかして…
「俺の味に、飽きた…?」
……そっか…そうだよな。
毎回毎回同じ味の物を食べてたらさすがに飽きるよな…うん。
いつかに「飽きても食べ続ける」って言ってたから安心仕切っていた。
いや、そもそも俺は食われる事を拒んでいたいたはず。ならば、これで良いのでは?
「え?あの、真也さん?」
「…」
陽名菊が何か語りかけてくるが、今の俺は思考する事に夢中だった。
「そっか…なんやかんや、俺はあのやり取りが好きだったんだな…」
そうして考えていくうちに一つの答えにたどり着き、自分の中で納得した。
これがあれか、嫌よ嫌よも好きの内というものなのか。
どうやら俺はツンデレだったらしい。
なんて心の中で思っていると、陽名菊に服の裾を掴まれ名前を呼ばれた。
「あの、真也さん」
「ん、どうした?」
「何か、勝手に納得してるようですけど…私、真也さんの事飽きたりとかはしてませんからね?」
「え、そうなの?」
陽名菊はムスッとしながらそう言って来た。
「そりゃそうですよ、だって真也さんは美味しいですからね」
「そっか…なら良かった。なら、なんでさっきから俺への態度が変なんだ?俺、何かした?」
「いえ…その…昨日カウラと一緒にお茶を飲んでいたのですが、その時に『パーティーメンバーを食べ物として見てるのはおかしい』と言われまして…。だから、真也さんへの見方を変えてみようと思ったんですよ…」
気まずそうにモジモジしながら、陽名菊は俺を見つめてそう言う。
正直、俺は驚いていた。
「それで、あんな堅い態度に?」
「まあ、そうですね…。改めて接し方を考えていたのですが、下手に出て真也さんの機嫌を損ねるような事になったらとか、色々考えていたら分からなくなってしまって…」
「なるほど、事情は大体分かった。まあなんだ、陽名菊が食料として見てようが人として見ようが、俺は陽名菊から離れないって決めたから、あんまり気にすんな」
「真也さん…」
感慨に耽たような顔を陽名菊はしていた。
今までの俺なら、陽名菊から逃げることを考えていただろう。
しかし、陽名菊が一人寂しく食事を取っていたことや、今の想いを聞いてしまうと、逃げるなどという選択肢は消えてしまう。
「まあ、接し方とか難しく考えなくていいよ。いつも通りの陽名菊が俺は好きだし」
「…はい、わかりました!」
陽名菊が笑顔で返してくれる。その顔はとても満足そうだった。
カウラと似たような状況になったらどうしようかと考えていたが、その心配は無さそうだ。
「取り敢えず、これで一件落着か。それにしてもカウラのやつ遅いな」
「ですね…」
カウラが登って行った階段を見つめるが、一向に下りてくる気配がない。
「さっきからここにいるにゃよ?」
「「!?」」
声のした方を向くと、バーカウンタの席に座ったカウラがいた。
「い、いつのまに…まったく気づきませんでした…」
「まさかカウラ、気配隠蔽スキルを…」
「そんにゃもん持ってにゃいにゃ。シンシンと陽名菊ちゃんはイチャついてたから気づかにゃかっただけにゃ」
「べ、別にイチャついてなんかいません!」
顔を少し赤くしながら、陽名菊は力強く否定する。
それに対し、カウラはイタズラっぽい笑みを浮かべていた。
なるほど、昨日カウラが陽名菊を弄ってたと言うのはこれか。
「準備は終わったか?」
「おうバッチしにゃ。このカバンに目一杯詰め込んだにゃ」
「おし、じゃあ出発だ」
俺がそう告げるとカウラは席を立ち、陽名菊の手を取って先に歩いていった。
「あとは、カウラの事だけだな…」
やはり一番の問題はカウラだろう。
先程は幾分か元気だったが、やはり本調子ではないように見える。
今は陽名菊と仲良さそうに話しているが、俺はしっかり向き合えるだろうか。
「いや、俺が弱気になってちゃダメだよな。俺が原因な訳だし、しっかりケジメはつけよう」
そう決意し、俺は2人の後を追う。
「それで〜陽名菊ちゃんはシンシンのどこが好きににゃったのかにゃ〜?」
「だから、そんなんじゃないんですってばー!」
「…」
からかわれ顔を赤くしている陽名菊を見て、心の底から楽しんでいる様子で笑うカウラ。
案外、俺が行動を起こさなくても大丈夫なのかもしれない。
なんて期待は途方の彼方に追いやり、俺は二人を後をついて行った。
「はい、行ってきます」
スカーレットさんと交流してから四日程経った。
今日もまた、新しい1日が始まろうとしている。
いつも通りギルドにてクエストを選び、受付で受理して貰った。
今回受けたクエストは、俺たちがいる源の街から少し離れた距離にあるウォデューシュに資材を運ぶというもの。
ウォデューシュ…通称水の都と呼ばれ、とにかく水が綺麗な所らしい。更に、その都市には温泉があるらしく、ここ周辺の人達にとっては観光地としてかなり有名だとか。
そして、その場所に届けにいく物資というのは食料と飲料である。
なんでも、ウォデューシュに配達予定だった荷物が何故かこっちに流れて来たとのこと。
あまり量は多くはないが、至急輸送して欲しいと国から伝達があったらしく、緊急クエストのボードにこのクエスト用紙が貼ってあった。
「さて、じゃあ早速行くか。移動費は国が免除してくれるらしいから、馬車捕まえに行こうぜ」
「分かったにゃ。取り敢えず軽食とか準備するから待ってろにゃ」
朝からずっと元気のないカウラが、そう言ってくる。
いや、まあ…元気がない理由は分かるよ?
俺のせいだよな?
「カウラ」
「ん?なんにゃ?」
「…ごめんな」
そう謝ると、カウラは目を見開いた後、自分の腕で自分を抱きしめながら、段々後ずさって行った。
「き、急ににゃんにゃ…シンシン気持ち悪い」
「…」
カウラの怪訝そうにしている視線が俺の心に突き刺さる。
ああ、これあれだ。好感度がマイナスになってるパターンのやつだ。
本当、昨日なんであんな事言ったんだろう。
「と、取り敢えず軽食の準備してくるにゃ」
そう言った後、カウラは宿の階段を登って行った。
俺、完全に嫌われたな。終わった。
「はあ、本当どうしよう…」
しばらくは陽名菊にカウラの事を任せてしまおうか。そうすればいつか有耶無耶に…うん、無いな。
それと、カウラに続き陽名菊も朝から様子が可笑しい。
カウラの様に不機嫌にしているという訳ではないのだが、なんかこう…そわそわしている。朝からずっと俺の方を見ながら、何かそわそわしているのだ。おかげでこちらから話し掛けずらくなっている。
「…なあ、陽名菊」
「ひゃ、ひゃい!」
本当、どうしてしまったのだろうこの子は…。
俺に呼ばれた瞬間、胸の前していた指いじりをやめ、緊張したように固まりながら返事をして来た。しかも噛んでいた。
「えっと、どうした?今朝から様子が可笑しいけど…」
「いえ、なんでもありません!気にしないでください!」
両足揃えて敬礼した状態で、そう言ってくる。
ほんの少し話をしただけなのに、今の所問題しか出てこなかった。
昨日までのフランクさが抜け落ち、軍隊のように敬礼をしたままピクリとも動かない陽名菊。
この状態なんと例えれば良いのか、うまく言葉が見つからない。
「そんな堅くならなくて良いぞ?もしかして俺、陽名菊にも何かしたのか?」
「いえ、真也さんが気に病む必要はありません。ただ、私の気持ちの問題なので」
「そ、そうなのか」
軍の上層部と新米兵士のような会話が続く。
真顔…というわけではないがまったく笑わない。
そんな様子を見ながら、俺は心の中で昨日の夜までは普通だったのに…と、愚痴った。
いや、もしかしたらこっちが素で、いままでが演技だったのか?
分からない、陽名菊が分からなくなってきた。
何か、一瞬でも良いから陽名菊を素に戻す方法はないだろうか…。
「なあ、陽名菊」
「なんでしょうか真也さん」
「俺の腕食べる?」
「………要りません」
陽名菊が…あの陽名菊が、俺の肉を拒んだ…だと?
一体どうしたのだろう、いつもなら即効で食いつてくるのに。
もしかして…
「俺の味に、飽きた…?」
……そっか…そうだよな。
毎回毎回同じ味の物を食べてたらさすがに飽きるよな…うん。
いつかに「飽きても食べ続ける」って言ってたから安心仕切っていた。
いや、そもそも俺は食われる事を拒んでいたいたはず。ならば、これで良いのでは?
「え?あの、真也さん?」
「…」
陽名菊が何か語りかけてくるが、今の俺は思考する事に夢中だった。
「そっか…なんやかんや、俺はあのやり取りが好きだったんだな…」
そうして考えていくうちに一つの答えにたどり着き、自分の中で納得した。
これがあれか、嫌よ嫌よも好きの内というものなのか。
どうやら俺はツンデレだったらしい。
なんて心の中で思っていると、陽名菊に服の裾を掴まれ名前を呼ばれた。
「あの、真也さん」
「ん、どうした?」
「何か、勝手に納得してるようですけど…私、真也さんの事飽きたりとかはしてませんからね?」
「え、そうなの?」
陽名菊はムスッとしながらそう言って来た。
「そりゃそうですよ、だって真也さんは美味しいですからね」
「そっか…なら良かった。なら、なんでさっきから俺への態度が変なんだ?俺、何かした?」
「いえ…その…昨日カウラと一緒にお茶を飲んでいたのですが、その時に『パーティーメンバーを食べ物として見てるのはおかしい』と言われまして…。だから、真也さんへの見方を変えてみようと思ったんですよ…」
気まずそうにモジモジしながら、陽名菊は俺を見つめてそう言う。
正直、俺は驚いていた。
「それで、あんな堅い態度に?」
「まあ、そうですね…。改めて接し方を考えていたのですが、下手に出て真也さんの機嫌を損ねるような事になったらとか、色々考えていたら分からなくなってしまって…」
「なるほど、事情は大体分かった。まあなんだ、陽名菊が食料として見てようが人として見ようが、俺は陽名菊から離れないって決めたから、あんまり気にすんな」
「真也さん…」
感慨に耽たような顔を陽名菊はしていた。
今までの俺なら、陽名菊から逃げることを考えていただろう。
しかし、陽名菊が一人寂しく食事を取っていたことや、今の想いを聞いてしまうと、逃げるなどという選択肢は消えてしまう。
「まあ、接し方とか難しく考えなくていいよ。いつも通りの陽名菊が俺は好きだし」
「…はい、わかりました!」
陽名菊が笑顔で返してくれる。その顔はとても満足そうだった。
カウラと似たような状況になったらどうしようかと考えていたが、その心配は無さそうだ。
「取り敢えず、これで一件落着か。それにしてもカウラのやつ遅いな」
「ですね…」
カウラが登って行った階段を見つめるが、一向に下りてくる気配がない。
「さっきからここにいるにゃよ?」
「「!?」」
声のした方を向くと、バーカウンタの席に座ったカウラがいた。
「い、いつのまに…まったく気づきませんでした…」
「まさかカウラ、気配隠蔽スキルを…」
「そんにゃもん持ってにゃいにゃ。シンシンと陽名菊ちゃんはイチャついてたから気づかにゃかっただけにゃ」
「べ、別にイチャついてなんかいません!」
顔を少し赤くしながら、陽名菊は力強く否定する。
それに対し、カウラはイタズラっぽい笑みを浮かべていた。
なるほど、昨日カウラが陽名菊を弄ってたと言うのはこれか。
「準備は終わったか?」
「おうバッチしにゃ。このカバンに目一杯詰め込んだにゃ」
「おし、じゃあ出発だ」
俺がそう告げるとカウラは席を立ち、陽名菊の手を取って先に歩いていった。
「あとは、カウラの事だけだな…」
やはり一番の問題はカウラだろう。
先程は幾分か元気だったが、やはり本調子ではないように見える。
今は陽名菊と仲良さそうに話しているが、俺はしっかり向き合えるだろうか。
「いや、俺が弱気になってちゃダメだよな。俺が原因な訳だし、しっかりケジメはつけよう」
そう決意し、俺は2人の後を追う。
「それで〜陽名菊ちゃんはシンシンのどこが好きににゃったのかにゃ〜?」
「だから、そんなんじゃないんですってばー!」
「…」
からかわれ顔を赤くしている陽名菊を見て、心の底から楽しんでいる様子で笑うカウラ。
案外、俺が行動を起こさなくても大丈夫なのかもしれない。
なんて期待は途方の彼方に追いやり、俺は二人を後をついて行った。
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