惨殺機人の殲流血

はつひこ

第13話惚れるの定理

お使いが終わった後、リナさんが他の店も回りたいと言い出したので一緒について行った。


店を転々とし、何も話さず終いというの味気ないという事でリナさんの話を聞いていたが、どうやら彼女は魔法使いらしい。


なんでも、森霊種…エルフは元々魔法適性が高い種族らしく、リナさんはその中でも一際適性が高かったとのこと。


陽名菊も化け物じみたステータスとレベルを持っていたが、リナさんもかなり化け物じみていた。


そんな話をしながら呑気に歩いていると、気づけば空は茜色になっており、俺たちは慌てて蓮華に戻ってきた。


もうすぐ夕食の時間帯になるとの事なので、リナさんは厨房の奥へと去っていきその準備を始めている。


リナさんを厨房へと見送った後、偶然カウラを見つけたので、窓際に座っているカウラの元に行き向かい側の席に座った。


カウラの顔を見ると、何故か満たされた表情をしている。何があったのか。


「よっす」


「んにゃ?あ、シンシンおかえりにゃ」


「おう、ただいま。何してたんだ?」


「ちょっと前まで陽名菊ちゃんをからかってたにゃ」


イタズラが成功した子供のような笑顔でカウラはそう言う。


まさかあの陽名菊を玩具に出来るような奴がいるとは…俺もコツを教わりたい。


「陽名菊をからかえるようなネタが半日で見つかったのか?」


「シンシン絡みでちょいとにゃ。いやー面白かったにゃ」


「俺絡み?」


「まあ、そこは後で分かるにゃ。それより、折角だし一緒に夕飯どうかにゃ?陽名菊ちゃん、おやつの食べすぎで腹が空いてにゃいらしくて、このままじゃにゃあが1人飯食らう事ににゃるから付き合えにゃ」


「そうか」


カウラはそう強引に誘ってくる。


陽名菊が満腹になるなんて考えられないが、実際に起こっているので信じるしかないのだろう。一体どれほどの量を食べたのか。


「カウラがそこまで言うなら付き合うよ。まあ、お互い何も知らないし親睦会って事でいいか」


「おう、それで良いにゃ。じゃあ、早速シンシンについて質問を…そうだにゃ、まずシンシンの種族は?」


「んー、人間か転生者って言ったら伝わるか?」


「人間…転生者?」


不思議そうに首を傾げるカウラ。


陽名菊が知っていたので、カウラも知っていると思ったがどうやら違うらしい。


「なんて言うかな…取り敢えずどこの種族にも当てはまらない」


「うーん…よく分からないからいいにゃ。じゃあ次、シンシンはどこ出身にゃ?」


「日本」


「どこにゃそこ?」


一応予想はしていたが、日本も伝わらないらしい。前任者、もっと情報広めろよ。


「むう、全然親睦できにゃい…あ、将来の夢は?それにゃらにゃあでも理解出来るにゃ」


「ハーレム」


「…え?」


「だから、ハーレム」


カウラが急に呆気に取られたような顔をする。


その直後、カウラは俺に汚物を見るような目を向けてきた。


「…今、シンシンに対しての株が急降下してるにゃ。まさかシンシンがそんな不埒な事考えてるとは…女の子はそんな尻軽じゃないにゃ」


「知ってるよ。けど、クソ強いモンスターとか倒して大金でもゲットすれば女なんて寄ってくるだろ。『女は金だ』って俺が尊敬する人が言ってた」


「それ、女にゃあの前で言う?それと、その人捻くれ過ぎにゃ」


確かに女の人の前でする話ではなかったかな。


ちなみにこの言葉は、俺が小学一年生の時の担任が言っていた言葉だ。


出会った日から俺はその人を尊敬している。


「何にせよ、俺はこの世界でハーレムを作る。そのために強くならなきゃいけないし、強敵も倒さなきゃいけない。正直な話、魔王的な奴をぶっ殺したいのだが…そういう奴いない?」


「…一応いるにゃよ。2年前ぐらいにも王都付近まで魔王幹部が攻めてきたし」


「お、まじで?そういうの待ってた。で、そいつは?」


「王都の外壁に少しちょっかい出したあと、その近くにダンジョン作って引きこもってるにゃ。それからはにゃーんも音沙汰にゃし」


リナさんが持ってきた焼き魚と麦飯を書き込みながら、そう説明してくれる。


つまり、そのダンジョンを攻略し魔王幹部を倒せば大金ゲットと。修行しなくては。


「まずはダンジョン攻略か…なんかもうそれだけでハーレム要因沢山手に入りそうじゃね?幹部って言うんだから強いんだろ?」


「にゃー、確かにそうだにゃ。でも、ハーレムを夢見るシンシンにお知らせが一つ」


「ん、なんだ?」


俺が聞くと、木で出来たジョッキグラスに入った酒だがお茶だか分からない飲み物を一気飲みした後、目を逸らし苦笑いをしながらカウラは言ってきた。


「シンシンが生まれた場所では一夫多妻が普通だったのかもしれないけど、ここ一夫一妻が基本にゃんだよね」


「…は?」


生まれた国が一夫一妻基本だったから、こっちでハーレムを夢見たのに。


あのロリ女神、また変な所で日本模倣発動しやがった。


これには前任達も愚痴を垂れたことだろう。


俺も今心の中で舌打ちを十回程した。


「でも、一応例外もあるにゃよ」


そんな俺を見越してか、カウラは話す。


例外があるなら早く言って欲しい。どうせ金とかだろうけど。


「王族に婿入りすれば良いのにゃ。確かあそこでは一夫多妻制が許されたはずにゃ」


「オーケー、ちょっと王城に乗り込んでくる」


「落ち着けにゃ、シンシンが言っても門前払いが関の山にゃ。それと、にゃあの話聞いてた?王族に婿入りにゃよ?王族の女性を落とすテクがないとまず無理にゃ。だから取り敢えず座れ」


カウラに促されるまま俺は席に座る。知性があるとは言え、獣族にあやされるのは人してどうなのだろうか?


それと、先程から周囲の目線を集めているが気にしてはならない。


近くの席のおじさん達が「あんなに可愛い獣人侍らせといて、何がハーレムだ」だとか「あいつ、顔だけは上物のあのエンフェタズマと相部屋らしいぜ」と言った声がヒソヒソと聞こえる。


「…少し騒ぎ過ぎたにゃ」


「…だな」


周囲の突き刺すような視線に、少しだけ縮こまってしまった。


横目で見てみると、此方に憎まれ口を叩いて来た人達は大半が装備が簡素なビギナー冒険者だった。


別に自分を悪く言われるのは構わない。ただ、今の戯言の中で気に食わない言葉があった。


「なあ、カウラ」


「なんにゃ、シンシン?」


「顔だけは上物のエンフェタズマって、もしかしなくても陽名菊のことだよな?」


「…そうにゃね」


正直に言うと、ここがリナさんとマスターさんのお店じゃなかったら殴り掛かっていたかもしれない。


なので、今は大人しく晩飯を食べることに専念する。


「陽名菊の可愛さが分からないとは、可哀想な奴らだ。食事の時とか一番可愛いのに」


「まあ、確かにご飯食べてる時の陽名菊ちゃんは活き活きしてるにゃね」


「あー…確かにそうなんだが…。陽名菊が可愛いのはそこもあるんだけど、俺が言いたいのは"誰かと一緒に"ご飯を食べてる時の陽名菊が最高に可愛いって話。あいつ、すげー幸せそうなんだよな」


今朝の食事の事を思い出す。


昨日の夕食の時はしんみりした空気にしてしまったが、今日の朝食時にはそれはもう幸せそうな顔で食事を取っていた。


リナさん曰く、あそこまで幸せそうな陽名菊は初めて見たとのこと。


きっとあれが陽名菊本来の可愛さなのだ。決して顔だけではない。


俺がそう考えていると、カウラはニヤニヤとこちらを見て笑っていた。


「な、なんだ?」


「いや〜、勘違いしないようにしてるとか言いにゃがら、随分惚れ込んでるにゃ〜って」


「可愛いとは思ってるけど、惚れてはいないぞ?」


「可愛いと思った時点でそれはもう半分惚れてるにゃ」


「マジか」


俺はどうやら陽名菊に惚れていたらしい。


なるほど、可愛いと思ったらそれはもう惚れているのか。


確かに、興味がなければ可愛いなんて思わないな…良い事を知った気分だ。


「ん?いや待てよ?その理屈だと、武器屋にいた奥さんとか質屋の娘さん、北にある肉屋の若女将にも惚れてることになるぞ?」


「うわー、節操にゃいにゃー」


「それに…」


呆れ半分、おふざけ半分と言った様子で見つめてくるカウラに、俺は恐る恐ると言った様子で口を開く。


「なあ、カウラ」


「なんにゃ〜」


「俺、お前にも半分惚れてるわ」


「………にゃう?」


焼き魚に伸びていた箸がピタリと止まり、そのまま数秒固まった。


そして、壊れた機械が急に動き出したような動作で、カウラの顔が急速に真っ赤に染まっていく。


「きききき、急ににゃんて事言うにゃ!やっぱりシンシンはバカだったの!?」


「いや、だってさ…てか、そもそも俺ケモ耳萌えだからお前に惚れない理由がない。あと俺はバカじゃねえ」


「バカにゃ!充分バカにゃ!こんにゃ所で告るとか意味分かんにゃい…」


顔は赤くしたまま、カウラは目に涙を貯め始めていた。


そして一頻り喚いた後、カウラは椅子に座りポツリと呟く。


「……シンシンの言い分は、女の子としては嬉しいけど……けど、にゃあは耳が…」


「耳?」


「…いや、なんでもないにゃ」


俺は首を傾げる。


耳がどうしたのだろうか。


茶色に肌触りが良さそうな良い猫耳だと思うのだが…。まさか付け耳とか?


そんな馬鹿げた事を考えていると、カウラは不意に席を立った。


「この話は終わりにするにゃ…にゃあは部屋に戻る。ご馳走様でした。シンシン、付き合ってくれてサンキュにゃ」


「お、おう…どういたしまして」


カウラは俺に礼を言ったあと、バーカウンターにいたマスターさんとリナさんに何か一言ずつ声をかけ、店の階段を登って行った。


もしかしたら、俺の惚れた発言に気分を害してしまったのかもしれない。


明日しっかり謝っておこう。




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