惨殺機人の殲流血
第3話二口のやべーやつ
陽名菊が街までの案内を頼み出てから、早数分。
歩けば半日は掛かるとの事なので、仕方なく陽名菊の肩に担がれなんとか街までやって来た。
胃を圧迫される感覚に懸命に耐えながら、陽名菊から生み出される高速移動にも耐えたのだ。誰か褒めて欲しい。
森を抜け、草花が生い茂る草原を走り抜け、見えて来たのは高さ数十メートルはあるだろう巨大な壁。それが高面積で何かを囲むように建てられているのだ。視覚だけでは、その幅は捉えきれなかった。
そして壁の元まで辿り着くと、そこには鉄製の両開きの門があった。
「着きましたよ、真也さん……って大丈夫ですか?」
「割と、やばい…うっ」
その場で盛大にゲロった。
陽名菊が優しく背中をさすってくれるが、俺の吐き気に拍車が掛かっただけだった。こう言う時はそっとして置いて欲しい。
転生後だったので胃液しか出なかったが、汚いので地に埋めておく。
「あー、少しスッキリした。悪い、時間取らせた」
「いえいえ。では、行きましょうか」
「ああ、頼む」
門の前には西洋式の鎧を来た人が1人、門番をしていた。
陽名菊は和服の裾から何かカードを取り出し、それを門番へと渡す。
少しするとカードは返却され、扉が開き街の中に入ることが出来た。
門番が扉に手をかざしただけで開いたが、あれが魔法と言うものなのだろうか。
「では、まずはギルドに向かいましょう。ギルドカードがないと何も出来ませんから」
「ギルド?と、ギルドカード?」
「ギルドは様々な職種の方々が集まる所です。普段は酒場にもなってますね、色んな人と交流出来るので。そして、ギルドカードと言うのは、その人の名前、職種、出身地、レベル、ステータス、所持金などが表示されます。簡単に言うと身分証明書ですね」
ファンタジーっぽい。やっと異世界転生ものになって来た。
刹那で猛獣を切り刻む物理しか見てこなかったからか、なぜか感動した。
「ギルドカードがないとどうなるんだ?」
「カード保持者と一緒にいる場合、子供だと未成年扱い、大人だと奴隷ですね。1人でいる場合で成人してるとみなされると、モンスター扱いです。私に八つ裂きです」
「ワァオ…」
にっこりと可愛らしい笑みでそんな事を言ってきた。
しかし、この話の場合俺はモンスター扱いとなり、陽名菊に八つ裂きルートの筈だが…はてさてどう言う事だろうか?
そんな俺の視線に気付いたのか、陽名菊は俺の手を握り優しい笑みを向けて答えた。
「真也さん、貴方は特別です」
「え?それって……」
あれ?いつの間にか落ちてた?左腕差し出した甲斐がちゃんとあったのか?
嫁1人ゲット…?
「真也さんみたいな最上質な肉を一気に食べるなんて勿体ないじゃないですか!?しかも殺さない限り無限に出てきますし、奴隷でも良いけどそれだと誰かに横取りされるかもしれないですしぃ!?だったらカード作って人権手に入れたあと私の傍に置いておくのが最適解ですよねぇ!?だからいつまでも私の傍に居てください!!!」
「今までに類をみない程の最悪なプロポーズをありがとな!!?やっぱそっち方面行くんだね!?知ってたよこんちくしょう!!!」
あぁあぁ、知ってましたとも!この世界が割と厳しい事ぐらいねぇ!?
でも、もう少しさあ…夢見させてよ…目の前で涎拭ってる割と天然そうな二口美少女妖怪を誰かヒロインに変えてよ。
虚しい虚しい俺の悲痛な叫びが、街中と心の中で響き渡る。
お互い「ぜぇ、はぁ…」と息を切らしクールダウン。
周囲の視線に気付き、陽名菊は咳払いを1つした。そして、何事もなかったかのように歩きだす。
「では、ギルドに向かいましょうか」
「…そうだな」
先程の荒れっぷりは何処へやら、お淑やかな笑みを浮かべる陽名菊に、俺は黙って付いていった。
しばらく歩くと、「ギルド 源の街支部」と看板を掲げた建物が見えて来た。凡そ2階建てのレンガ造りの建物。
リリスの言う通り、確かに言語は日本語らしい。しかしこれはダサい、ダサすぎる。もっと良い名前はなかったのか。
建物の中に入ると、昼間にも関わらず屈強なおじさん達が高笑いをしながら酒を飲んでいた。そんなおじさん達に目もくれず、陽名菊は「カード発行・案内」と書かれたカウンターへと進んで行く。
「いらっしゃいませ。あ、陽名菊さんですか。今回はどのようなご要件で?」
「この方のギルドカードを発行して頂けますか?」
「…畏まりました。少々お待ちください」
俺の事を数秒視察したのち、カウンターのお姉さんは店の奥へと消えていった。陽名菊曰く、少し時間がかかるらしい。
待ち時間を何かで潰せないか、施設内の1度見回す。
木製の椅子やテーブルに、木札に日本語で書かれた料理のメニュー表が壁に吊るされ、料理だけでなく日用雑貨も少し売っていた。
日本を元にしたと言っていたが、どうやら金の単位は違うらしい。目に入ったもので言うと「ワイバーン焼き 800エル」と書いてあった。関係ないけど、クソ不味そうだなワイバーン焼きって。
「そう言えば、カード発行って金掛かるの?」
「一応、手数料で300エル取られますけど。大丈夫です!しばらく諸々のお金は私が出します!真也さんは大切なごh…伴侶ですから!」
「陽名菊、もう隠さなくていいぞ?」
こいつが俺を食料として見てるのは周知の事実、もういっその事飯と言ってくれ方が気が楽になる。
それに今もさっきも、その口元から垂れそうになってる涎のおかげで、嘘言ってるのがバレバレである。
「正直言うとですね、私も微妙なんですよ。こんな事初めてですし。いつも狙った獲物は腸から骨にこびり付く残りカスまで食べてましたから、食べた獲物が生きてるって不思議な気分何ですよ」
「まぁ、気持ちは分からなくもないな」
陽名菊の言い分も理解は出来る。
例えば、養殖した豚を解体し、そこから取り出したバラを食っている中、その豚が再生し「偶然取れた部位なら食っていいぞ」なんて言われたらどう思うだろうか?
きっと誰もが困惑するだろう。
しかし、理解は出来るが俺の恐怖は消えるわけじゃない。それに、ずっと同じものばっかり食っていても飽きるだろう。
「陽名菊は俺の味に飽きたらどうするんだ?」
「うーん…想像が出来ませんけど、真也さんはかなりの良物件なので飽きても食べ続けますね。それに真也さんの肉は魔素が豊富なのでレベルが凄い上がるんですよ」
「魔素?」
「あ、魔素というのはモンスターが持つ生命エネルギーのようなものでして、モンスターを倒した時や、モンスターを何らかの形で摂取した時に自分に流れ込むんです。そして、流れ込んだ魔素は自分の魔素と融合して、自分の能力やステータスが強化されていきます。それで、先程話した真也さんの魔素なんですけど、左腕を食べただけでレベルが5上がりました」
そう言い、陽名菊は自分のカードを見せてくる。
カードには「陽名菊 Lv90」と表記してあり、その下にステータスや職業などが書いてあった。
剣術と素早さのステータスがカンストしていたのは、この際触れないでおこう。何の餌になってしまったのか自覚したくないから。
「元が85だったのか。Lv90って強いの?」
「Lv80もあれば王族の専属騎士になれます。90にもなれば騎士団長とか通り越して王族の仲間入り狙えます」
「すげーなお前」
その一言しか出てこなかった。
まさか、森の中で熊肉を生で食い、人の左腕で食リポを始めるうえその人肉の味に惚れ、涎を垂らし、隙あらば俺を食おうとする少女が王族候補なんて誰が思うだろうか。
「それで、そのレベルが5上がるのってどれくらい大変なんだ?」
「そうですね…低レベルなら割と珍しい話じゃないんですけど、私ですと伝説級の竜を倒すと3上がるかどうかです。ちなみに伝説の竜は騎士団長10人集めて倒せるかどうかです」
「すげーな俺の肉」
騎士団長10人…つまり陽名菊が10人集まって勝てるかどうかと言うこと。
こいつが10人とか想像したくない。あ、なんか鳥肌立ってきた。
「真也さんの肉がどれほどの物か理解して頂けたでしょうか?という訳で右腕くださ…」
「陽名菊様お待たせ致しました。お連れの方もこちらへどうぞ」
「お姉さんナイスタイミング〜!」
「偶然落ちた肉しか食べない」とか言う約束は忘れ去ったのか、また涎を垂らし俺の肉を狙う陽名菊。
準備を整えたお姉さんの登場により、俺は危機を脱することが出来た。しかし、それと同時に陽名菊の不機嫌な表情と舌打ちを見てしまい、お姉さんが危険な目に遭わないか心配になってくる。
カウンターの方へ向かうと、魔法陣とその真ん中に赤い石が乗っけられた装置があった。
「ではまず、こちらの石へ手をかざしてください」
「こうですか?」
「はい。そしたら、そのまましばらくお待ちを」
俺が手を置くと、魔法陣が光だし、空中にゲームに出てくるログ画面の様な物が出てきた。
そして、その画面には俺の名前や体重、身長などのデータから、体力、知力、魔力などのステータスが表示されていく。
数秒もしないうちに、その画面は俺の眼前で縮小していき、1枚のカードとなった。
もしかしてこれでカード発行の儀は終わってしまったのだろうか?なんてあっけない。
「あの、これで終わりですか?」
「そうですね。後はカードに不備がないかの確認だけです。少し拝見させてもらっても宜しいでしょうか?」
俺は言われた通りカードを渡した。
お姉さんはカードを見ながらリストに内容を書き写し始める。
しかし、名前と身長、体重を書き終えたところでペンが止まり、何か困惑しているような顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、あの…真也様のカードなんですが、能力欄が文字化けしてるんですよ。それに職業も書かれていないうえ、レベルも0と言う表記でして…色々イレギュラー何ですよ」
申し訳なさそうに説明をするお姉さん。
能力の文字化けはバグのようなもので理解出来るとして、職なしとLv0とはどういう事だろうか?
「職業がないのって珍しいんですか?あと、Lv0とは?」
「はい。この石は対象を分析し、その人にあった職業を振り分けるよう魔法が掛けられたものなので、何も表示されないという事はない筈なのですが…それに、レベルも最低値が1からですので…」
なるほど、確かに色々と問題が起こってるようだ。
俺としては魔道具にニート判定貰ったことが1番頂けないのだが、Lv0というイレギュラー表記がカッコイイので許すとしよう。
「あ、真也さん。カードの詳細登録終わりました?」
「終わったが、問題が諸々」
「問題…?」
両手に何かの串焼きを持った陽名菊が、俺のカードを覗き込む。
お姉さんと話してる時間が長かったせいか、酒場のメニューからテキトーな物を買ってきたらしい。
そして、陽名菊もお姉さんと同じように首を傾げ困惑していた。
「真也さん、何ですかこれ。Lv0に能力欄と職業欄空白?それにステータスもやたら低いですし……何より、『陽名菊のご飯』って表記がないじゃないですか!」
「そこ要らなくね?」
「いりますよ!まぁ、冗談ですけど。それにしても、まだ聞いてませんでしたが真也さんはどこから来たんですか?」
「日本」
俺がそう答えると、陽名菊だけじゃなくお姉さんも不思議そうな顔をする。
やはり、日本という名はこの世界では知られていないか。
1000年おきに転生者を送ってると言っていたので、名前ぐらいは広まってると思っていたのだが、どうやら予想は外れていたようだ。
「まぁ、遥か遠くの国とでも思っといてくれ」
「うーん、よく分かりませんが、分かりました。取り敢えず、この石が嘘を表示する筈はないですし、今はこれを正式な手続きと言うことにしましょう。リースさんもそれで良いですか?」
「は、はい。真也様さえ良ければ」
陽名菊がそう言うと、お姉さん…リースさんは俺に視線を向ける。
俺が了承の意で首を縦に振ると、ギルドカードの右下にここのギルドのマークが彫られた押印が押された。
これで全ての手続きが完了したようだ。やっと人権が手に入った。
「カード発行の手続きはこれにて完了となります」
「「ありがとうございました」」
最後に発行手数料の300エルとやらを陽名菊が払い、お互いに礼をしてギルドを後にした。
ちなみに陽名菊が持っていた串焼きは、例のワイバーン焼き。
美味しいから食べてみろと陽名菊に勧められ、1口食べたのだが、やっぱり不味い。と言うより、人が食べる味ではなかった。
歩けば半日は掛かるとの事なので、仕方なく陽名菊の肩に担がれなんとか街までやって来た。
胃を圧迫される感覚に懸命に耐えながら、陽名菊から生み出される高速移動にも耐えたのだ。誰か褒めて欲しい。
森を抜け、草花が生い茂る草原を走り抜け、見えて来たのは高さ数十メートルはあるだろう巨大な壁。それが高面積で何かを囲むように建てられているのだ。視覚だけでは、その幅は捉えきれなかった。
そして壁の元まで辿り着くと、そこには鉄製の両開きの門があった。
「着きましたよ、真也さん……って大丈夫ですか?」
「割と、やばい…うっ」
その場で盛大にゲロった。
陽名菊が優しく背中をさすってくれるが、俺の吐き気に拍車が掛かっただけだった。こう言う時はそっとして置いて欲しい。
転生後だったので胃液しか出なかったが、汚いので地に埋めておく。
「あー、少しスッキリした。悪い、時間取らせた」
「いえいえ。では、行きましょうか」
「ああ、頼む」
門の前には西洋式の鎧を来た人が1人、門番をしていた。
陽名菊は和服の裾から何かカードを取り出し、それを門番へと渡す。
少しするとカードは返却され、扉が開き街の中に入ることが出来た。
門番が扉に手をかざしただけで開いたが、あれが魔法と言うものなのだろうか。
「では、まずはギルドに向かいましょう。ギルドカードがないと何も出来ませんから」
「ギルド?と、ギルドカード?」
「ギルドは様々な職種の方々が集まる所です。普段は酒場にもなってますね、色んな人と交流出来るので。そして、ギルドカードと言うのは、その人の名前、職種、出身地、レベル、ステータス、所持金などが表示されます。簡単に言うと身分証明書ですね」
ファンタジーっぽい。やっと異世界転生ものになって来た。
刹那で猛獣を切り刻む物理しか見てこなかったからか、なぜか感動した。
「ギルドカードがないとどうなるんだ?」
「カード保持者と一緒にいる場合、子供だと未成年扱い、大人だと奴隷ですね。1人でいる場合で成人してるとみなされると、モンスター扱いです。私に八つ裂きです」
「ワァオ…」
にっこりと可愛らしい笑みでそんな事を言ってきた。
しかし、この話の場合俺はモンスター扱いとなり、陽名菊に八つ裂きルートの筈だが…はてさてどう言う事だろうか?
そんな俺の視線に気付いたのか、陽名菊は俺の手を握り優しい笑みを向けて答えた。
「真也さん、貴方は特別です」
「え?それって……」
あれ?いつの間にか落ちてた?左腕差し出した甲斐がちゃんとあったのか?
嫁1人ゲット…?
「真也さんみたいな最上質な肉を一気に食べるなんて勿体ないじゃないですか!?しかも殺さない限り無限に出てきますし、奴隷でも良いけどそれだと誰かに横取りされるかもしれないですしぃ!?だったらカード作って人権手に入れたあと私の傍に置いておくのが最適解ですよねぇ!?だからいつまでも私の傍に居てください!!!」
「今までに類をみない程の最悪なプロポーズをありがとな!!?やっぱそっち方面行くんだね!?知ってたよこんちくしょう!!!」
あぁあぁ、知ってましたとも!この世界が割と厳しい事ぐらいねぇ!?
でも、もう少しさあ…夢見させてよ…目の前で涎拭ってる割と天然そうな二口美少女妖怪を誰かヒロインに変えてよ。
虚しい虚しい俺の悲痛な叫びが、街中と心の中で響き渡る。
お互い「ぜぇ、はぁ…」と息を切らしクールダウン。
周囲の視線に気付き、陽名菊は咳払いを1つした。そして、何事もなかったかのように歩きだす。
「では、ギルドに向かいましょうか」
「…そうだな」
先程の荒れっぷりは何処へやら、お淑やかな笑みを浮かべる陽名菊に、俺は黙って付いていった。
しばらく歩くと、「ギルド 源の街支部」と看板を掲げた建物が見えて来た。凡そ2階建てのレンガ造りの建物。
リリスの言う通り、確かに言語は日本語らしい。しかしこれはダサい、ダサすぎる。もっと良い名前はなかったのか。
建物の中に入ると、昼間にも関わらず屈強なおじさん達が高笑いをしながら酒を飲んでいた。そんなおじさん達に目もくれず、陽名菊は「カード発行・案内」と書かれたカウンターへと進んで行く。
「いらっしゃいませ。あ、陽名菊さんですか。今回はどのようなご要件で?」
「この方のギルドカードを発行して頂けますか?」
「…畏まりました。少々お待ちください」
俺の事を数秒視察したのち、カウンターのお姉さんは店の奥へと消えていった。陽名菊曰く、少し時間がかかるらしい。
待ち時間を何かで潰せないか、施設内の1度見回す。
木製の椅子やテーブルに、木札に日本語で書かれた料理のメニュー表が壁に吊るされ、料理だけでなく日用雑貨も少し売っていた。
日本を元にしたと言っていたが、どうやら金の単位は違うらしい。目に入ったもので言うと「ワイバーン焼き 800エル」と書いてあった。関係ないけど、クソ不味そうだなワイバーン焼きって。
「そう言えば、カード発行って金掛かるの?」
「一応、手数料で300エル取られますけど。大丈夫です!しばらく諸々のお金は私が出します!真也さんは大切なごh…伴侶ですから!」
「陽名菊、もう隠さなくていいぞ?」
こいつが俺を食料として見てるのは周知の事実、もういっその事飯と言ってくれ方が気が楽になる。
それに今もさっきも、その口元から垂れそうになってる涎のおかげで、嘘言ってるのがバレバレである。
「正直言うとですね、私も微妙なんですよ。こんな事初めてですし。いつも狙った獲物は腸から骨にこびり付く残りカスまで食べてましたから、食べた獲物が生きてるって不思議な気分何ですよ」
「まぁ、気持ちは分からなくもないな」
陽名菊の言い分も理解は出来る。
例えば、養殖した豚を解体し、そこから取り出したバラを食っている中、その豚が再生し「偶然取れた部位なら食っていいぞ」なんて言われたらどう思うだろうか?
きっと誰もが困惑するだろう。
しかし、理解は出来るが俺の恐怖は消えるわけじゃない。それに、ずっと同じものばっかり食っていても飽きるだろう。
「陽名菊は俺の味に飽きたらどうするんだ?」
「うーん…想像が出来ませんけど、真也さんはかなりの良物件なので飽きても食べ続けますね。それに真也さんの肉は魔素が豊富なのでレベルが凄い上がるんですよ」
「魔素?」
「あ、魔素というのはモンスターが持つ生命エネルギーのようなものでして、モンスターを倒した時や、モンスターを何らかの形で摂取した時に自分に流れ込むんです。そして、流れ込んだ魔素は自分の魔素と融合して、自分の能力やステータスが強化されていきます。それで、先程話した真也さんの魔素なんですけど、左腕を食べただけでレベルが5上がりました」
そう言い、陽名菊は自分のカードを見せてくる。
カードには「陽名菊 Lv90」と表記してあり、その下にステータスや職業などが書いてあった。
剣術と素早さのステータスがカンストしていたのは、この際触れないでおこう。何の餌になってしまったのか自覚したくないから。
「元が85だったのか。Lv90って強いの?」
「Lv80もあれば王族の専属騎士になれます。90にもなれば騎士団長とか通り越して王族の仲間入り狙えます」
「すげーなお前」
その一言しか出てこなかった。
まさか、森の中で熊肉を生で食い、人の左腕で食リポを始めるうえその人肉の味に惚れ、涎を垂らし、隙あらば俺を食おうとする少女が王族候補なんて誰が思うだろうか。
「それで、そのレベルが5上がるのってどれくらい大変なんだ?」
「そうですね…低レベルなら割と珍しい話じゃないんですけど、私ですと伝説級の竜を倒すと3上がるかどうかです。ちなみに伝説の竜は騎士団長10人集めて倒せるかどうかです」
「すげーな俺の肉」
騎士団長10人…つまり陽名菊が10人集まって勝てるかどうかと言うこと。
こいつが10人とか想像したくない。あ、なんか鳥肌立ってきた。
「真也さんの肉がどれほどの物か理解して頂けたでしょうか?という訳で右腕くださ…」
「陽名菊様お待たせ致しました。お連れの方もこちらへどうぞ」
「お姉さんナイスタイミング〜!」
「偶然落ちた肉しか食べない」とか言う約束は忘れ去ったのか、また涎を垂らし俺の肉を狙う陽名菊。
準備を整えたお姉さんの登場により、俺は危機を脱することが出来た。しかし、それと同時に陽名菊の不機嫌な表情と舌打ちを見てしまい、お姉さんが危険な目に遭わないか心配になってくる。
カウンターの方へ向かうと、魔法陣とその真ん中に赤い石が乗っけられた装置があった。
「ではまず、こちらの石へ手をかざしてください」
「こうですか?」
「はい。そしたら、そのまましばらくお待ちを」
俺が手を置くと、魔法陣が光だし、空中にゲームに出てくるログ画面の様な物が出てきた。
そして、その画面には俺の名前や体重、身長などのデータから、体力、知力、魔力などのステータスが表示されていく。
数秒もしないうちに、その画面は俺の眼前で縮小していき、1枚のカードとなった。
もしかしてこれでカード発行の儀は終わってしまったのだろうか?なんてあっけない。
「あの、これで終わりですか?」
「そうですね。後はカードに不備がないかの確認だけです。少し拝見させてもらっても宜しいでしょうか?」
俺は言われた通りカードを渡した。
お姉さんはカードを見ながらリストに内容を書き写し始める。
しかし、名前と身長、体重を書き終えたところでペンが止まり、何か困惑しているような顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、あの…真也様のカードなんですが、能力欄が文字化けしてるんですよ。それに職業も書かれていないうえ、レベルも0と言う表記でして…色々イレギュラー何ですよ」
申し訳なさそうに説明をするお姉さん。
能力の文字化けはバグのようなもので理解出来るとして、職なしとLv0とはどういう事だろうか?
「職業がないのって珍しいんですか?あと、Lv0とは?」
「はい。この石は対象を分析し、その人にあった職業を振り分けるよう魔法が掛けられたものなので、何も表示されないという事はない筈なのですが…それに、レベルも最低値が1からですので…」
なるほど、確かに色々と問題が起こってるようだ。
俺としては魔道具にニート判定貰ったことが1番頂けないのだが、Lv0というイレギュラー表記がカッコイイので許すとしよう。
「あ、真也さん。カードの詳細登録終わりました?」
「終わったが、問題が諸々」
「問題…?」
両手に何かの串焼きを持った陽名菊が、俺のカードを覗き込む。
お姉さんと話してる時間が長かったせいか、酒場のメニューからテキトーな物を買ってきたらしい。
そして、陽名菊もお姉さんと同じように首を傾げ困惑していた。
「真也さん、何ですかこれ。Lv0に能力欄と職業欄空白?それにステータスもやたら低いですし……何より、『陽名菊のご飯』って表記がないじゃないですか!」
「そこ要らなくね?」
「いりますよ!まぁ、冗談ですけど。それにしても、まだ聞いてませんでしたが真也さんはどこから来たんですか?」
「日本」
俺がそう答えると、陽名菊だけじゃなくお姉さんも不思議そうな顔をする。
やはり、日本という名はこの世界では知られていないか。
1000年おきに転生者を送ってると言っていたので、名前ぐらいは広まってると思っていたのだが、どうやら予想は外れていたようだ。
「まぁ、遥か遠くの国とでも思っといてくれ」
「うーん、よく分かりませんが、分かりました。取り敢えず、この石が嘘を表示する筈はないですし、今はこれを正式な手続きと言うことにしましょう。リースさんもそれで良いですか?」
「は、はい。真也様さえ良ければ」
陽名菊がそう言うと、お姉さん…リースさんは俺に視線を向ける。
俺が了承の意で首を縦に振ると、ギルドカードの右下にここのギルドのマークが彫られた押印が押された。
これで全ての手続きが完了したようだ。やっと人権が手に入った。
「カード発行の手続きはこれにて完了となります」
「「ありがとうございました」」
最後に発行手数料の300エルとやらを陽名菊が払い、お互いに礼をしてギルドを後にした。
ちなみに陽名菊が持っていた串焼きは、例のワイバーン焼き。
美味しいから食べてみろと陽名菊に勧められ、1口食べたのだが、やっぱり不味い。と言うより、人が食べる味ではなかった。
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