ド底辺ランク冒険者の俺が、美少女ドラゴンを嫁にするまで。
第9話 デジャブ
「…何処まで見た?」
「お、おいらは何も見てないよ?」
俺が聞くと、ブロウは足をガクガクと震わせながら答えた。
一部始終を見たと見て良さそうだ。
怯えるブロウに俺とカンナは頭を抱え、ニムはポケっとしている。ニムだけ状況が理解出来ていない様子だった。
「レイさんにカンナ様もどうしたんですか?」
「いや…ニムちゃん、見られちゃいけないものを見られちゃったわけだし、ね?」
「?…ッ!」
ここでニムが状況を把握。手の指をパキパキと鳴らしながら、ブロウの方を見る─
「記憶を消すには、脳に強い衝撃を…」
「ヒィッ!?」
ブロウが腰を抜かして後ずさった。
頭蓋骨やらを通り越して直接脳へと考えが行きつくストレート具合に、ニムらしさを感じた瞬間だった。ただ、おそらくニムは本気で相手の頭を殴りに行く気なので、俺は止めなければいけない。
「ニム、ストップだ」
「で、でも…ぜっっったい内緒なんですよね?」
「まあ、大丈夫。ブロウも共犯者にしちゃえば問題ない」
改竄はカンナにしか使えない。なので、ブロウも改竄して貰った事にすればこちら側である。
ブロウが「冤罪だ!冤罪だ!」と嘆いているが、カンナのスキルの前には無意味に等しい。どれだけ本当の事だと主張しようと、それが改竄された情報かもと疑われただけで詰みだからだ。
見ただけで人を疑心暗鬼の中に閉じ込めるタチの悪いスキル。神のイタズラの方がまだマシかもしれない。
悪業に走らなかったカンナは賞賛させるべきだろう。
「…何よレイ、私の事ジッと見て…」
「カンナは偉いなぁって」
「保護者目線やめなさい」
「へーい」
何だか久しぶりにこのやり取りをした気分がする。まだ一日しか経ってないのに。
「何はともあれ、これでブロウも共犯者だ。仲良くしようよ。あ、スープ飲む?」
「おいらは何もしてないのに…」
そう弱った様子でブロウは俺の横に座りスープを啜る。
ブロウを見てて思い出したが、元々ブロウ達はビッグスパイダーを密猟しようとしていたので、仮にバレたらそれでお縄されるのではないだろうか。
リーダーもジルもブロウも、全員根はいい人そうなのに何故密猟などと言う違反行為に手を…
「なあブロウ、なんでビッグスパイダーの密猟なんてしようと思ったんだ?やっぱりお金目当てか?」
「…それは言えないっす。でも、確かにお金は必要っすね…」
「困った時はお互い様だぞ?それに俺達、もう共犯者じゃないか」
「まだそのネタ引っ張るんすか…」
別にネタで言ってる訳ではないのだが…。
「レイさんの気使いを無下にするのは見過ごせませんね。やはり記憶を消してそこら辺に放置しときましょうか」
先程まで静かにハンバーグを食べてたニムが、再び指をパキパキと鳴らしながらブロウを見る。
その顔は機械的で、記憶どころか相手の命までも消してしまいそうだった。なので、やはり俺は止めに行かなければならない。
「ニムちゃん…落ち着いて…」
「……はい」
今度はカンナが止めてくれた。
ニムが素直に俺以外の人からの指示を受け入れたのは初めてかもしれない。
「ブロウ君…だったかしら?取り敢えず事情くらいは話してくれない?何かあるならうちのレイを持っていけばいいわ。使えるわよ?Fランク冒険者だけど」
「俺を商品みたいに扱うのやめて?」
「えっ…あの強さでFランクなんすか?もっと上位ランク者だと思ってたっす…」
ブロウは驚きながら俺を見つめた。
「まあ俺、アイテム採取のクエストしかしてないからね。モンスターを倒した事が無いから、実績がなくて」
「えっ、嘘っすよね?」
本来、冒険者は探索とモンスターを倒す事を生業としており、薬草などのアイテム採取は初心者用か副職的な立ち位置になっているのだ。なので、ずっと副職しかやってこなかった俺を見て、ブロウが驚く顔をするのも無理の無い事なのだ。
そんな意外そうな顔をするブロウに、カンナは訂正を入れる。
「本当よ。レイは生まれてこの方モンスターを殺した事はないわ。それどころか、小さい頃はそこにいるメタルスライムに育てて貰ったらしいわよ」
「あ、これ本当にメタルスライムだったんすね…」
テーブルの上で置物のように動かないメーさんに目を向ける。
「メーさんは今昼寝中だから邪魔しないでね」
「名前まで付けてるんすか…」
「俺の親だからね」
「レイさんってその…変わってますね」
ブロウが若干引きながら俺の事を見てくる。心にヒビが入る音が聞こえたのは気のせいだと思いたい。
「話が逸れたな。どうだ?何か話す気になったか?」
「いえ…やっぱりおいらからは話せないっす。リーダーが起きたら直接聞いて下さい」
「そうか」
ブロウの様子を見るに、一番問題が深刻なのはリーダーと見て良さそうだ。
「まあ、あんま気にし過ぎても疲れるだけだしな。どう?ブロウもカンナにカード情報弄って貰わない?誕生日変えるとか」
「おいらを本格的にそっち側にさせようとするのやめてくれないっすか?」
「てかレイ、私のスキルを遊ぶノリで使うのやめて」
「はーい…」
ブロウとカンナが呆れた視線を向けてくる。ちょっとした冗談だったのだが…。
それと、誕生日で一つ気になる事が出来た。
「ニム、ちょっとカード貸して」
「?…どうぞ」
「うん、ありがと」
イノシシのステーキを食べるニムから、俺はカードを受け取る。見ると、生年月日が何千年も前になっていた。
これを見ると、やっぱりニムはドラゴンなんだな…と実感する。
「カンナ、ニムの誕生日が凄い事になってる」
「え?…あら、ほんとだわ…。でもここの欄は弄ってないと思うのだけど…」
「間違えて触っちゃったんじゃない?」
「うーん…そうかもしれないわね」
半信半疑だったが、何とかカンナを説得する事が出来た。
先程のようにスキルで文字を浮かび上がらせ、カンナはニムに尋ねる。
「ニムちゃんって今何歳?」
「え…歳ですか…?もう千を越えてか─…」
「十四、十四歳だ」
正直にニムが答えそうになったので、俺は咄嗟にニムの口を塞いだ。
その様子に疑問を抱いていたカンナだったが、すぐ納得し情報を書き換えてくれた。
今のニムの身長なら、十四歳ぐらいがちょうど良いだろう。
「むぅ…どうせならレイさんと同じ年齢が良かったです…」
「まあ、そこは仕方ないかな」
「体って難しいですね…」
「難しいわね…」
ニムの呟きに、カンナがポソりと返して来た。その目はニムの胸を見ている。
「十四歳でその大きさか…」
自身の控えめな胸と、ニムのそこそこ出た胸を見比べていた。
十四歳で大きめの胸は違和感を覚えるのだろうか。ニムが竜だとバレなければいいが…。
これは話を逸らした方が良さそうだ。
「そう言えば、ブロウの仲間はまだ起きないのか?」
「おいらが起きた時はまだ…」
仮に起きていたら今までのやり取りを全部見られてたかもしれないので、共犯者が増えて都合が良かったのだが。
なんて事を思いながら俺は医務室の方を見るが、残念ながらそこにはブロウが倒した置物があるだけで誰もいなかった。
「折角だから直しておくか」
カンナの父親が趣味で買ってきたと言っていたピエロの様な置物。カンナの父親が言うには、ロキとか言う何処かの神をモデルにした物らしい。正直見た目が気味悪いから俺はあまり好きじゃない。
罰当りに神像への悪口を吐きながら、俺は置物を元の位置に戻した─
「「あっ…」」
医務室に続く部屋の壁に、リーダーとジルが隠れていた。そんな二人からはツーと汗が垂れ始めている。
俺が固まっていると、その様子を疑問に思ったのかニムがやってくる。そしてニムにも二人の存在がバレた。
「…見ましたか?」
ニムが問うと、二人は懸命に首を横に振る。だが、ニムは二人の反応から『見た』と判断したのだろう。
─指をパキパキ鳴らし、拳を構えた。
ジルは垂らす汗の量が増し、ニムと正面から闘った経験を持つリーダーはブルブルと震え始める。
そんな様子をニムは見ながら、今度こそ記憶を消す役目を果たせる機会が出来た事に歓喜していた。
キラキラな瞳で殺しの拳を纏う彼女の姿は、二人を一層震え上がらせる。
「私の出番ですね!」
俺の出番でもある。
ニムを止めながらの二人の説得は、中々に心が折れる作業だった。
「お、おいらは何も見てないよ?」
俺が聞くと、ブロウは足をガクガクと震わせながら答えた。
一部始終を見たと見て良さそうだ。
怯えるブロウに俺とカンナは頭を抱え、ニムはポケっとしている。ニムだけ状況が理解出来ていない様子だった。
「レイさんにカンナ様もどうしたんですか?」
「いや…ニムちゃん、見られちゃいけないものを見られちゃったわけだし、ね?」
「?…ッ!」
ここでニムが状況を把握。手の指をパキパキと鳴らしながら、ブロウの方を見る─
「記憶を消すには、脳に強い衝撃を…」
「ヒィッ!?」
ブロウが腰を抜かして後ずさった。
頭蓋骨やらを通り越して直接脳へと考えが行きつくストレート具合に、ニムらしさを感じた瞬間だった。ただ、おそらくニムは本気で相手の頭を殴りに行く気なので、俺は止めなければいけない。
「ニム、ストップだ」
「で、でも…ぜっっったい内緒なんですよね?」
「まあ、大丈夫。ブロウも共犯者にしちゃえば問題ない」
改竄はカンナにしか使えない。なので、ブロウも改竄して貰った事にすればこちら側である。
ブロウが「冤罪だ!冤罪だ!」と嘆いているが、カンナのスキルの前には無意味に等しい。どれだけ本当の事だと主張しようと、それが改竄された情報かもと疑われただけで詰みだからだ。
見ただけで人を疑心暗鬼の中に閉じ込めるタチの悪いスキル。神のイタズラの方がまだマシかもしれない。
悪業に走らなかったカンナは賞賛させるべきだろう。
「…何よレイ、私の事ジッと見て…」
「カンナは偉いなぁって」
「保護者目線やめなさい」
「へーい」
何だか久しぶりにこのやり取りをした気分がする。まだ一日しか経ってないのに。
「何はともあれ、これでブロウも共犯者だ。仲良くしようよ。あ、スープ飲む?」
「おいらは何もしてないのに…」
そう弱った様子でブロウは俺の横に座りスープを啜る。
ブロウを見てて思い出したが、元々ブロウ達はビッグスパイダーを密猟しようとしていたので、仮にバレたらそれでお縄されるのではないだろうか。
リーダーもジルもブロウも、全員根はいい人そうなのに何故密猟などと言う違反行為に手を…
「なあブロウ、なんでビッグスパイダーの密猟なんてしようと思ったんだ?やっぱりお金目当てか?」
「…それは言えないっす。でも、確かにお金は必要っすね…」
「困った時はお互い様だぞ?それに俺達、もう共犯者じゃないか」
「まだそのネタ引っ張るんすか…」
別にネタで言ってる訳ではないのだが…。
「レイさんの気使いを無下にするのは見過ごせませんね。やはり記憶を消してそこら辺に放置しときましょうか」
先程まで静かにハンバーグを食べてたニムが、再び指をパキパキと鳴らしながらブロウを見る。
その顔は機械的で、記憶どころか相手の命までも消してしまいそうだった。なので、やはり俺は止めに行かなければならない。
「ニムちゃん…落ち着いて…」
「……はい」
今度はカンナが止めてくれた。
ニムが素直に俺以外の人からの指示を受け入れたのは初めてかもしれない。
「ブロウ君…だったかしら?取り敢えず事情くらいは話してくれない?何かあるならうちのレイを持っていけばいいわ。使えるわよ?Fランク冒険者だけど」
「俺を商品みたいに扱うのやめて?」
「えっ…あの強さでFランクなんすか?もっと上位ランク者だと思ってたっす…」
ブロウは驚きながら俺を見つめた。
「まあ俺、アイテム採取のクエストしかしてないからね。モンスターを倒した事が無いから、実績がなくて」
「えっ、嘘っすよね?」
本来、冒険者は探索とモンスターを倒す事を生業としており、薬草などのアイテム採取は初心者用か副職的な立ち位置になっているのだ。なので、ずっと副職しかやってこなかった俺を見て、ブロウが驚く顔をするのも無理の無い事なのだ。
そんな意外そうな顔をするブロウに、カンナは訂正を入れる。
「本当よ。レイは生まれてこの方モンスターを殺した事はないわ。それどころか、小さい頃はそこにいるメタルスライムに育てて貰ったらしいわよ」
「あ、これ本当にメタルスライムだったんすね…」
テーブルの上で置物のように動かないメーさんに目を向ける。
「メーさんは今昼寝中だから邪魔しないでね」
「名前まで付けてるんすか…」
「俺の親だからね」
「レイさんってその…変わってますね」
ブロウが若干引きながら俺の事を見てくる。心にヒビが入る音が聞こえたのは気のせいだと思いたい。
「話が逸れたな。どうだ?何か話す気になったか?」
「いえ…やっぱりおいらからは話せないっす。リーダーが起きたら直接聞いて下さい」
「そうか」
ブロウの様子を見るに、一番問題が深刻なのはリーダーと見て良さそうだ。
「まあ、あんま気にし過ぎても疲れるだけだしな。どう?ブロウもカンナにカード情報弄って貰わない?誕生日変えるとか」
「おいらを本格的にそっち側にさせようとするのやめてくれないっすか?」
「てかレイ、私のスキルを遊ぶノリで使うのやめて」
「はーい…」
ブロウとカンナが呆れた視線を向けてくる。ちょっとした冗談だったのだが…。
それと、誕生日で一つ気になる事が出来た。
「ニム、ちょっとカード貸して」
「?…どうぞ」
「うん、ありがと」
イノシシのステーキを食べるニムから、俺はカードを受け取る。見ると、生年月日が何千年も前になっていた。
これを見ると、やっぱりニムはドラゴンなんだな…と実感する。
「カンナ、ニムの誕生日が凄い事になってる」
「え?…あら、ほんとだわ…。でもここの欄は弄ってないと思うのだけど…」
「間違えて触っちゃったんじゃない?」
「うーん…そうかもしれないわね」
半信半疑だったが、何とかカンナを説得する事が出来た。
先程のようにスキルで文字を浮かび上がらせ、カンナはニムに尋ねる。
「ニムちゃんって今何歳?」
「え…歳ですか…?もう千を越えてか─…」
「十四、十四歳だ」
正直にニムが答えそうになったので、俺は咄嗟にニムの口を塞いだ。
その様子に疑問を抱いていたカンナだったが、すぐ納得し情報を書き換えてくれた。
今のニムの身長なら、十四歳ぐらいがちょうど良いだろう。
「むぅ…どうせならレイさんと同じ年齢が良かったです…」
「まあ、そこは仕方ないかな」
「体って難しいですね…」
「難しいわね…」
ニムの呟きに、カンナがポソりと返して来た。その目はニムの胸を見ている。
「十四歳でその大きさか…」
自身の控えめな胸と、ニムのそこそこ出た胸を見比べていた。
十四歳で大きめの胸は違和感を覚えるのだろうか。ニムが竜だとバレなければいいが…。
これは話を逸らした方が良さそうだ。
「そう言えば、ブロウの仲間はまだ起きないのか?」
「おいらが起きた時はまだ…」
仮に起きていたら今までのやり取りを全部見られてたかもしれないので、共犯者が増えて都合が良かったのだが。
なんて事を思いながら俺は医務室の方を見るが、残念ながらそこにはブロウが倒した置物があるだけで誰もいなかった。
「折角だから直しておくか」
カンナの父親が趣味で買ってきたと言っていたピエロの様な置物。カンナの父親が言うには、ロキとか言う何処かの神をモデルにした物らしい。正直見た目が気味悪いから俺はあまり好きじゃない。
罰当りに神像への悪口を吐きながら、俺は置物を元の位置に戻した─
「「あっ…」」
医務室に続く部屋の壁に、リーダーとジルが隠れていた。そんな二人からはツーと汗が垂れ始めている。
俺が固まっていると、その様子を疑問に思ったのかニムがやってくる。そしてニムにも二人の存在がバレた。
「…見ましたか?」
ニムが問うと、二人は懸命に首を横に振る。だが、ニムは二人の反応から『見た』と判断したのだろう。
─指をパキパキ鳴らし、拳を構えた。
ジルは垂らす汗の量が増し、ニムと正面から闘った経験を持つリーダーはブルブルと震え始める。
そんな様子をニムは見ながら、今度こそ記憶を消す役目を果たせる機会が出来た事に歓喜していた。
キラキラな瞳で殺しの拳を纏う彼女の姿は、二人を一層震え上がらせる。
「私の出番ですね!」
俺の出番でもある。
ニムを止めながらの二人の説得は、中々に心が折れる作業だった。
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