一閃のアパティア
己が役割
今この時、この場所で彼は自分という存在は如何なる者かと見つめてみる事にする。
其ノ壱──
同じ言葉しか話したことがない。
他者という存在が自分に声をかけてくる。
その度俺はこう問いかける。
「俺と共にあの邪悪なる敵を倒してくれるのか?」
Yes or No ?
──「Yes」
「ありがとう。では、いざ行こう!!」
──「No」
「そうか、いつか共に戦えることを願おう」
常にその程度である。
それしか俺は話さない。
其の弍──
感情の変化が、人の回答によってしか変わらない。
それこそ、其の壱の返答の時くらいだ。
「Yes」の場合は、喜ぶ。
「No」の場合は、残念がる。
これもまた、その程度である。
感情の起伏はそれ以外無いに等しい。
もはや、何故自分は笑っているのか、時に残念がっているのかというその行為すら自分自身では理解できないものである。
其の参──
自分は何故か最強と呼ばれる。
自分に会う人は度々こう口にする。
「ラストダンジョンを最強の助っ人と歩むらしい」
「その最強はダンジョン前に常に立ち続けているそうだ」と。
場所は辺境地。その中でも間違いなく人に好まれることはないだろう暗黒という文字にふさわしい大樹海の中の最奥という辺鄙と言うにも生温い場所に立ち続けているのは、謂わば自分くらいである。
つまりは、その『最強』という言葉の対象は自分の事だと考察する。
以上より、自分という存在はつまらないものだとその自分は考える。
無感情に言葉を発し、無感情に顔の表情を変え、そして無感情に魔神を知らぬ他者と共に倒す。
その後に得られる喜びもしかり。それも等しく
────『無感情』
ただその言葉一つで完結される存在。
自分を見つめた結果は酷く虚しいものだった。
自発的に動くことのない、また存在意義を何も見い出せない者。
それが自分なのであると……
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