【一話完結】ショートショートショート

野灰琉花

名医でも治せない


とある総合病院に、『名医』と呼ばれる医師がいた。

他の病院では難しい、無理だと言われた患者を診て、次々と完治していく。
その『名医』を目当てに、全国から病人が集まり、どんどん有名になっていった。


その『名医』は、患者を診て治療した数週間後、必ずといっていいほど治療した場所が悪化して、同じ病院の他の医師に診てもらっていた。

「『名医』なんだから、自分で治したらどうです?」
同僚の医師にはそう言われるが、
「医者の不養生ってやつかねぇ」
と、笑いながら返している。

この『名医』は自分の健康な臓器と、患者の悪化している臓器に、手をかざすだけで交換できるという能力を持っていた。
健康な臓器と交換した訳だから、患者が完治するのは当然だし、『名医』本人が病気になるのも当然だ。
この方法を繰り返して、何百人もの難病の患者を治療してきた。



ある日のこと。
女の子を連れた母親が、この『名医』の元を訪れた。
「この子、ずっとお腹が痛いと言っているのですが……どの病院でも、原因がわからないので、こちらの病院に……」
「わかりました。まずは、診察を」
女の子の腹部に聴診器を当てるのと同時に、触診もしていく。

子宮の奥、通常の検査ではわかりにくい部分に、悪性の腫瘍ができていた。
これが、腹痛の原因に間違いない。

しかし、男の自分の身体には子宮がないため、この女の子の子宮と交換することはできない。



「大変申し訳ないのですが、私では無理のようです。もっと施設が整っていて、腕のいい医師のいる病院を紹介します」
そう言って、紹介状を書き、女の子の母親に渡す。


しばらくして、その『名医』には「女性は治せない」という噂がたった。

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