【一話完結】ショートショートショート

野灰琉花

夢の中では

中学生にもなると、入学祝いにとスマートフォンを買ってもらう子が多い。
スマートフォンでなくても、タブレット型のパソコンとか。

僕の通う中学校では、『学校へのスマートフォンの持ち込み禁止』。
スマートフォンを学校に持ってきているのが見つかったら、先生に没収されて、親に連絡が行くというルールになっている。
しかし、スマートフォンを、こっそりと学校に持ち込んでいる子は何人もいる。
……そして、僕はその『犠牲』になった。

体育の時間の後、着替えている最中に、後ろからそっと近づいて来たヤツが、僕のジャージを下着ごと下ろした。
僕の下半身は丸見えの状態だ。
丸見えになった僕の下半身を、スマートフォンのカメラで撮られてしまった。

下着ごとジャージを下ろしたヤツも、スマートフォンで撮ったヤツもグル。
「この恥ずかしい写真をばらまかれたくなかったら、オレ達の言うことをきけよ!」

一瞬にして、僕は『いじめっれっ子』になってしまった。



泣きそうになりながら、家に帰って自分の部屋へ。
「宿題があるから、邪魔しないでね」
母にそう言って部屋に籠もると、制服を脱いだ後、部屋着に着替えてベッドに大の字になる。

あの写真、下半身だけでなく、僕の顔までしっかり写っていた。
ばらまくって、女の子にも見せるのかな。

嫌なことばかりが、頭の中をグルグルと回る。



ふと、気がつくと、僕の足元には幼稚園児くらいの小さな可愛い女の子。
その女の子に、本を読んでくれと頼まれて本を読む。
読めない字を教えてあげると、女の子は喜ぶ。
女の子の母親に感謝され、手料理を御馳走になる。

あぁ、これは夢なんだ。
ベッドに大の字になって、眠ってしまったんだ。
そう思いながらも、僕でも役に立って感謝されていることが嬉しく感じる。



次に目覚めた時には、目の前に大きな怪物。
動物に例えるならば、大きなタコ。
頭には大きな目が一つ。何本もの触手がうねうねと動いている。
僕に向かって、その触手が襲いかかってくる。

「勇者様! 右手の剣を!」
僕の後ろから、女の子の声。
確かに、僕の右手には剣が握られている。
これで戦えるのかと思いながらも、右手に持っている剣で触手を次々と切って行く。
触手は全部切ってしまったようで、怪物は逃げようとする。

「勇者様! とどめを刺してください!」
そう言われて、僕は怪物に飛びかかり、剣を目に突き刺した。
怪物は、痛みで暴れていたものの、振り落とされないように、剣を深く刺して行く。
しばらくすると、怪物は動かなくなった。きっと、怪物は死んだのだろう。

「ありがとうございます!」
声の主と思われる、僕と同じくらいの年齢の女の子が、岩の影から出てきてお礼をいう。

あぁ、これもきっと夢。
この夢の中でも、役に立って感謝されていることが嬉しく感じる。



「夕食だからと、部屋に息子を呼びに来たのですが……寝ているのかと思って、起こそうとしたら息をしていなくて……」
息子の様子に慌てた母親が、近くの町医者を呼んで診てもらったところ、呼吸だけでなく、心臓も止まっていた。


母親は、息子の顔を見ながらそっと呟く。
「息子のこんな幸せそうな笑顔。初めて見たかもしれません」

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