【一話完結】ショートショートショート

野灰琉花

いつも通り


「何で『ゴールデンウイーク』って言うんだろう?」
「諸説あるらしいけど、映画『自由学校』が、この連休中に当時の最高の売り上げを記録したことから、稼げる期間ってことで宣伝用語として、映画界で『ゴールデンウイーク』ってつけたのが始まりらしい」

「娯楽に使う金のための期間ってことか……」
「お金を使ってくれる人が居るから、俺達みたいに休まず働いて、金を稼ぐ人間だっている訳なんだから」
俺は苦笑しながら、そう返す。


ここはコンビニ。
ゴールデンウイークだからといって、休みにする訳にはいかない。
というより、行楽に出かける人達が立ち寄るから、いつもよりも客は多い。

たくさんの客をさばきながら、ちょっとした合間に、俺と一緒にシフトに入っているフリーターの友人と、さっきのような会話をしていた。

「忙しくなることを見越して、バイトの時給を少し多めに出してくれるって言ってたけど、これだけ忙しいと、ワリに合わない気がするな」
そう愚痴りながらも、友人は商品の補充作業をしている。

「『ゴールデンウイーク』っていうくらいなんだから、この期間はお金が降ってくればいいのに」
「もし降ってきたとしても、小銭ばかりな気がするけどな」
俺は苦笑しながら答える。

「それに、小銭だと拾うのが大変じゃないか?」
「大変だと思って拾わない人がいるから拾うんだよ。塵も積もればって言うだろう。でも、拾ったお金の取り合いが起きたりして、意外に面倒なことになりそうだけど」
「俺は、空からお金が降ってくるよりも、俺の銀行口座に五億円くらい振り込まれている方が嬉しいけどな」
「それな! それなら、拾う手間はないし、振り込まれたお金は全部自分のもので、他の人と取り合いになることもない!」


先日、ある資産家が亡くなった。
その資産家は俺の祖父にあたる人で、遺言状には俺に財産の一部を譲るというものだった。
そして、俺の銀行口座には五億円が振り込まれた。しかし、税金で半分近く持って行かれると思うと、嬉しさも半減する。
それでも、あくせく働かなくても生活できるくらいの金額が、俺の口座には残るのだが。

大金が手に入ったからといって、生活を変えてしまうと、周囲からあれこれと詮索されてしまいそうだ。特に、高価なブランド品を買ったりしたら、目ざといヤツはツッコミを入れてくるだろう。
もし、誰かに言ったとしたら、友達づきあいも今までとは違ってくるのも困るし、確実に金目当てで擦り寄ってくる人間が湧いてくるのが嫌だ。



大金が転がり込んできたことで、金銭的な余裕ができたおかげで、心にも余裕ができた気がする……が、厄介なことにならないよう、『いつも通り』が一番だと思いながら、俺はいつも通りに、コンビニのバイトをしている。

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