21グラムの悲しみ

Melissa

21グラムの悲しみ

 
 思いもよらない出来事とは記憶のどこに眠るのだろうか、海馬からどこに伝わるのか考えたことがあるのだろうか。
 私はなかった。
 この目の前で起こってる事は記憶のどこに記録されるのであろうか?
 目の前に起こった事が理解できないのは人間ならば当たり前なのか、それとも私がおかしくなったのかわからない。

雲一つなく、月に照らされ月が綺麗な日だった。
 
 私と沙優は和葉に呼び出された。
 私は幼い頃から沙優に想いを寄せており、こうして二人で歩いているだけでも幸せであった。
 「沙優、何か心当たりはあるか?」

 こんな人里から離れた小屋に私は心当たりはなかった。

「いつもの芸術品を見せたいんじゃないの?」

 和葉は自分の美で人を殺す癖がある、ありきたりな殺し方はしない、全て美しく見えるのだ、そして常人離れした浮世絵のような容姿からは想像はできない。
 ニュースにもなったが、部屋の壁に死体の模写をし、天井に死ぬときに発した言葉が書かれてあった。
 和葉が美しいのがそれだけではなく、完全犯罪なのだ、ここまで手が凝っているのに証拠が出ないことで有名である。
 なのに今日は証拠ともなり得る、私達を呼ぶなんて事は今までにはなかった。

「ここか…」
私は電気の付いてない小屋の前で立ち止まった。

「やっぱりいつものじゃない?」

私もそう思い、恐る恐る入ることにした。
 この乾いた部屋の中の窓からは何も見えない程に暗い…
 
 私は友人である、和葉を殺していた。

 記憶が無い、部屋に入った後の記憶が無い。
 でも私の手は絵の具のような血が付いていた。恐怖で腰が竦んだ、足が後ろに下がる、
するとかかとに柔らかいなにかがあたった。
 沙優であった、微かに息はしていた。
 思い出せない記憶が今、鮮明になってきた。
 「沙優を殺せ、殺せと脳が疼くんだよ」
 その瞬間、沙優は和葉を抱きしめた、そのまま沙優はゆっくりと倒れ込んだ。
 沙優の腹にはナイフが突き付けられていた、美しくなかった。

 私が和葉を殺した、私の中で何が変わったのか、全ては愛した沙優の為に殺した、沙優の腹部についたナイフを抜き、
和葉に向けて、ゆっくりとナイフを突きつけ、からだにめりこませていく、硬かったり柔らかかったりする感触が、ナイフをつたり、私の手に伝わる、和葉は自分が腹にナイフを突き立て、倒れている沙優に寄り添うように倒れていく。
 地面は柔らかく感じた。

 「沙優…まだ聞こえてるかい?僕の最期の人殺しになってくれたね」

腹にナイフが刺さりながら、沙優に寄り添って話しかけている。
 私はこの美術品を見ることしかできない。

 「和葉…聞こえてるよ…昔から和葉のことしか見てなかったよ?好きだったから…」

血だらけの身体を和葉に擦り寄せる。

 「和葉が殺されてきた人が羨ましかった…あんなに美しくしてもらって、嫉妬さえしちゃってたよ?でも最後にこんなに美しく染めてもらってうれしいよ?」

 和葉の腹から血が流れ落ちる、もう目は空いていない、私が刺した時にはまだ和葉であったが、もう21.262グラムの魂が抜け、ただの抜け殻になっていた、ここにもう和葉はいない。

 「和葉は優しいね、全然痛くなかったよ?」
 
 和葉には聴こえていない。
 沙優も服の上から血が滲み出す。

 「やっと二人になれる…ね…」

 私は沙優を刺した和葉を殺した、私の愛した沙優を殺したから。
 沙優が殺されたいと思っているとは、知らなかった、沙優を助けたのならば、振り向いて私の名前を最後に呼んでくれるかと思った。
 でも沙優を最期の一人にしてあげれただけでもいいと思えるようになってきた、私がこの美術品を完成させたのだ。
 和葉は私が完成させてくれるとわかっていたのか。
 私は友と愛した人を同時に無くした。
 今見ている景色は目からどこを通って感情になっているのか、この美しいも悲しい感情は私の中にはどこにあるのだろうか、あぁ、今やっとわかった、和葉を殺した時に感情は消えてしまっていたのかな、だから殺さない私が和葉を殺せたと理解できた。
  この広い、薄暗いくて乾いた部屋どこでも見る事ができるのに、最後まで私は見つめるしか出来なかった、寄り添い合う美しくなりつつある沙優の姿を…

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