ナーガルキャッツライフ

オンスタイン

最終話 ホワイトクリスマス

12月25日。今日は良い子にしている子供たちにサンタクロース様が夢(プレゼント)を配る日であり、人類がもっとも生殖活動を行う日でもある
そんな街中に明かりが灯る聖なる夜(笑)支部の明かりは、消えていた

「ぷはー!やっぱり外で飲む酒はうまいな〜!」
「いや、それただのオレンジジュースでしょうが……」
今日は仕事もないのに昼から大変だった。リッカさんが「クリスマスに引きこもるとは何事や!」とか言って俺とジジを強引に外に連れ出したのだ
リッカさんいわく、クリスマスは引きこもったら負けらしいが外は寒いし最近、外でてばっかりだし、なによりクリスマスなのでどこを行っても人で溢れかえっている。なにが言いたいかというと『面倒くさい』ただそれだけ
結局、外に出たはいいものの映画館は混んでるしゲーセンは閉まってるしデパートなんて言うまでもなく人で溢れかえっていた
そして、ただただ時間だけが過ぎ今はこうしてお好み焼き屋で夕食をとっている
「んっ!美味しい……」
隣ではジジがとても幸せそうに明石焼きを頬張っていた
「つか、なんで俺たちお好み焼きなんて食ってんだ?普通、クリスマスはフライドチキンとか食うもんじゃねえのかよ?」
ジジに関しては明石焼きなのでお好み焼きですらないが
「贅沢言いなさんなー。どうせ支部におってもインスタントしかないんやで?」
「……」
そう言われると、なにも言えない……
心の中で涙を流しながら自分の頼んだ豚玉を食べる
「お好み焼きだろうがなんだろうが腹が膨れればええねん」
まるで行事なんて関係ないと言っているようだった。随分と適当な大人だ
「とにかく今日は遊びまくって食いまくるんやー。店員さーんオレンジジュースおかわりー」
リッカさんがニコニコしながら店員に手を振り、おかわりを求める
ふと視線を下に向けるとリッカさんの頼んだお好み焼きがまったく減っていなかった
「おーい、あんたジュースしか飲んでねえじゃねえか。食いまくるんじゃなかったのか?」
そう言うとリッカさんはヘコヘコ頭を下げながら箸を手に取った
「はいはい分かってるがなー。食って食って─ゲホゲホ!」
一気にかき込んだせいでむせてしまったようだ
「おいおい、お好み焼きは逃げねえからゆっくり食えよリッカさん」
そうこうしていると店員が早くもオレンジジュースを持ってきた。だが、なにか変だオレンジ以外になにか別の匂いが……
「ゲホゲホ!……ナイスタイミングや」
リッカさんが喉に詰まっている物を流そうとオレンジジュースをごくごくと飲んだ
それと同時にさきほどの店員が慌てた様子で戻ってきた
「すみません!お客様!さきほど間違えてオレンジサワーを渡してしまって……!」
オレンジサワー?それって確か……
さきほどの匂いの正体が分かってきてしまった。これはかなりまずい展開だ
「リッカ……?」
まるで石像のように固まったリッカさんを見てジジが心配そうに覗き込む
あれを飲んだリッカさんはしばらく固まった後、突然動き出す
(なんて事してくれたんだ!この店員は……!)
まずい非常にまずい状況だ……
あの変わり果てたリッカさんの姿をこんな大勢の人の前で見せるわけにはいかない!
しかし、時間は止まることなくとうとうリッカさんが動き出した
「……わあー!猫しゃんに銀髪の狼しゃんだ〜!」
リッカさん……だったものはニコニコしながら千鳥足でこちらに近づいてきた
「えっ?リッカ?ど、どうしたの……?」
ジジは大変、動揺していたがそんなのお構いなしにリッカさんがジジにのしかかる
「猫しゃん、お耳可愛いね〜もふもふ〜」
(で、出やがった……!)
酒を飲んだことでリッカさんのもうひとつの人格『ロリッカさん』が目を覚ましたのだ
「ちょっ!くすぐったいわよ!」
握ったり撫でられたりと好き放題されてジジは目が回っていた
これはなんとかしなければ……
「おい!見てねえであんたも手伝え!」
傍で慌てふためいていた店員に声をかけ2人でジジからリッカさんを引き離そうと試みる
もちろんそんな様子を見て周りの客達の視線はすべて自分たちに集まっていた
2人で必死に引っ張りなんとかリッカさんを引き剥がすことに成功する
「狼しゃん怖いよ〜」
引き剥がされてそのまま大の字になったリッカさんはそう言い残すとなんとそのまま寝てしまった
「収まったはいいものの寝やがったぞこの人……」
体を揺さぶるがいつ起きるか分からないほど熟睡しておりどうしようもない状態だった
「ジジ、もう帰るぞ。リッカさん運ぶの手伝ってくれ」
ジジならまだいいがリッカさんとなると大人なので担いで帰るのはしんどい
面倒くさそうだがジジは頷いてくれた
しかし、問題はもう1つ残っていた
「会計、どうするかだな……」
リッカさんの奢りと聞いていたので財布は置いてきてしまっていた。いや正確には忘れてきたのだがおそらくそれはジジも、
「金なら持ってるわ」
あるのかよ……何気に用意周到よういしゅうとうだなと思いながらもジジに払ってくれと言わんばかりに苦笑いを見せる
「はぁー、分かったわ1つ貸しよ?」
「ああ、ありがとな」
ジジが会計を済ませにいっている間にリッカさんの体を起こすと服のポケットからリッカさんの携帯が滑り落ちてきた
ポケットに戻そうと携帯を拾うと誤って電源ボタンを押してしまいスマホのホーム画面が開いた
「これって……」
ホーム画面を見ると恐らく12歳くらいの時であろう自分の寝顔写真が待ち受けに設定されていた
「おいおい、盗撮だろこれ」
そう言いながらも俺は自分のスマホを取り出しカメラを起動させリッカさんの寝顔にピントを合わせる
「これで、おあいこだなリッカさん」 
パシャッ!というシャッター音に会計中のジジが振り向きこちらを不審そうに見つめてきた
参ったな。これではまたジジに誤解されかねない……

しばらくしてジジが会計を済ませて戻ってきた
「ありがとな。お前がいなかったらリッカさんの財布を漁る羽目になってた」
店のなかでそんなことをすれば不審に思われるに違いない。下手すれば警察を呼ばれる恐れだってある
「とにかく、さっさとそのでかいお荷物を持って帰らないと」
「ああ、そうだな」
ジジにも手を貸してもらい二人でリッカさんの肩を担ぐ
「ったく、子供二人になにやらしてんだよこの人は」
そう言うと横でジジがクスリと笑った

店を出ると外はすっかり暗くなっていて空からは雪が降ってきていた
「おっ、すげえなホワイトクリスマスだぜジジ」
横を見るとジジが目を輝かせて空を見つめていた
そういえば、初めてジジが支部に来たときも二人で雪を見に外に出たっけな
あの頃と比べるとジジは、よく喋るようになったしフードで耳を隠したりしていたのも今はなくなった
「ジジって夢とかあるのか?」
歩きながらジジにそんな質問をする
「どういうことよ?」
「俺たち今はリッカさんに面倒見てもらってるし子供だけど仕事もしてる。でもいつか大人になったとき俺たちはどうしてるんだろう?って時々、考えるんだ」
正直、リッカさんが親代わりの俺からしたら大人になっても支部に居続けるものだと思っていた。だが本当にそうなのだろうか?
「夢、か……」
その言葉にジジの口角が上がる
「あるにはあるわよ」
「んっ?あるのか?」
少し意外だったため思わず聞き返してしまう
「ええ、でも……もう叶ってるわ」
「マジか。一体どんな夢なんだ?」
そう聞くとジジは嬉しそうにこちらを見て言った
「家族と一緒に幸せに暮らすことよ」
ジジの言葉に思わず目を見開く
「お父さんやお母さんにはもう会えない。一緒に遊ぶことも出来ないしご飯を食べることも出来ない。でも寂しくなんかないわニアだっているし毎日騒がしいお二人さんが一緒にご飯を食べてくれるし遊んだり買い物だって一緒に出来るんだもの。だからもう寂しくなんかない逆に騒がしすぎて一人になりたいくらいよ」
そう言って笑うジジの顔は、本当に幸せそうだった
「おいおい、騒がしいのはジジとリッカさんだろ。ったく……」
思わず、涙が出そうになったがなんとか堪える
(ありがとな……ジジ)
恐らく……いや、必ず俺たちは大人になっても支部を去らないだろう。そして今の生活が一生、続いていくのだ。なぜなら自分たちは『家族』だから
(それに、こんなだらしない大人を放っておくのはさすがに無責任だしな)
隣でぐっすり寝ている大人を見やる。まったく起きる気配はない

「ところで思ったのだけど、男であるあんたが女一人担げなくてどうするのよ?」
「いや、別に今は関係ねえだろ」
「いいえ、ありありよ。きっとリッカだってヨナにおぶってもらいたいはずよ」
「お前、そんな事言って楽したいだけだろー?」
「ええ、楽したいわ。少なくともヨナは私に強く言えないでしょ?なんたって」
嫌な予感がした俺は急いでジジの肩を掴もうとするがするりと肩が消えた
「借りがあるものっ!」
猫になったジジはそのまま全力疾走を始めた
「ちょっ!待ちやがれ!この人任せ野郎がー!」



クリスマスが終わり街はいつも通りの平凡な落ち着きを取り戻していた
「ヨナちゃん、仕事ー」
そして、支部でもいつもと変わらぬ平穏な日常が流れていた
「おっ!ようやく仕事か!?……って喜んだら駄目だよな」
「いやー、問題起こしてくれんと暇なのがウチらの仕事やさかいなー。しばらく仕事なかったし喜べ喜べ~」
そこはナーガルの犯罪を取り締まるものとしてきっちり叱らないと駄目だと思うが
「で、今度は何やらかした奴なんだ?」
そう聞くとリッカさんは大笑いして言った
「こりゃまた懐かしい万引き犯らしいんよ~しかも猫の」
「マジか……」
クリスマスでサンタさんにプレゼントを貰えなかったがために嫉妬でもしたのだろうか
「場所は、デパート付近のコンビニやて。まあ久々やし楽しんできたらええ」
「りょーかい。さっそく向かうとするか……」
ポケットに財布と手帳を入れスマホも充電の残量を確認してからポケットにしまう
「行くぞ、ジジ。今度の仕事は万引き犯だとよ」
リビングのソファーに座っていたジジに声をかける
「万引き?する方なら得意だけど?」
ジジがそんなジョークを口にする
「ばーか、お前は捕まえる側だ」
玄関で靴を履きドアに手を掛ける
「万引き犯が相手だからって自分と重ねて同情とかすんじゃねーぞ?」
「うるさいわね、分かってるわよそんなこと」
冗談のつもりが怒られてしまったので思わず苦笑しながらもドアを開ける
「んじゃ、財政難の猫さんを捕まえに行くとするか」
こうして今日も、いつも通りの1日が始まる。
そんな当たり前が何故か嬉しくて気づけば俺は笑みを浮かべたていたのだった














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