ナーガルキャッツライフ

オンスタイン

11話 家族のニア

日が落ち始めた頃、リッカさんが支部に戻ってきた
ニアを吹っ飛ばしたあと、怪我を負ったジジを治療するため俺は駆けつけたリッカさんに現場の処理を任せ支部へと走った
現場が片付いたのか聞くため玄関へ向かう
「おかえり、リッカさん後始末を任せて悪かったな…」
「ええよ別に。ジジちゃんは大丈夫なんか?」
「ああ、幸い致命傷にならずに済んでる。今はリビングのソファーで寝てるよ」
「ふぅー、ひとまず安心やね」
あの時、ジジはニアに襲われそうになった俺を庇って怪我を負ってしまった
「…俺が油断してなれけば…ジジが刺されることは…!」
「いつまで言ってるのよ、ヨナ」
振り返るとリビングからジジが出てきた
「ジジ!お前おとなしくしてろって言っただろ」
「もう大分マシになったから平気よ…それよりリッカ…ニアはどうなったの?」
ジジが表情を暗くして言った。ニアは俺がジジを刺された怒りで吹っ飛ばしてしまったため怪我をさせてしまっている事は確実だった
「あの猫娘は本部に引渡したわ。ただ、ヨナちゃんがボコッたせいで病院送りや。ほんまに相手がただの万引き犯とかやったらこっちが罪に問われるとこやで」
病院送りとなると、かなりの大怪我を負わせてしまったらしい。いくら相手がナイフ持ちだったとはいえ女の子にそこまでするのはやりすぎだろう
「悪ぃ、反省する」
リッカさんはクスッと笑っていたがジジは暗い顔をしたままだった
リッカさんが帰ってくる前、ジジから一通りの話を聞いた。親の事、そしてニアの事
聞けば、ニアはジジの父親を殺害したらしい。そして、ジジはその現場を見てしまった
いつも味方をしてくれたニアがそんな恐ろしい事をすると知ってジジはニアを恐れたのだろう
「…明日、ニアに会いに行くわ…」
ジジが突然そう言い出した
「まあ言うと思てたけど、大丈夫なんか?」
「ええ…お互いのためにも色々と話さないといけないから…」
ジジは覚悟を決めたように見えたがニアと会うことに少し恐れているようだった
ここはフォローしてやるとするか
「俺も行くよ。ニアに謝らないといけないしな」
そう言うとジジは安堵するように息をついた
「ヨナちゃんが行くんなら大丈夫そうやね。でも気いつけるんやで2人とも」
俺とジジは静かに頷いた
さてさて、どうなることやら……

翌日、俺とジジは昼からニアのいる病院へと向かった
支部から病院へは少し距離があるためバスで行くことにした

バス停でしばらく待っているとバスが来た
運転手に金を払いバスに乗る。ジジの分も俺が出したが本人は気づいていなかった
「バスは初めてか?ジジ」
「いえ……昔、お母さんと乗ったことがあるわ」
ジジは暗い顔をして言った。そういえばお母さんは小さい頃に亡くなったんだったな……どうやら、辛い過去を思い出させてしまったらしい
「悪ぃ、思い出させちまったな」
「いいわよ……もう昔のことだから」
ジジは笑っていたが無理をしているようにも見えた

座席に座っていると10分くらい経ってバスが病院に到着した
バスを降りるとジジが立ち止まった
「色々、話さないとね……」
またしてもジジが暗い顔をした
「いつも、冷静なお前が珍しいな」
「えっ?」
「ジジはいつも生意気なのがお似合いだ」
そう言うと頬をつねられた
「いてえー!放せよジジ!」
「生意気なのはヨナのほうだと思うけど?」
よく言うなー最初の頃はあんなに俺のこと振り回してたくせに
少ししてジジが手を放してくれた
「早く行くわよ」
怒ったようにジジが歩きだした
「ちょっ待てって!……ったく、今でも振り回されるのは変わらないらしいな……」

病院に入ると受付に監視所の人間だと説明しニアの病室に案内してもらった
病室の前まで来るとジジが気まずそうにドアに手をかけた
「んー?だれだれー?」
ドアを開けると奥から元気な声が聞こえてきた
奥に進むとニアがベットから体を起こしこちらを覗き込んでいた
「あっ!お兄ちゃんにジジだー!」
ニアがこちらを見て嬉しそうに声を上げた
「よっ、また会ったな。えーとニア」
名前で呼ばれたことに少し驚いたのかニアの表情が少し変わった
「き、昨日はその……怪我させちまって悪かったな」
ニアの頭には包帯が巻かれていた。昨日、俺が吹っ飛ばした怪我のせいだろう
「別にいいよーこっちはナイフ持ってたんだし」
クスッと笑ってニアは許してくれた
「それよりも、なんでさっきから隠れてるのー?ジジ」
後ろを振り返るとジジが壁に隠れてこちらの様子をうかがっていた。いつの間に隠れたんだ……?
「べ、別に隠れてたわけじゃ……」
気まづそうにジジがこちらに来た
「ジジ昨日の傷、大丈夫だった?」
ニアは心配そうにジジの胸のあたりを見つめる
「ええ、もう大丈夫よ……」
「良かったあー! ジジ刺しちゃった時は本当に心臓とまるかと思ったよー」
おいおい、俺なら刺してもなんとも思わねえのかよ……
「ごめんねジジ、結局ニアが1番ジジを苦しめてたよ」
「ど、どうしたの?急に」
気まづそうなジジの顔がさらに険しくなる
「ニアってね、お父さんもお母さんも見たことないんだー」
ジジは大きく目を見開いた。おそらく初めて聞かされたのだろう
「昔、ジジはニアに色々話してくれたよね。お父さんの事やお母さんの事も」
「え、ええ……」
「でも、ニアお母さんもお父さんも知らないからジジの話を聞いてもよく分からなかったんだ」
ジジは黙って話を聞き始めた
「でもね、泣いてるジジを見るとジジのお父さんはジジを悲しませる悪いやつなんだって思ったの」
なるほど、それがジジの父親を殺害した動機か
「ニアはジジがもう悲しまないようにジジのお父さんを殺した……でもジジはちっとも嬉しそうじゃなかった。昨日もニアのこと怖がってた」
ニアは突然、となりにいるジジの手を掴み自分の首にあてた
「結局、ニアが1番悪者なんだよ……」
「ニ、ニア?」
「お願いジジ、ニアを殺して? もう悪者でいたくない……」
ジジは、黙り込んだ。止めた方がいいのは分かってるのだが、それは違う気がするのだ……

「……なにが殺してよ」

突然、ジジがニアの手を振りほどき抱きついた
「一体、どれだけ悲しませれば気が済むのよ!?」
泣けさけびながらジジがニアに言った
「な、なんでニアが死ぬとジジが悲しむの?」
ジジの言葉が理解できなかったのかニアが動揺していた

「ニアだって……家族だから!」

大きく目を見開くとニアは大笑いし始めた
「やったー!ジジが家族って言ってくれたー!
「えっ?」
「昨日、ジジがお兄ちゃんのこと家族って言ったとき嫉妬しちゃった……」
さっきのはジジに家族って言ってほしかったがための演技だったわけか、なんて無茶な……
「も〜バカ〜!!」
ジジはさらに泣き出してしまった
「あははー! 泣き虫なのは昔と一緒だね!」
笑いながらニアはジジの頭を撫でた
最初はどうなるかと思ったがこれならもう心配なさそうだ
「お兄ちゃん」
不意に声をかけられ少し驚いた
「なんだ?」
「この泣き虫さん、ちゃんと守ってあげてね!」
昨日とは違いニアの笑顔は子供らしい無邪気な笑顔に変わっていた
「ああ、もちろんだ」

あまり長居するとリッカさんが心配しそうなのでそろそろ支部に帰ることにした
「ジジ!必ずまた迎えにいくからね!……今度はもうジジを悲しませたりしないから!」
病室を出ようとするとニアが声をかけてきた
「ええ、約束よ」
ジジは微笑みながら返事をした
これからも、いや、これまで以上にジジのことは面倒見ねえとな。じゃないと……
不意に思い浮かんだニアの恐ろしい笑顔に俺は思わず身震いした

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