ナーガルキャッツライフ

オンスタイン

1話 財政難な猫

人は大きく分けて2種類だろう、男と女だ。
だが、この世には男と女はもちろんもう2種類存在する国がある。いや、この2種類は人間とは呼べないだろう…

なぜなら、彼らは動物であり人間でもあるから…

「ヨナちゃん、仕事ー」
ここは擬人化生物ナーガルの監視支部。元よりここルナードは人間たちの暮らすごく普通の国だったのだが突如、発生した擬人化生物ナーガルが大量繁殖し、国はこれを対処しきれず共存という選択をとった
俺たちの仕事はナーガルがなにかしでかさないかを監視することだ。ちなみに15歳以上なら誰でも就職できる唯一の仕事だ。なんでも人手が足りないらしい…
「またナーガルの万引きか?いい加減、追いかけっこは疲れたぞー」
最近、ナーガルによる万引きが多発しており、なんとかしてくれという依頼が殺到中である
「お察しの通り万引きやな、大通りのスーパーが3回くらい被害に遭うてるらしいわ」
この人は、支部の部長のリッカさん。人間ではなくうさぎのナーガルだ
自分と同じ、ナーガルを取り締まる仕事だが本人はまったく気にしていないらしい
「ナーガルでも仕事できんだろ?ちょっとは社会貢献しろよ」
(こんな人でも一応、仕事やってんだからさ……)
「最近になってナーガル受け入れへん企業が多なってるらしいわー。毛が散らかったりして大変なんやと」
共存する以上、ナーガルも人間とほぼ同じ生活が出来るようにされているが今回のようにそうはいかない事も出てくる
「まあ、同じナーガルとして同情するけどウチらも仕事やしね、まあとにかくヨナちゃん頼んだわ」
そう言って肩をたたかれ、俺は仕方なく立ち上がる
「はいはい、俺も雇われの身として従いますよー」
毎回、この流れなので疲れてきたが仕事なのだ。コートを素早く着て外に出る
「うわっ寒!」
さっき着たばかりのコートを冷気をまとった風が遠慮なく貫通する。外はもう冬なので随分と冷えていた
しかも空は今にも雪が降りそうな曇り空だ
「さっさと片付けてエアコンのある支部に帰ろう」
今すぐUターンしたい気持ちを抑え、俺は依頼された場所に向かって歩き出した
道中はクリスマスが近いこともありクリスマスフェアなど色々な催しがあってすごく賑やかだ。売り子の中にはナーガルの姿も見受けられた。その中で楽しそうに歩く男女2人組を見て思わずため息をつく
「今年もクリぼっちだな、仕事してるほうがマシそうだ…」
自分でも、かなり悲しいことを言ったと思いつつ歩いていると、現場のスーパーの前へと着いた
「ここが依頼場所…かよしさっさと始めるか」
すぐに手帳を取り出すと地図にいくつか印が付けられているページを開く。仕事柄、ほぼ毎回仕事の度に犯人捜しをするため、居所がないナーガルのたまり場などをサーチしてはこうやって印を付けている。
リッカさんから受け取った犯人の特徴が書かれている紙を取り出し、しばらく眺める
「犯人は黒髪の15歳くらいの女の子…か」
自分と歳が近いため少し気になってしまった
15歳ということは、まだまだ子供だが親はどうしているのだろうか?
「とにかく、まずはスーパーの近くの空き地だな」
ここで考えても仕方ないと俺は手帳を頼りに、たまり場を手当り次第あたってみることにした
しかし、犯人と思われし女の子はどこにもいなかった

「おいおい一体どこに隠れてんだー?」
全箇所を回り終え、呆れながらスーパーに戻ってくると、まるで狙ったかのようなタイミングでスーパーの出口から黒髪の女の子が飛び出してきた
「待てこらー!万引き娘ー!」
そして追いかけるように激怒した店員が飛び出してくる
「隠れてると思ったら、まさかの犯行中だったのかよ!」
最初に店内を見なかったことに、かなり後悔しつつ急いで店員と共に彼女の後を追う
犯人は路地裏を抜けて突然、ネコへと姿を変えた。このようにナーガルは人間の体と動物の体を自在に変えられる
ネコは住宅街の高いブロック塀を勢いよく飛び越えいってしまった。これでは店員も追いかけることは難しいだろう
「おい待て!ネコ娘!…そこの君、なんとかしてくれ!」
後ろから走ってきた俺を監視所の者と判断したのか店員はそう言ってきた
「任せてください、職業柄、追いかけっこには慣れてますので…!」
俺はブロックの壁を勢いよく蹴り、塀の上を手で掴んだあとそのまま向こう側へと体を滑らせた
塀の向こう側に着地すると、少し先の方で万引き猫が驚くように目を見開いてこちらを見つめていた。が、すぐに前を向いて走り出した
ネコはまたしても狭い路地裏に入っていく。どうやらこちらの追跡を振り切るため追いかけにくいルートを選んでいるようだ
だが、逆に好都合だ
「ここなら大丈夫だろ」
俺は急いで、ポケットからある物を取り出した
「くらえ!リッカさん特製マタタビ飴だ!」
「……!」
ネコは逃げるのをやめてこちらに飛び込んでくると、そしてすぐさま手のひらの飴を口に入れた
すると、次第に体が元の人間へと変わっていきそのままヨダレを垂らして眠ってしまった
仕事が無事、終わったことに安堵のため息をついた俺は眠った少女を背中におぶった
「よっと!しばらく寝ててもらうぜネコちゃん」
捕まえたナーガルは本部に引き渡す義務がある。が、ひとまず支部にこの子を連れて帰らなければならない
「にしても同じ年頃の子をおぶるのはちょっと…緊張するな」
首にあたる、少女の寝息に俺は体をソワソワさせながら帰路に着いた

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