ジーナと言う寵姫

佐野元

2

とまぁ、これが俺の兄弟だ。
……俺?俺はまぁ最初に言った通りの陰キャ眼鏡野郎だ。
あえて言うなら種族は王太子の長兄と同じ人間だと言うくらいだ。
……気付けばまた話が逸れてしまったようだ。俺は話をまとめるのが苦手なので目を瞑って欲しい。
とにかく俺のギフトだ。このギフトは俺に万能感を与えてくれた。この国では見られないような多様な発明や開発や改革を提案、実行してきた。
すると周りは「神の図書館」やら「叡智の賢者」などとてつもない勢いで持ち上げた。
まだ成人したとは言え、年若い俺は調子に乗りドンドン色んなものを生み出した。傷の治癒が早くなる液状薬や医療技術等。
そして、ふと思い至る。人を一人生き返らせる事は可能なのか?
魔法は残念ながら存在しないが、この世界には魔術と言う概念が存在した。それは小さな祈りのようなものから相手を呪うもの、それこそ沢山の魔術が存在した。
そこからはもう転がり落ち、時には手からすり抜け落ちる石ころのように俺は俺自身を止めることが出来なかった。

実は兄弟の中で俺は唯一母を亡くしている。理由は俺を産んだ際の産後の肥立ちが悪くそのまま息を引き取ったそうだ。
兄弟とは仲良くやってるつもりだし父とも確執があるわけでもない。各奥方達とも一定の距離は取りつつもある程度お互いに心を開いて会話を楽しめている。
だが時々自分は一人だと感じる時があった。それが血を分けた母が居ないせいなのかはわからなかったがともかくとしても、感じる事が確実にあった。
それを追い求める為に色々やってみた。最後に行き着いたのが錬金術だった。
前世の俺が愛読していた書籍の一つの絵物語に錬金術師が主役のものがあったのでとりあえずそれを参考にしてみた。
材料をブツブツと呟きながら魔術陣内に撒く姿は気狂いのそれだったと今ならわかるが、あの時は好奇心や自身の感情でグチャグチャになっていてまともな思考が出来ていなかった。

「そういえば錬金術は等価交換だったっけ?どうなるんだろ……」

結果は失敗だった。
絵物語では失敗して身体の一部を失っていたが現実はそんな事は無く、五体満足だった。
だが魔法陣の中に存在したのは触れれば簡単に崩れそうなのにウゴウゴと蠢く『何か』で。
頭が真っ白になってその場にへたりこんでいた所を数日様子のおかしかった俺を流石に見かねたのか兄2人が自身の近衛を引き連れて部屋に突入してきた。

「ジーク…お前は何を」

リベルトが異様な室内の雰囲気に息を詰めてこちらの様子を伺っている。……ああ、答えなきゃ。

「見ての通り、母上を蘇らせ、たくて……」

言葉と同時に漏れた吐息と笑いの温度が酷く冷たく感じた。
そうして調子に乗ってこの国では禁じられていた『死者を冒涜する行為』を行った俺は王権を剥奪され離宮に幽閉される身となったのである。





「あー暇だ」
シン、と静かな室内で一人ゴチるとゴロンとベッドの上に転がり込んだ。
この国の陛下、つまり父が俺の処遇を告げた後に俺は近衛兵に拘束されながら離宮へと連行された。
王権を剥奪されたとは言え廃嫡ではない。だから平民に落とすことも出来ないし何より俺のギフトはもはや国の財産になっていた。
だから俺は罰として生涯この離宮で飼い殺しになるのだ。

「まぁ衣食住に困らないっつーか今まで通り優雅に生活出来るのはありがたいけども」

別に前世の知識があるので平民に落とされて放逐されても国内にさえ居ればギフトも使える訳だし困る事は無かったと断言できる。
だが人間誰しも欲深いもので少しでも楽が出来るようであれば甘んじてそちらに流れてしまうものだ。
ただ正直女の子と付き合うか結婚するか、一時の夢は見たかったなぁとボンヤリ思った。

コンコンコン

高級なベッドの上でゴロゴロと寝転んで居ると突然ドアを叩く音がした。

「へぁ~い」

やる気など今はほぼゼロで、真面目に対応する為の気力も無い為におざなりな返事を返す。
充電が終わるにはもう少し掛かりそうだな。

「ジーク、私だ。入ってもいいかな?」

この声はどうやらアルトランのようだ。
些か心配性なこの兄に迷惑を掛けてしまった事実にぐぅ、と呻きたくなる気持ちを抑えて入室を促した。

「良いよ。適当に入ってくれ」
「ありがとう」

ガチャリ、と扉を開けた先に居たアルトランはワゴンを押して入ってきた。

「えっメイドはどうしたんだよ」

俺は国の第一王子、王太子様が眩しい笑みを湛えながらワゴンを押して入ってくる若干面白い光景に思わず身を引いた。

「今は二人で話したいと思ってね。ジーク、クッキー食べるだろ?」
「うん。なんか俺でも結構あの場所と状況疲れてたっぽい。腹減ってる」

紅茶もあるよ、なんて言ってアルトラン自ら紅茶を注いでいる。二人の間の空気は今までと何ら変わらない。

(平和だ……)

ズズ、と音を立ててアルトラン謹製の紅茶を啜る。
無作法かもしれないが、俺はもう飼い殺しの血族なので外面をよく見せたりする必要はないのだ。
クッキーは以前俺が発見したエモギを使用して作られたものだ。
エモギは最初こそ雑草として扱われていたが俺が滋養強壮に効く薬草として提案し直し、料理にも活用できると証明したものだ。
だから、と言うべきかはわかりかねるがきっとアルトランは俺が気落ちしてないか心配してくれているのだろうと思った。

そうしてアルトランと語り合うこと、5分くらいだろうか。なんだか体調が可笑しい。
心臓がドクドクと早鐘を打ち眼の前が明滅するようだ。熱を持つ身体を抑え付け、助けを求める様にいつの間にか下がっていた視線を上げた先にはいつもと変わらない微笑みを浮かべたアルトランが居た。

「おま、え……!なんか入れたな……!?」
「ふふ、今気づくなんてジークも意外とドジな所があるんだね?」

ハッハッ、と浅い呼気が自身から漏れている感覚を漠然と感じる。意識がしっかりと保てそうにない。

「後で、覚えとけよ……!」

ギッと睨みつけると笑みを更に深めて何かを呟いている。くそ、意識が薄れてきて聞こえねぇ!
これが例え毒だろうと死ぬ気で復活して後で殴ってやる!そう決意したと同時に俺の意識は遠くへと連れて行かれてしまったのだ。


ジークハートが気絶した事を確認するとアルトランは音もなく側に寄り、薄っすらと汗をかいたジークハートの愛おしいげに前髪を撫でる。

「ああ、一生そんな日が来ないかもと思っていたのに……これからは沢山愛すると誓うよ。”私達の姫”……」

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