日常は崩れさり少年はあの日を想う

雨月和海@アイコン描いて

前回のあらすじ。

「ようこそ協会(ギルド)へ」

 妹が厨二病に目覚めました。
そして、


「...夕香が、消えた?」
「ああ、昨日のことらしい。俺も昨日の夜に夕香の家から電話が来て知ったんだが...お前は昨日どこにいたんだ?」
「えーっと...実は病院に...」
「いや、お前昨日夕飯の買い物いってたんだろ?」
「いや、まあ、そうなんだけど...」

 妹が厨二病に目覚めた翌日、学校に行くといつもの眼鏡委員長が教室にいなかった。
 どうやら昨日僕と日向がヤギ人間と戦っていた時に行方不明になったらしい。

「結局、お前昨日何してたんだ?」

 訝しげな顔をして僕を見る遙に、どう説明すればあの非常識なことを説明できるのだろうか。ヤギ人間と殴りあってました、とか言っても病院に送り返されるだけだろう。
 と、そこで「ん?」と思った。

「あれ、遙、僕のこと疑ってるのか!?」
「今更気づいたのかよ!」

 はあーっ、と遙はため息をつくと額に手を当てた。そして

「あー、やめだやめ。親友を疑うなんて柄にもないことするんじゃなかった」

というと掛けていた眼鏡をポイッと投げた。

「おい眼鏡」
「ああ、あれ百均で買った伊達メガネ。雰囲気出すために買った」
「うぉい」

 いつも通りのボケをかますと、真剣な表情に戻った。こちらに顔を寄せてきたので僕も寄せてみると、

「実は昨日、中学ん時の友達に片っ端から電話かけて聞いてみたんだよ。それが、誰一人として心当たりないらしいんだ」
「...マジ?」

 もはや黒歴史として葬りたいのだが、僕と遙、夕香と不登校児で【上中四天王】と呼ばれていたのをみなさんお覚えだろうか。

 あんなことがあったため、まわりのクラスメイトは事情聴取に協力的...なんだよね、うん。まあ、嘘ついたり出来ないのだけれど、誰一人として心当たりがないということはこの近所では見かけた人がいないということになる。

「マジもマジ、大マジだ。あいつが家出なんてする訳ないし...」
「あんな孝行娘が家出なんてするわけないだろ。それにあいつの事だから遠出なんてしないし」
「はーい、そろそろホームルーム始めるよー」

 担任の唯が教室に入ってきて、クラスメイトが各々着席する。僕らもとりあえず後で、と自分の席に戻る。と、そこに

「お、おはようございます...」

 明日南が入ってきた。

「遅刻ギリギリね。まあ、大目に見てあげるわ」
「あ、ありがとうございます...すみません」

 唯に頭を下げながら、明日南が隣の席に座る。顔色が悪く、目の下にクマもできている。

「どしたの明日南、クマできてるぞ」
「あー...ちょっと。昨日夕香さんちに行ったら夕香さんがいなくて、夜中まで探し回ってたんですよね...」
「「マジか」」

 ちょうど夕香が消えたという話をしていたところだ、というと明日南は「やっぱ消えてますよね、なんででしょう」と呟いた。

「今日の報告は...特にないかなー」
「「いやあるだろ...」」

 唯は今日も通常運転だった。
#
「一体どうなってんだよ。夕香がいなくなるなんて有り得るか?」
「いや、普通にないと思う。やっぱり誘拐とかなのかな」
「夕香さんだけに...」
「「...おい」」
「すみませんでした」

 明日南が机にべたーんと伏せて謝罪の意を表したところで、「やはり誘拐だろう」という結論に至った僕らは、もう一度知人に電話を掛けることにした。

「あ、秋原よっす。俺だけど...ああ、一条さんだ。...いやそんなビビんなよ傷つくだろ」
「お前が中学の時にやってたことを思い出せや」
「...ん?ああ、絢人もいるぞ?...なんで謝ってんだよ」
「絢人くん...何したんですか...?」
「いやなんもしてないよ!?」

 遙が中学の時のクラスメイトに電話を掛けている間に、僕も中学の他クラスの奴に電話をかけることに。

「ん、此坂だよ。杉山で合ってる?」
『あ、此坂くん!?...お金は持ってないよ?』
「いやカツアゲじゃねーよ!!」
『あはは、分かってる分かってる。で、どうしたの?』

 僕が電話をかけたのは、隣のクラスの杉山冽佳(すぎやまれっか)だった。少し残念なところもあるが、基本とても良い奴で、しかも美人だ。

「いや、ちょっと聞きたいことがあってね。ある事情で夕香──ああ、古神音ね。あいつが出かけちゃったんだけど、どこ行ったか知らない?」
『古神音さん?...そういえば、冽佳、昨日の夜に古神音さんとフード被った女の子が話しながら家に入っていくのを見たよ?』
「え、それマジ?っていうかなんでフード被ってんのに女の子って分かったんだよ」

 その言葉を受けて、胸を張ったのだろう「えっへん」という声が聞こえ、

『冽佳が女の子を見間違えるわけがないじゃん!同性キラーの名は伊達じゃないよ』
「いやそのあだ名まだ引きずってたんかい!」
『結構気に入ってるよ?』
「やめて!」

 昔気まぐれで付けたあだ名を今更言われることに若干の罰ゲーム感を覚えながら、杉山にお礼を言い、次の人へ電話をかける。横では遙が時折笑いを混じえながら電話をしている。前に座る明日南はネット掲示板などを回っているようで、眉間に皺を寄せて画面を見ている。
 
 昼休みの間つづけたが、結局夕香の足取りを掴むことが出来なかったのだった。


 そして翌日。

「...今なんて?」
『だから、冽佳は一昨日コンビニに行ったには行ったけど、女の子なんて見てないってば』

 杉山は記憶を失っていた。しかも、夕香のことに限定して。見たことどころか、存在さえ忘れていた。
 さすがの明日南も違和感を感じたらしい。昨日と変わらず突っ伏しながらスマホを見ていたのに、体を起こして僕のスマホを真剣に見ている。

「...そうか。いきなり電話してごめんね」
『別に大丈夫よ。...そういえばなんか昨日、帰り道に黒い服の男の人に会ったけど知り合い?』
「...そんな怪しさ満点の知り合いはいないかな。君らは?」
「俺もいないな」
「私は一人暮らしなので、そもそも男の人と知り合いってことがないですね」
「だ、そうだよ」
『あ、そうなの。なんか「明日南未月樹と此坂絢斗を知ってるか」って聞かれたから知り合いかと思ったよ。...あ、クラスメイトきたから切るね』
「分かった。また何かあったら電話するかも」
『此坂くんの頼みなら断れないね。冽佳に任せなさい』

ピッ。

「...」

 沈黙が生まれる。喋る内容がない、というよりも喋ったらこの均衡が崩れてしまう気がして口を開けないというところか。

「...絢斗」
「...何、遙」
「やべえ匂いしかしねえんだけど、気のせいか?」
「気のせいじゃないよ、多分杉山さんが言ってたフードの女は単独犯じゃないのかもしれない。...でも、おかしくないか」

 疑問の目を向けてくる遙に僕は続ける。

「だって誘拐なら身代金やら何やらが要求されるはずだ。なのに、僕達のところに情報がまだ来ない」
「確かに同中全員駆り出してるのに来ないわけがねえ。...誘拐することに目的があって返すつもりはない、ってことか?」

 僕が頷くと、遙は表情を険しくした。

「誘拐、というよりも拉致に近いのかな」
「細かい違いは分かりませんが、だいたい言いたいことのニュアンスは分かります...」
「...ちっ」

 遙にも伝わったらしく、下を向いて舌打ちをしている。
 
 そう、つまりだ。
 犯人がいずれ帰そうとしている訳では無い、要するに姿を現す気がないということ。それは僕達が犯人を探しても見つけられないことを意味する。人海戦術とはいえ、たかが高校生だ。集められる情報には限りがある。

「それに、何より杉山さんが言っていた黒い服の男。こいつが1番危険だと思う」
「恐らく記憶を消せる...んだろうな」
「そういうのは物語の中だけで済ませて欲しいです...」
「「それな」」

 物語の中みたいな髪の色してるやつもいたけどね。誘拐されたけど...

「不謹慎ですよ?」
「なんで心読めるんですかねぇ...」
「愛の力です」
「「ないない」」
「失礼!っていうか遙さんに関しては一番失礼ですよ!!」

 なんか怒ってる明日南をほっといて、今後の方向を考える。しかしやはり高校生二人では大した意見も出てこず、結果休み時間の終わりになっても進歩はなかった。

#
「お兄ちゃん」
「ん?今日の夕飯はハンバーグだが」
「そうじゃなくて、夕香さんの話。どこが誘拐したか分かったかも」
「へぇ、そうか。あ、夕飯の皿出しといてくれ」
「あ、はーい」
「手を洗ってからなー」
「はーい」

 ...いまあいつなんて言ってた?確か夕香を誘拐したやつが分かったって言ってたような...

って!?

「日向!夕香を誘拐したの誰か分かったのか!?」
「あ、わざとスルーしてたわけじゃなかったんだね!?」

 二人で食事の準備をし、食べて片付けが終わったところで本題に入る。なお、ハンバーグは日向から大好評だった。またやろう。

「で、夕香は誰に誘拐されたんだ?」
「んー...誰っていうか一個の集団だったんだけど...この前の、協会(ギルド)って覚えてるよね?」
「忘れるかよあんな非日常」
「だよね。で、うちの街にはもう一つ組織があって...結社(クラス)っていうんだけど」
 日向の説明によると、結社(クラス)は協会(ギルド)と敵対する集団らしい。神というか精霊や天使を崇拝する協会とは反対に、人の世界は人が統治すべきだという教えの元に神を殺そうとしている。どうやら教義が真反対なだけあって対立の溝は深いらしい。

「で、私たちはこれから現れるという天啓があったから、神の一柱であるノアを保護しに来たの」
「なるほど...ってあれ?」

 ノア...って確か明日南も同じようなことを言ってたような...

「で、神様が人の世界に来るのは間違ってるーとかで結社(クラス)がノアを殺そうとしてるの」
「なるほど...じゃあ昨日の人達は、日向の味方なんだな」
「そーゆーこと。で、結社は利敵なの」
「...つか、ノアはどこにいるのか分かるのか?」
「え?わかんないよ?」


...hun?

「わかんねーのかよ!!」
「分かってたらとっくにどんパチ始まってるよ!」
「まあそれもそうか」

 殺そうとする結社と、保護しようとする協会。相反する組織が同時に居場所を発見したらどうなるのか。
 簡単なことだ、お互いの意見を押し付けるために戦争をする。そうしたら、この上ノ原はあっという間に火の海だ。特にあの反逆者(リベリオン)とかいうのが出てきたら、もう一般市民は生き残れないだろう。

「そういえば、反逆者(リベリオン)ってなんだったんだ?結社が作ってるのか?」
「ううん。あれは世界のどっかから勝手に生まれてる化け物。結社と協会はあれを見かけたら殺すって方向で一致してるよ」
「そこだけは仲良いのな」
「別に一般市民を殺したいわけじゃないからね」

 そりゃそうだ。誰も好んで人間を殺すわけがない。頭のセーフティが外れてない限り...いや、それだと明日南もそうなるか。殺人願望がない限り、って感じか。

「とりあえず、僕達はその結社から夕香を取り戻せばいいんだな」
「そうだね。でも、遙さん達は巻き込めない」
「当たり前だ。あいつらは一般人だ、こんな危ないことに巻き込めるかよ」

 約1名、拳銃女(やばいやつ)もいるが、どちらにせよ巻き込むことは出来ないだろう。やはりここは僕達兄妹で頑張るしかないようだ。

「じゃあ行動開始だね」
「よし、まず作戦を立てるぞ」
「おー」

 日向の返事で締まらない感じになってしまったが、僕達2人は食器を片付けると机を挟み作戦を立て始める。

 この作戦は合計10人を巻き込んでしまう大きな作戦になるのだが、この時の僕達はまだそれを知らなかった。



To be continued...だよ


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