日常は崩れさり少年はあの日を想う
漆
 「...おい、この状況をどう打開せよと言うのだ神は」
「お兄ちゃん、これ死んだんじゃないかな?」
「だよなあ...」
 目の前にはコンクリートブロックをバリボリと食べる異形──ヤギ人間がいた。前回、僕らはこいつの襲撃を受けた訳だが。
『コンクリうめえ...』
 頭の中が千葉であり東京である所になっているようだ。消化不良を起こさないことを祈っている。
「...なあ、これ今のうちに逃げ出せば...」
「...お兄ちゃん、今さ、最悪の状態が浮かんだんだけど」
「おい」
「ここでさ、私たちが逃げ出すでしょ?そうするとさ、このヤギ人間...次に何するのかなって」
 サーッと血の気が引く音がした。
 つまり僕も思い浮かんだということ。
「他の人...」
「やばいやばいそれはやばい」
 コンクリを食べられるような化け物が隕石の被害を受けたばかりの街に放たれる。それはつまり、この街の住人の死を表す。
「冗談じゃねえよ...」
「ま、まあ、お兄ちゃんが?自分は助かりたいっていうなら逃げに手を貸すんだけども」
「冗談が下手だな、妹よ」
 顔を見れば、日向も引き攣った笑いを浮かべていた。...どうやら、覚悟は決まったようだ。
 僕らは声を揃えて叫んだ。
「「...ここで止めるしかねえ!!」」
 
僕は知らなかった。
この戦いが、僕らの日常をひっくり返す始まりになること。そして、僕達が世界を敵に喧嘩をすることになることを。
#
「...」
「......」
 ピンと張った空気が、流れていた。
 既に両親は逃げ、ここには私ともう1人しかいなかった。
「...明日南さん」
「なんですか、古神音さん」
「あなた、一体何者なの」
 空気がさらに張り詰める。そして、明日南から殺気が溢れ出す。思わず後退りしそうになり、奥歯を噛み締めて踏みとどまる。
「あれ、古神音さん、分かるんですか...この能力が」
「能力...?よく分からないけど、あなたから殺気は感じられる。あなた、どんな修羅場潜ってきてるのよ」
 明日南は足を崩すと、溜息をついた。
「雷神」
「...え?」
 明日南が手のひらを広げると、突如火花が散る。笑い事では済まない、まるでアニメのような火花。触ったら感電してしまうような尖った髪の先端。
「これが能力───まあ、簡単に言うとライトノベルで言う、異能力ってやつです」
 簡単に説明しますね、と明日南が言うのをほぼ夢心地で聞く。
「能力は、人間の脳の稼働率を10%から30%まで人体に影響がないように施設専用のシステムで引き上げて発症させます」
「脳の稼働率を...30%に!?」
「ええ。そして、そこで属性適正が出ます。属性は全部で6つ。炎、氷、風、雷、聖、無、です」
「...」
「見ての通り、私は雷の属性を操っています」
まあ、能力適正が出たからと言って、それしか使えないわけじゃないですけどね、と明日南はぼやいた。
「希に、デュアルやトライアルなどが生まれたりしますね。あとはフルタイプ。これは、人間の体には耐えられないので、机上の空論となってます」
「...分かった。それを踏まえて、聞くけど...私を、勧誘しに来たの?」
「半分正解です。目に見えない魔力を感じることが出来る人材なんてなかなかいませんからね」
「半、分?」
「ええ。─────開け、異世界の戸よ」
 瞬間、私を中心として青い円が広がる。
「何、これ...!?」
「これは平行世界を移動するための特別な門です。...そうですね、強いて言うならばこれはいわば転移門、とでも言いますか」
「いや、そんなこと聞いてないんだけども!?」
「あれ、違ったんですか...普通に恥ずかしいですね/////」
「照れてないでよね!?」
 場違いな照れを発揮する明日南に戦慄を覚えるとともに、身の危険を感じる。
 雰囲気だけでわかる。これは、ヤバいやつだ。
「これから、古神音さんにはあなたの元の世界に戻ってもらいます」
「私の...元の世界!?そんなもの、この世界の事じゃない!」
「あれ、並行世界に対しては何も思わないんですね」
「もうあんたがマイペース過ぎてそこ突っ込むの忘れてたわよ!」
 やはりこちらのペースに引っ張られてはくれないか。私はそう考えて、円から抜け出そうとする。が、
「あ、残念ですが、無理に出ようとすると死にます」
「それ一番先に言うことでしょうが!」
 もうダメだこの人。早くなんとかしないと。
「古神音さん...いえ、夕香さん」
「何よ、明日南さん」
「絢斗くんを、救ってください」
 思考が止まる。
「何を...言って...?」
「お願いします」
「お願いしますって...何を...っ!?」
 突如、円が輝き出す。それに合わせて、私の体も薄くなっていく。
「ちょ、ま、な」
「この世界と絢斗くんが救えるかは、夕香さんにかかってます」
「なんかいきなりすごいもの背負わされたんだけど!?」
 明日南がどんどん見えなくなっていく。それを自覚して、軽くパニックになる私を見て、明日南は言った。
「古き神の鐘の音は、空間を超越します。辿ってくだ────」
 瞬間、私はこの世界からいなくなった。
#
「夕香さん、頼みましたよ...」
 道場に佇むのは、ただ1人の少女。夜も更け、円は光を失った。
「ギリギリ、でしたね」
 その円は幾何学模様によって出来ていた。言うならば、これは「魔法陣」。
「私はこっちでやることが残ってますし...よし、頑張りますか」
 少女は立ち上がると、道場を去る。
 そこには何も残らず、魔法陣の跡も消え去っていた。
to be contenued......
「お兄ちゃん、これ死んだんじゃないかな?」
「だよなあ...」
 目の前にはコンクリートブロックをバリボリと食べる異形──ヤギ人間がいた。前回、僕らはこいつの襲撃を受けた訳だが。
『コンクリうめえ...』
 頭の中が千葉であり東京である所になっているようだ。消化不良を起こさないことを祈っている。
「...なあ、これ今のうちに逃げ出せば...」
「...お兄ちゃん、今さ、最悪の状態が浮かんだんだけど」
「おい」
「ここでさ、私たちが逃げ出すでしょ?そうするとさ、このヤギ人間...次に何するのかなって」
 サーッと血の気が引く音がした。
 つまり僕も思い浮かんだということ。
「他の人...」
「やばいやばいそれはやばい」
 コンクリを食べられるような化け物が隕石の被害を受けたばかりの街に放たれる。それはつまり、この街の住人の死を表す。
「冗談じゃねえよ...」
「ま、まあ、お兄ちゃんが?自分は助かりたいっていうなら逃げに手を貸すんだけども」
「冗談が下手だな、妹よ」
 顔を見れば、日向も引き攣った笑いを浮かべていた。...どうやら、覚悟は決まったようだ。
 僕らは声を揃えて叫んだ。
「「...ここで止めるしかねえ!!」」
 
僕は知らなかった。
この戦いが、僕らの日常をひっくり返す始まりになること。そして、僕達が世界を敵に喧嘩をすることになることを。
#
「...」
「......」
 ピンと張った空気が、流れていた。
 既に両親は逃げ、ここには私ともう1人しかいなかった。
「...明日南さん」
「なんですか、古神音さん」
「あなた、一体何者なの」
 空気がさらに張り詰める。そして、明日南から殺気が溢れ出す。思わず後退りしそうになり、奥歯を噛み締めて踏みとどまる。
「あれ、古神音さん、分かるんですか...この能力が」
「能力...?よく分からないけど、あなたから殺気は感じられる。あなた、どんな修羅場潜ってきてるのよ」
 明日南は足を崩すと、溜息をついた。
「雷神」
「...え?」
 明日南が手のひらを広げると、突如火花が散る。笑い事では済まない、まるでアニメのような火花。触ったら感電してしまうような尖った髪の先端。
「これが能力───まあ、簡単に言うとライトノベルで言う、異能力ってやつです」
 簡単に説明しますね、と明日南が言うのをほぼ夢心地で聞く。
「能力は、人間の脳の稼働率を10%から30%まで人体に影響がないように施設専用のシステムで引き上げて発症させます」
「脳の稼働率を...30%に!?」
「ええ。そして、そこで属性適正が出ます。属性は全部で6つ。炎、氷、風、雷、聖、無、です」
「...」
「見ての通り、私は雷の属性を操っています」
まあ、能力適正が出たからと言って、それしか使えないわけじゃないですけどね、と明日南はぼやいた。
「希に、デュアルやトライアルなどが生まれたりしますね。あとはフルタイプ。これは、人間の体には耐えられないので、机上の空論となってます」
「...分かった。それを踏まえて、聞くけど...私を、勧誘しに来たの?」
「半分正解です。目に見えない魔力を感じることが出来る人材なんてなかなかいませんからね」
「半、分?」
「ええ。─────開け、異世界の戸よ」
 瞬間、私を中心として青い円が広がる。
「何、これ...!?」
「これは平行世界を移動するための特別な門です。...そうですね、強いて言うならばこれはいわば転移門、とでも言いますか」
「いや、そんなこと聞いてないんだけども!?」
「あれ、違ったんですか...普通に恥ずかしいですね/////」
「照れてないでよね!?」
 場違いな照れを発揮する明日南に戦慄を覚えるとともに、身の危険を感じる。
 雰囲気だけでわかる。これは、ヤバいやつだ。
「これから、古神音さんにはあなたの元の世界に戻ってもらいます」
「私の...元の世界!?そんなもの、この世界の事じゃない!」
「あれ、並行世界に対しては何も思わないんですね」
「もうあんたがマイペース過ぎてそこ突っ込むの忘れてたわよ!」
 やはりこちらのペースに引っ張られてはくれないか。私はそう考えて、円から抜け出そうとする。が、
「あ、残念ですが、無理に出ようとすると死にます」
「それ一番先に言うことでしょうが!」
 もうダメだこの人。早くなんとかしないと。
「古神音さん...いえ、夕香さん」
「何よ、明日南さん」
「絢斗くんを、救ってください」
 思考が止まる。
「何を...言って...?」
「お願いします」
「お願いしますって...何を...っ!?」
 突如、円が輝き出す。それに合わせて、私の体も薄くなっていく。
「ちょ、ま、な」
「この世界と絢斗くんが救えるかは、夕香さんにかかってます」
「なんかいきなりすごいもの背負わされたんだけど!?」
 明日南がどんどん見えなくなっていく。それを自覚して、軽くパニックになる私を見て、明日南は言った。
「古き神の鐘の音は、空間を超越します。辿ってくだ────」
 瞬間、私はこの世界からいなくなった。
#
「夕香さん、頼みましたよ...」
 道場に佇むのは、ただ1人の少女。夜も更け、円は光を失った。
「ギリギリ、でしたね」
 その円は幾何学模様によって出来ていた。言うならば、これは「魔法陣」。
「私はこっちでやることが残ってますし...よし、頑張りますか」
 少女は立ち上がると、道場を去る。
 そこには何も残らず、魔法陣の跡も消え去っていた。
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