異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

東の国:イダン〜冒険者〜

アルトの街にギリギリで入ることが出来たアサミたちは、息を落ち着けながら宿を探していた。

「もう、、、休みたい。」

「「賛成。」」

3人とも疲れ切った足取りで、道行く人に宿を聞いて回りながら冒険者ギルドに向かった。
アサミたちはイダンの国で使われているお金を持っていないからだ。
中央領域で使われているお金をイダンで使うことはできない。閉鎖的な状態にある中央領域のお金は国外での流通が無いに等しく、両替すら難しい。
そのため、ギルドや店で物を買ってもらわなければ宿に泊まることもできないので、最後の力を振り絞って向かうのであった。

ガヤガヤと人の声が重なり合い、酒やつまみを頬張る人たちと列をなしている強そうな雰囲気を纏う者たちがひしめき合っている。
ここは、アルトの街・西地区にある冒険者ギルド。
アサミたちはその扉をくぐり、冒険者たちの列に並び始めた。

「ねぇ、あの子達新人かしら?」
「見ない顔だな。」
「だいぶ疲れてるみたいだな、どうしたんだ?」
「あのガキ共、かなり立派な装備をつけてるな。」

列に並んだアサミたちを見て、ギルド内の冒険者たちが思い思いに仲間と話す。
善意も悪意もある言葉は、自然と3人の耳にも入ってくる。
疲れ切っているために、怒る気にも、言葉を返す気にもなれない3人は、ただ順番を静かに待っていた。

「何か用?」

列に並んでいたタトューが、一人の冒険者の手を掴んで声をかけた。
その冒険者の手はピアスのカバンに伸びており、手を振りほどき逃げようとする冒険者の男をしっかりと掴んで離すことはなかった。

「さっさと離しやがれ!!!」

人混みに紛れて近づき、カバンから物を抜き取ろうとしていたのだ。
盗賊の持つ基本的技術だが、一番効果的で最もよく使われる。
だからこそ、現行犯で捕まえられてすぐさま逃げようと暴れ出した。

ここまでくるとアサミたちの周りだけの話ではなくなり、周りにいた他の冒険者たちも異変に気がつきザワザワと目線や言葉が多くなっていく。

「タトュー、もういいから離してやれ。騒ぎを起こす方がめんどくさい。変に目立つのも避けたい。」

疲れた声で静かに話すピアスに、同意するかのように力が抜けていき、掴まれていた冒険者は我先にと人混みを掻き分けどこかへ行ってしまった。
3人は同時にため息を吐き、無駄に疲れたと言わんばかりに、静かに順番を待つのであった。
しかし、実力者が集まるこの場所で騒ぎがあって何も無かったでは、済まされるはずがなかった。

やっと順番が回ってきたとカウンターに向かうと、受付をしていた女性職員と怖い顔をした男性職員が3人を待ち構えていた。

「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへ!初めてご利用の方ですよね?私はこのギルドの受付を担当してます。ルリンです!今日はどのようなご用件でしょうか?」

「はじめまして、えっと冒険者登録をしたいんです。あと、買取もお願いしたいんですけど。」

受付への説明は、一番前に立ってたこともありアサミが自然と話すことになった。
買取はこのカウンターでは行っておらず、後で別のカウンターに行くように説明された。
とりあえず、冒険者登録を済ませるためにカウンターを外れて渡された用紙に記入していく。

「えっと、そこはだな出身を書く欄だ。あまり詳しく書きたくなければ国名だけでもいいぞ。まあ、万が一があった場合細かいとこまで書いてあった方が色々助かるがな。もし夢半ばで倒れた冒険者の財産は、家族や血族が受け取る権利があるが場所が分からなければ渡しようもないからな。」

アサミたちはカウンターを外れ、用意された台の上で書いているが、アサミたちのお目付役、相談役としてそばにいた怖い顔の男性職員が付いてくれている。
分からないところなどを、丁寧に分かりやすく教えてくれるので書くことに詰まることは少なかった。

「3人とも書類に問題はなさそうだな!でも、3人とも中央領域の出身とは珍しい奴らがきたもんだ。」

「ですね。もともと外に行こうとするものは少ないですし入ろうとする人は多いけど、ほとんど入ることができません。入れたとしてもその後許可なく入った人がどうなるかは言うまでもありません。あっ!すいません。無駄なことを言いました。」

アサミは自分が場の雰囲気を考えずに色々話してしまったことに気づき、口をとっさに抑え謝る。
男性職員も自分が変に気を使わせたことを軽く謝り、お互いに気に止めることをやめた。

「さて、これがギルドが発行している冒険者としての証となるとリングだ。このリングに血をつけてくれ。この石の部分だ。」

説明されるまま、3人はリングに付けられている石に血をつける。すると、灰色の石が血を吸って色が変わっていき、一度透明な色となりそれぞれ違う色へと変化する。

この石はギルドが術式を込めた魔石で、所有者の血を記憶すると他者の使用を一切出来なくなる代物で、このリングが冒険者の証であり、依頼達成の証や個人情報の媒体にもなる。
また、冒険者の貯金媒体。要するに通帳のような機能もあり、自動的に報酬がこのリングに入るようになっている。
冒険者は、ギルドの窓口でリングを示すことで保管されているお金を取り出すことができる。

色の変わったリングを職員が念入りに確認して、その後一番大きな石を外す。

今外した石がギルドで保管され、リング紛失の際の持ち主証明に必要となるからだ。
その後それぞれのリングを3人は手首につけ、これで正式に冒険者となった。

「で話は変わるが、列に並んでる時何があったんだ?」

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