異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

東の国:イダン〜アルトの街〜

茂みから飛び出してきたクマが大きな雄叫びをあげて、突進してくる。
深い森と言うわけでもないのに、クマが出てくるなどおかしいと、アサミは思ったが今はそんなことを考えている時ではない。

「アサミ!なにぼけっとしてるんだ!戦いたかったんじゃないのか?気を抜きすぎだぞ。」

クマが振り下ろしてきた腕を、ピアスの構えた銀色の長槍が止めていた。
ピアスは、アサミが驚きつつ文句を言いながら動き出したことを確認すると、槍を振り払いクマの腕をいなし体を連続で突き出す。

「流石にこの程度の攻撃じゃ致命傷にはならないか。」

「ピアス、さっさと殺せば?俺も手伝う?」

タトューが腕まくりをして、腕に描かれている刺青に手を当てて構えている。
ピアスは、「大丈夫だよ!」と言い終えると、声を張り上げひるむ事なく雄叫びをあげ向かってくるクマを相手取っている。

クマは何度も突かれ、血を流しているためか動きが初めよりもはるかに鈍くなっていた。
ピアスも、そろそろとどめを刺そうと腕に力を込めようとした時、クマの首が宙を舞った。
血を吹き出しながら首が飛び、地面を転がり力なく体が崩れ落ちた。

「私だって魔法を使えば簡単に倒せるのよ!」

どうよ!と言わんばかりにピアスの方を向き、胸を張っているアサミは、振り向いたピアスを見でビクリと、背筋を震わせた。
自分で弱らせた獲物を横取りされ、頭から血の雨を被り、威張られては怒りたくもなる。

鋭くなった目と服や顔についた血飛沫がアサミに恐怖を増幅させ、その後アサミは素直に謝り許しを乞うのであった。

「全く、アサミは調子乗りすぎだ!まだ出発して間もないのにこの調子じゃ先が思いやられる。」

「ごめん、、、。次からは気をつけるから!」

「アサミ。反省の色がない。」

タトューの意見に大きくうなずき、笑い飛ばすアサミを見てため息を出すピアス。
ピアスはこれ以上言っても仕方ないと諦め、クマを解体して魔法の袋にしまうのであった。

その場で一夜を過ごし、次の朝には昨日と同様、トディスに乗って村へと向かった。
村へは朝早く出発したことが功を奏し、日が落ちる前に着くことができた。

しかし、ここで3人がトディスに乗ったまま村まで来てしまったことで、村がパニックに陥って怪我人まで出してしまった。

「本当にごめんなさい!「ハイ・ヒール」」

「いいんだよ。驚いて足首を折っちまうなんて、私も焼きが回ったねー。それに、こうやって治してくれてるんだ。だから、もう謝るんじゃないよー。」

アサミは怪我をさせてしまったおばさん:ビーラさんの手当てをしていた。
トディスで村の入り口に来てしまった時、近くにいたこの人が逃げようとしたとき足首を折ってしまったと言うわけだ。

本来であれば、骨を折るなどの大怪我を治すのは魔法であっても大変なことだ。
しかし、アサミの持つ聖遺物の力を使えばそれすら容易くできてしまう。
アサミたちは、大きな魔獣に乗って来てしまった為村人から大層驚かれ遠巻きにされていたが、ビーラはそんなアサミたちを受け入れてくれた。

「中央領域じゃあ、色んなことが起こるけどあれだけデカイ魔獣を使役してるのはここら辺じゃ見たことないよ。アンタ、えっと、タトューだったっけ?なかなかの腕前なんだね!」

ビーラさんは、私たちが泊まるところを探していることを知ると家に招いてくれた。
迷惑をかけた手前、断ろうとしたけど押しの強さに負けちゃった。
おばさんって、どこの世界でも押しが強いのかな?

アサミたちは、一晩お世話になるとお礼に来るまでに集めた薬草や山菜を渡し村を出た。
村を出てしばらく進んだあたりでトディスに運んでもらう。

「昨日は色々あったが、なんとか今日中に国境を越えられそうだな。」

「うん。トディスの足でなら、とりあえずイダンに入って街まで行けると思う。人目につかないように進めれば、だけど。」

「まぁまぁ、どうするにしろ私たちの旅は始まったばかりだし、楽しくゆっくり行こー!」

計画的で確実に進もうとする二人に対して、どこかマイペースなアサミ。
3人は移動しつつ話し合い、イダンの街を目指しとりあえず進む事にした。




アサミたちは国境を無事に越え、東の国:イダンに入った。
もちろん、トディスはしまって国境を超えた。監視の目があるから。
その後、トディスは使わず徒歩で国境から一番近い町「アルト」へ向かった。

「その、アルトって町が私たちが冒険者登録する予定の町?」

アサミの質問に、ピアスは答える。
アルトの街は中央領域から入ってくる物や、山の幸など多くの物が集まり大きな街を作り上げている。

街に向かう道すがら、多くの人とすれ違った。
挨拶をしたり、言葉を交わしたり、話をしていくうちに陽が傾き、夕方となった。

「急げ!もうじき街の門が締められるぞ!」

「アサミ、大丈夫?」

「なんとか大丈夫。でも、キツイ!」

アサミたちは街に入るため全力で走っている。
街はその防衛のため、陽が落ちると門を閉め警戒態勢をとる。
そうなってしまうと、入ることは出来なくなってしまう。
もしこっそりに入り、見ることとなればそれこそ大事だ。

幸い、アルトの街は検問をしていないので街に入るためにお金を払ったりする必要はない。その必要があるのは商人や冒険者などのみだ。
だから、、、。

「全力で走りきれー!!!!!」

アサミたちは、ピアスの激励に体を震わせ全力で走り、門が閉まる直前でアルトの街に入ることができた。
3人とも息も絶え絶え。
近くで見てた人からは拍手を送られるほど、全力で走りきった。
そんな3人に、門を管理していた兵士さんから労いと歓迎の言葉をもらい、顔が少し緩むのであった。

「3人ともそんな全力で走り抜けてくるなんて。事情があるなら話して通用口で通してもらえたのに。なにわともあれ、ようこそアルトの街に!」

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