異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

魔女の眷属:虐殺のバルカス

中央領域は、その名の通りこの大陸の中央に位置する名のない国である。
中央領域そのものが名であり、魔女様を頂点として「国のような」自治領と言った方が正確である。また、形ばかりの国のためか他国からの侵略も多々あり、中央領域を囲む四つの国と毎年のように小さな戦争を行なっている。

大陸の中心にある中央領域には、魔女が住んでいることもあり周りの国よりも発展している。それは、技術的な意味でも土地的な意味でも。
魔法道具の開発や便利な道具が多くあり、土地も豊かなため農業、畜産、林業も盛んに行われている。
しかし、他国が中央領域を戦争まで起こして欲しがる理由は他にある。

中央領域には、いくつもの迷宮ダンジョンが存在しており、そこから生産される無尽蔵の資源を欲し戦争を仕掛けてくるのであるが、魔女が治める土地ということもあり大きな戦力で仕掛けてるくることはそうそうないのであった。

「と言うわけで、この中央領域は国として確立された場所ではなくそれぞれの国に狙われているのが現状です。まあ、戦争状態にある国でも、商人を返して取引は行われていますけど。」

「でも、戦争をするくらいならどこかの国の所属になるとか、黙らせるために色々出来そうなのに?」

「すでに不可侵の条約は昔に取り交わされています。昔の話ですので、すでに無いものとされているようですが・・・。流石に何百年も時を経て、新たな不可侵条約を結ぶように働きかけたこともありましたが拒否されているのでこれ以上の平和的解決はあまり望めないでしょう。」

アサミは現在、フィナと共に勉強の真っ最中であった。基本的な情報は魔女様の魔法により頭の中にインストールされているが、特に知っておかなければいけない大事な情報は、こうして理解しておかなければ意味がないので行われている。

この大陸の東にある「東国:イダン」、南にある「南国:エテラ」、西にある「西国:ランシー」、北にある「北国:ポッフィオセン」。
この4つが、中央領域を取り囲むようにある隣国で、魔女様が住み始めた後に国としてそれぞれ建国された。
要するに、住んでいるのは魔女様の方が長くて、無理やり手に入れようとしていると言うことらしい。

政治的な複雑な事情の話が嫌になってきたアサミは、別の話に切り替えようと喋り出した。窓の外を指し話をそらす。

「ねぇ、フィナさん。あの大きな木は何?」

「あー、あれは聖樹よ。他の国の人は世界樹と呼ぶ人もいるけれど、私たち眷属や魔女様に連なる者たちはあの木も大切に守っているのよ。」

「聖樹!世界樹!すごい!!そんなものがあるんですね!あの木のところに行ってみたいかも。」

「無理だし、ダメですよ。あの木の周りは聖域とされていて、あまり近くまで行ってはいけないの。それに、あの木の周りは亡くなった人たちに眠ってもらうための場所だから荒らしてはいけないところなのよ。」

思わぬ話が出てきてしまい、少し気まずくなってしまったためこの辺で勉強は終わりとなった。

私の生活は、魔女様によって整えられ家まで用意されて、もらってしまった。
小さい噴水のある庭付きのお屋敷。
私が住むには大きすぎる家に私は管理とか面倒でっと断ったけど、管理人を紹介されたら逆に住みたくなっちゃった。
それが、「家付き妖精シルキー」と「家事妖精ブラウニー」。
妖精とかめっちゃファンタジーで、すごく興奮しちゃったのは内緒。

「シルキーただいま。」

「お帰りアサミ!魔女様から色々家財道具が送られてきたから、家に並べておいたからね。自分の部屋の配置とかは、アサミが決めてね。」

シルキーは、私と同じくらいの背丈の女の子の姿をしている。白っぽい服をよく着ていて、妖精と言うよりもしっかり者の同級生みたいな感じの距離感で今のところ落ち着いている。

「アサミー、お帰りー。何かやることはないかー?庭仕事はほぼ終わっちまったしー、暇になっちまったー。」

プラウニーは、働き者で少し気まぐれな小人さん。子供くらいの大きさだけど、立派な大人。基本仕事を探してみんなの役に立とうとしてくれているけど、日が落ちるとダラけていることが多くて、気がつくとどこでも寝てる。まあ、そんなところも可愛いんだけど。

こんないいお家をもらってよかったのかなって思うこともあるけど、素直に感謝して受けてっておくことにした。

「また明日から、勉強かー。明後日は魔法の訓練もするって言ってたし・・・。頑張らないとね!」

アサミは前向きに考えるようにしているが、魔女の付き人は中々ハードなことをまだ知らない。




「あの、フィナさん。どこに向かってるんですか?」

「闘技場よ。今日はそこで魔法の練習をするの。私は勉強を教えることになってるけど、戦闘訓練に関してはバルカスが担当になってるの。」

「虐殺のバルカス」
魔女の眷属の1人にして、戦闘に長けた大将的立場の人物。
癒しのフィナ、虐殺のバルカス、この2人が双璧となり魔女様に近い立場にいる。

「虐殺って、すごい物騒なんですけど大丈夫ですか?私・・・。」

「大丈夫ですよ。バルカスは基本的に優しいですから。それに、虐殺のなんて言われているのは戦争の時反撃を許さないほと圧倒的に敵を蹂躙することから付いた名前だから。でも、厳しい人なのはたしかね。」

フィナは微笑を浮かべて、アサミを見つめ励ましてくる。
優しく美しい顔を見ながら歩くと、あっという間に到着した。

「バルカス、アサミを連れてきたわよー。アサミ、これがバルカスよ。」

「これとか言うな!はじめまして。魔女様の眷属が1人、バルカスだ。よろしく頼む。」

「は、はい!アサミです。これからよろしくお願いします!!」

アサミは思いの外丁寧な挨拶に、慌てて返す。
バルカスはフィナさんの黒髪に反し、銀に水色が入った髪をしており、目は赤かった。
背も高く服の上からでも多すぎず少なすぎない筋肉が付いていることがわかる。

「アサミ!どうした、ぼーっとして?早速だが、訓練を始めるぞ。」

バルカスさんが、いつの間にか用意していたのは大きな檻。1m四方の大きさの檻の中に、猿のような生き物が小さな唸り声を上げて入れられている。

「お前には今からこの、ルーマンと戦ってもらう。ルーマンはこの前の戦争時イダンが使っていた生物兵器で、一般兵並みの戦闘力がある。基本的には距離を詰めて、噛んだり引っ掻いたりしてくるだけだからなんとかなるだろう。」

「待ってください!訓練は分かりますけど、いきなり戦うなんて。私、戦えません!」

「お前は魔女様の側付きだろ?それくらいできなくてどうする?それに、異世界人はなにかと思惑に巻き込まれやすい。力をつけて無駄とはいかないだろう。それに、魔女様からそれの使い方を教えるようにと言い含められてるしな。」

バルカスはアサミの両手首に付けられている腕輪を指差して言った。

この腕輪は、大司教と会った時にアサミを捕らえていたネックレスだった物だ。隷属の水晶具と呼ばれていたそれだが、アサミの暴走が終わった後、透明だった水晶に色がつき5つの色が美しいネックレスへと変わっていた。
それを魔女様が邪魔にならないように腕輪ブレスレットとしても使えるように加工してくれたのだ。
今ではどちらとしても使えるおしゃれなアクセサリーとなっている。
でも、その後説明されたのは、これがただのアクセサリーではないと言うことだった。聖遺物アーティファクトと呼ばれる神の力を宿した異世界人に与えられる特別なものとのことだった。

「これって、そんなにすごいものなんですか?もともと、私を捕まえるための道具だったみたいですけど?」

「聖遺物は異世界人に必ず1つ与えられる。与えられるタイミングはバラバラのようだから、たまたまその道具を聖遺物にしたのかもな。ま、神のやることなんて俺なんかがわかるわけはないからな。」

バルカスはその後、私の持っている聖遺物について知っていることを話してくれた。

魔女様からの又聞きと言っていたが、私の持っている聖遺物には、この世界にある魔法属性5つに適正を与える力があるとのことだった。要するに、これさえあれば理論上全属性を使えるようになれるらしい。

でも、それはあくまでも理論上の話であって使えるようになるには練習が必要。魔力のコントロールが出来なければ村でのようなことを繰り返すことになると釘を刺された。

「さて、魔法はイメージさえすれば簡単に使えるようになるはずだ。試してみてくれ。」

アサミは言われたとうりに、漫画やアニメで出てくるような魔法をイメージしてみる。すると、イメージした通り水の玉が宙に出来はじめ、氷も生み出してみた。

「本当に出来た!こんな簡単に魔法が使えるんだね!」

初めて魔法を使えたことに喜ぶアサミを、少し驚いた様子で見るバルカス。それを、見て微笑むフィナ。

アサミの初戦闘がもうすぐ始まる。

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