異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

聖軍

プスは次の日、教会を訪れマリアと相談室に入っていった。
昨日、ローザ隊長からの連絡を受け、聖軍進行について知っているであろうマリアに色々と聞くためだ。

「珍しいですね、あなたが教会を訪れるなんて。いつも近付こうともしないのにw」

「それは嫌味ですか?私だって、必要があれば来ますよ。ただ 、今までその必要が無かっただけです。」

「それでは、今日はその必要が出来たということですね。お力になれそうなことならいいのですけどw」

「単刀直入に聞きます。聖軍がこの村に向かってきていることについて、教えていただけますか?」

シスターは、その言葉に固まり顔には出していないが明らかに焦り出す。
黙り座っているシスターに、プスは面と向かって話を切り出した。

シスターは、少し困った様子で主神を崇める教会の、教職者たちに課せられた掟を話してくれた。
一つ、世界に満ちる知性ある命に、主を崇める尊さを教え広めよ。
二つ、主の御心により招かれし異世界からの客人を見つけ、もてなし、その恩恵を受けよ。
三つ、荒ぶる客人の狂気から我らが信徒を守るため、客人を保護し隔離せよ。

「これらが、私たちに課せられている掟。利益をもたらし、害を減らすための尊い教えなのです。」

「で、その掟のためにアサミは聖軍に引き渡されて今の生活を捨て、心を通わせた友達と離れ離れにならないといけないって言うの?」

シスターは少し黙り、連れていかれた後のことを話し出す。豊かな生活、不自由ない日々など、本来であれば羨み目指す生活を送ることができると説明する。
しかし、プスは全くもって納得することはなかった。

「それはまやかしよ・・・。私は昔、聖軍に連れていかれた異世界人を知ってる。そして、その子がどのような扱いをされたのかも。あの子は!!!!」

プスが涙を溜め真実を口にしようとしたとき、教会の扉付近で爆発が起こった。突然のことだったがプスは涙をぬぐい、相談室を飛び出し確認にするために走った。
そして、ドアを開け破壊された扉や壁を目にした時、「グサ!」と腹に剣を突き立てられた。
意識を失い、力が抜けて倒れるプスの体を貫いた剣は脇腹から外に向かって肉を割く。

「いやはや、いきなり教会を壊してしまい申し訳ない。私は聖主教せいしゅきょうの「大司教:ザグマ・セルク」と申します。突然の訪問に、さぞ驚かれたでしょうシスター:マリア。」

シスターがプスに遅れて部屋を出ると、そこには白と金色を主とし、青い色が聖主教の紋様を描く神々しい服を着た大司教が立っており、挨拶をし始めた。
シスターはすぐに跪き、頭を下げて緊張を隠す。

「わざわざ、この様な所にお越しいただきまして・・・。」

「その様な話は無用です。異世界人の少女がいるとの事でしたが・・・。連れて来てもらえますか?」

「「「シスター!!今すごい音が!」」」

物音に驚きプスと同じように集まってきた、トウヤ、ミナ、メリアは、現状に理解が追いついてこない。
シスターが、目の前にいる方が誰なのか、アサミを探しに来たことを伝えると子供達はアサミを探しに走り出し、すぐに戻ってきた。
朝美はいきなり連れてこられて、息を荒くしている。

「大司教様、この子が朝美です。」

「そうですか。では早速、調べてみましょう。」

大司教は後ろに控える部下に合図を送ると、部下が水晶玉に似たアイテムを取り出しアサミを覗く。そして、小さく頷き言葉を使わず意思疎通している様子だった。

「光の拘束」

シスターを除く子供達4人が、突然現れた光の帯に体を絡め取られ身動きが取れなくなる。

「大司教様!なぜ、子供達にこんなことを!」

「大丈夫です。悪いようにはしませんよ。あなたは安心して、神の元に行きなさい。「女神の抱擁」。」

大司教に後光が差し、その光がシスターを包み込むと、それ以降シスターはピクリとも動かず、眠るように横たわり、物を言う事はなくなった。そして、寝ているように冷えていった。

子供たちが、シスターが寝かされたと勘違いして、驚きながらも大司教に対して大声で罵倒していると、叫ぶトウヤが悲鳴をあげ、すぐに黙った。

鈍く銀色に輝く金の剣が、トウヤの胸を貫いた後、トウヤの体の中心を貫き直して体ごと宙に浮く。
トウヤの体を、みんな声を出さずにオドオドとした様子で見守ると、プスの体も宙に浮いていた。

驚きを通り越し、恐怖に変わりミナは泣きだしてしまう。それをメリアが絶望した様子で泣き止むように声を上げるが、すでに遅く。メリアが想像した通り、トウヤと同じように宙に浮いていく。

「もう、イヤーーーー!なんで!なんで!シスター、シスター!!起きて!お願い!!!!!」

「うるさいですね。ですが、もう剣はありませんし。あなたも、シスター:マリアのように神の元へ行きなさい。」

再び大司教に後光が差し、メリアは静かに床に倒れた。

「さぁ、アサミ。一緒に行きましょう。」

大司祭の声が、光に溢れる教会の中でただ響くのであった。

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