異世界魔女は気まぐれで最強です。

雨狗 嗄零(あめいぬ しゃお)

もう一つの

シスターが、おどおどした様子で教会から出てきたことに、子供たちは心配そうに尋ねました。

「どうかしたの?シスター。」
「大丈夫?」

「大丈夫よ。少し心配なことがあるだけよ。さ!みんなお仕事を終わらせちゃいましょ。」

この時、シスターは朝美とお別れするかもしれない程度にしか考えていなかった。

******************
「プスチナ、聞こえますか?緊急連絡があります。通信の準備をしてちょうだい。」

店で客の相手をしていたプスは、頭に響いたその声に、お客さんとの話を切り上げて店を一度閉める。

「準備ができました。」

プスは店を閉めると店の奥にある自宅に行き、締め切られた一室に入り通信を繋げた。暗い部屋に中央に置かれた水晶玉から光が伸び人の形となり、女性の姿が浮かび上がる。

「お久しぶりです、ローザ隊長!」

「久しぶりねプスチナ。私の元を離れてからそれなりの時間が経ち、積もる話も沢山あるがそれはまたにしよう。」

「そうですね。で、緊急連絡とのことでしたが。」

「実はこの村に向かって聖軍が動き出したと情報が入ったの。指揮を取っているのは大司教:ザグマ。不確かだけど異世界人の可能性がある人物を発見したとの未確認の情報も上がっているわ。」

「この村にですか!?え、でも、そんな急に!!特に人が増えたわけでもないのに・・・。」

「今回あなたに連絡を取ったのは、この事を伝えることと出来れば異世界人を保護するのに協力して欲しいからよ。私たちの到着と聖軍の到着は、ほぼ同時刻になると思うわ。だから、聖軍に連れていかれる前に見つけ出して保護して欲しいの。」

「協力することは構いません。でも、誰が異世界人なのか私は全然分からないのですが、どうしたら?」

「確認は取れていないけど、探している人物の名は「アサミ」と言うそうよ。プスチナ、心当たりはあるかしら?」

この時プスは、背中に流れる嫌な汗の感覚を覚えた。
いつもお使いに来る、教会の少女の朝美が異世界人。そう考えると身近にいた人物ゆえに、なおの事色々と考え出してしまう。

「心当たりはあります・・・。教会が預かっている孤児の中にその名前の少女がいます。でも、シスターと共にいる時点で私が連れ出せるかどうか・・・。」

ローザはすでに教会の手元にアサミがいることに驚いていた。そして、今回の話の流れがどの様にして出来たのか想像ができた。

ローザとの通信が終わると、プスは店に戻った。
いつもと変わらない様子で店に立ち、パンを並べ店番をする。
お客さんが来るのを待ち、ドアのベルが鳴れば「いらっしゃいませ」と声を上げて入り口を見ると、アサミが立っていた。
心が一瞬、はっ!となる。

「こんにちは、プスさん!いつものパンをお願いします。」

「は、はーい、いらっしゃい。ちょっと。待っててね。」

自分で気をつけていたつもりが、とっさのことに少し言葉がもつれてしまった。
いつもと変わらないつかの間の会話をして、パンを用意して店を送り出す。

「ありがとう。また来ますね!」

「アサミ・・・!きょ、教会は楽しい?」

「はい!楽しいですよ。シスターは優しいし、トウヤもミナもメリアも仲良しだから!」

「そう、よかったわね。ねぇ、もし、アサミが教会を出て遠くに行くことになったらどうする?もしもの話だけどね。」

「うーん、多分寂しいと思います。みんなと別れるのは嫌だし、出来るならここにいたいですね、今のところはw」

プスは後悔した。こんなこと聞かなければよかったと。
アサミが帰るその様を、これほど複雑な感情を持って見送ったことはない。
悲しさや苦しさを感じつつ、アサミへの同情の他に心に残ったのはシスターへの怒りだった。

なぜ、アサミを教会に売るような事をしたのか?
それが義務付けられていたかもしれないが、アサミの意思を考慮したのか?
あの様子では、そのような事をした感じではない。
シスターは普段から子供達の面倒をよく見ているし、教会の孤児メリアもシスターを見てきたこともあり同じように教会で働きたいと考えているらしい。

シスターが善人であればあるほど、この怒りは強くなっていく。
明日、シスターと話をしてみよう。心のうちを聞かないと、どうにも収まりがつかない。
プスはそう決意し、今日を過ごすのであった・・・。

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