悠久の旅人

神崎詩乃

【国営墓所編】その1

 ハルス評議国国営墓所「エルンの地」
 そこは 国の東部に広大な土地を使って建設された最大の墓地があり、何代か前の議長の親戚が管理している。

 メカニズムは不明だが、ここでは日常的になり損ないが発生する。初めは死者の瘴気やこの地に溜まる邪気が死体に入り、なり損ないになるとされていたが実際になり損ないになったケースは報告されていない。今は冒険者が小銭稼ぎになり損ないを狩っているらしい。

「全体的にスケルトンが多いらしいぞ」
「へぇ。」
「狩りは一応銅等級以上の冒険者出ることになっているが入口での簡単な審査しかして居ない。か」
「……。スケルトンは厄介だね。」
「あぁ。」

 スケルトン。この場合は身体を骨で構成したなり損ないを指す。体が骨なので打撃には弱いが斬撃、刺突、銃撃には高い耐性がある。それに、コアを壊すか魔力の流れを断ち切らない限り粉々にしても再生して襲いかかってくるのだ。そのため、厄介この上ない面倒ななり損ないだった。
 その上、スケルトンは上位個体に変化しやすく、その難易度は決して低くはない。
「銅等級……ねぇ……。」

 草介は調査結果を眺めながらボヤいた。
「そんなに気になること?」
「杞憂だといいんだがな」
「何がそんなに気になるの?」
「対応が良すぎる。会った時の話の感じなら仕掛けられてる可能性は十分に考えられる」
「宿の一部屋で防音魔法使ってまで話す事?」
「ベットの下と天井、壁に3箇所、盗聴装置が組み込まれた宿だぞ?」
「うぇ……そんなに?私の感知には3個くらいしか分からなかったけど」
「少し調べた方がいいな。」
「朝から動く?」
「あぁ。」
「そう。じゃあおやすみ。」
「あぁ……。」

 シロには分かっていた。この男なら今から墓所に行ってしまう事が……。睡眠をギリギリまで削り、なり損ないと対峙するだろう。だからそうなる前に催眠魔法で眠らせた。先程盗聴装置の数を間違えたのは草介に気づかれないように魔法を構築する事に集中していたからである。

「手のかかる子だよ」

 その声を拾った監視員の男は首を傾げた。
 確かに部屋でその声は出された。しかし、背後でも同じような声が聞こえた気がしたのだ。

 ありえない。きっと何かの聴き間違いだろう。監視を指示された旅人達の泊まる宿からここまでかなりの距離がある。伝送魔法の範囲ギリギリで息を殺しながら監視しているのだ。まさか……伝送魔法を追ってきた?
 ベテランのハンターは獲物を追う際、獲物の放つ魔力を追うという法螺話を聞いたことがあるが……。まさか……そんなはずは無い。この監視国家で、伝送魔法などそこら中に飛んでいる。その中から自分達の部屋のものだけを識別して、ここまで来るなんて……ありえない……。きちんとダミーも用意している。そしてそのダミーになんの変化もない。

「「簡単な話だよ。」」
 男は振り返った。直後、護身用の拳銃に手を伸ばす。そこに居たのは小柄で整った顔だちの白い少女だった。
「なっ……。」

 少女の紅い瞳はこちらを見ていた。ただ、見ているだけなのだが、身体が一切動かない。
「ふぅ。久々に細かい作業をすると疲れる。」
「フゥ!」
「?何かな」

 瞬く間に猿轡を噛まされ、簀巻きで転がされた男は恐怖で顔が引き攣っている。
「ふふっ。いい顔だね。私もそんなに覗かれるの好きじゃないからさ。こうしてわざわざ来たんだけど、誰かに頼まれたの?」
「……。」
「そう。まぁ、だいたい分かってるし良いんだけど。」

 それだけ言うと少女は猿轡を外した。
「こ……殺さないのか?」
「え?死にたいの?」
「い、いや!?そういうわけではないが……。」
「だって君を殺しても後釜が座るだけでしょ?なら、私が殺る意味が無い。」
「……な、なるほど。」
「だからといって私は君を赦したつもりは無いよ。実はすごく怒ってるからね。」
「ヒッ……。」
「要監視対象者と接触してしまった。そして監視がバレた。これだけで君を処分してほかの人間にすげ替えることくらい想像難くないよ?それでも喋らない?」
「…………。エルン・ガルド議員……です。」
「へぇ。」

 詳しくは知らないがエルン・ガルドなる人物が2人を監視するように命じ、多数の刺客たちが監視に当たっているらしい。刺客たちの中には宿屋の主人の名もあった。

「……。じゃあ監視の仲間たちに伝えて。『私たちの眠りを妨げるなら殺す。』ってね」

「わわわわわかった。俺は伝える。だが、その話を信じないバカが出たら……。」
「そのバカを殺す。簡単でしょ?」
「わかった。了解だ。しっかり伝える。」

「ならいいや。よろしく。」

 シロは監視者の男にそう伝えると部屋へ戻ってきた。すると蜘蛛の子を散らすように盗聴装置が消えていった。自らの催眠魔法に自信はあるがそれでも一応と草介の眠るベッドに近づくと少し魘されている草介がいた。

「何の夢を見てるか知らないけれど……寝てる時くらい幸せそうな顔しなよ。」

 シロが草介の手を握ると草介の表情が柔らかくなり、呼吸も安定した。
「やれやれ……。」

 朝日が昇り、部屋に光が差し込むと草介はモゾモゾと動き出し、目を覚ました。

 


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