悠久の旅人

神崎詩乃

ハンター本部

 ハンター本部……そのような建物は実際には存在しない。全世界に散ったハンターの為、本部に集めるということをしないからだ。
 そんなハンター達のボス。 クロエ・フォン・ヴァイスは自身の屋敷でため息をついた。
「はぁ……。あの馬鹿……。また屍山血河を使いやがった……。」
「お嬢様?言葉遣いが……」
「うるさい。」

 報告を聞いたクロエは気が遠くなる気分になった。

「白い方は何してたのよ」
「どうやら一時的に暴走していたみたいです。」
「あの二人は暴走しないと戦えないの!?2人とも暴走したら誰がとめられるのよ……。」

 彼らの最終手段は強力過ぎて止めることが出来ない。それどこの国も同じで腕利きのハンター達を差し向けても遅滞戦闘が関の山である。唯一の対抗手段は片方が片方の暴走を止めることができ、草介の方は自我を持っているため無作為に暴れる心配が少ないという所だろうか。

「あぁ……もう。なんの為にハンターは二人一組にしてあの二人組ませたのか分からないわ」
「お嬢様、『屍山血河』とはどう言った能力なのでしょうか?」

 秘書兼執事のフィロスが尋ねるとクロエは近くにあった紙に書いて説明しだした。 
「普通の人間は死ぬ量の血を代償にして自我を持った戦闘人形を作り出す。作り出した戦闘人形が術者を回復する。簡単に言うならそんな所ね。」

「それでは術者が死んでしまうのでは……?」
「そうね。本来ならそれで死ぬのでしょうけど……。生み出された戦闘人形が回復させるからギリギリ生き残るのよ。戦闘人形も確実に死なない量を代償として徴収している節もあるわ。」
「自我が……そこまでとは……。スキルなのですよね?」
「恐らく……。」

 本来スキルが自我を持つなどありえない。しかし、彼が作った戦闘人形は確かに自我を持ち、主人を回復した。しかも、手加減まで心得ているのだ。以前見た時は余裕で暴走したシロと闘っていた。シロに怪我を残さないように戦闘不能にしてのけた。
  
「……。そ、そう言えば、彼らの次の行き先なのですが……。このまま行けば例の評議国になります。」 
「なっ」

 ハルス評議国……。
 国民投票によって決まった評議員が統治する国だ。しかし、政治腐敗が酷く内政は荒れていると聞いている。しかもあの国は人類至上主義を掲げ、それ以外の種族を毛嫌いしている風潮がある。彼らとシロの衝突は避けられないだろう。
「他の国は?」
「食料が足りないようです。」
「まずいわ……。あの二人をあの国に行かせては……。」
「影のものを使って食料支援はしましたが……進路上には変わらず評議国があります。」
「そう、祈るしかないわね……。」
「えぇ。」

 一方その頃旅人一行は川辺で支度をしていた。
「はぁ……いい湯。」
「あっそ。湯冷めして風邪ひくなよ?」
「平気平気。」

 空間術式から取り出した大きな缶に川から汲んだ水を濾過し火にくべる。そして今、衝立の中でシロは湯浴みをしている。

 火は魔法で賄っているが草介にそのような芸当は出来ない。だから草介は火をつける魔道具を製作し風呂を愛用していた。
 もちろん何も無ければ一人が見張りとして外に立ち、その間に洗濯やその他の雑事に取り掛かる。
「あぁ。いい湯だった。」

 白い少し長めの髪を拭きながらシロが出てくると草介は慣れた手つきで片付けた。

「次の国までどのくらい?」
「知らねぇ。あと2日くらいじゃねぇの?」
「そんなテキトーな……。」
「食糧支援があったがそれでも次の国で色々補充しなきゃな。弾薬とか砥石も欲しいな」
「確かに。」
「車の整備はまだ平気そうだが、そのうちやらなきゃなるまい。」
「次の国は長期滞在になりそうだね」
「そうかもな。」

 2人はその後食事を済ますと交代で眠りについた。翌朝、朝食を済ませ車を走らせると昼頃になって大きな城壁が見えてきた。

「お、国だ。」
「……あの紋章……以前どこかで見たことがあるような……。」
「何か言ったか?」
「いや?なんでもない。この間みたいに滅んでなければいいね。」
「滅んでた方が楽かもしれないぞ」
「ご飯食べられないじゃない」
「まぁ、そうだな。」

 徐々に近づく城門。まずどんな様子か確認するために草介は狙撃ライフルを構えてレンズ越しに確認した。

「いるいる。城壁の上とか門の所とか結構いるな。」
「へぇ。到着はいつになりそう?」
「今から行っても夜になるからな。もうちょっと走って野宿だな。」
「了解。」
「まぁ、急ぐ旅ではないからな。」
「今夜中に滅んじゃったりして」
「有り得るからやめろ。」
「はいはい。」 

 翌朝。夜明け前の薄暗がりを車で走り抜ける。そして、固く閉ざされた城門の前で停車すると長い商人の列が形成されていた。
「シロ、フードを被っとけ。あと偽装の腕輪も付けておけ。お前が吸血姫とバレると面倒だ。」
「わ、分かった。あの腕輪嫌いだけど仕方ない。」

 エンジンを止めて中で仮眠しながら待つこと数時間。正午を回った頃、ようやく入国審査の番が来た。
「見ない面だな。どっから来た?」
「モラハルドだ。」
「は?」
「まぁ、遠くの国だよ。見ての通り旅人なんでな。補給に寄った。」
「……そ、そうか。そっちの女は?」
「嫁だよ」
「ブッ」
「そ、そうかい。」
「行っていいか?」
「問題行動起こすんじゃねぇぞ。この先のカウンターで通行税を納めろよ」
「あぁ。分かった。」

 唐突な嫁発言にシロは驚き、気がつけば草介の脛を何度も何度も蹴り飛ばしていた。

「痛てぇって悪かったって」
「……。本当に……ソウスケは……。」

 通行税も納め、ようやく城壁の中に入るとそこは人々で溢れていた。
 屋台では声高らかに商品を宣伝し、商店では様々な年代の層が買い物をしている。

 そんな中2人は色気も何も無い武器屋に入ると色々物色を始めた。
「お、7.62ミリ弾だ。珍しいな。」
「旅人さん銃を撃つのかい?」
「あぁ。まぁ、あまり実弾は込めないけどな。弾がもたない。」
「ははっちげぇねぇわな。どうする?」
「買うさ。まぁ、他のも見てからな。」
「へぇ。毎度あり。そっちのかわい子ちゃんは何使うんだ?」
「私は別に。目の細かい砥石は置いてない?」
「砥石ならその棚の上に……。」
「ソウスケ。取って」
「……ほい。」
「ありがと」
「お熱いね〜。」
「おい、おやっさん?勘違いしているようだがこいつの方が強いぞ?」
「なっ。」
「またまた……冗談だろ〜」


 草介はすれ違いざま、シロに耳打ちすると会計を済ませて外に出た。

「あ、ソウスケ……。」
「悪ぃ。少し野暮用だ。クロエにはシロから伝えておいてくれ。」
「クロエ……局長に……?」
「じゃ、また後で。」

 草介はそう呟くとすぐさま人混みに紛れていった。
「……何を……する気なの?」

 シロは気付いていた。武器屋から出た時、複数の視線を感じた。そして、草介が去った時、その視線も動いていた。何かが……既に始まっている……。

 シロは少し歩いて入り組んだ路地を見つけると姿を消した。

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