悠久の旅人

神崎詩乃

白い吸血鬼と黒い吸血鬼

 周りを見渡せば黒、黒、黒。黒い空間にシロはいた。服装はこの黒い空間に合わない白一色で目の前には自分とよく似た容姿の子どもが大きな化け物相手に戦っている。
「……暴走かな。これ、ソウスケ怒るだろうな……。」
 黒い髪、黒い翼を背中に生やした少女は大型のなり損ないと対峙している。地上で人間を超えた猛威を振るうなり損ないに空中から一方的に攻撃を繰り返す黒い少女は嬉しそうな声を上げた。

「どうした?どうした?そんなものか?なり損ない!そんな事で妾を楽しませられるのか?」
「ウボァ!」

 煩わしそうに長い腕を振るうと辛うじて形を保っていた教会が轟音と共に崩れ去る。
「良いパンチだな。だが、当たらなければどうということはないぞ?」
 長い刀身を持つ槍のような武器を振るう。するとほとんど抵抗無く、なり損ないの腕が肩口から消滅した。

「ウボァァァァ!」

 痛覚など無いはずだが奇声を張り上げるなり損ない。そのまま首を飛ばし、戦いを終わりにしようとした所に一発の銃声が響き渡った。
「……あの小僧……。なめた真似を……。」
 黒い少女の羽を撃ち抜いた弾丸は遥か彼方へ飛び去った。そこへ、タイミングよく刀を振り回しながら内海草介が現れる。
「おい黒!大丈夫かよ」
「……は?お前……妾を馬鹿にしているのか?」

 敵を前に鍔迫り合いを始める両者。
「な、何だよ!俺じゃねぇよ!?」
「黙れ!問答無用!味方を撃ち抜くような使えん狙撃手なんて要らん!今ここでぶち殺してやる!」
「待てって、話を聞け!」

 黒い空間でその様子を見ていたシロも大慌てで身体の制御を取り戻そうとする。すると、少しずつ腕の制御を取り戻せた。

「っとシロも聞こえてんだな。おい黒、変われ。今すぐだ。」
「うるさい!妾に指図するな!」
「良いのか?お前、他の奴に踊らされて今戦わされるんだぞ?」
「戦いは私の意思だ。」
「お膳立ては誰がやった?そこは気にならないのか?お嬢様?」
「……。申してみよ」
「その前にシロに身体を返してやれ。」
「む……。うむ、いいだろう。」

 少女の纏った黒いオーラが凄まじい勢いで消えていき、見慣れたの白い姿へと戻っていく。
「おかえり。」
「う……た、ただいま。」
「次は飲まれんなよ。」
「う……うん。」
「さて、シロは少して寝てな。俺はなり損ない共と話をつけてくる。」
「……私も行く。」
「無理すんな。」
「あの銃弾、ソウスケとは違う魔力だった。」
「シロは気づいたのか」
「あんな黒い魔力気づかないクロの方がおかしい。」
「いや、あの弾丸には思考阻害がかかっていた。だからクロがああなった。」
「……なるほど。」
 話しながら2人はあたりを警戒して進む。
「クソッ隠れやがったな……探知しきれない。」

 探知系の魔法を使おうにも草介にはそれを行使する魔力が無かった。

「ソウスケ、魔力無くなったの?」
「あぁ。元々俺はこの世界の人間じゃないからな。扱える魔力も少ねぇんだよ」
「……確かに。」

 シロは吸血鬼である。更に真祖と呼ばれる血を濃く引き継いだ者である為魔力はほぼ無尽蔵に引き出せる。対して草介は元からこの世界の住人ではなく気がついたらこの世界に居たという。

 にわかには信じ難いが実際草介の魔力は赤子に匹敵するほど少ない。

 しかし、そんな少ない魔力で弾丸を作り、かつ霧散させずに相手に叩き込むあたり、相当な実力は持っているのだろう。

「仕方ねぇひとまずこっちも朝まで隠れるとしよう。もうすぐ日が昇るしな」
「……分かった。」
 草介は相変わらず無表情でぶっきらぼうに言うが実際シロは歩くのもやっとなくらい消耗していた。

 2人は手近な廃墟に潜むと草介が番をする形で交代で眠りについた。

 日が昇り、辺りが明るくなるとなり損ない達は消えている。あの百鬼夜行のような光景があった通りも今はもぬけの殻。動くものの気配は消えている。

「……。おはよう?」
「なんで疑問形なんだよ。おはよ」
 魔力が完全に回復しきっていないのか胡乱げな目であたりを見渡すと簡単な朝食が準備されていた。

「取り敢えず飯だ。その後あの男に会いに行くぞ。」
「え?あの男?」
「初日に会った男だ。」
「何故?」
「あの男は何か知っている可能性がある。」
「……そう。またいつもの勘?」
「いや?」

 言葉を濁した草介は1枚の写真を持っていた。その写真には白衣姿の男が写っており、日付は今から5年ほど前になっている。

「これがどうかしたの?」
「あの男はこの国の国民だった。つまりこの状況がどうして起こったのか知っているはずだろ?」
「……確かにそうかもしれないけど……。」
「別に犯人と決まったわけじゃねぇ。話聞きに行くだけだ。」
「うん、分かった。」

 朝食を摂り終えると2人は車を回収し、この国の中心部へと向かっていった。


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