悠久の旅人

神崎詩乃

なり損ないと狩人

 この世界には『なり損ない』というものがいる。どこで生まれ、どうして人を襲うのか何もわかっていないがそれを狩る者がいる。彼らは狩人ハンターと呼ばれ、ギルドに派遣された彼らは各地に散っていた。
「ねぇ。今回の依頼、どうして受けたの?」
「あ?どうでもいいだろ?そんなこと。」
 内海草介は相変わらずぶっきらぼうに答えるとシロは少しむくれながらも周囲を警戒する。シロも分かっているのだ。この男が素直に自分の心情を語ることなどないと。分かっていても聞かずにはいられなかった。
 だが、彼には彼なりの事情があると割り切り、それ以上詮索を続けようとはしなかった。シロ自身の狩人歴は長い。長命な種族だからというのもあるがそれ以上に彼女には彼女なりの理由があった。ハンターギルドのギルド長直々に子守りを任されなければこうして一緒には行動しなかっただろう。
「さて、直に日が暮れるし今日はここで休もうか?」
「……あぁ。そうだな。」 
 周囲が開けた河原、なり損ないは泳ぐ事が出来ないのでいざとなれば泳いで対岸に渡る手段が取れる場所である。
「今日の不寝番は俺だな。シロは飯食ったら寝てろ」
「あれ?そうだっけ?別に私は眠る必要なんてないんだから不寝番なら私がやるのに」
「うるさい。なり損ないを見つけたら起こす。」
「はいはい。」

 シロは彼なりの優しさなのだろうと勝手に納得し、自身のテントに潜り込んだ。
 数時間後。シロは草介に呼び出され、テントの中から這い出てきた。
「悪い緊急だ。」
「良いよ別に気にしなくて。私は寝なくても良い種族だからね。それで?あのでかいのが今回の獲物?」
「あぁ。」
「なり損ないが群れてる……」
「あぁ…。」

 2人の視線の先には身長5m程の巨体がノシノシと歩いているのが見える。その周りには普通の人間ほどのサイズになったなり損ないがウロウロしていた。
 本来、なり損ないというのは群れることはないとされている。だがしかし、目の前の光景はそんな常識を置いて行っている。

「これはギルドに報告しなきゃ。」
「記録結晶はまだあるからな。今回が異例の可能性はあるがそうした方がいいだろう。」

 草介はそういうと異空間収容から拳大の結晶を取り出すとなり損ない集団に向けて使用した。

「よし、駆除しよう。」
「朝までに終わるといいけど……あれ、何体いるの?」
「俺の索敵範囲内でざっと60匹くらいだな。」
「多くない!?」
「実際多い。この数字なら恐らくまだ居るだろう。」
「ギルドに請求しなきゃだ」
「あぁ。そうだな。」

 草介はそういうと銃を構えた。見た目は一般的なアサルトライフルで、使用弾薬は7.62ミリ弾。この世界で草介だけが持ち、草介だけが操れる武器である。

「ロック」

 鍵詞で草介の視界に標的が表示され、全てなり損ないの頭に固定される。そしてゆっくり、確実に照準を定めると引き金を引いた。
『ガゥン』
「うわ、急に撃たないでよ」
「急げ。何体かこっちに来るぞ」
「もう!」

 草介の放った弾丸は空中で小さく分裂し、スコープ越しの視界の中にいたなり損ないの頭部を尽く粉砕した。この攻撃により十数体のなり損ないが沈黙したが、残りは当然襲いかかってくる。

「数多すぎ!」
「今減らす。」

 草介の魔力がライフルに叩き込まれ弾丸が作成されていく。次弾装填から発射まで1秒にも満たない時間ではあったが危機は着実に迫ってきている。

「あぁ、もう私も出る。私に当てないでよ!?」
「当然だ。」

 シロは親指を噛むと出てきた血を頬につけた。すると瞬く間に変化が現れていく。犬歯が伸び、背中にコウモリのような翼が生え、目が赤くなっていく。そして数秒の溜めの後、シロは地面にクレーターを残しながら跳躍した。

「相変わらず……周りのこと気にしねぇな……あいつ……。」

 河岸でクレーターを作成したため、川の水がそこに溜まり始めたのだ。せっかくの安全地帯も今ので瓦解してしまった。

 しかし、先程の2発で索敵範囲には残り十数体まで減らせたので自分の仕事は終わりと言わんばかりに草介は片付けを始めた。

「……にしても……何故なり損ないが集団で……さらに群れを為しているんだ?何か……例えば儀式……。あの巨大化……裏があると考えた方がいいか。」

「ウガゥ!」
 ぶつくさと思考に耽っている者にも容赦なくなり損ないは襲いかかる。しかし、草介に当たる直前でその拳は止まってしまった。

「やれやれ。少しは考える時間を寄越せよ。」
 懐から抜いた刀で一閃。グチャりと熟れたトマトを路上に叩きつけたような音と共になり損ないが沈黙する。

「魔力が足りねぇな。クソ。」

「ヴェェ!」

 川のように流れてくるなり損ないを斬り捨て先に進むと漆黒に染ったシロが涸れた噴水広場で戦闘を始めるところだった。
 


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