今日も今日とてくノ一の幼馴染が自分を悩ませる……
3話 出立
 「それではおじい様行ってまいります」
 
 時はあれから三日。
 朧と輝夜は、 里からの旅立ちの日を迎えていた。
 二人がこれから向かうのは、 忍の隠れ里から南西に行ったところにある川城。
 川城は、 この戦国の時代の中で唯一天下取りに名を挙げていない国である。
 川城が国盗りに名を挙げないのは、 その地域を収めている川城乙女が他国との争いを好んでいないからであった。
 ただそんなことは他の国にとっては、 関係なく、 川城の周りが強国で囲まれていることもあり、 たびたびその国の襲撃を受けては退けるを繰り返していた。
その為川城は、 昔は資源は豊かであったにも関わらず、 今はすっかりその資源も枯れてしまい、 土地も戦の影響で荒れ野原なり、 国として完全に終わった国という評価が世間一般の物であった。
 そんな国に何故二人が向かうのかというとそれは、 朧の主こそこの国の党首である川城乙女に他ならないからであった。
 「うむ。 川城は、 他の国からよく襲われている国と聞く。 そんな中に大事な孫娘を放り込むのは、 儂としては反対なのじゃがおぬしも忍。 そう言ってはいられぬのであろうな……」
 「おじい様……」
 「いかんのう……年を取るとどうにも感傷に浸りやすくなってしまうわい。 それと朧……」
 「はい」
 「孫娘の事任せたぞ。 くれぐれも手だけは出してくれぬなよ。 もし手をだしたらその時は儂が貴様を斬る 」
 「おじい様…… 」
 「はっはは。 冗談じゃ」
 -冗談ではないでしょうに……
 朧がそう思った理由は唯一つ。
 一影の眼が本気だったのだ。
 彼が一影の本気の眼を見たことがあるのは、 これで二度目。
 一影の本気の眼は、 まさに人切りに飢えた野獣。
 既に戦場に出て、 人きりの眼に見慣れているはずの朧でさえ、 一影の本気の眼は、 恐怖で震えるほどすさまじい迫力を伴っていた。
 「して朧返答はいかに?」
 「御意」
 「もっと他にあるというものだろうに……」
 「自分は別にありませぬ」
 「冷たい奴じゃ。 久しぶりに里に帰ってきたと思ったら儂の……儂の大事な孫娘だけ貰いに気負って……ええい  思い出したらムカついてきたわ  朧刀を抜け  今ここで……」
 「それでは行ってまいります。 ほら兄様行きますよ 」
 「あ、 ああ……」
 朧は輝夜に急かされるように立たされる。
 そしてそのまま里に背を向け一目散に走り去る。
 「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ……  輝夜ァァァ 」
 ただ一影の叫び声だけは、 彼がいくら里を離れても聞こえ、 その事に朧は少なからず恐怖を覚え、 輝夜は自身の祖父のそんな見苦しい様に恥ずかしさを感じていた。
 「そう言えば兄様。 川城までは一体どれほどかかるのですか?」
 「忍の足ならば走り続けて三日という所ででしょうな」
 忍の足は、 通常の人間に比べ各段早い。
 その速さは例えるならばまさに疾風。
 しかも朧は、 他の忍たちよりも遥かに優れた脚力を持っていた。
 その為彼が本気で走れば川城までおおよそ一日程でつくことができた。
 ただし今の彼には、 輝夜がついている。
 流石に彼女を置いて一人戻るわけにもいかない為、 彼は必然的にスピードを落とさざるを得ないのである。
  だがそんな彼の事情を知らない輝夜は当然不満を漏らす。
 「三日も走り続けるのですか…… 」
 「む? そうですが何か……?」
 「何かじゃありません  三日も休憩なしで走り続けるなど正気の沙汰ではありません 」
 「ですが自分は、 今までその程度の事普通にこなしてきました。 酷いときは一週間以上走り続けたこともあります」
 「それは兄様が異常なのです  普通の忍なら例え主からの命令でもそのような無理はしません 」
 「むぅ……? そう……なのか?」
 
 朧にとって走るだけならばそれほどの苦労はない。
 事実忍は拷問などの訓練も受けている為常人より遥かに強靭だ。
 事実朧は、 最長一か月は食事をとらなくても生きてはいける。 
 それは輝夜とて同じ。
 期間こそ朧に比べ短い物の彼女の体もまた通常の女子に比べて遥かに強靭である。
 だからこそ朧は、 その辺りの事も考慮し、 三日走り続けても大丈夫だろうと判断したのであった。
 「いいですか兄様。 体は資本という言葉があります」
 「ああ、 その言葉は知っている。 主から教わった」
 「ならもっと自身の体を大事にしてください  このような無理を続ければいつか体を絶対に壊します 」
 「だ、 だが自分は一刻も早く主の元に……」
 「ダメです 」
 「むぅ……」
 ーこれではどちらが主かわからないではないか……
 忍の主は、 自分の忍に対して当然絶対的な命令権を持つ。 
 主が死ねと言えば忍びは、 死ななければならないのだ。
 そしてその理は、 当然輝夜にも適用される。
 ここで朧が輝夜に自分のいうことを聞くよう命令すれば彼女は、 いうことを聞くしかないのだ。
 ただ朧はその様な真似はしたくなかった。
 それは偏に彼が彼女の事を大切に思っているから。
 相手の意見を捻じ曲げてまで自分の主張を通すなど忍として……人としていけない事だと彼は、 自身の主から学んでいたからである。 事実彼の主は、 朧の意見をとても尊重しており、 重宝している。
 ましてそんな彼を捨て駒の様に使うなどただ一度も命令したことはなかった。
 そんな相手だからこそ朧は、 心の底から仕えているのだ。
 「では走る速度を落として四日かけてはどう……」
 「五日です。 しかも走り続けるのではなく、 食事もきちんととり、 夜は睡眠もきちんと取ります。 どこかで宿をとったりするのもいいですね」
 「輝夜。 これは旅行では……」
 「それぐらいわかっています」
 「ならば……」
 「だからこそです。 今は各国で戦が発生している戦国時代。 そんな時代だからこそいつでも動けるように体は、 きちんと休めておくのが大事なのではないのですか?」
 「むぅ……」
 輝夜の意見は、 確かに一理あった。
 戦において疲れた状態で戦場にであるなど愚の骨頂。
 疲れがたまりにくい体質である朧もそれとて例外ではない。
 ーだが……だが自分は一刻も早く主の元へと赴きたい……
 その事が彼の胸中で激しく葛藤をされる。
 -主をとるか体をとるか……
 普段の彼ならば迷わず主をとる。
 けれどそのような事輝夜が許すわけがない。
 彼は自身の主の為ならば当然輝夜を切り捨て、 使い捨てる覚悟はしている。
 けれどだからと言ってこんなくだらないことで切り捨てるなどとてもじゃないができるわけがない。
 だからこそ彼は葛藤しているのだ。
 「兄様 」
 
 輝夜の怒鳴り声が彼を現実へと引き戻す。
 「兄様私の話を聞いているのですか…… 」
 「無論聞いております。 それを踏まえて今結論を……」
 「そんな私の意見が正しいに決まっています 」
 「むぅ……だが自分の意見が絶対など……」
 「この場においては絶対私が正しいです いいですか兄様。 兄様は少し頑張りすぎなのです 」
 「頑張りすぎ……?」
 「はい。 兄様が自身の主を大事にしているのは、 知っています。 ですがそれで体を壊していたら意味がありません。 きっと兄様の主も悲しむのではないですか?」
 
 ー姫様が……悲しむ……? 自分風情の為に……?
 今の輝夜の言葉は、 朧にとって致命的であった。
 朧の中で自分の評価は、 最低に等しい。
 そんな自分の為に自身の主を心配させるなど言語同断。
 しまいには、 切腹すらしかねないほど耐え難いものに他ならなかった。
 「……わかりました。 ここは、 輝夜の言う通りにします」
 「はい それがいいです  ええ 絶対にそうです 」
 
 -何故輝夜はこれほどうれしそうなのだ……?
 彼女が自身に好意を抱いているのは朧とて理解はしている。
 けれどその気持ちが恋慕の情とは、 一切気づいていない朧は、 この時輝夜の内心で何を考え、 何を思っていたのかなどまるで理解できなかった。
 
 時はあれから三日。
 朧と輝夜は、 里からの旅立ちの日を迎えていた。
 二人がこれから向かうのは、 忍の隠れ里から南西に行ったところにある川城。
 川城は、 この戦国の時代の中で唯一天下取りに名を挙げていない国である。
 川城が国盗りに名を挙げないのは、 その地域を収めている川城乙女が他国との争いを好んでいないからであった。
 ただそんなことは他の国にとっては、 関係なく、 川城の周りが強国で囲まれていることもあり、 たびたびその国の襲撃を受けては退けるを繰り返していた。
その為川城は、 昔は資源は豊かであったにも関わらず、 今はすっかりその資源も枯れてしまい、 土地も戦の影響で荒れ野原なり、 国として完全に終わった国という評価が世間一般の物であった。
 そんな国に何故二人が向かうのかというとそれは、 朧の主こそこの国の党首である川城乙女に他ならないからであった。
 「うむ。 川城は、 他の国からよく襲われている国と聞く。 そんな中に大事な孫娘を放り込むのは、 儂としては反対なのじゃがおぬしも忍。 そう言ってはいられぬのであろうな……」
 「おじい様……」
 「いかんのう……年を取るとどうにも感傷に浸りやすくなってしまうわい。 それと朧……」
 「はい」
 「孫娘の事任せたぞ。 くれぐれも手だけは出してくれぬなよ。 もし手をだしたらその時は儂が貴様を斬る 」
 「おじい様…… 」
 「はっはは。 冗談じゃ」
 -冗談ではないでしょうに……
 朧がそう思った理由は唯一つ。
 一影の眼が本気だったのだ。
 彼が一影の本気の眼を見たことがあるのは、 これで二度目。
 一影の本気の眼は、 まさに人切りに飢えた野獣。
 既に戦場に出て、 人きりの眼に見慣れているはずの朧でさえ、 一影の本気の眼は、 恐怖で震えるほどすさまじい迫力を伴っていた。
 「して朧返答はいかに?」
 「御意」
 「もっと他にあるというものだろうに……」
 「自分は別にありませぬ」
 「冷たい奴じゃ。 久しぶりに里に帰ってきたと思ったら儂の……儂の大事な孫娘だけ貰いに気負って……ええい  思い出したらムカついてきたわ  朧刀を抜け  今ここで……」
 「それでは行ってまいります。 ほら兄様行きますよ 」
 「あ、 ああ……」
 朧は輝夜に急かされるように立たされる。
 そしてそのまま里に背を向け一目散に走り去る。
 「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ……  輝夜ァァァ 」
 ただ一影の叫び声だけは、 彼がいくら里を離れても聞こえ、 その事に朧は少なからず恐怖を覚え、 輝夜は自身の祖父のそんな見苦しい様に恥ずかしさを感じていた。
 「そう言えば兄様。 川城までは一体どれほどかかるのですか?」
 「忍の足ならば走り続けて三日という所ででしょうな」
 忍の足は、 通常の人間に比べ各段早い。
 その速さは例えるならばまさに疾風。
 しかも朧は、 他の忍たちよりも遥かに優れた脚力を持っていた。
 その為彼が本気で走れば川城までおおよそ一日程でつくことができた。
 ただし今の彼には、 輝夜がついている。
 流石に彼女を置いて一人戻るわけにもいかない為、 彼は必然的にスピードを落とさざるを得ないのである。
  だがそんな彼の事情を知らない輝夜は当然不満を漏らす。
 「三日も走り続けるのですか…… 」
 「む? そうですが何か……?」
 「何かじゃありません  三日も休憩なしで走り続けるなど正気の沙汰ではありません 」
 「ですが自分は、 今までその程度の事普通にこなしてきました。 酷いときは一週間以上走り続けたこともあります」
 「それは兄様が異常なのです  普通の忍なら例え主からの命令でもそのような無理はしません 」
 「むぅ……? そう……なのか?」
 
 朧にとって走るだけならばそれほどの苦労はない。
 事実忍は拷問などの訓練も受けている為常人より遥かに強靭だ。
 事実朧は、 最長一か月は食事をとらなくても生きてはいける。 
 それは輝夜とて同じ。
 期間こそ朧に比べ短い物の彼女の体もまた通常の女子に比べて遥かに強靭である。
 だからこそ朧は、 その辺りの事も考慮し、 三日走り続けても大丈夫だろうと判断したのであった。
 「いいですか兄様。 体は資本という言葉があります」
 「ああ、 その言葉は知っている。 主から教わった」
 「ならもっと自身の体を大事にしてください  このような無理を続ければいつか体を絶対に壊します 」
 「だ、 だが自分は一刻も早く主の元に……」
 「ダメです 」
 「むぅ……」
 ーこれではどちらが主かわからないではないか……
 忍の主は、 自分の忍に対して当然絶対的な命令権を持つ。 
 主が死ねと言えば忍びは、 死ななければならないのだ。
 そしてその理は、 当然輝夜にも適用される。
 ここで朧が輝夜に自分のいうことを聞くよう命令すれば彼女は、 いうことを聞くしかないのだ。
 ただ朧はその様な真似はしたくなかった。
 それは偏に彼が彼女の事を大切に思っているから。
 相手の意見を捻じ曲げてまで自分の主張を通すなど忍として……人としていけない事だと彼は、 自身の主から学んでいたからである。 事実彼の主は、 朧の意見をとても尊重しており、 重宝している。
 ましてそんな彼を捨て駒の様に使うなどただ一度も命令したことはなかった。
 そんな相手だからこそ朧は、 心の底から仕えているのだ。
 「では走る速度を落として四日かけてはどう……」
 「五日です。 しかも走り続けるのではなく、 食事もきちんととり、 夜は睡眠もきちんと取ります。 どこかで宿をとったりするのもいいですね」
 「輝夜。 これは旅行では……」
 「それぐらいわかっています」
 「ならば……」
 「だからこそです。 今は各国で戦が発生している戦国時代。 そんな時代だからこそいつでも動けるように体は、 きちんと休めておくのが大事なのではないのですか?」
 「むぅ……」
 輝夜の意見は、 確かに一理あった。
 戦において疲れた状態で戦場にであるなど愚の骨頂。
 疲れがたまりにくい体質である朧もそれとて例外ではない。
 ーだが……だが自分は一刻も早く主の元へと赴きたい……
 その事が彼の胸中で激しく葛藤をされる。
 -主をとるか体をとるか……
 普段の彼ならば迷わず主をとる。
 けれどそのような事輝夜が許すわけがない。
 彼は自身の主の為ならば当然輝夜を切り捨て、 使い捨てる覚悟はしている。
 けれどだからと言ってこんなくだらないことで切り捨てるなどとてもじゃないができるわけがない。
 だからこそ彼は葛藤しているのだ。
 「兄様 」
 
 輝夜の怒鳴り声が彼を現実へと引き戻す。
 「兄様私の話を聞いているのですか…… 」
 「無論聞いております。 それを踏まえて今結論を……」
 「そんな私の意見が正しいに決まっています 」
 「むぅ……だが自分の意見が絶対など……」
 「この場においては絶対私が正しいです いいですか兄様。 兄様は少し頑張りすぎなのです 」
 「頑張りすぎ……?」
 「はい。 兄様が自身の主を大事にしているのは、 知っています。 ですがそれで体を壊していたら意味がありません。 きっと兄様の主も悲しむのではないですか?」
 
 ー姫様が……悲しむ……? 自分風情の為に……?
 今の輝夜の言葉は、 朧にとって致命的であった。
 朧の中で自分の評価は、 最低に等しい。
 そんな自分の為に自身の主を心配させるなど言語同断。
 しまいには、 切腹すらしかねないほど耐え難いものに他ならなかった。
 「……わかりました。 ここは、 輝夜の言う通りにします」
 「はい それがいいです  ええ 絶対にそうです 」
 
 -何故輝夜はこれほどうれしそうなのだ……?
 彼女が自身に好意を抱いているのは朧とて理解はしている。
 けれどその気持ちが恋慕の情とは、 一切気づいていない朧は、 この時輝夜の内心で何を考え、 何を思っていたのかなどまるで理解できなかった。
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