今日も今日とてくノ一の幼馴染が自分を悩ませる……

サクえもん

1話 字名朧

 時は戦国時代。 各地で我こそはと名乗りを挙げ、 国盗りをしようと日々各地で争いが続いていた。
 そんな修羅の時代にある存在がとても重宝されていた。
 その存在の名は、 。 闇夜に隠れ、 人を暗殺に特化することにしたまさに人殺しのプロフェッショナル。 
 彼らの功績は甚大であり、 この時代で天下を収める最有力候補と言われている柾壁家では、 多くの忍が登用され、 実績を上げていた。
 ただし彼らの存在は、 表沙汰にはあまり取り上げられない。 それはなぜか?
 それは彼らの強さがその存在の薄さにあるからだ。
 人間だれしも得体のしれない者はあまり信用しない。
 そんな部分を忍たちは、 うまく使い、 要人の暗殺を成功させてきたのだ。
 だからこそ彼らは、 人目に出ず、 素顔も隠している。
  それは、 偏に自身の主からの命を無事成功させるために……

  ~~~~~~~~~~~~~~~

 「棟梁お話があります」
 「むぅ? 一体何の用だよ」

 今忍の隠れ里である字名では、 二人の忍が対峙していた。
 男の内一人は、 この忍びの隠れ里に住む字名集の棟梁である字名一影。
 年は、 既に七十を超え、 そのせいか髪は見事な白髪、 皮膚からも艶はあまり感じられず、 はた目ではただの老人にしか見えない。
 しかし彼の腕は、 凄まじく年をとり、 全盛期に比べ遥かに衰えた今でも里一の強さを誇ると言われており、 そんな彼を慕うものは、 非常に多かった。
 そんな人物に相対するは、 字名朧。
 年は二十五。 髪はベースは黒だがその中には、 わずかに金色の髪が混じっており、 狼を彷彿とさせる鋭い瞳をした青年だ。
  一影に比べ遥かに若いものの彼もまた忍としての腕はかなりの物で、 里内の最強候補のの一人に数えられていた。
 さてそんな彼なのだが一影の元を訪れたのには当然理由がある。

 「どうしたもこうしたもありませぬ。 これは一体どういうことですか…… 」
 「これとは一体何のことだ?」

 「あくまでお惚けなさるつもりなのですか  そこまでして……そこまでしてでも……  様を私に仕えさせるおつもりなのですか…… 」 
 
 字名輝夜は、 字名一影の実の孫娘である。
 年は、 先月十八を迎えた。 美しい夜色の髪に、 見るのの全てを虜にする水晶の様に美しい瞳。
 しかも彼女は美しいだけでなく、 その実力も凄まじく、 本気の一影と打ち合える里の中でも選りすぐりの実力者でもあるのだ。 事実朧は、 幼少期彼女と手合わせを何度もしてきたが、 朧が伸び始めたのが最近ということもあり、 いつも彼女に敗北していた。
 さてそんな彼女だが当然狙う男は、多い。
  事実彼女が里の中を歩くといつも彼女の周りには、 多くの人だかりが生まれるのはいつもの事であった。
 ただしそんな男衆の思いは当然叶うことはない。
 何せ彼女もまた忍なのだ。
 忍になる以上人並みの幸せは全て捨てなければならない。 
 まして恋愛に現をぬかしている暇など当然ない。
 当然里の掟には、 恋愛が禁止されている規定もある。
 そして彼女が十八になるころには、 彼女は主を持ち、 その主に自身の一生をささなければならないのだ。
 主を選ぶ基準は、 基本本人の自由意思に任される。
 そして彼女もまた先月自身の主を選んでいた。
 ただその人物が朧には、 どうしても納得がいかなかった。
 何せその相手が彼女と同じ忍である自分なのだ。
 之を聞いた朧は、 気が狂うほど怒り狂った。
 そしてついには耐え切れず、 里で唯一この事を撤回できる力を持つ一影に直談判しに来たのだ。

 「忍が忍びに仕えるなど聞いたことがありませぬ  まして何故自分なのですか…… 」
 「そういわれてもな。 儂はこの事には一切関与しておらぬし、 何よりおぬしを選んだのは、 あの子だ。 それともお主……まさか我が孫娘の願いをとはいうまいな?」
 
 一影の眉間に深いしわが寄る。
 手は、 彼の腰に指した忍び刀に添えられており、 朧が断ると言おうものなら容赦なく振るう気でいた。
 当然朧はその事について気づいてはいた。
 だがそれでも彼は譲る気はなかった。 それは無論忍に仕える忍を認めるわけにはいかない気持ちもあるが、 それよりもな理由があった」

 「断る 」
 「ならば死ねい 」
 「そうはいきませぬ 」
 

 一影の刀が朧の首を落とすべく容赦なく振るわれる。
 その速さは、 まさ紫電一閃。 常人では、 反応することすらできないすさまじい速さ……そしてそれと同時に鬼のごとき荒々しさも含んだまさに完璧な一筋であった。
 ただそんな攻撃の朧には、 全く通用しなかった。
 彼は、 一影の一撃に自身の愛刀を冷静に合わせ、 見事はじききって見せたのだ。
 しかもそれだけではなく、 朧は、 二本目の刀を用いて一影の体に傷も負わせていたのだ。
 

 「むぅ……」
 「衰えましたね棟梁。 昔のあなたならば自分の攻撃軽くあしらってみせたのに今はこのザマですか」
 「ぬかせ。 それに儂が衰えたのではなく、 お前が強くなったのだ。 今のお主ならこの隠れ里で一番の腕を持っておるかもしれぬな……」
 「それこそ御冗談でしょう。 自分の実力は、 自分が一番知っております」
 「ふん。 強情な奴め。 それでどうする? このまま打ち合うというならば付き合うが?」
 「先に喧嘩を吹っ掛けてきたのは、 そちらでしょうに……」

 朧は、 刀を収める。 それに呼応するかの様に一影もまた自身の刀を収めた。
 
 「それでおぬしは一体儂の孫娘の何処が気にいらないというのだ? 胸も他の女子に比べ大きく、 尻も肉付きがよく安産型。 そんな完璧な女子がおぬしの事を主と呼んでくれるのだぞ? 不満どころかむしろ嬉しさしかないだろうに……」
 「頭領。 その発言の中にセクハラが含まれております」
 「事実なのだから別に構わぬだろう。 それでおぬしは一体何が不満なのだ?」
 「全部です」
 「全部? そうかお主さてはロリ……」
 「そうではございません  ええ、 断じて自分はそのようなことなどありません 」
 「そうは言うが実際お主子供は好きであろう? 事実外でもおぬしが子供の面倒を見ているとよく聞くしのう」
 「あれは立派な忍になってもらうためです。 それ以外の感情はありません。 まして忍が恋愛など掟を馬鹿にしているとしか思えませぬ…… 」
 「むぅ……お主が掟の事を重視しているのは知っておるがそこまで言うか……」
 「ええ。 そうです。 それにこの際だから言わせてもらいますが頭領は輝夜様に対して甘すぎます  大体あなたがもっとしっかりしていれば輝夜様は、 このようなことは言い出さず、 自分なんかとは比べ物にならないほどよい主を選んでいたはずです…… 」
 「そ、 そこまで言うか……」
 「はい…… 」
 「だが今更そう言われてもこちらとしては、 取り消せぬことはできぬ 」
 「こ、 この……」

 朧は、 怒りに呑まれても何も生まない事をよく知っていた。
 そして自身の怒りを抑えつけようと必死にこらえる。
 その時であった。
 何者かが彼らの後ろの扉を思い切り開いたのは。

 「おじい様いつまで籠って……お兄様?」
 「……輝夜様」

 戸口を開けた主は、 今まさに問題となっている人物である輝夜であった。
 朧が彼女とこうして顔を合わせるのは、 実にぶりの事であった。
 それもそのはず朧は、 自身の主を決めてから今まで一度たりとも里に戻ってこなかったのである。
 里に帰らないのは別に珍しいことではないが大抵は、 忍具の調達などの理由で戻ってくる。
 にもかかわらず朧には、 それが唯一度としてなかった。
 それは偏に彼が忍具をうまく扱えキレぬ忍であったからに他ならなかった。

 「お久しぶりですお兄様。 お体はおかわりなかったですか?」

 輝夜は朧の事を兄さまと呼ぶ。 無論本当の兄妹ではない。
 にも関わらず彼女が朧の事を兄様と呼ぶのは、 彼女が昔から彼によく可愛がられており、 まさしく彼の妹の様に育ってきたからであった。
 そして今朧と目を合わした時の彼女の気持ちは、 嬉しさしかなかった。
 輝夜は昔から朧に恋慕の情を寄せていた。
 それは彼が彼女に対してとても優しく、 親切だったのもあるがそれよりも彼女は彼のひたむきに努力する姿勢に惚れたのだ。
 今でこそ里の中でもかなりの実力を手に入れた朧だが、 昔は違い、 里の同年代の中で誰よりも
 彼には致命的なまでに忍としての才がなかったのだ。
 だがだからと言って彼は、 諦めなかった。
 毎日血の滲むような努力をし、 怪我をしてくるのはほぼ毎日の事であった。
 そんな彼の姿勢は、 今でも輝夜の脳裏に深く焼き付き、 やがてへと変わっていった。
 そんな輝夜の気持ちだが朧がが村を去ってからも一向に廃れることは全くなかった。
 むしろ日に日にその思いは、 強くなっていく一方であった。
 だからこそ彼女は、 朧を自身の主に選んだ。
 彼女は彼の為に自分の全てを捧げたいと思ったのだ。
 その気持ちは、 誰にも負けるつもりはなかった。
 ただそんな彼女とは対照的に朧の反応は、 酷く冷たかった。

 「……頭領。 私はこれで失礼します」
 
 朧は、 そう一言いい頭を下げると輝夜に対して何も言わずその場を去ったのだ。
 これには輝夜は、 酷く面を喰らった。
 昔の彼ならば彼女の顔を見るだけで嬉しそうに笑ってくれたのだ。
 しかし今はそれとは違った。
 今の彼は、 ただ輝夜の事を路傍の虫の様な目で見てきたのだ。
 その事が彼女にはとても耐えらず、 受け入れられなかった。
 
 「おじい様……兄様は一体どうなされたのですか……?」
 「詳しいことは儂にもわからぬ。 ただ一言言えるのはあ奴が……」

 次の瞬間輝夜の脳裏では、 凄まじい衝撃が襲ってきた。
 その衝撃を例えるのならば金槌で自身の頭を何度も殴られたものに相当する。
 それほどにまで一影が彼女に向かっていったことは衝撃的で、 受け入れがたい事実であったのだ。

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