やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第196話


「実行委員はこちらの二名に決定したので……」

秋が深まり出すのを感じる季節になってきて、空気も少しずつではあるがひんやりする部分が出始めてきた今日この頃。
午後のホームルームで文化祭の実行委員が選出された。
一瞬は睦月が余計なことをして俺が選ばれそうになったりと危険はあったものの、何とかそれは回避することが出来たと言える。

当然俺を推薦した睦月は自分が立候補しているわけでもないし、大して仲良しでもない人間と一緒にバイトを休んでまで実行委員なんかやってられるか、ということでいつになく饒舌になった俺はこいつの方が向いている、とかこの人の方が適任です、と死力を尽くして自分の保身に走ってやった。
結果無難そうな、よく知らないクラスメート二人が選出され、俺は面倒ごとから逃れることができた。
時には必死さって大事なんだな、って改めて思った。

「やったらよかったのに、実行委員」
「バカ言えよ。バイト休んでまでやる価値ねぇわ。店とかやるにしても、その売り上げは学校のもんだしな。俺に利益が一つもない」
「それは確かにそうかもしれないけど……大輝はもっと自分に自信もっていいと思うけどな」
「…………」

表の理由と裏の理由。
どっちかって言えば俺からしたら、金にならんのに責任だけ重いみたいなのはごめんだというのが建前ではあったのだが、その裏でそんな重責に耐えられる気がしません、というのもあったのを睦月は目ざとく見抜いていた様だ。
まぁ最悪の最悪、準備が間に合わないとか人間の力でどうにもならない様なことが起きる様であれば、反則技使うくらいは影からやってやってもいいかな、とは思ってるが。

「明日香のとこと桜子のとこは、何やることになったんだ?」
「私のクラスはたこ焼き屋台だそうよ。まともに焼ける人いるのかしら。うちの若いの派遣した方がいい気がするわ」
「…………」

一瞬想像してみるが、明らかにヤクザな人間が高校生に混じって、たこ焼き焼いてるとかカオス過ぎませんかね。

「私のところはクレープ屋さんだって。今までにないクレープを作るんだ!とか張り切ってたよ」
「ロヴン辺り連れてきたら喜びそうだね。まぁ呼ばないけど」
「それくらい呼んでやったらいいじゃないか。俺たち当日、体は空いてるんだし案内くらいできるだろ」

放課後、そんなことを話しながらあいの家に向かう。
愛美さんが餃子パーティやりたい、とか言い出して和歌さんもよだれを垂らしながら賛成して、明日香に白い目で見られていたのは昨日の話だ。

「何か買ってくものあるかな。ビールとか?」
「制服でか?普通に行ったらまず売ってくれるとこなんかないぞ」
「見た目なんかいくらでも変えられるからね。まぁその辺は愛美さんが自分で買ってくるか。ホットプレートはあるし、材料だけ買って帰ろうか」

あいと睦月とでやれば人数分とかすぐに作り終えるだろうし、俺の出番はおそらくない。
そして餃子だけを延々食べ続けるというのも何となく飽きそうということで、他にも何故か刺身とか牛ヒレ肉なんかを買い込んだ。
鉄板焼きでもするんだろうか。


「……何でお前がここにいる」
「お邪魔してるぞ」

噂をすれば、というアレなのか、俺たちがあいの家に行くと来客があった。
先ほど話題になった、ロヴンさん。
何と単独で来ている様だ。

あいから振舞われたらしい茶を飲みながらくつろいでいる姿に睦月は苛立ちを覚えたのか、まるで親の仇でも見るかの様に睨みつけている。

「いや、ちょっと頼みたいことがあってだな」
「何だよ、頼みたいことって。飯食わせろとかそういうアレか?確かにこないだの約束はまだ果たしてないけど、あれは社交辞令と言って……」
「まぁそう言うなって。わざわざ来てくれたんだから飯くらい普通に食わせてやろうぜ。でもそんな用事じゃないんですよね?」
「ああ、実はな……」

何でも縁結びの仕事の一環で、おススメグルメなるものを展開したい、というのがロヴンさんの頼みで、神界では通常食べられない様なものを紹介したい、というのがロヴンさんの言い分。
あ、睦月の言ったこと大体合ってたな。

「なら丁度いいじゃないか。餃子とか、神界にないんだし。いつまでに、とか期間あるんですか?」
「大体ここ一か月くらいでまとめておきたいところではある。何かあるのか?」
「明日香、文化祭って確か……」
「あと二十日後くらいね。間に合うんじゃない?」
「いいタイミングだな。ロヴンさん、今日は今日でご飯食べて行って、その後二十日後くらいの文化祭って言う、俺たちの学校のお祭りがあるんですけど……そこでも色々食べ物出てるのでよかったらどうですか?」
「……図々しいな、本当」

睦月は何となく納得いかなそうな顔をしているが、強く反対しないのはきっと誰も反対していないからなんだろう。

「まぁ素人が集まって作るものばっかりだから、全部が美味しいかは保障できないけど。それでも参考にはなるんじゃないかしら」
「大輝、それ私もいっていいの?」
「ん?……ああ、まぁ……大丈夫……かなぁ……」

あいも行ってみたいという意志を見せるが何しろ子連れだ。
そしてその子どもは俺そっくりっていう。
あんまりいい予感がしないのは俺だけだろうか。

だからって正面切ってくるな、とも言いづらい。
しかも西乃森さんはあいと玲央見て知ってるしなぁ……。
遭遇しなければいいだけなんだけど。

「西乃森さんのことなら気にしなくて大丈夫だよ。多分もうあいと玲央のこと忘れてると思うから」

なんて睦月は言うが、それはそれでちょっと悲しい。
まぁ蒸し返されて引っ掻き回されるよりは大分マシではあるんだが。

「というわけだから、心おきなく楽しんでくれ」
「もちろん案内してくれるんだよね?」
「……あ、ああ」
「何その浮かない顔」
「い、いやそんなつもりは……」
「みんなで回った方が楽しいと思うんだけど。大輝もそう思うでしょ?」
「そ、そうだな。大輝もそう思う」

きっと俺が断ってもこうなっていたんだろうし、もはや覚悟を決めるしかない様だ。
まさか学校で子ども連れて文化祭回ることになるなんてなぁ……。

「じゃ、私餃子作ってくる」
「あ、私も手伝うから」

そう言ってあいと睦月は二人で連れ立って台所へと消えていく。
ちなみに朋美がいないのは仲間外れにしようとかそういうことではなく、誘いはしたのだがバイトが、ということで来られなかっただけのことだ。

「お、いい匂いする。もう作り始めてんの?」
「おかえりなさい愛美さん。待ちきれないって顔してるけど、まだできないよ」
「そっかぁ、まぁいいや。先シャワーでも……ってあれ、お前何だっけ、ロヴン?どうしたの?」

ここへきてまたいたらまずいかの様に扱われるロヴンさんが少し哀れに感じたが、本人は鼻腔をつく匂いにそれどころではなくなってそうだから放置することにした。


「はー、堪能した」
「お前どんだけ食ってんだよ。十人分以上あったはずなんだけど」

睦月の言う通り、焼いても焼いても減ってる気のしない餃子は、瞬く間に和歌さんとロヴンさんが半分以上を平らげた。
味も申し分なかったし、俺たちも普通にお腹いっぱい食べたとは思うのだが、何となくの敗北感の様なものを感じる。

「いや、あまりにも旨かったので、つい。人間界はいいなぁ……私もこっちに住みたい」
「バカ言え。仕事どうすんだよ、後任とか育ててないだろうに。旨いものはこうしてたまに食べるからいいんだろ」
「そう言ってるお前は毎日の様に食べているじゃないか……不公平だ」
「それは仕事の違いだな。今は戦争とか滅多に起きないし、私の出番は当分ないだろうさ」

意地悪いこと言ってるなぁ、と思いながらも今度母の土産持ってくついでに差し入れでもしてやろうかな、なんて考える。
こんなにも熱望してるのに年に数回じゃ、ちょっと可哀想だからな。
夏休みからじゃ考えられない様な、穏やかな日々。

まぁ明けてからも割と色々あったんだけど……やっと訪れた平和。
これからもしばらくはこんな感じで過ごせたらな、なんて考えた翌日に早速問題は起きるのだということに、この時の俺はまだ気づいていなかった。

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