やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第193話


大輝との情報交換をした翌日の放課後。
私は他のメンバーとももう少し密に連絡を取るべきだったと思った。
私が壊してやろうと向かった高村家。

汚れ仕事は私だけでいい、なんてちょっとカッコつけてきたのに、早速様子が変だということに気づく。

「お、いるいる」
「え、愛美さん……和歌さんも。ってかあいまで……どうしたの?」
「実はな……」

私は和歌さんたちから事情を聴いて仰天する。
まさかあいにそこまでの行動力があるとは。
実際似た様な方法を取ろうと考えていたし、それが一番手っ取り早いだろうとは考えていたのだが。

私としては敵情視察、なんて思って高村の暮らすマンションに来てみたのだ。

「え、じゃあ……」
「さっきからすげぇ音するんだよな、中から」

さすがに高村が奥さんまで殺して、なんて……前科があるだけにありえないとは言い切れない。
しかも未決の前科とくれば、もう何人殺しても同じだ、となってもおかしくはないだろう。
そんなことを考えた時、中から更に何か割れる様な音がして、怒号が飛び交う。

「なぁ、これやばくね?」
「一応私たちの顔にはモザイク入れといたけど」
「あい、そういう問題じゃないぞ……」
「ってことは三人は面が割れてるわけだね。じゃあ、ここからは私がやるから。上手く行けばこっちに関しては、今日で決着できるしね」

ひとまず三人には少し離れたところまで移動してもらって、あいの力で様子を見てもらう様に伝え、私はチャイムを鳴らす。
反応がないので二回三回とチャイムを鳴らすと、中から荒々しい足音と一緒にドアが開いた。

「どちら様?」
「あ、すみません。隣に住んでる者なんですけど。凄い音が聞こえたので、大丈夫かなって」
「そうですか、ちょっと今荷物ひっくり返しちゃって。お騒がせしてすみません……って、え?」
「ちょっと失礼」

出てきた高村がすっとぼけようとしたので、私はそのまま中に入ろうとする。
ドアチェーンがかけてあるが、私にそんなものは無意味だ。
チェーンがバキっと砕け、ドアが勢いよく全開になったところで高村を突き飛ばして、中に侵入した。

「な、何を……」

高村が追いすがるのも構わず、私がずんずんと中に進んでいくと中で倒れている人影を発見した。
これは……さっきあいに見せてもらった奥さんか。
頭から血を流して、気を失っている様だ。

部屋には割れて飛び散った灰皿の欠片と吸い殻、血痕。
血の匂いとタバコの匂いとが混ざり合ってすごいことになっている。
死んではないみたいだが、このままだと少々まずいことになるかもしれない。

「…………」
「くそ、何なんだお前!そいつは死んでも当然の人間なんだよ!!この俺を裏切りやがって!!相手の男もこの後、ぶっ殺してやろうと思ってたところだ……けど、予定が狂ったな。まずはお前からだ、ガキィ!!」

この俺ってどの俺だよ……こいつが殺人者だなんてこと、この奥さんは知らなかっただろうし裏切った理由は全く別のところにありそうだけどね。
ともあれまずは奥さんをある程度治療しないといけない。
私に襲い掛かる高村を再度突き飛ばして、そのまま気絶させる。

これで死なない程度の治療は出来るだろう。
呼吸が細いが、まずは血を止めて裂けた血管も塞ぐ。
頭蓋骨にヒビが入っているので、これも綺麗に治しておいた。

「ただいま、って……お姉さん、誰……?」
「おっと……?」

なんて安堵したのも束の間、息子が帰ってきてしまった様だ。
あいたちは別媒体で私の様子を見ていたのか、止めることはしなかった様だ。
さて、どうしたものか。

「ぐ……」

更に間の悪いことに、高村がその意識を覚醒させる。
奥さんはまだ起きてこないというのに。

「お、お父さん?何が……」
「ダメ、下がって!あい!!」

父親に歩み寄ろうとする息子を、咄嗟に逃がすべく私はその息子の脇腹を抱えて玄関に放り投げる。
私の声に応じたあいがそれを受け止めて、和歌さんと愛美さんが外に連れ出した。

「さて……ここまできたらもう、とっととケリつけないと危ないか。こうしてる間に娘ちゃんも帰ってきちゃいそうだ」
「お前、一体何者だ?何で俺の邪魔をするんだ!?」
「別に私が何者でもいいでしょ。ここで重要なのはあんたが何者なのか、ってことなんだから。離婚するだけで済む、なんて思ってないよね?」
「ここにいる人間を全員口封じすれば、別に何の心配もないだろ。大地だって澪だって、俺の手で……」

大地と澪……さっきの息子と、まだ帰ってきてない娘だろうか?
まさかこいつ、自分の子どもまでその手にかけようと言うのか?

「こいつの、薄汚い血の入ったガキなんか俺の子どもとして育てていけるか!!だから、せめて苦しまない様に俺の手で……」
「……だったら何で子どもなんて作ったの?自分の子どもなのに、可愛くないの?」
「あい……」

玲央を抱いたまま、あいは憎しみの籠もる目で高村をにらみつける。

「お前、昨日の……グルだったのか、お前ら!!」
「そんなことどうだっていいでしょ。あんたには罪が一つ増えた。それだけが今はっきりしている事実だよ。奥さんのしたことも最低かもしれないけど」
「一つ増えたって……お前何でそれを……」
「残念だったね。私たち、普通じゃないんだ。ここであんたがどれだけ暴れようと私たちに指一本触れることは出来ない。口封じって言ったけど、私たちの口を封じることなんて、誰にも出来ないよ」
「言ってろ、ガキが……あの時の家族の様に、お前も……」
「その家族って私のことですか?」

声と共にふっと姿を現した橘さんと大輝。
以前会った時よりも、橘さんのその姿は薄く見える。
思ったよりも時間がない、というのは本当だったのか。

「な、何で……あの時、あれだけ刺して……いや、ニュースでだって死んだって……」
「……どういうことよ、刺しただの死んだだのって……」
「文恵……お前も何で……」
「残念だけど、奥さんは死なない様に治療させてもらったから。とは言っても記憶は残っているだろうし、あんたの本性にはある程度気づいたんじゃないかと思うけど」
「ぐ……何でだ!!何で真っ当に家族をほしがっただけなのに!!何で!!」

高村が崩れ落ち、両手の拳を床に叩きつける。
憐みのこもった視線でその姿を見つめる橘さん。
裏切ったという事実があるからなのか、今ひとつ軽蔑しきれないでいる奥さん。

子どもまでも手にかけようなんて考えた高村を許せないのか、まだ憎しみを込めて睨みつけているあい。
そして大輝は……怒りに燃えた目で高村を見つめていた。
あの大輝がここまでの怒りを見せるというのは、なかなか珍しい。

「俺もあんた同様に孤児として育ったけど……少なくとも俺はあんたみたいにいじけたことをしたりも言ったりもしなかったよ。その辺の違いなんじゃないのか?」
「誰だお前ら!!出ていけよ!!」

大輝の言葉に更に激昂した高村だったが、大輝は一歩も引かなかった。
それどころか。

「黙って聞けよクソ野郎!!んなだからこんなことになったんだろうが!!全く関係ない橘さんまで殺しやがって!!」

そう叫んで大輝は高村の顔面に拳を叩きつけ、怯んだところで横面に回し蹴りを入れる。
派手に吹っ飛んだ高村は再び気を失い、その場に崩れ落ちた。

「これで……決着かな。橘さん、大丈夫?」
「まぁ、ちょっと怖かったですけど……宇堂くんがいてくれましたから」
「そっか、大輝もお疲れ様。とりあえず……続き行ってきて?」
「ああ、頼んだぞ。こっちは任された」

そう言って大輝と橘さんは再び姿を消す。
それを見ていた奥さんは目の前で起こっていることの悉くが信じられない様だった。
呆気にとられた奥さんを尻目に私は手早く高村を縛り付け、椅子に座らせる。

「あ、あなたたち一体何なの?」

もっともな質問だと思う。
もちろん、素直に全部話して何とかなるとは思えないから、ここは適当にお茶を濁すのがいいんだろうけど。

「ただの事情通だよ。そしてその事情が気に入らなかったから、叩き潰しにきてやったってわけ。ねぇ、ゲスとクズの夫婦とか。超お似合いなのに何でこんなことになったんだろうね」

私の言葉に顔をしかめ、奥さんは全てを察したのかわなわなと震えだす。
だがまだ少なくとも家庭崩壊にはもう少し足りないし、高村には人間としての罰も受けてもらわなくてはならない。
というわけで私は奥さんに、高村がどういうことをしてきたのかを話してやることにした。

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