やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第180話


放課後、朋美を迎えに長崎へ赴くとおっさんも一緒にいて、会うなり頭を下げられた。
俺の配慮が足りなかったせいで迷惑をかけた、なんてらしくないことを言っていて俺としてはちょっと気味が悪い。

「大丈夫だから、一昨日言っただろ?俺たちが何とかするから。とりあえず今日預かって行くけど、もしかしたら明日に食い込むかもわからないし、その時は朋美から学校に連絡させるから」
「本当にすまねぇ、よろしく頼む」

またも頭を下げるおっさんを尻目に、俺たちは東京へ戻った。

「お帰り、あと朋美は覚悟決まったの?」

俺たちを出迎える睦月はややせっつく感じで問いかけてくる。
今日は俺も朋美もバイトはないし、ゆっくりと対策を練ることが出来る。
とは言ってものんびりしてる余裕はないし、これから何が起きるのかわからない以上油断は出来ないとうことなのだろう。

「とりあえず、ロキが提案してくれた方法のうち、神の血を、っていう方向で考えてはいるけど」
「まぁ、それが一番安全ではあるよな」

問題はその血をどうやって集めるのか。
ロキが既に動いている様なことを言っていたけど、何処まで準備が出来ているんだろうか。

「その方法だと、私も元の姿に戻らないとだからまた神界に行くことになるかな。時間は大丈夫なんだよね?」
「最悪明日までかかる様なら、学校には連絡入れるし大丈夫。それよりごめんね、面倒かけて」

何だか会った時から元気ないな、とは思っていたが朋美は朋美で今日一日、ずっと考えていたのだろう。
おかげでこんなにしおらしい、ある意味では珍しい朋美を見ることができるわけだが。

「私たちはどうするの?ついて行く?」
「明日香も桜子も橘さんも、今日はちょっとお留守番しててもらっていい?あいも玲央を連れていけないから、できれば世話しててほしいけど……ああ、でもみんなも学校あるよね、明日」
「その辺は何とかするわよ。そういうことならちゃんと引き受けるから、安心して行ってらっしゃいな」

普段玲央を可愛がってくれている明日香や桜子は、喜んで留守番を買って出てくれた。
明日香なんかは前に小さい子苦手とか言っていたのに、大した成長だ。
そんなわけで俺たちは神界へと舞台を移すことが出来た。


「やぁ、待っていたよ。心は決まったのかな?」
「わかってるくせに、意地悪いなお前」

睦月が相変わらずの態度でロキに突っかかると、ロキは薄く笑ってワインボトルの様な瓶を取り出す。
普通のワインって七〇〇ミリリットルとかそのくらいの容量だった気がするけど、考えてみるとそんなに血を飲まないといけないってことか?
だとするとある意味で他の方法よりもきつそうに思えるのは俺だけだろうか。

「これに、神々の血を集めて行くよ。僕の分はもう入れてある。ここにいるスルーズとあい、そして宇堂大輝。これで四人だけど、それぞれ八十ミリリットルまでしか入れることは出来ない」
「そうなのか。俺の血で半分くらいいけるなら、なんて思ってたんだけど」
「この瓶がちょっと特殊でね。決まった容量以上を入れてもそれ以上は全部外に出てしまうんだ。面倒だけどこれも儀式の一環だから、飲み込んでもらいたい」

色々あるんだな。
まぁ間違った方法を取ることで朋美に何かあったら困るし、ここは大人しく従うべきだろう。

「で……どうやって採取するんだ?まさかと思うが……」
「特別製の注射器があってね。これで採取する。宇堂大輝は注射、大丈夫かな?」
「…………」

正直あまり得意ではない。
というか昔から予防接種やらは怖くて仕方なかった。
済んでしまえば何てことはないのに、何なんだろうかあの恐怖。

「顔色がすぐれないね。とりあえず先にスルーズとあいからやっておくかい?」
「まぁ大輝は昔から注射怖くて泣いてた子だからね。ちゃちゃっとやっちゃってくれよ」

薄ら笑いを浮かべ、睦月は腕を出す。
特別製と言うそのやや小ぶりの注射器の針が刺さると一瞬ピクっとした様に見えるが、特に痛がったりする様子もなく注射器はその体に睦月の血液を納めて行った。

「血止めもすぐ出来るし、特に心配する様なことはないね」
「まぁ神界で感染症とかにかかることはないだろうし、かかってもすぐに治せるだろうからね。次はあい、いいかな」

あいも黙って腕を出し、血を抜かれて行く。
そしてあいも顔色一つ変えずにその血液を献上していった。
こいつらは特別製なんだ、きっと。

だから俺は別に間違っていない。

「何?大輝、注射が怖いとか未だに言ってるの?」
「……う、うるさいな。苦手はなかなか克服できないから苦手なんだよ。でもちゃんとやるから安心しててくれ」
「そうかい?じゃあ早速宇堂大輝の番だけど……準備はいいかな?」

そう言って新しい注射器を取り出し、俺の腕を掴むロキ。
心なしか注射器がさっきまでのよりでかい様に見える。

「どうした?手が震えているけど」
「……な、何でもねぇよ。やるなら早くやれって」
「大丈夫、痛くない痛くない。あ、でもちょっとちくーっとするかもしれない」
「おいコラ!大輝を怖がらせるな汚物!ぶっ飛ばされたいのか!?」

俺が必要以上にビビッていたせいで、ロキが思わぬとばっちりを受けている。
にも拘わらずロキは何処か楽しそうで何だか気持ち悪い。

「そんなに怖いなら、目を閉じていなよ。その間に終わるから」
「そ、それもそうだな。うん、そうする」

言われるがままに目を閉じ、その時に備える。
暗い。
一瞬何かが腕に当たった様な感覚があって、ロキが終わったよ、と俺に告げる。

「え?もう?」
「だから言ったじゃないか、すぐに済むって。大体八十ミリ程度なら一分もかからないよ」
「…………」

あいは思わぬ弱点を発見した、とでも言いたげに俺を見ている。
早くも失態を晒したという気持ちが拭えぬまま、次のターゲットを探しに行くことになった。


「次は誰がいいかな。やっぱりオーディン様かな」
「神なら別に誰でもいいんだろ?その辺に誰かいないのか?」

誰でもいい……なら別に俺でなくても良かったんじゃ……。
そんなことを考えながら辺りを見回すと、ピカピカと発光する何かが見えた。

「バルドルか。どうする?暑苦しいけどあいつにも頼んでみるか?」

暑苦しいって……まぁ否定はしないけども。
早めに済ませたいという気持ちがあるのか、朋美は特に反対しない。
あいは以前のことがあるからか、あまり気乗りしない様だ。

頭の固いバルドルがどういう態度に出るかはわからないが、ここは朋美の意志を尊重しようということになり、バルドルにも頼んでみることにした。

「ああ、大輝さん。それに……何だか今日は異色のメンバーですね」

あいのことを言及するか迷ったらしく、異色のメンバーとまとめられてしまった。
ロキが事情を説明すると、何となく浮かない顔をしたバルドルだったが俺も頼んでみるとバルドルは快く了承してくれた。

「そういうことならば、喜んで。さぁロキ、早くやるのだ。皆さんをお待たせしては申し訳ないからな」

この扱いの差は一体何なんだろうか。
まぁ何にしても協力してくれると言うなら、俺としては特に言うことはないのだが。
睦月は終始他の神がいないか探して辺りを見ていて、バルドルを見ようともしなかったが、これで漸く半分程度の血液が集まった。

「どうしよう、距離あるし母さんからもらうのはちょっとあれかな」
「ソール、もう寝てるんじゃない?あいつ凄い規則正しい生活してるでしょ」
「今日は大輝の匂いがしたので、来ていますよ」
「!?」

バルドルが立ち去って睦月が呟いた瞬間、俺たちの背後に母が現れロキ以外が仰天する。
ロキはきっと、こうなることを予見していたのだろう。

「匂いって……」
「さすがとしか言えないわ」

正直言うと、俺も何キロ離れてると思ってんだ、という気持ちがないわけでもない。
だが神界に入った時点で俺を察知すると言う並外れた嗅覚は今に始まったことではないから、俺はもう諦めているけどな。

「この母の血が必要なのですね、大輝」
「え、ああ……まぁそうなんだけど。べ、別に他の神のでもいいかなって」

俺がそう言うと、母が悲壮な面もちになって俯く。
これはちょっと失言でしたかね……?

「大輝にはこの母が必要ないと、そう言いたいのですか?」
「は?」
「こうしてせっかく出向いて、可愛い可愛い息子の為にと思って協力するつもりでいたのに……あんまりです」
「な……いや、そういう意味じゃないから!もちろん母さんが協力してくれるって言うなら、それ以上に心強いことなんかないって!なぁみんな!」
「…………」
「…………」

このマザコンが、と言わんばかりに睦月や朋美は白い目を向けてくる。
何もそんな目で見なくてもいいじゃないか……。

「本当に私が必要ですか?」
「あ、当たり前だろ。さ、ロキほら準備準備」
「……ああ、じゃあいいかい、ソール」
「ええ。私にあなたの様なゴミが触れるのはいささか我慢ならない部分はありますが、その意趣返しはまたの機会にいたしましょう。事態は急を要するのでしょう?」
「…………」

何だかここまでくるとロキが哀れになってくる。
納得いかない、と言った様子のロキが母の腕から血を抜いて、残るは三人弱。
大輝成分を補充させてください、などとと母にしがみつかれて、またも二人から白い眼を向けられながらも次を探す旅に出ることにした。

一応オーディン様にも相談を、ということで母が去った後で俺たちはヴァルハラに向かうことにして、再び歩き出すのだった。

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