やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第176話


「たいちゃんの奥さんって言ってたけど、すごいねぇ」
「いえいえー、いつも大輝がお世話になってますから」

大輝が今頃大変だろう、ということで私は彼が長崎へ飛んだ瞬間にこの店に電話をかけて、代打行きます、と伝えた。
最初何を言ってるんだこいつ、みたいな対応をされたが、後からきた愛美さんが簡単に説明してくれて事なきを得た。
私の力で洗脳してしまうことも視野に入れていたのだが、それはしなくても済んだことに胸をなでおろす。

大輝が小さい頃からお世話になってる人に、そんな手荒な真似はしたくなかったし。

「お前、奥さんって……まぁいいけど大輝今長崎だっけ?朋美のとこか?」
「うん、今頃ロキとあいが向こうで合流してるんじゃないかな」

夕方のコンビニは私が思っていたよりも込み合う様で、レジから離れることは出来ない。
しかしながら私はあれやこれやと手を尽くして、大量購入している客でも一分以内に捌くことができて、十数人いたはずの客は今立ち読みの客のみとなっていた。

「私、話したっけ。朋美の本当の生い立ちとかそういう話」
「いや、聞いてない。あいつ、普通の人間じゃねぇの?」

だとすると、私とあいくらいしか朋美の正体については知らないということになるのか。
一応イヴも気づいているんだろうけど、あいつはその手のことに無頓着だからな。
そもそも自分も魔界の出身なのに、人間でない相手をどうこう言える筋の話でもないとは思うけど。

「簡単に言うと、朋美の家は一家丸ごとちょっと変わっててね。父親は古代の錬金術師、母と朋美はその錬金術師によって作られた人造人間……ホムンクルスなんだよ」
「…………」

オーナーが先に帰るというので見送って、客がいないので私は愛美さんに朋美のことを話しておく。
ここまできたら黙っているよりも、話してしまった方が後々の為だろう。
当然と言うべきか愛美さんは呆気にとられた顔をしているし、信じられないのも無理はない。

だけど大輝のこととか色々、神界のあれこれにも触れてきた経験があるからか混乱はしないで済んでいる様だ。

「それ、朋美本人は……」
「まだ、知らないはずだね。もしかしたら話そうって流れになってるんじゃないかと思うけど」
「大輝も、知らないんだよな?」
「うん、あの子に言うと多分顔に出ちゃうから。そこから朋美に知れて、っていうのが今回一番危ういだろうからね。それなら最初から知らないでいてもらった方がこっちとしては都合がいいから」

さっきの客の混雑の時にマナーの悪い客がいたのか、棚の陳列が乱れている。
パチンと指を鳴らして、店中の商品が一斉に整えられた。

「……便利だよな、本当。大輝も普段からそれくらいしたらいいのに」
「あの子不器用だからね。やれば出来るんだろうけど、小心者だからそういうのバレたらって考えちゃうんだと思う」
「ああ、それはありそうだな。適当に誤魔化せばいいだろうに」

今回に関しても、大輝がもっと要領よく立ち回れれば流れは大分短縮できたんじゃないかって私は思ってる。
ただ、それが出来る様になっちゃったら大輝は今の大輝じゃなくなっちゃうんじゃないか、そんな気がするから今のままでもいいかなってみんな思っているはず。
さっきああ言っていた愛美さんも、正直あれが本音ではないということは私にもわかるし。

「今回は私の出番そこまでないと思うんだけどね。ロキが行ったんだったら、多分」
「そういや何でロキが?あいつ人間界なんてくることあんまないんじゃねぇの?」
「いや、割とちょいちょい来てるらしいよ?私に遭遇すると高確率でぶん殴られるから会わないだけで」
「…………」
「汚物のくせに見た目だけはいいからね。割と頻繁に女に声かけられて困る、とか前に言ってた」
「見た目のいい汚物って何だよ……」

何となく誤魔化してしまったが、ロキが人間界にきている理由としては試練の対象の観察と言ったところだと私は思っている。
しかし力を持たないただの人間である対象の、愛美さんや明日香、桜子に和歌さんと言った面々に関しては探すのに苦労したのではないだろうか。
そんなこんなでモタモタしていたところで逆ナンパ目的の女から声をかけられたりと、ある意味での女難に遭遇していたんだろう。

「今回私に出来るのは、橘さんのことで背中を押してあげるくらいかな。大輝、まだ迷ってるみたいだし。別に私は大輝の決めることなら反対はしない、って前から言ってるのにね」
「橘……ってそこで本読んでるちびっ子か?きちんとピークの時は大人しくしてる分だけお行儀はいいみたいだけど」

そう言われた橘さんが本をラックに戻して私たちを見る。

「呼びました?えっと、ハーレムの熟女担当の方でしたっけ」
「お前、いい根性してるな。桜子でもそこまで言わないっつのに」
「橘さんは愛美さんの美貌にある意味嫉妬してるんだと思うよ。橘さんにはないもの沢山持ってるから」
「それは認めます。桜井さんにしても、何を食べて育ったらそんな豊満な……」
「随分と潔よくねぇ?大輝のやつならストライクゾーン広いから、見た目小学生のお前でもペロリと食っちまいそうなもんだけど」

少なくともコンビニの店内でする会話じゃない気がするけど、客がいなければ特に問題はないだろう。
放課後、大輝が朋美のところへ行く、と言うので私がこの店へ連絡を入れた直後、私も行きたいです、とかいいながら橘さんはついてきた。
ついてきて何をするんだろう、と思っていたのだが、ここにいれば宇堂くんが戻ってくるかもしれませんから、なんて言っていて、明日になるかもよ?とも言ったのだが頑として聞き入れなかった。

「親御さんには連絡入れてある?明日になっちゃうんだとここにいても仕方ないわけだけど」
「それは大丈夫です。椎名さん、泊めてくれるんですよね?」
「随分太々しいやつだな、こいつ。本当にこいつ入れて大丈夫なのか?」
「こいつこいつ言わないでください。一応橘葵っていう名前があるんですから」
「じゃあお前もあたしを熟女とか言うのはやめろ。年長者なだけであたしはまだ二十六だ」

そんな話をしている間にも客はちびちびと入ってきて、私たちはてきぱきと対応していく。
その度橘さんは立ち読みに戻ったりトイレに行ったりしていた。


「結局宇堂くん、戻ってきませんでしたね」

橘さんが言う通り、大輝はまだ戻ってきていない。
思ったよりもてこずっている可能性は高い。
根が深い問題ではあるし、一筋縄でいかないのはあの朋美が対象であることからも明らかだ。

「あたしも睦月のとこ行こうかな。このチビに世の中ってものを教えてやる必要がありそうだし」
「じゃあご飯どうしよっか。何か買ってく?」
「私、作りましょうか?」
「…………」
「…………」

私は別に何食べてもどうにでもなるが、愛美さんはそうはいかない。
さすがに毒が混入したりはしないと思うが、念のため弁当を買って帰ることにした。
お小遣い制で可哀想な橘さんの分も。

「椎名さんいい人ですね!柏木さんもジュース買ってくれたし」
「そんなんでいい人、とかお前安い女だな。毒食わされるかもしれないってリスク考えたら安いってだけだよ」
「毒なんて、ひどいですよ!私これでもそこそこ料理は……」
「前に同じ様なセリフを吐いた、同じ様な身長のやつがいてだな。そいつに毒食わされた大輝という尊い犠牲がいたんだよ」

まぁ橘さんは桜子より小さいっぽいけど、小さい子ってこうも落ち着きがなかったりするものなんだろうか。
というかこれだけ小さいと初潮もまだなんじゃないか、とかちょっと偏見が生まれてしまう。
大輝曰く自家発電が盛んらしい、という様な話を聞いてはいるけど本当に大丈夫なのか?

過保護と思われるかもしれないが、色々と心配になってしまうのだ。
しかしこの子、何処か不思議な感じがしてならない。
人間であることには違いないし、神が変身しているとか魔族だとか天使だとか、そういうものではないと言うこともわかっているのに、ただの人間ではない様な。

いや、目の前で人間界の食事をもりもり食べているし、何となく人懐っこい感じがするけど何処か儚げというか……形容する言葉が見つからない。

「毒食べて平気なんて、宇堂くんすごいですね。何か特殊な訓練でも受けてたんですか?」
「暗殺者の一家に生まれたりはしてないから、そんな訓練は受けてないけどね。まぁちょっと特殊な体質というかね。そのうちわかるんじゃないかな」
「何にしても大輝にだったら毒食わせていいって話じゃないからな。あいつバカだから、断るってこと知らないからさ」

何気に酷いですね、とか言いながら橘さんは自分の分の弁当を平らげる。
行儀よくご馳走様をして、お風呂に入る様言うと遠慮なく浴室へと入って行った。

「さて、そろそろあいつも帰ってくる頃合いかね?」
「どうだろ、見た感じ長引きそうではあったけど……それにロキたちが出張ったって言っても、あいつ無能な汚物だから余計に長引かせて終わってる可能性あるんだよね」
「相変わらずスルーズは酷いことを言うんだね」

私が汚物の悪口を言ったところで、その汚物の声が後ろから聞こえるという怪奇現象が起こった。
というのはもちろん冗談で、そこにいたのはロキと大輝とあいと玲央に……朋美。
朋美の顔色はやや良くない様に見える。

ということは、粗方聞いたのだろう、自分の真実を。

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