やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記
第174話
あの後。
橘家総員から泊まっていけとか言われたのを必死で断って、それでも帰りが大分遅くなってしまった。
もちろん明日も学校があるからと明日香や桜子と言った面々はとっくに帰っていたし、睦月とあいは二人で残っていたみたいだが相当冷ややかな視線を向けられたことは言うまでもない。
しかし、今のところ返事は保留にしてある、ということを伝えるとあいは何で?という顔になり、睦月は不満そうだった。
どっちの意味で不満なのか、今のところ掴みかねているがおそらく睦月は橘さんに悪い印象を持っていない。
確証があるわけではないが、何て言うのか見た目が睦月好みっぽい感じがするのだ。
あいはまだ直接見ていないからかもしれないが、別に請けちゃえば良かったのに、みたいなことを言う。
これはこれで無責任な気がしなくもないが、俺としてはいい加減にしたくないなぁ、なんて考えが生まれていることが自分でも意外だった。
「まぁ選ぶのは大輝だけどね。どっちにしても朋美は何とかしないと、今後が危ういかもしれないよ」
「それなんだよなぁ……。正直俺としては、全部丸く収まる方法とかあれば、なんて思うんだけど」
「簡単な方法があるよ」
睦月が悪い顔をしながら言うのを聞いて、何となく鳥肌が立つのを感じる。
こいつの言う簡単って極端なんだよな。
「橘さんにOK出した上で、朋美には一生隷属することを誓います、って言えばいいんだと思う」
「……ロクでもねぇな。いや、確かに朋美限定で超効果的かもしれないけどさ。それだとお前らに会う時間も減るかもしれないんだがよろしいか?」
朋美のことだからそこまで無茶なこと言ってはこないと思うけど……いかんせん試練が絡んでいるとなると、あいつの意志がどうなるのかとか想像の出来ない部分が多い。
こんなにも不確定要素がある状態で迂闊なことは言えないだろう。
「二人きりで会える時間なんて、多分周りがそうそう作らせてくれないと思うんだよね。その辺は私にしてもあいにしても、力があるんだから」
「本当にロクでもないな……。仲間にそういうのしたくないって言ってなかった?」
「まぁね、基本的にはしないよ。事情が事情なら仕方ないと思うけど」
事情なぁ……とは言ってもその案はボツだな。
言い出しっぺが睦月なのに、神力で解決しようなんてのはさすがにひどすぎるわ。
「ていうか、OKにしてもダメにしても今日のうちにカタをつけておくべきだったと思うよ?」
「え、何でだよ……さすがに今日知り合ったばっかでほとんど何もわからない相手を、今日のうちにどうこうって……」
「まぁ、明日になれば私の言ったことの意味はわかると思うなぁ。さて、私お風呂入ってくるから。ま、明日に備えて今日は早く寝た方がいいかもね」
などと不吉なことを言い残し、睦月は浴室へと消えて行った。
あいが制服アイロンかけるから、と言って俺のズボンをナチュラルに脱がし、俺はパンツ一丁で飯を食う羽目になり、睦月が出てきた後で風呂に入って眠る。
風呂で寝たのではなく、風呂から上がって、だけどな。
そして翌日。
「おはようございます、宇堂くん!」
「……お、おうおはよう」
通学路で恐らくは待ち伏せていたであろう橘さんと遭遇。
巻き込ま……邪魔したら悪いから、なんてまたも不吉なことを言い残し、睦月は先に行く。
「あれ、椎名さん先に行っちゃいましたね。いいんですか?」
「ああ、いいんじゃないか?何か考えがあるのかもしれないし」
「喧嘩でもなさったんですか?」
「いや、しないな。というかあいつと喧嘩とか、俺の記憶じゃした覚えがない」
ゆっくり歩きながら、あいつとの過去に思いをはせる。
俺が怒ってものらりくらりとかわされて、喧嘩になる前に鎮火してしまうからか確かに喧嘩になった記憶はない。
まぁあいつからしたら俺はまだまだ可愛い子どもくらいの年齢だろうとは思うから仕方ないにしても、あいつにだって言いたいこととか思うことはあるんじゃないかと思うんだが。
「それより宇堂くん、昨夜はありがとうございました」
「え?ああ」
「両親も、お前をもらってくれるのは宇堂くん以外にいないな、って喜んでましたよ!」
「あ、おま……」
橘さんの発言に、周囲がざわつく。
当然俺と橘さんは注目の的になり、両親って、とか挨拶まで……とか、椎名さんはどうしたんだよ、とか様々な声が聞こえてくる。
こんなにも生徒がいる通学路でそんなことを口にすれば、こうなるのは火を見るよりも明らかだった。
「ち、ちが……これはその」
「今度こそ泊まって行ってくださいね。ちゃんと準備しとくんで!」
俺の両手を握り、嬉しそうに嫌なことを言う目の前の女。
これもこいつの作戦なんだろうか。
どっちにしても正直視線が突き刺さりまくって、痛いことこの上ない。
「と、とにかく行くぞ!遅刻するかもしれないからな!」
「あっ!?ちょ、強引ですね相変わらず……」
仕方ないので橘さんの手を引き、校門まで走る。
さすがにあのままのんびり歩いていられるほど、俺は豪胆ではなかった様だ。
「……お前、やっぱ俺のこと嫌いだろ」
「そんなわけないじゃないですか!何なら今から愛を叫んでも……」
「やめろぉぉぉ!!……わかったから、頼むから学校ではお手柔らかに頼む。このままじゃ俺、学校に居場所なくなっちゃうから」
「ええ?でも学校以外で会ってくれないんだったら、さすがにそれは無理があるじゃないですか。アプローチかける時間もなくなっちゃうし」
「別にかけなくていいから。頼むから大人しくしててほしい」
「あら、朝からおアツいご様子ね」
「げ、明日香……」
げって何よ、とか言いながら明日香が目を細めて迫ってくる。
それを見た周りの生徒が更にざわついている様だ。
朝からこんなにも注目の的になったのは初めてかもしれない。
「あ、えっと桜子は一緒じゃないのか?」
「今日は別ね。もうすぐ来るんじゃないかしら」
「そ、そうか。珍しいこともあるもんだな」
「その前に私に……いえ、私と桜子、あと朋美もかしら。言うことがない?」
「……昨日はすみませんでした」
「何がすみませんなの?朋美が何に怒ってたかとか、ちゃんと理解してる?」
「えっと……」
「そんな形だけの謝罪とか無用よ。多分桜子も同じこと言うんじゃないかしら」
そう言い残して、明日香も先に校舎に入っていく。
唖然としながら橘さんを見ると、橘さんは何となく明日香の言いたいことがわかっている様だった。
「仲いいね、昨日知り合ったばっかりなのに。大輝くんって案外新しいもの好きだよね」
明日香が立ち去って少しして、桜子も現れる。
二人は本当に仲がいい。
しかし仲良しって……新しいもの好きとか、ちょっと心外ではあるんだが。
「う、宇堂くん。多分これのことでは?」
「あん?……ああぁ!!」
さっき咄嗟に掴んだ手を、そのまま繋ぎっぱなしにしていたことに言われるまで気づかない間抜けはここにいた。
いくら何でもテンパりすぎだろ、俺……。
「ち、違うんだよ。これはさっき橘さんが……」
そう言いながら慌てて手を離すが、桜子の目は軽蔑してる……ところまでいかなくても、何となく冷ややかに感じる。
気のせいかもしれないけど。
「へぇ、橘さんが?まぁ私は別にいいんだけどね。でも朋美のことは何とかしないとまずいことになるんじゃないかな、って睦月ちゃんが昨日言ってたよ?」
「……え、まずいことって?」
「それはわからないけど。でも試練絡みなんでしょ?ほっといていいの?」
ぐうの音も出ないほどに正論だ。
普段バカにしてる相手からここまで言われると、割と来るものがあるな。
「……わかってるよ、今日バイト前にちょっと行ってくる。そんなわけだから橘さん、今日は悪いけど放課後忙しいんだ」
「そうですか、まぁどの道バイトあるならゆっくりお会いするってわけにもいかないですもんね。仕方ないと思います」
随分と物分かりのいいことで。
俺がいないからってあることないこと周りに吹き込まれたりしない様に、睦月に土下座する用意くらいした方がいいか?
そんなこんなで放課後。
昼休みに朋美には連絡を入れてある。
その昼休みに橘さんが突撃してきて、とんでもない下ネタに侵食されそうになったのは言うまでもないことだが、それはともかく朋美に会う約束は取り付けることができたみたいだ。
朋美が元々情緒不安定気味なのは知っていたし、俺ももう少し気を遣うべきだった。
そこは間違いない。
もちろんどっちの意味で朋美が怒っていたのかとかはわからないし、どっちも不正解なんてことも十分あり得る。
長引くかもしれないな、なんて考えながら睦月には頭を下げて、俺の不在の間のことを頼んでおいた。
とは言ってもいいところ一時間程度の話になるはずなんだが。
そうは言ってもあの様子の朋美では、どうなるかわからない。
用心には用心を……俺は何とか命だけは助けてもらえる様に懇願する準備を整えて長崎へと飛んだ。
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