やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第170話


睦月に捕まって片手でつまみあげられて連行されてきた橘さん。
身長は確かに桜子よりも小さく、正直な話小学生くらいにしか見えない。
顔は……好みによるかもしれないが、可愛く見えないこともないと思う。

あどけない感じが残る、というのはおそらく身長やらの印象で幼く見えるからなのだろう。

「えっと……」
「とりあえず私たちこれからこの子連れてデートするんで。先生さようなら」
「え、ええ……さようなら」

ぽかんとしている先生を置き去りにして、とりあえず手紙だけ返してもらって俺たちは学校を出た。
最初は渋っていた橘さんだったが、睦月が軽く凄んで見せると何も言わなくなり、とりあえず俺たちについて歩く様にしてぶらぶらと歩く。

「あの、宇堂くん」
「ん?ああ、そうそう手紙ありがとう。だけど俺、こいつら全員が彼女だから」
「ちょっと大輝くん?こいつらって何よ」
「扱いがぞんざいだとおもいまーす」
「え、えっと……知ってます、それは」
「……は?」

睦月までもが、意外という顔で橘さんを見ている。
かく言う俺も当然驚いているんだけど……誰から聞いた?
俺たち言いふらしたりはしてないはずなんだけど。

まさか西乃森さんが……というのは邪推だろう。
あの子は多分そういうの言いふらすタイプじゃないし、矢口にしても実直そうな男に見えるから白。

「あの、何で知ってるの?」
「何度か街で見かけたので……」
「マジか」
「まぁ、全員連れて歩いてたりしたら確かに目立つかもしれないわね」

確かに可能性としてはなきにしもあらず、というところか。
そうなると学校の人間は、ある程度の人間が目撃していてもおかしくないかもしれない。

「そこで、私思ったんです。きっと宇堂くんはハーレムを築いていて、女の子をとっかえひっかえしてるんだなって」
「…………」

大体合ってる。
というかほぼ完璧に正解だから困る。

「私、いいなぁってずっと思っていました。宇堂くんの寵愛を受けて、毎日の様にあんなことやこんなことを……」
「お、おい……?」
「橘さん、あなたね……ここは往来なのよ?さすがにそんな話は……」
「でも、否定はしないんですね。やっぱり毎日の様にずっぽしと……」

愛美さん以上にはっきりとした下ネタが橘さんから飛び出し、明日香が顔を赤くする。
こいつは見た目と違ってかなりの強敵な予感がした。

「私も、私も宇堂くんの子種を注ぎ込んでほしいんです!それはもう、たっぷりと!!」
「ちょ!?」
「何でもしますから!!お願いです!私もハーレムの一員にしてください!!」

そう言ってその場で土下座を始める橘さん。
口にしていた内容もあって、周りの注目を集めるには十分すぎた。

「それが一番の望みなので、末席でいいので!!お願いします!!」
「ま、待て待て待て!!まずは土下座やめろ!それもう一種の暴力だぞお前!」
「やめません!ハーレムに入れてもらって、あとその逞しいのを入れてもらうまでは!!」
「上手いこと言ってんじゃねぇよ!!ああ、もう!!」

一向に土下座をやめる気配もなく、このまま騒ぎ続けられてはたまらない、ということで仕方なく俺は橘さんを小脇に抱えて走る。
睦月が片手で持ってたのはまぁ、あいつ色々規格外だから仕方ないとは思ってたけど……軽い。
何はともあれ、好奇の目から逃れられる場所まで逃げようということになった。


「お前な……俺に恨みでもあんのか」

いくら軽いとは言っても抱えてきたのは人間なので俺だってさすがに疲れる。
駅前まで走ったところで手を離し、そのまま喫茶店に連れ込むことにした。

「ありません。お願いしたいことなら沢山ありますけど」
「あ、そう……ていうか声控えめで頼むぞ。さっきみたいな内容、大声で話す様なことじゃないんだから」
「ああして私の中の士気を高めていたのですが、ダメでしたか?」
「ダメでしたね。TPOって言葉があるんだから。ていうか、あんな内容今どき小学生でも道端で言わないっつの」
「そうね……さすがにさっきのは参ったわ」

睦月は面白い子だな、とか呟いてニヤニヤしてる。
お前だって部外者じゃないんだからな、言っとくが。

「で……何であのラブレター……あれ、内容真面目だったじゃん。あのままの流れで行くかと思ったのに」
「導入部分でいきなり性奴隷にしてください、みたいなこと書いたら引かれちゃうかなって」
「……導入じゃなくてもいきなりあんなこと言われたらドン引きだわ」
「ねぇ橘さん、何で大輝くんと私たちのこと知ってたの?街で見かけたって言ってたけど、ただの友達とは思わなかったの?」
「野口さんでしたよね、同じクラスの。それは、目線です」
「目線?」

目線って何だよ。
お前の目線とか俺は一切感じなかったぞ。

「一緒にいる女性がみんな、宇堂くんを見ている時の目が、メスの顔だったから」
「…………」
「…………」
「あ、こいつらヤってるなって」
「…………」

何だそのどうでもいい特技。

「そんな風に思ったらもう止まらなくて……きっと宇堂くんの濃いミルクが……」
「はいストップ。今まさにミルクティー飲もうとしてるのが二名いるんだ。あと、公共の場でそんなはしたないこと口にする子は仲間にできません」

俺の言った通り明日香と桜子がミルクティーを見て顔を青くしている。
これが普通の反応だと思うんだよ。

「公共の場じゃなかったら、いいですか?」
「……公共の場じゃないところで会う予定ないけどな」
「何でですか!?私の体、確かに貧相ですけど!!だけど初物ですよ!?ちゃんと穴としての機能だったら……」
「お前マジで黙れ……。今日知り合ったばっかの子にこんなこと言いたくないけど、俺は橘さんを女として見るのはちょっと難しい……」
「……ぐすっ」
「!?」

俺がぶつけた決定的な言葉が原因なのかはわからないが、突如涙する橘さん。
その様子に思わず慌てて周りを見ると、他の客が俺たちを白い目で見ていた。

「や、やっぱりおっぱい大きい方がいいんですね。メンバーの中におっきい人いますもんね……」
「いや、それは関係なくて……」
「呼んだ?」
「…………」

ここで聞こえてはいけない声が聞こえて、恐る恐るそちらを見ると……。

「睦月が面白いことしてるから、って連れてきてくれたんだけど」
「お前な、マジで俺に何か恨みあんの?」
「ううん。面白そうだから」
「おっぱいの人だ!いいなぁ、何食べてるんです!?私にもその巨乳を伝授してもらえませんか!?」
「は、はぁ!?ちょっと何よこの子!」

一瞬で俺たちの席が騒がしくなってしまった。
大体巨乳の伝授って何?
どうやったらおっぱい伝授出来るの?

そして初対面の相手にいきなりおっぱいの人呼ばわりされた朋美は、早速おかんむりの様だ。

「……へぇ、私たちと同い年なの」
「そうなんです。でも私、見ての通り貧相なので……」
「……否定はしないけど、それにしても物凄いこと妄想するのね。でもそれはそれで需要あると思うんだけど」
「妄想……確かに今は妄想ですけど、現実にエロいこと沢山出来てる桜井さんも椎名さんも宮本さんも野口さんも……みんな羨ましいです。こんな可愛らしい顔でえげつないエモノ持った人とあんなこと……」
「あんなこと、ってさすがに実際見たわけじゃないよな?あと俺、そんなえげつないか?」
「……どうかしら。父のよりは立派かもしれないわね」
「真面目に答えなくていいよ、明日香……」

下手したら店から追い出されかねない会話。
にも拘わらず、店員はどこ吹く風、と言った感じで普段通りの接客をしている様に見える。
……睦月め、また力の無駄遣いを……。

「まぁ、とりあえず今ならある程度騒いでも大丈夫だから」
「そういえば確かにあんな下品な会話なのに、店員さんが何も言ってこないわね」
「下品って何ですか!私だって宇堂くんともっとこう……色々したいんですよ!!」
「もっとって、知り合ったのさっきだろうが……大体こいつら、じゃなくてこちらの方々は昨日今日の仲じゃないの。わかったら出直してこい」
「あら大輝くん。こいつら、でもいいのよ別に。まぁあとでどうなるかはその時のお楽しみだけど」
「…………」
「どうなるんですか!?私もその中に混ぜてもらうってわけにはいかないですかね!?」
「…………」
「…………」
「…………」

これは西乃森さんとか比較にならないレベルで面倒なことになりそうな予感がする。
面白そう、ってだけでとんでもない爆弾を抱えた気がするのはきっと、俺だけじゃないだろうな。

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