やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第155話


新学期。
あれだけ沢山、色々なことがあった夏休みも終わってしまえば所詮は過去のこと、なんて捻くれたことを言うつもりはないが、俺はあまりにも色々と経験しすぎた。
何しろもう人間ですらなくなってしまったのだから、少しくらいそんなことを考えてしまうのはお許しいただきたい。

だからと言って、昔流行ったシリーズの主人公みたいに達観して世界を変えなければ!とか言ってヒロインと対立したりとか、そんなことにはならないと思うから別に問題はないと思う。
仮に対立したところで、俺に勝ち目なんかあろうはずがない。
だって、睦月もその妹であるイヴも、その両親も果てには神界もおそらくそうなった時には俺の敵側に回るはずなんだから。

多勢に無勢すぎるというものだろう。
唯一味方になってくれそうなのは母だが……母が味方になってくれたとして、ハーレムメンバーが滅ぼされてしまっては意味がないだろ?
大体世界を変えるって言ったって具体的なビジョンなんか浮かんでこないし、正直不満がないわけじゃないけど俺程度が持つ小さな不満程度は何とでも出来る力は手に入れた。

それを敢えて使わないのは、俺が人間出身であることに変わりないからだ。

「大輝、今日から学校行くの?」
「ああ、とは言っても今日は始業式だけだし、すぐ終わるんだけどな」
「そうなんだ。パパ、早く帰ってくるといいねぇ」

あいがそう言うと玲央はあいに抱かれながら、きゃっきゃと笑う。
我が子ながら可愛いやつだ。
……って、夏まではこんな状況ですらなかったんだよなぁ。

本当に色々あったもんだ。

「スルーズとかは一緒じゃないの?」
「学校がか?睦月だけは確か違う学校のはずだけど。こうなる前ならともかく、別に今は同じ学校でなくても会おうと思えばいつでも会えるしな」
「なるほど。気を付けて行ってきてね……とは言っても大輝が死んだりとかはないんだけど」

あいと玲央に見送られて、俺は学校へ向かう。
とは言っても施設から向かうより大分近い場所にこの家はあるから、夏休み前よりも通学は楽なんだが。
だからって俺はあの施設を出たわけじゃない。

高校卒業までは、と決めているし先生への恩返しもまだ終わっていないのだ。
色々中途半端な状態であそこを出てしまうというのはさすがに恩知らずにもほどがある、なんてのは俺の勝手な考えだし、別に誰に反対されているわけでもないが、俺としてはできることはしておきたいというのが本音だ。

「おはよう、大輝くん。新学期にワクワクして眠れない、とかそんなことはなかったかしら?」
「おお、明日香……って俺は遠足前夜の小学生じゃないんだぞ。大体学校そのものが楽しみって、どんだけお友達沢山なんだよ俺は。それより今日は桜子、一緒じゃないのか?」
「もうすぐ来るんじゃないかしら。特に一緒に行こうって話はしていなかったし、大体いつも偶然鉢合わせする、くらいのものよ」

普段すげぇ仲良さそうだから、てっきり毎晩明日は一緒に行こうね、とか約束してんのかと思ったけど。
女子って案外ドライなとこあるよな、なんて思った矢先、明日香が俺に後ろ気をつけなさい、なんて注意をしてきた。

「うおっ!?」
「えっへへ!おはよ、大輝くん!」

背中へのやや強めの衝撃と共に体全体にのしかかる体重。
桜子が俺の背中に全力でのしかかっていた。
まだ残暑が厳しいこともあり、周りの視線も厳しくそして暑い。

桜子は小さいし、軽いんだけどやっぱり暑い。

「お前……朝から暑苦しいぞ」
「ひどいなぁ、大輝くん。あいちゃんとはどうせベタベタしてきたんでしょ」
「いや、さすがに朝からそんな元気はない。普通に飯くって我が子と戯れて……っと、そんなことこんなとこで言うことじゃないな」
「気をつけなさいよね。若い親への理解は広まってきてるとは言っても、まだまだ風当たりは強いんだから。それに学校が理解してくれるとは限らないのよ」

明日香の言う通りだ。
だから学校には玲央のことは伏せておくべきだ、とみんなで決めた。
まぁ、うっかり口を滑らせたりしそうなのは……。

「え?」
「うん、まぁそうなるよな」
「そうね、桜子、気を付けるのよ?玲央くんのことは絶対内緒なんだから」
「ちょっと!?私が口滑らせるとか思ってるの!?」
「この中じゃお前が一番怪しいんだよ。ぶっちゃけ俺も明日香も、割と口は堅い方だからな」
「ひどい!!ひどすぎる!!」

ぷんぷんと擬音が出そうな勢いで桜子がむくれて、俺の首を絞めにかかる。
俺を助けに冥界へとみんなで行ったと聞いているが、その時の影響なのかみんな力は強くなった気がする。
つまり何が言いたいのかというと、めっちゃ苦しい。

下手したら首の骨折れたりしないだろうか、というくらいに。

「わ、悪かった。お前のことは俺が世界で一番信用してる。だから離してくれ……」
「バカ!大輝くんのエッチ!!」
「え、エッチは関係ないだろ!」

そんなくだらないやり取りをしながら、俺たちは学校に到着する。
特に仲の良い生徒と言うのは明日香や桜子以外でいなかったのだが、久しぶりに顔を合わせれば挨拶くらいはするもので、男女問わず話しかけられるとああ、こんなやついたなぁ、なんて思う。

「宇堂くん、何か雰囲気変わったよね」
「え?」
「ああ、俺もそれ思った。何だろう、大人っぽくなった様な……」

教室に入り、席でカバンを置いたりしていると女子からいきなり声がかかる。
あれ、第二のモテ期きちゃった?
でもごめん、俺君の名前覚えてないわ。

しかしマジか。
もしかして父親の威厳とか出てきちゃってる感じ?
いやぁ、やっぱりそういうのって隠そうとしてもにじみ出てきちゃうんだなぁ。

「まぁ宇堂くんって女の子沢山侍らせてるし、いろんな意味で大人になったんだよね、きっと」
「……何でそれ知ってんの?」

女子の一人がぽろりと呟き、その呟きに男子たちは過剰反応をする。
どういうことだ!と詰め寄られて俺は答えに窮した。

「え、だってよく見かけたもん。あんなに沢山の女の子連れて歩いてたら目立つって」
「……マジか」

迂闊だったと言わざるを得ない。
気を付けてたつもりは微塵もなかったし、それどころか学校のことなんか頭の片隅にすらなかったと言っていいくらいだったからこうなるのは必然と言えるかもしれない。
まぁ色々あるんだって、とか適当なことを言ってごまかしていると、先生が教室に入ってきて、ホームルームを始めるぞ、なんて言うので俺の席からは自然と生徒も離れて行った。

「今日はな、転校生を紹介する。喜べ、何と女子生徒だ」

担任の言葉に男子がおおお、と沸き立ち女子はそれを見て軽蔑の眼差しを送る。
女子ねぇ……と俺は何処か他人ごとの様に机に肘をついてふーん、って感じだったのだが、次の瞬間に刮目することになる。

「入りなさい」
「失礼します。今日からお世話になる、椎名睦月です。よろしくお願いします」
「……は?」

教壇で担任の脇に立って黒板に自分の名前を書いていたのは、そう。
あの睦月だった。
何でお前がこの学校の制服着てこの学校の転入生になっちゃってんの?

ついついそう口走りそうになるのを懸命に堪えて、しかし俺は睦月から視線が外せない。
何でかって?
だってこいつ、何しでかすかわからないんだもん。

「じゃあ席は……宇堂の隣、空いてるな。宇堂、よろしく」
「え?あれ?」

俺の左隣……さっきまで違う女子生徒が座っていたはずだ。
それが何で……ああこいつ、早速やりやがったな。
そう思って睦月を見ると、いたずらっぽく笑ってよろしく大輝、なんて言ってやがる。

そして耳ざとくその言葉を聞いた男子生徒の非難の目が俺に突き刺さる。

「おいどういうことだ宇堂……というか、この子めっちゃ姫沢さんに似てるんだけど」
「……話せば長いんだよ」

というか俺だって説明してもらいたい。
いつの間に編入試験とかその辺の支度してたわけ?
割と俺たち、慌ただしい夏休みを送ってた記憶しかないんだけど。

「ほら、静まれガキども!宇堂のことは後でゆっくり聞けばいいだろ。これから始業式なんだからとっとと体育館へ移動しろ!以上!」

それだけ言って担任は教室を出て行った。
シーンとなった教室。
そしてその生徒全員の……睦月も含めて全員の視線が俺に集中する。

何ニヤニヤしてんだよ睦月お前……。
そして一瞬で俺と睦月の関係を察したと思われる男子生徒からの熱い視線。
コイバナ大好きな女子の好奇の視線。

「よし、体育館に移動だ!!」

俺はそんな視線から逃れる様に立ち上がる。

「何仕切ってんだ!!後で聞かせろよこの野郎!爆発しろ!!」

再び教室内が騒然として、俺は男子生徒に小突かれながら教室を出る。
ちくしょうが、こんなこと黙ってるなんて本当に性格の悪いやつだ。
本人はきっとサプライズのつもりだったんだろうが、本当に驚いてマジで心臓止まるかと思ったわ。

ともあれ騒がしい学校生活になる予感がする。
睦月が同じ学校に通う、ということになればまずそれは免れないだろう。
そしてこいつは何が何でも、どんな手を使っても俺とクラスを離したりはしないはずだ。

平穏で平凡な学校生活を望んでいた俺としては、そんなのもう諦めるしかないのだ、と始業式の最中に覚悟を決めたのだった。

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