やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第149話


「あれ、お帰り。早かったね」
「……ちょっとな」

あいが出迎えてくれて俺とイヴはとりあえず中に入って荷物をおろす。
本当、嫌な汗かいたわ……。

「睦月達は?」
「スルーズの家にいるよ。これから私も玲央連れて行くから」
「は?マジで言ってんのかよ、それ」
「うん、スルーズが二人にしてあげようって」
「…………」

全部押し付ける気か、あの野郎……いい根性してやがる。
ぐぬぬ、と思ってイヴを見ると、イヴは何だか嬉しそうだ。
一体何がそんなに楽しいんだこいつ。

「晩御飯は作ってあるから、適当に食べてね。私は初の女子会って言うの、してくるから」
「おいおい、女子ならイヴだって……」
「イヴさんはこれから女子になるんだもんね?」
「ん?どういう意味?」
「…………」

冗談に聞こえないのが非常におっかない。
まさかさっきコンビニで言ってたこと、本気なの?
ていうか実の妹が違う意味でも姉妹になっちゃうとか、睦月は気持ち的に嫌だとか思わないんだろうか。

というか俺だって、さすがに出会って二日で即、みたいなのはちょっと……。
もう少しお互いを良く知ってからだなぁ……。

「……お前、何してんの?」
「男の子の家って、エロ本沢山あるんでしょ?さっきお姉ちゃんが言ってたから、探してみようかなって」
「おとなしくしてろ……ったく」
「あはは、仲良しだ。じゃあ大輝、行ってくるね。今日は帰らないから」
「…………」

何となく三行半突き付けられた様な心境なのは気のせいか。
実家に帰らせてもらいます!みたいな感じの。
もちろんあいの実家は神界だし、睦月の家じゃないことくらいわかっているが、きっとこんな心境なんだろう。

しかも公然と浮気してくださいね、みたいなよくわからない宣言までされて。

「イヴ、魔界で風呂とかどうしてた?」
「お風呂?毎日入ってたよ?」
「そうか、じゃあ一人で入れるよな。先に風呂浴びて来いよ」
「え、早速?もうするの?」
「するの?とか言わないでくれる?そうじゃなくて……飯の前に汗流したいだろ、って意味だから。いきなり何すると思ってんだよお前……」

どうも俺の周りは肉食女子が多くて困る。
というかイヴって経験者なんだろうか。
まぁ、俺より大分長いこと生きてんだろうし、それくらいしててもおかしく……あるな。

ルシファーさんがまず男なんか近づけなかったんじゃないかっていうのが、簡単に想像できる。
半径三メートル以内に入ったら殺す、みたいな感じで威嚇し続けているルシファーさんの姿がいとも容易く想像されて、何だかイヴが不憫に思えてきた。
まぁ本人に悲観している様子は微塵も感じられないし、何だか今この時が一番楽しい、って言う感じがありありと伝わってきて、こっちまで危うく楽しくなってしまいそうだ。

「ほら、こういうの。お兄ちゃんも沢山してるからって、お姉ちゃんが」
「…………」

一体何を教えてやがんだ、あのアマ……。
エロ本とかいつの間に用意した?
大体俺はエロ本とか持ってないし、携帯かPCで済ませちゃう派なんだが。

って、そんなことはどうでもいい。
とりあえずイヴからエロ本を取り上げて、ちょっとだけもったいない、と思いながらもゴミ箱に放る。
残念そうな顔をしているイヴを風呂場に押し込んで、俺は台所を見て回った。

随分きちんと作ってあるんだな。
今日も暑かったし、適当に蕎麦とかでいいかな、なんて考えていたけど、煮物に焼き魚、チキンソテー……すっかりあいのやつも専業主婦っぽくなってきてるな。
あれで一児の母でもあるんだし、これくらいはお茶の子さいさいってところなのかな。

「ねぇお兄ちゃん、頭洗うのってどれ?」
「……お前は……仮にも俺は男なんだから、そんな恰好で出てくるんじゃないよ、全く……」

せっかく風呂に入ってて静かにしてくれてる、と思っていたイヴは全裸で風呂場から飛び出してきて、俺にシャンプーとコンディショナーの違いを聞いてくる。
俺がそこらの童貞じゃなくて良かったと心底思う。
もし俺が慣れてないフレッシュな感じの子だったら、ここでもう大騒ぎだ。

こっちのボトルがシャンプー、こっちがシャンプー流した後に使うやつ、と簡単に教えるとわかった、と扉を閉める。
こういうこともあるから、女どもにも何人かいてもらった方が良かったと思うのに。
そしてじっくりはっきり見てしまったが、あいつ相当いい体してやがる。

桜子辺りは初見でコンプレックス持ったんじゃなかろうか。

「お兄ちゃーん!背中!洗えない!」
「……ブラシかタオル使えばいいだろ。俺に洗わせるつもりか、お前」
「そうだよ?どさくさに紛れておっぱい触っていいから」

本当に誰だ、こんな入れ知恵したやつは。
思わずそうですか!と飛びつきたくなるのを抑えるので必死だったぞ、俺は。

「桜子がでかい、って絶句してたし、お兄ちゃん触りたいんじゃない?」
「…………」

やっぱりか。
可哀想に桜子……お前きっと悪いこと何もしてないはずなのにな。
……いや、睦月と一緒になって俺の仕事冷やかしにきたから、やっぱお前も悪い子だ。

「背中は洗ってやる。おっぱいは触らないけどな」
「えー何で?本人がいいって言ってるのに」
「……俺は良くないんだよ。そんなに触ってほしかったら自分で揉んでろよ」

意志薄弱な俺を、あんまり揺さぶらないでもらいたい。
これからご飯だっていうのに、おっぱいのことで頭がいっぱいになってしまいそうだ。
そんなことを考えながらボディシャンプーを手に取り、泡立てる。

俺は年齢的にも当然行ったことがないが、某泡の国とかだとこういう感じでやってあげたりするんだろうか、なんてことを考えた。
まぁ似た様なことなら、散々ハーレムの連中としてきてる俺としては、このくらい別になんてことはない。

「背中、痒いところあるか?」
「んー、大丈夫。お兄ちゃん手慣れてるね」
「…………」

まぁ、よく一緒に風呂入ってるからな、なんて考えるもそれは口にしない。
じゃあ何で私とは入ってくれないの?とか言い出すに違いないから。
そうなるとこいつはめんどくさそうだし、じゃあ一緒に入ろう、って言うまで粘りそうだ。

俺を信じて人間界に送り込んできた娘が、魔界に帰ったら傷物になってました、とかシャレにならないだろ?
うっかりしてるとルシファーさん辺りに殺害されるかもしれないからな。

「ねぇ、お兄ちゃん」
「……何だ?」
「何でそんなに遠慮がちに触ってるの?」

遠慮がちに、じゃなくて遠慮してんだよ。
未来の魔界の王様を傷ものにしない為にな。

「さっきの人たちも、お兄ちゃんの恋人なんだっけ?」
「まぁ、そうだな」
「お嫁さんじゃないの?」
「この国だと、十六歳の男はまだ結婚できないんだよ。あとお嫁さんになれるのも一人だけだから」
「爛れた関係ってやつ?」
「……何処でそんな言葉覚えたんだ?結婚は確かにしてないけど、全員が納得して付き合ってるし、別に爛れてはいないよ」
「そうなんだ?じゃあ私も恋人になれる?」
「…………」

なれません、って言ったらどうなるんだろうか。
言ってみたい気持ちはゼロではない。
俺にだって好奇心はある。

けど何となく俺の脳内で、それは言っちゃダメだと警鐘が鳴っている。
とは言え……なれるよ、と言うのも何か違う気がするんだが。

「ねぇ、どうなの?」
「あ、うん……なりたいのか?ていうかお前、魔界でいい男見つけられそうじゃん。俺みたいな何股もしてる様な男じゃなくてさ」
「お姉ちゃんがそこまで入れ込む男なんだもん、気にならないわけないじゃん。大体魔界の男って、獣臭いのばっかりで私嫌だな」

哀れな……いや、魔界の男どもがね。
きっとイヴはほとんどあの城から出たことがないんだろうけど、ルシファーさんの娘がめっちゃ美人で、みたいな噂くらいは魔界に知れ渡っててもおかしくないぞ。

「嫌だな、って。けど、俺が魔界に行かなかったらお前、俺と知り合うことすらなかったんだけど?それなら普通に魔界の男と結ばれてたんじゃないのか?」
「それはそれ。今はもう知っちゃってるもん。お兄ちゃんが嫌だって言うなら仕方ないけど……嫌じゃないなら私もその中に混ぜてほしいな」

混ぜてほしいな、とか言われてもな。
鬼ごっこしてんじゃないんだぞ。
じゃあお前も今日からハーレムのメンバーだ、なんて簡単な話にはならないだろ。

そんなことを考えた時のことだった。
油断していたのかもしれないが、急遽視界が歪んで抗いがたいほどの眠気に襲われ、俺は意識を奪われた。
そして俺が目を覚ましたのは、翌日の朝のことだった。

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